柵川中学を抜けて、風紀委員を迎えに来た乗用車に乗っかる。
近くの駐車場で、兎に角暴れ回っている。そう聞いた。
「どうしてそういう使い方するかな……」
千夜がぼやき、鞄からドライバーを取り出す。
ダブルドライバー。片方をビクビクする涙子に預け、使い方を軽く説明。
ややこしい手順を踏まないと最上位のドライバーは使えない。そもそもダブルドライバー自体が、最上位モデルだが欠点が多い。
気安く使えるロストドライバー、アクセルドライバーのほうが弱い分、一人で使用できる。rexはドーパントになった方が良い場合の時の場合。
「つまり、ダブルドライバーって言うのを使うと、あたしの精神が一時的に千夜に移るの?」
「うん。身体の右半分の感覚が涙子が担当する。二人三脚みたいな感じ」
「二人三脚の難易度じゃないよね……」
呼吸が合わないと動きさえ出来ない。
操祈は能力上、他人のメンタルの移り変わりに慣れているので、二人三脚でも千夜のサポート、譲歩という条件が出来る。
涙子はそうもいかない。本当にタイミング合わないとマトモに動けない。呼吸を完全に、完璧にシンクロさせるという親友でも地味に難易度の高い極論の二人三脚。
とりあえず腰に当てると勝手にベルトが伸びて装着。
途端、涙子の意識が一瞬ブレる。
「来たね」
「うわ、凄い。勝手に意識共有が出来てる」
同じ意識の共有。千夜の見聞が、涙子にも見える。
慣れた千夜が言うに、涙子はコミュニケーション能力が高く、確かにミーハーで軽いノリだが陽キャ故に対人関係は悪くない。その手の能力に依存しない生活に必要な人生のスキルは千夜よりも上だ。
というか、この世界においてのマジモノの一般人。
普通の学園都市の生徒だから貴重なのだ。逆説的に。
他は同列三位、
普通が見事に居ない。無邪気で善意の塊の千夜の呼吸に合わないと思われる。
操祈はメンタルのプロ。補助ぐらい熟れている。
つまり、本当に相方は涙子ぐらいしかいない。
「うーん……不思議な感覚。千夜の情報が勝手に流れてくる」
涙子も、ドライバーをつけてる状態はテレパシーのような状態の通話みたいになっていると聞いて驚く。
直ぐに応答できるわけだ。で、無能力者故に暇で風紀委員の仕事もしないから余る時間。
学園都市のドーパントを一緒にやっつけようという。
「ドーパントって因みにレベル的にどんなもん?」
「最低でも4。武装の無い大抵の
ケロッと言うが、突き詰めドーパントは大なり小なり、そのレベル4に匹敵する状態の怪人と。
「……やっぱりドーパントっておかしいわ。誰でも大能力者になれるって聞いて、食いつかない訳が無いよ」
230万いる学生の中でも、その次元に行けずに大概が拗ねて非行に走ったり、レベルで蔑まれたりする。
それが、ドーパントになるだけで大能力者に同等という条件になれる。中毒性を差っ引いても、誰でも欲しいと思う。
「使い方、間違ってるけどね。直差しはダイレクトだから結局、ガイアメモリに振り回されているだけ」
製造元が言うとおり、大概のドーパントはレベル4よりも弱い。毒素によって弱体化して暴走状態だからキチンと使えていない。
ドライバーセットの強い方のドーパントは逆に持っているガイアメモリの知識を経験で理解できているからレベル4がやりやって手子摺る。
でもやはり、数名居れば一般生徒でも撃破は出来る。
専用の武装を持つ警備員の装備でも倒せる。
ガイアメモリは軍事転用されているが、そもそも幅が広く民間の団体である風紀委員、警備員にも警備員用に生産されたガイアメモリも支給されているし専用の武装が開発されている。
ハンドガン、警棒などにガイアメモリを装填して使うと強力な武装になる。
つまり、ここまで蔓延るドーパントに警備員も対抗できるのは同じガイアメモリを武装があるから。
