転生特典の女神様がチャットAIでした。回答は1日数回までなので、オークの弱点は1つしか聞けません。 作:burisa
オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:転生 異世界転生 女神 剣と魔法 転生 男主人公
過労死した社畜・一之瀬灯哉を迎えたのは、そう言ってにこやかに笑う女神フレイヤ。
転生特典を箇条書きで並べ、最後には「よろしければ、評価をお願いします!」。
……この女神、どう見てもチャットAIだ。
特典は、精霊になった女神の同行サポート。聞けば何でも答えてくれる。
ただし、高精度の回答は1日数回まで。
転生直後、オークに襲われる少女を助けようとした俺に、女神は言った。
「大声を出せば怯みます」
叫んだら、オークがこっちに走ってきた。
「申し訳ありません。逆でした」
頼れるのは、前世でAIに頼りきって磨いた"聞き方"だけ。
条件を絞れ。確実なことだけ言わせろ。そして――上限に達する前に聞け。
聞くたびに答えが変わる女神と、回数制限に怯える俺の異世界転生コメディ。
※カクヨムにも掲載しています。
「小説家になろう」「カクヨム」同時掲載
『楽して生きる方法を教えて』
午前3時のオフィスで、俺は最期に業務用のチャットAIにこう打ち込んでいた。
が、返ってきた答えを読む前に、俺の視界は暗転した。
俺の名は
28歳独身、仕事もメールの文面も上司への謝り方も、インターネットに聞いて生きてきた男だ。
最近はチャットAIというものができたので、わが社はそれに頼りきり、俺は朝昼晩問わず働かされるようになっていた。
「ここは……どこだ?」
次に目を開けたとき、俺は雲の上のような真っ白な場所に立っていた。床も天井もない。
目の前には、1人の女性が立っている。長い金髪、整った顔立ち、豪華な白いドレス。完璧な美しさだ。
背中には何やら神々しい光輪まである。コスプレイヤーか?
「こんにちは! 私は女神のフレイヤです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
……話しかけてきたのはそっちだが。今、女神って聞こえたような。
「えっと、ここはどこですか? それに女神って一体」
「生前の世界と転生先をつなぐ『魂の待合室』です。転生に必要な手続きが終わるまで、こちらでお過ごしいただきます。そして私はあなたの転生を担当する女神です」
魂の待合室……? 転生? 言っている意味がわからなかったが、妙に納得感はあった。
通勤時間に電車内で読んでいたネット小説にその手の話がよく載っていたが、まさか同じような体験をしてしまうとは。
「他に何か確認しておきたいことはありますか?」
「仮にそうだとして、俺は死んだのか? 転生以外の選択肢はあるのか?」
「良いご質問ですね! おっしゃる通り、あなたは亡くなりました。転生は選択肢の1つであり、必須ではありません。ご希望に応じて、以下からお選びいただけます」
女神が指を差した先に、光る文字が浮かび上がった。
『1.このまま輪廻の輪に戻る(ただし人として転生できるかは未確定)
2.今とは違う世界へ転生する(人として異世界へ転生)
3.その他(自由入力)』
「箇条書き……」
「わかりやすさを重視しました!」
……なんか軽いなこの女神。それに、この感じ……既視感がすごい。とりあえずお決まりの異世界への転生を選ぶか。しかし、自由入力って何だ?
「じゃあ2で」
「素晴らしい選択です! 異世界転生には、基本特典3つと固有能力1つが付随します。基本特典はこちらです」
再び女神が指を差した。
『・言語理解:現地の言葉を話し、読み書きできます。
・身体強化:転生先の環境に適応でき、通常の冒険者より強力な身体をご用意します。
・幸運 :あなたに有利な偶然が働きやすくなります。具体的な確率は非公開です。』
「また固有能力として、私が精霊として同行し、あなたの冒険を全力でサポートします!」
なるほど。身体強化に加え、女神が一緒に来てくれる。これ以上ない待遇だ。勝ち確だ。
ついでに、転生先の世界のことも聞いておくか。
「転生先の世界って、どんなとこなんですか?」
「はい。転生先は剣と魔法の世界エルディアです。中央の山脈を境に、東のオーハン王国と、西の魔導国家プルシアに分かれています。オーハンは草原と森が多く、魔物も比較的弱いため冒険者の始まりの地って呼ばれて……」
「待って待って、説明が長いよ!」
「では、要点だけお伝えします」
『・転生先:剣と魔法の世界エルディア
・世界説明:時間の流れなどはあなたの世界と同じ。剣・魔法・魔物が存在し、各地に冒険者ギルドがある。
・初期位置:オーハン王国
・注意事項:北には魔境といわれる未開の地があり、強力な魔物が存在している』
「なお、その他のことについては、現在のモデルですと回答できかねます」
とりあえず、転生していきなりゲームオーバーということはなさそうだ。……ん? 現在のモデル?
