この度、オリジナル小説『万職の創造魔導士』の投稿を始めました。
現代日本を舞台に、すべてのジョブを極めた主人公・東雲優と、その弟子となる七瀬のあが繰り広げる冒険と戦闘を中心とした現代ファンタジー作品です。
初めての小説投稿となりますが、楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
その日、世界は何の前触れもなく変わった。
空が裂けたわけでもない。
大地が揺れたわけでもない。
ただ、そこにあるはずのないものが、突然現れたのだ。
――塔。
雲を貫き、天の果てまで続いているかのような巨大な建造物。
それは現代日本の首都、東京の中心部に突如として出現した。
黒く鈍い光沢を放つ外壁には、現代の技術では再現できない奇妙な紋様が刻まれている。
頂上は雲の向こうに隠れ、その全貌を確認することすらできない。
誰が建てたのか。
何のために存在するのか。
そもそも、どうやって現れたのか。
あらゆる疑問に対し、答えを持つ者は一人もいなかった。
そして、塔の出現から数分後。
世界中の人々の視界に、奇妙な文字が浮かび上がった。
『世界システムの起動を確認しました』
『全人類に対するジョブシステムの適用を開始します』
『適性判定を実行中……』
『完了しました』
それは、まるでゲームのシステムメッセージだった。
しかし、決してゲームなどではなかった。
人々は突然、自分の能力を数値として確認できるようになった。
筋力、敏捷、耐久、魔力。
そして、職業を意味する《ジョブ》。
剣士、戦士、武闘家、弓使い、魔法使い。
それまで空想の世界にしか存在しなかった概念が、現実のものとなったのである。
だが、変化はそれだけでは終わらなかった。
塔の内部から、人類がこれまで目にしたことのない異形の存在が確認された。
獣の姿をした怪物。
鋼鉄のような皮膚を持つ巨人。
そして、言葉を理解し、人間に敵意を向ける知性ある存在。
後に《魔物》と呼ばれるそれらは、人類に新たな脅威をもたらした。
当然、政府は自衛隊を派遣した。
しかし、通常兵器が通用する相手ばかりではなかった。
現代兵器では対処しきれない存在に対し、有効だったのは、皮肉にも人類が同時に手に入れた未知の力だった。
――ジョブ。
剣士は剣を振るい、戦士は盾を構え、魔法使いは魔力を操る。
人類は自らに与えられた力を研究し、少しずつ魔物への対抗手段を確立していった。
やがて塔の内部には、階層ごとに異なる環境が広がっていることが判明する。
森林、荒野、地下迷宮。
さらには、現実世界では存在し得ないような空間まで。
人々はその未知の領域を《ダンジョン》と呼び、探索に挑む者たちを《冒険者》と呼ぶようになった。
それから数年。
世界は驚くほどの速さで変化した。
冒険者を管理する組織が設立され、ジョブの研究が進み、魔物から得られる素材や魔石は新たな産業を生み出した。
かつてゲームや小説の中にしか存在しなかった冒険者という職業は、いつしか社会に認められる存在となっていた。
そして、その冒険者たちの頂点には、世界でも指折りの実力者が名を連ねるようになる。
――《十傑》。
世界最高峰の冒険者十人に与えられる称号。
その名は強さの象徴であり、数多の冒険者たちが憧れる到達点だった。
だが、そんな時代が訪れるよりも前。
塔が現れたあの日、一人の青年が自宅のテレビを眺めていた。
「……は?」
東雲優。
高校を卒業し、就職までの時間を自由気ままに過ごしていた、ごく普通の青年である。
画面には東京の上空から撮影された巨大な塔が映し出されていた。
ニュースキャスターは混乱した様子で現場の状況を伝えている。
『繰り返します。東京都内に正体不明の巨大建造物が出現しました。現在、政府が情報の確認を進めています』
「いやいや……何だよこれ」
最初は映画の宣伝か何かだと思った。
しかし、どのチャンネルに切り替えても、映し出されるのは同じ光景だった。
スマートフォンにも緊急速報が届いている。
そして、その瞬間。
『個体情報の確認が可能になりました』
優の目の前に、半透明の画面が現れた。
「……ステータス画面?」
恐る恐る指を伸ばす。
すると、画面には自身の名前と、見慣れない数値が並んでいた。
「マジかよ……」
優はしばらく言葉を失った。
だが、次第にその表情が変わっていく。
驚愕から困惑へ。
困惑から興味へ。
そして、最後には少年のような笑みを浮かべていた。