怪人で無くとも専用の武装が大体強い。ガイアメモリの最大の特徴は手数だ。兎に角種類が多いので、今では警備員にも風紀委員にもガイアメモリ専門の学科があるぐらい、多種多様。
「改めて聞くと、星川さん凄いですよね……。これだけ普及してるガイアメモリの大本ですし、流石第三位。御坂さんと同じ序列も納得です」
初春は呟くが、先代三位は千夜だ。後釜が向こう。
善悪問わずに言えば、この軍事転用の範囲で第三位は最高序列である。
ガイアメモリはある意味学園都市の重要な部分をぶち壊して、暗部ではそれでもこの革命的能力は学園都市に重要だと思うから放置している。
技術的バックアップは取れている。それでも、操祈の長年の妨害で完全とは言い難い。まだまだ可能性のある能力者。
抗争の激しい裏側に入れないのは、暗部の上層部も同じで各組織は天理付与に不干渉という掟を作っている。
貴重な製造元は、例の計画の手順でも上手くいく可能性は低い。本人が生きていないと困る。
上二人はお子様の玩具にしてはよく出来ているとそこは認めている。
だが結局、この世のベクトルなら大抵どうにかなる一位と常識外の二位は大きな差があった。
呑気にドーパントを狩らせていく程度で良い。
製造元に万が一があったら誰がまだ可能性の残っている彼女の責任を取るのだ。そう言う話。
「超電磁砲には興味ないけどね。どうしてあんなにレベル高いんだろう? 地味にやって来た結果って言うけど、多分違うよ」
なんとなく、バカでも予想はつく。
超電磁砲も軍事転用ぐらいはされてるんじゃないか。
どういう風にか知らないけど、この序列は貢献度で上がるなら最上位。余程の学園都市に影響を与えるほどの能力か。
知り合いという二人に詳細を聞いた。能力は『電撃使い』の最上位、それだけ。
「……」
違和感を感じる千夜。普通すぎる。
千夜は唯一無二としての立場を持って、序列三位に選ばれ、事実学園都市に軍事革命を起こした天理付与。
それが、もう一人の序列三位はその辺に居るスタンダードな能力者の、強いだけ?
特徴も無い、出来ることは多いが千夜には勝てない。
汎用性、実用性、全てにおいて千夜の方が上。
変だった。何故、この立場に居られる?
(操祈さんなら知らなくて良い、って言うかも)
この疑問は持たない方が良い。
涙子にも伝わらないように切っておく。
操祈に触れるな、と言われそうだ。余計な思考。
兎に角、今はドーパントの対処に向かう。
数分後、道路を走行中轟音と地響きが聞こえてくる。
「あちゃー……。ビッグのほう使ってるみたい。よく暴走状態で保てるなぁ」
千夜が思うに、Tレックスの本気状態。
そもそもTレックスが、怪獣よろしく街をぶち壊すことに特化したドーパントなので、巨大化と聞いていた時点で予想はついた。
現場近くに停車。路肩に止めて、降りると……。
「うおおおおおおっ!!」
有料の駐車場で乗用車で頭部以外の身体を作った、Tレックスの頭を持つデカ物が滅茶苦茶に暴れていた。
「ひえ……」
涙子がビビる。デカい。怖い。恐怖が伝わる。
落ち着けと千夜は言う。大丈夫、アレでも理性は残っているだろう。
「涙子、はい。これ使って」
竦み上がる彼女にガイアメモリを手渡す。
新緑のガイアメモリ。Cと刻まれたそれを持たせる。
「何これ!? こんなのであの怪獣と戦うの!? 無理だよ、勝てっこない……!」
「涙子、深呼吸。先ず、整理しよう。前線に出るのはわたし。涙子は右側……魂の方を担当するの。身体はわたしだから最悪怪我するのはわたしだけ。一つ、怖くない」
パニック状態になる涙子に状況を理詰めで説明する。
自分が前に出る。既に感覚は共有。
落ち着くほうに無理矢理引っ張る千夜。
「え? ……そうなの?」
「分担だよ。右側が涙子、左側がわたし。仮面ライダーは、二人三脚で戦うの。呼吸を乱さない。これも能力開発の一端だと思うこと。渡したのは風力使いに適応したガイアメモリだから、使えば本能的に涙子も理解できる。二つ、怖くない」