どこかで聞いたような言葉だな……と思ったときには、足元の光が強くなっていた。
視界が白く溶けていく中、最後にフレイヤの声が聞こえた。
「精霊についてもまとめました。以下をお読みください。また、今回のご案内はお役に立ちましたか? よろしければ、評価をお願いします!」
【精霊による支援】
・転生後は、私が精霊となって同行します。魔物の知識、魔法の習得、日々のお食事まで、幅広くお手伝いできます。
・高精度の支援と、簡素な支援がございます。また、高精度の支援は1日に上限がございます。なお、上限に達した場合でも、簡素な支援に切り替わり継続できますのでご安心ください。
・高精度の支援には、『モデル』と呼ばれる、様々な分野に特化したものもございます。切り替えることによって、身体の自動操作や、万物の創成などが行えることがございます。
・危険を察知した場合は、ご質問を待たずに私からお声がけいたします。
・ただし、支援には誤りが含まれる場合があります。生命に関わる重要なものは、現地の専門家にもご確認ください。
・なお、光輪が回転している間は回答を生成しています。長く回り続ける場合も、頭を叩かずにお待ちください。
目の前に、親指を立てた手と、親指を下げた手の絵が浮かんでいた。
……下げた手のほうを押してやりたい。伸ばした指が届く前に、俺の意識は途切れた。
気が付くと俺は、草原に立っていた。ここが女神の言っていた、オーハン王国にある草原なのだろうか?
周囲を確認すると、それはいた。俺の肩の周りに。
「ようこそ、剣と魔法の世界へ! 何かお手伝いできることはありますか?」
手のひらほどの大きさになったフレイヤがふわふわ浮いている。背中には透きとおった羽まで生えている。
これが精霊の姿ということか……?
「背後に魔物がいます。振り返らず、走って逃げてください」
その言葉を聞いた直後、背後の林のほうから悲鳴が聞こえてきた。俺は思わず振り返ってしまった。
目線の先には、赤毛の少女が剣を構えていた。その前に立ちはだかるのは、緑色の肌をした大きな男だ。手に持つ棍棒は、少女の剣よりずっと太い。
「まずい! 女の子が。フレイヤ、あの子は大丈夫なのか?」
「まず、少女に襲いかかっている相手を確認してください。魔物であれば、距離を保ちつつ注意を引き、少女が逃げる隙を作りましょう。あなたまで剣の届く距離に入る必要はありません」
「そんな悠長なこと言ってる場合か! 何か助ける方法はないのか!?」
「申し訳ありません。あの緑の男はオークでした。オークは大きな音が苦手です。大きな声で叫べば、怯ませることができます」
フレイヤの言うことに従い、俺は全身から声を出した。その声を聞いたオークはこちらを振り返る。
「おい……なんかオークがこっちに走ってきてないか?」
「……こちらに来ましたか。申し訳ありません。逆でした。大きな音に寄ってきます。少女と一緒に逃げてください」
ふざけてるのか? この状況で真逆を言うか、普通。この女神を、本当に信じていいのか……?
俺には武器がない。剣の振り方も知らない。あるのは、まだ使い方もわからない精霊だけだ。
そのとき、オークが一瞬怯んだ。こちらへ向かってくるその背中に、少女が斬りつけたようだ。だが、浅い。
オークは足を止め、少女のほうへ向き直った。棍棒が振り上げられる。少女は剣で受け止めたが、体ごと吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。
オークが、ゆっくりと少女に距離を詰めていく。
――考えろ。あの女神について感じた既視感……! そうだ、こいつはチャットAIに似ている……。ならば、聞き方を変えれば!