「ってことは……魔法も使えるのか?」
昔から、優には憧れがあった。
剣を振るう英雄でも、怪力で敵を打ち倒す戦士でもない。
自らの魔力で炎を生み、雷を操り、世界の理を超越する存在。
――魔法使い。
ゲームでも、漫画でも、小説でも。
優が最も心を奪われたのは、いつだって魔法だった。
「決めた」
優は立ち上がり、窓の外を見つめた。
遠く離れた東京に現れた塔。
その存在が、これから自分の人生をどれほど変えることになるのか。
この時の優は、まだ知る由もなかった。
「俺、魔法使いになるわ」
何気なく口にしたその言葉。
それが、すべての始まりだった。
もっとも、彼はまだ知らない。
魔法使いというジョブが、数ある職業の中でも不遇とされる未来を。
理想と現実の違いに苦しみ、幾度となく壁にぶつかることを。
そして、魔法を極めるために選んだ遠回りの道が、やがて誰も到達できなかった領域へとつながることを。
剣を学び、武術を修め、あらゆるジョブを経験する。
数え切れないほどの試行錯誤を重ね、すべての職業を極めた先で、彼は一つの答えに辿り着く。
既存の魔法を極めるだけでは足りない。
ならば、自分で創ればいい。
世界に存在しない魔法を。
誰も想像しなかった可能性を。
自らの手で。
後に《万職の創造魔導士》と呼ばれる青年。
世界最高峰の冒険者《十傑》の頂点へと至る男。
東雲優。
これは、そんな彼が歩んだ冒険の物語。
そして、彼の前に現れる一人の少女との出会いによって、さらに大きく動き始める運命の物語である。
――万職を極めし者よ。
――その創造をもって、世界の理を塗り替えよ。
それから、二年の月日が流れた。
十八歳だった東雲優は、二十歳になっていた。
あの日、魔法使いになると決意した青年は、今もなお、その夢を追い続けている。
しかし、現実は彼が思い描いていたほど優しいものではなかった。
「東雲優。お前には、今日限りでクランを抜けてもらう」
静まり返った会議室に、冷たい声が響いた。
長机の向こうに座る男は、日本有数の攻略クランを率いるクランマスターだった。
その左右には幹部たちが並んでいる。
誰も口を開かない。
優は目の前に置かれた書類を一瞥した。
そこには、所属契約の解除を意味する文字が並んでいた。
「……理由を聞いてもいいですか?」
「お前の戦闘スタイルだ」
男は即答した。
「剣士、魔法使い、支援職、鍛冶師。いったい何を目指している? どれもこれも手を出して、結局一つに絞れていない」
「必要だと思ったものを学んでいるだけです」
「それを器用貧乏と言うんだ」
幹部の一人が鼻で笑った。
「探索者には専門性が必要だ。剣士なら剣を、魔法使いなら魔法を極めればいい。お前みたいな半端者に、うちのクランの席を与えておく余裕はない」
優は何も言い返さなかった。
確かに、彼は一つのジョブだけを使い続けることができなかった。
剣を学べば、魔法との組み合わせを考えたくなる。
魔法を学べば、術式を理解するために錬金術や鍛冶にも興味が湧く。
そして新たな知識を得るたびに、さらに別の可能性が見えてくる。
それが優にとっての探索だった。
「……分かりました」
優は胸元の認識票を外し、机に置いた。
「お世話になりました」
会議室を出たあと、優は一度だけ振り返った。
だが、扉の向こうから彼を呼び止める声は聞こえなかった。
「ま、仕方ないか」
そう呟いて歩き出す。
その背中に、悔しさがなかったわけではない。
ただ、それ以上に優が感じていたのは、奇妙な解放感だった。
もう、誰かに合わせてジョブを選ぶ必要はない。
剣を振りたければ振ればいい。
魔法を研究したければ研究すればいい。
――自分の好きなように、強くなればいい。
そのときの優は、まだ知らなかった。
彼が追い求めた数多の技術が、やがて一つにつながることを。
そして、世界に存在するすべてのジョブを極めた先に、誰も知らない《創造》の領域が待っていることを。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
はじめまして、作者の東雲優です。
『万職の創造魔導士』は、現代日本を舞台に、魔法使いに憧れた一人の青年が、数々のジョブを経験しながら成長していく物語です。
これから東雲優がどのような冒険を繰り広げ、どんな仲間たちと出会っていくのか、楽しんでいただければ幸いです。
感想やご意見などもいただけると嬉しいです。
今後とも『万職の創造魔導士』をよろしくお願いいたします!