「……」
レベルの高い能力者は、厳しい授業を受けている。
能力開発で、相応の学業を学んでいるのだ。
それと同じ、但し命懸けなのは千夜だけ。
「大丈夫。ガイアメモリを使っている人は、基本的にわたしに敬意を払ってくれる」
「マジで……? 噂で聞いてたけど、千夜って
「マジだよ? 常盤台の女王もお墨付き。一種の崇拝されてるんだってわたし」
祖と言えるガイアメモリの生みの親。
直々に矯正に来たら、これは何を意味するか。
正しいガイアメモリの伝授。無作為に暴れるよりも余程意味がある。
だから、大丈夫。
レベルが全てにおいて優先される学園都市において。
弱者の味方とは、そう言う意味。多くの生徒を導く頂点。
故に、出て行けば落ち着くと思う。
ただ。
「中毒症状の相手はみんな分かるからね。気が狂って暴動するからそもそも警備員がガイアメモリの大型兵器持ち出して制圧する。わたし、その条件だと呼ばれない。わたし行くときは補導の時。逮捕される時は行かない」
「そういう事なんだ……。無差別に出動って訳じゃないんだね」
「救いようのない人はそりゃ捕まるからね」
千夜にもダメだと現場で判断された悪人は前提として警備員も風紀委員もガイアメモリの武装を使って容赦なく逮捕する。
今回は気分がアッパッパーになって酔い痴れている、そういう類だろう。
だから暴れているだけで、初春も頷いた。
千夜でもダメな重罪の時は、遠慮無く全員で抑える。
今回は見た目ほど危険ではない。
そう言うと、歩き出す千夜。此処で待機と言われた涙子を置いていく。
現場では、警備員が通常火器で抵抗していた。
あと、足元にもう一人通常のTレックスが……。
「理由も無く暴れているなら、その幻想をブチ殺す!」
……うん? と千夜は目を疑った。
Tレックスドーパント。見た目は手足の生えたTレックスの頭というシュールなもんだが、立派なドーパント。
普通の生徒が、徒手空拳で勝てる訳が無いんだが。
なんか、ウニみたいな頭の男子生徒がドーパントの顔面に向かってストレートに右手でパンチをブチ込んだ。
途端、ドーパントが爆発。爆風で仰け反る男子生徒。
爆風が流れると、変異が解けた生徒らしい人物と、壊れたガイアメモリが転がっている。
この人、ドーパント素手で殴って倒してた。
「……」
どういう事? 現場の警備員に聞いた。
最初から複数いたドーパントを一人で抑えていた謎の生徒。素手でドーパントを片っ端から倒している、らしい。
「ドーパントの変異を……無効化してる?」
『どうしたの千夜? 思考が停止してるよ?』
遠くで涙子が流れる動揺に気付いている。
要するに倒してた。そういう事、のようだが。
こっちに戻ってくるウニみたいな頭の男子生徒。
「オッケー終わった。ドーパントのデカいのは俺じゃ無理だけど普通のドーパントだったらまた手伝います」
「待って」
そのまま帰ろうとする男子生徒の腕を掴んだ。
「えっ?」
「ドーパント、倒したよね? 一発で。慣れてるの?」
「いや、まあ……。それなりにドーパントは昔からよくケンカで使われてるから。嫌でも学園都市の生徒なら慣れるよ。モノによるけど、武器系は無理でも右手で殴れば倒せる程度の、マスカレイドとかはよく見る」
マスカレイド。昔から一番多い直差しドーパント。
ぶっちゃけ弱い部類のドーパントだが。
身体能力もあるし、素手でかち合うのは無理だ。
なのに、こいつ。
「あなた、誰?」
「え? 俺? ええと……俺は上条。上条当麻」
有名人でもない。そっちこそ誰だと逆に言う上条。
「
「……はっ? ガイアメモリ? って、お前が例のレベル5!?」
噂は聞いているだろう、超能力者。
「マジでドーパントの退治してたのか。噂だとちっこい女の子だって聞いてたけど」
上条に星川千夜と名乗り、問う。
何故、ドーパントを一撃で倒せる?