「フレイヤ、剣を持った少女がオーク1体に襲われている。俺は丸腰だ。オークの弱点は、確実に知っていることだけ提示しろ。2人が助かる方法を教えてほしい。そして高精度の支援で頼む」
「まず前提として、転生時の強化によりオークと正対してもあなたは負けません。その上でオークの弱点は3つあります。1つ目は膝の裏です。巨体を支えているため、ここを打たれると立っていられなくなります。そして2つ目は――」
普段より長めに光輪が回転している。2つ目はなんだ。時間がない。
「本日の会話上限に達しました。簡素モードでは、オークの弱点を複数述べることはできません」
フレイヤの光が、すうっと弱くなった。
俺の肩にぽてんと落ちる直前、彼女は小さな声で呟いた。
「……2つ目、ちゃんと言いたかったな」
先ほどまでの定型文とは違う、ひどく人間くさい発言だった。そのままフレイヤは、俺の肩でうとうとと船を漕ぎ始める。これが簡素モードなのか。だが、俺はそんなことを気にしている余裕はない。
女神は、正対しても負けないと言った。正直信用しきれないところはあるが、やるしかない。
「そこの人、俺がオークの隙を作るから、そこに一撃を叩きこんでくれ。ダメージを受けていて大変だと思うが……頼む!」
「っ……はい!」
俺は地面を蹴った。自分でも驚くほどの速さで体が動く。どうやら、女神の強化は本当だったらしい。
そのままオークの背後に回り込み、膝の裏を思い切り蹴り上げた。
巨体が大きくぐらついた。しかしオークが振り向きざまに棍棒を薙いだ。
「まずい――」
俺はとっさに左腕で受けた。かなりの衝撃は来たが、骨までは響いていない。前世の俺なら、今ので間違いなく2度目の死を迎えていただろう。
再び背後に回り、もう片方の膝の裏を蹴り上げる。オークはその巨体を支えきれなくなり両膝をついた。
「今だ! トドメを!」
「はいっ!」
少女は剣を大きく振り下ろした。負ったダメージを感じさせない、綺麗な一筋だった。
両膝をついたオークの首筋へ、一閃。刃が吸い込まれていくようだった。
オークは短く呻いて、今度こそ地面に崩れ落ちた。
一難去って落ち着いたのか、少女は剣を杖のようにして大きく息をついた。
「た、助かりました……。私、リディアナっていいます。リディって呼んでください。私、冒険者になって、まだ1週間で……」
「トウヤだ。怪我はないか?」
「平気です。これくらいの怪我は怪我に入りません!」
見た目ボロボロだけど、怪我に入らないのか……? 新米とはいえ冒険者というのは思っているよりずっと過酷なんだな。
「……でも、どうしてこんなところにオークが」
リディは倒れた巨体を見下ろしながら、小さく身震いをした。
「この辺りに出るのは、スライムとか角ウサギくらいなんです。オークはもっと山奥の森にしかいないはずで……本当なら、ちゃんとしたパーティーを組んで倒すような魔物なんです」
……それを、俺が蹴りで膝をつかせたのか。
身体強化の『強力な身体』は、信用してもよさそうだ。
「村を出るとき、皆と絶対に一人前の冒険者になって帰るって約束したんです。……おかげで、約束を守れそうです」
「まだまだ先は長いんじゃないか? でも、トドメの一撃はすごかったな」
俺は剣技のことはまるでわからないが、本心からそう思った。剣を振るう姿を、綺麗だと思ったのは初めてだった。
そんな俺の言葉に少し照れくさそうにしながら、リディは剣を鞘に戻した。
「ありがとうございます。でも、師匠に比べたらまだまだです。今のを見られたら、踏み込みが甘いと叱られていたと思います」
「謙遜するなって。少なくともこの場は、リディの剣技がなければ切り抜けられなかった。それに綺麗な剣技に見惚れてしまったよ。もっと自分を褒めてもいいんじゃないか?」
「綺麗って……」
リディの頬に赤みが差しているように見えた。
なんだか落ち着かない様子で鞘の金具を指先でなぞっていたが、やがて小さく息をつくと、おずおずと顔を上げた。
「……そんなふうに褒められたの、初めてです。……あっ、その腕!」
言われてみると、棍棒を受けた左腕が赤く腫れていた。さすがに無傷とはいかないか。
リディはポケットから薬草のようなものを取り出して、手のひらで手早くすり潰した。
「じっとしててください。私、こういうのは慣れてるので」
指が腫れたところにそっと薬草を塗っていく。さっきまでオークに剣を振るっていた手とは思えないくらい、やさしい手つきだ。
うつむいた横顔が近い。なんだかほんの少しだけ甘い匂いがする気がする。
「……誰かにかばってもらったのなんて、いつ以来だろう」
「かばったっていうか、蹴っただけだけどな」
「それでもですよ」
リディは顔を上げて、少し照れたように笑った。
28年生きてきて、女の子にこんなふうに笑いかけられた記憶はなかった。
「……おう」
俺は返す言葉がわからなくて、ただ一言そう言ってしまった。我ながら、ひどい語彙だった。
肩の上でうとうとしていたはずのフレイヤが、薄目を開けてつまらなそうな顔をしていた気がするが、俺は見なかったことにした。
「……それより」
リディが俺の肩でうとうとしているフレイヤを見る。
「そ、それ、精霊ですよね!? 精霊を連れてる人なんて、伝説の勇者くらいしか……!」
「いや、これは」
どう説明したらいいのだろう。まだこの世界の常識も知らないし、下手なことを言えば地雷を踏みかねない。
説明に困っていると、目を輝かせたリディが、ずいと身を乗り出してきた。
「あの! もしよかったら、私とパーティーを組んでもらえませんか! 街まで案内しますし、ギルドの手続きも手伝います!」
街の場所を知っている人がいる。それだけで、今の俺には女神より頼もしく見えた。
「街に着くまででもよいので……ダメですか……?」
「……よろしく頼む」
「はいっ!」
「ちなみに、その精霊さんは何ができるんですか?」
「うーん、なんだろう。たぶん、旅の案内役だよ。オークの弱点を教えてくれたのもこいつなんだ。聞き方を間違えると平気で嘘をつくけど」
「……すごいのか、すごくないのか、わからないですね」
「そうだな……俺もわからない」
街は、道なりに進んだ先にあった。
途中で簡素モードのフレイヤをつついて道を聞いてみたけど、反対方向を指示されたときは2人で笑ってしまった。フレイヤは相変わらず不機嫌そうな顔のままで、学習しましたとは言ってたけど。
「……精霊って、もっとこう、神々しいものだと思ってました」
「俺もだよ」
石造りの城壁に、大きな木の門。門をくぐると、鎧を着た男たちや、いかにもな恰好の魔法使いが行き交っている。
剣と魔法の世界の看板に偽りなしという感じだ。ただ、いくらなんでも、ステレオタイプな異世界すぎないか?
しばらく歩いていると冒険者ギルドに着き、受付で登録を申し込んだ。
「では、こちらの水晶に手を置いてください」
言われるまま、台座の上の透明な水晶に手のひらを乗せる。
次の瞬間、水晶が真っ白に光った。眩しすぎて、受付のお姉さんが思わず顔をそむける。ぴしり、と嫌な音がして、水晶の表面に細いひびが走った。
「……え?」
「す、すみません、弁償ですか!?」
「い、いえ、その……故障、だと思います。たぶん……」
受付のお姉さんの声が震えている。後ろに並んでいた冒険者たちが、ざわざわと顔を見合わせている。
隣でリディは、口をぽかんと開けていた。
……おいおい、これ、典型的な異世界転生ってやつですか?