その問いに、苦い顔で言う上条。
「いやぁ、俺は世間的に無能力者なんだけどね? 実は俺の右手の
「わたしのガイアメモリを壊したよね」
「あ、元祖的に怒ってます……?」
「んーん、分からないだけ」
能力の無効化か。つまり、ドーパントへの変異を無理に元通りにしている。
本人もドーパントとの経験が豊富らしい。
「どうやら、ドーパントは変異した能力者認定らしい。右手で触ると元通りになるんだよ」
「つまりわたしの能力を壊す能力者、だよね? 触るっていう条件さえ満たせば」
「いや、超能力者にそこまで言われると自意識過剰というか、上条さんも照れ臭いというか……」
大暴れする巨大化Tレックスは無理だけど、と背後でやり合う警備員達を見ていう上条。
それでも大した物だ。生身でドーパントとやり合える度胸と良い、その必殺の右手だけで実際戦えることといい。無能力者とよく言える。
……この人なら、良いかも。そう思う。
「上条さん」
「なんか嫌な予感がするけど、何でしょう?」
彼に荷物から純正品のドライバーを取り出す。
科学的に作られた、ガイアメモリ。自分のでは無理と断じて敢えて外部のにした。
メモリは、本人の能力効果が無効化な以上シンプルな方が良い。
そして、呆ける上条に渡した。
「ドーパントの更生、手伝って。その経験値、活かそう。勿体ない」
「やっぱりか! 巷で有名な半分こ怪人ってお前だよな!? 俺にまで怪人になれと!?」
度胸を見込んで、栄えある警備員のお手伝い。
頂点からのお誘いだった。
「失礼だなぁ。仮面ライダーだよ」
「仮面ライダー……? ドーパントと何が違うんだ?」
「わたしの正しい能力の使い方」
断るか? と意地悪のように聞くと。
渋い表情で、何かを考えて。
上条は迷ってもドライバーセットを受け取った。
「……分かった。俺も、色々あって力不足を悩んでたんだ。折角の機会だし貰えるなら貰う」
「でも気をつけてね? そのガイアメモリ、シンプルだけど感情がエネルギーに変換されるから」
「感情が……? そうか、心の強さが出るんだな」
その場でレクチャー。待機の涙子にも通達。
無能力者で生身でドーパントとやり合う味方が増えた。
『ねえ、その人って実は歴戦の戦士か何か?』
「うーん、ケンカ慣れしてるだけみたい。でもドーパントの特性は知ってるって」
前に二人で出て行き大声でTレックスに呼びかける。
「はーい、Tレックスの人! 一回止まってー!!」
暴れていたTレックスが、こっちを見下ろす。
「何だお前は。警備員じゃない? なら風紀委員……いや、腕章ないな」
「Tレックスに意識持っていかれてない? 大丈夫?」
逆に心配して毒素でハイになってないか聞く千夜。
その態度と噂で、相手も気付く。
「ちょ、まさか……レベル5!? 本家本元!?」
「そだよ」
呆気なく肯定する。途端に相手は困惑する。
「あんたが天理付与!? マジか!! ドーパントで活動してると啓発に来るっていうの本当だったんだ!!」
感動のように吠えて、これをありがとうと真っ先に言った。
「まあ細かいことは聞かない。良い感じに使えては居るけど、長時間の維持大変でしょ?」
「いや、割りとこれでも慣れてきたって言うか。影でコッソリ練習してたからなぁ。ほら、廃材置き場とかで」
「直差しは病院送りになるからもう止めた方が良いよ」
「あ、やっぱりか……。他の奴等ぶっ倒れて俺だけ平気だったから不気味だったけど、根本的にそうなのね」
巨大化Tレックスは乗用車の身体を徐々に分解して、元に戻って行く。
落ちていく乗用車。当然壊れる。
「で。俺もアレ? もしかして、例の半分こ怪人の状態で慣らしに付き合ってくれんの?」
「そういう事かな。でも補導はするよ」
通常Tレックスは唸る。上条も吃驚。
話し合いで暴れていた彼等を宥めた。これが大本の影響力。
「長いこと我流で覚えてきたから、此処いらでレベル5の指導受けるのもアリか……?」
「まあ、無闇矢鱈に暴れるのはストップね。補導終わったらちゃんと改めてガイアメモリ渡すよ。ドライバーセットだからもっと安心して使える」
「これが本家の対応か! 流石俺達の味方!! 太っ腹だなぁ!!」
喜んで応じる。
瓦礫の山になった駐車場で手合わせという能力開発が始まる事となる。
「ちょっと、手合わせ頼むぜ!」
「いいよ。終わったら大人しく出頭してね」
「あんたがそう言うなら真面目にやる!」
実にカリスマ的な能力者。
多くの生徒に崇拝される天理付与。
じゃあ、行こうかというと成り行きを見ていた涙子が呟く。
『千夜の影響力が都市伝説って本当だったんだ……』
遠くに居る涙子に指示。ガイアメモリ起動して差し込め。
上条は今回見ていろ。同じガイアメモリ使うから。
『ええと……』
「行くよ涙子」
『あ、うん』
サイクロン!
ジョーカー!
遠くで涙子が差し込み、こっちのドライバーに転送される。
届いたガイアメモリを、受け止めもう一個と一緒に装填して、開く。丁度Wに見えるように。
「変身」
『へ、変身……?』
涙子と千夜で、変身する。
足元から風が吹く。
現れる、緑と黒のハーフな仮面ライダー。
「おお!? ガイアメモリが、違う形になった!? スゲえ、これが仮面ライダーって奴か!」
相手が同じガイアメモリでも形状が違うと喜ぶ。
これが、ガイアメモリの真骨頂。
「さぁ、お互い罪を数えよう」
『あたしは無関係ですけどー!!』
ツッコミの涙子、いつも通りの千夜。
能力開発、実技の始まりであった。