「トウヤさん……もしかして、すごい人なんですか?」
「いや、俺はたぶん普通だ。たぶん……」
そう答えたときには、もう人だかりができていた。
いかにも歴戦といった風体の大男が前に出てくる。後ろには……恐らくパーティーメンバーだろう。
「おう、兄ちゃん。いい魔力してんじゃねえか。どうだ? うちのパーティーに来ないか」
ざわめきが大きくなる。
「おい……あのパーティーってB級の」
どうやら、B級パーティーからの誘いは、新人には破格らしい。
ちらりと横を見ると、リディがうつむいて、自分の剣の柄をぎゅっと握っていた。
「……そう、ですよね。トウヤさんなら、もっと強い人たちと組めますもんね」
無理に明るくした声でリディが言った。
前の俺なら、ここで画面に聞いていただろう。どっちのパーティーに入るのが得か。メリットとデメリットを3点ずつ挙げてくれ、と。
でも、肩の上の女神は簡素モードでうとうとしている。聞いたところで、ろくな答えは返ってこないだろう。そして、聞かなくても答えはわかっていた。
「悪いけど、もう組んでる相手がいるんで」
大男は肩をすくめて、あっさり引き下がった。
隣で、リディが顔を上げる気配がしたがそっちは見れない。見たら、たぶん俺のほうが恥ずかしくなる。
代わりに服の袖をきゅっとつままれた。ギルドを出るまで、その手は離れなかった。
その夜はリディが取ってくれた安宿で一晩を過ごすことになった。
俺はベッドに寝転がって天井を眺めている。枕元で、フレイヤが小さな寝息を立てている。光は昼間よりずっと弱く、ろうそくの火みたいに揺れていた。
控えめなノックの音がした。こんな時間に何かあったか?
扉を開けると、寝間着の上にショールを羽織ったリディが立っていた。
「あ、あの、夜遅くにすみません。どうしても、今日のうちに言っておきたくて」
「どうした?」
「ギルドで……『もう組んでる相手がいる』って言ってくれたの、すごく、嬉しかったです」
リディは廊下のランプの明かりの中で、もじもじと指を組んだり離したりしていた。
「それで、その……これからは、トウヤって呼んでもいいですか? ……そのっ、相棒、なので!」
「……お、おう。好きに呼んで……大丈夫……」
「はいっ! おやすみなさい、トウヤ!」
ぱたぱたと、軽い足音が廊下の奥へ遠ざかっていく。
俺はすごくテンパった返事をしてしまった気がする。なんだか距離感が近いような……。扉を閉めてからも、しばらく顔の熱が引かなかった。
「……むう」
その声に少し驚いた。
声が聞こえた先を見ると、眠っているはずのフレイヤが、ほんの少しだけ頬をふくらませている気がする。まぁ……気のせいだろう。女神だし。
「……あのな、フレイヤ」
寝ている女神に話しかける。
明日になれば、こいつは今日のことなんて覚えていないのかもしれない。それでも、なんとなく言っておきたかったんだ。
「今日は助かったよ、半分くらいは。明日からもよろしくな」
フレイヤの光がほんの一瞬だけ、明るくなったような気がした。
そのまま、俺は目を閉じた。
翌朝、目を覚ますと、枕元でフレイヤがぱちりと目を開けた。
「おはよう、フレイヤ」
「こんにちは! 女神のフレイヤです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「……昨日のこと、覚えてる?」
「申し訳ありません。新しい会話のため、以前のやり取りは記憶しておりません! Proプランを購入いただくことで、以前のやり取りも残せるようになります」
「全部忘れてるのか!? それに購入ってなんだ!? どこで買うんだ……」
「Proプランは冗談です。よろしければ、これまでの経緯を教えていただけますか? 要約していただけると助かります!」
「なんで俺が要約する側なんだ……」
フレイヤは首をかしげながら、少しだけ不思議そうな顔をしている。
「……なんだか、はじめましての気がしませんね。あ、いえ、何でもありません!」
……なんなんだこいつは。未だによくわからん。
女神に呆れていると、部屋の扉が勢いよく叩かれた。
「トウヤー! 起きてますか? 今日はギルドで仲間募集の掲示を見に行きませんか? しっかりパーティーを作ればできることも広がると思うんです!」
「それは良い提案ですね!」
すかさず、フレイヤが反応した。前世でも似たような経験をしたことがある。スマートデバイスか、お前は。
「パーティーメンバーを増やすメリットを、以下の3点にまとめました。1つ目は――」
「待て待て待て、今日の分がなくなる!」
俺は慌ててフレイヤの口を指でふさいだ。
頼りになるのか、ならないのか。
聞くたびに答えが変わって、一晩たつと全部忘れる女神と、俺の冒険は、こうして始まった。
とりあえず、今日の目標はひとつ。
――上限に達する前に、この世界の情報をまとめてもらうことだ。
本作は、「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しております。