あとタイトル変えました。
二ヶ月くらい時間飛びます。
あれから二ヶ月。ついに綱吉の家のポストに家庭教師のチラシが入った。
つまりリボーンが来る……否、既に来ていた。彼は一ヶ月も前から綱吉を観察している。知りたいことは知れたが故に、接触する段階へ移ったのだ。
そんなことは露知らず、能天気にベルベットルームから退出する綱吉をウィルヘルミナは見送った。
「ようやく、といったところですかね」
色々ありましたね、と周囲を見回す。何も無かったはずのベルベットルームには幾つもの家具があった。綱吉がコープを生み、重ねた結果である。相変わらず壁はないので吹き曝しであるが。
「ふふ、流石はジャンプ主人公。今思い返しても」
Case 1. 黒川花
綱吉は花に放課後呼び出された。
「沢田、アンタも京子が好きなわけ?」
「わ、悪いかよ」
「別に。ま、公衆の面前で告白もどきをした勇気と、馬鹿どもの襲撃に耐えてるのに免じて見逃してあげる」
綱吉の友達宣言以降、嫉妬した同級生や先輩が度々襲撃をかけてくるようになった。
ビアンコ・モスカとの戦闘により文字通りレベルが上がった綱吉はなんとか逃げることに成功――するはずもなく、普通にボコされても鋼の精神で蘇り、京子と友人を続けていた。
「草食系なアンタにあんな根性があっただなんて、正直意外だったけどね」
「草食系……」
「だってそうじゃん? 何回もチャンスがあったのに私が来た途端にビビって逃げ出してたくせに」
「に、逃げてないから! というかあれやっぱりわざとかよ!」
「当たり前でしょーが。京子は色々と無防備だから、私が守ってあげてんの」
強かに笑う花。
「ま、私はアンタのこと応援するよ」
「へ?」
「数ある選択肢の中の一つとして、京子に相応しいかどうか、見定めてあげるって言ってんの。今のところ一番マシだしね。特にあの根腐れヤロー共は本当に……」
そう言ってブツブツと愚痴りだした花を見て、綱吉は女って怖いと思った。
「ま、代わりに京子のことならなんでも聞きなよ。答えられる範囲で答えてあげる」
「!」
「これは取引よ。アンタは性欲丸出しのバカ男子共の防波堤になるの。分かってると思うけど、私の親友泣かせたら承知しないからね」
「わ、分ってるよ!」
花から信頼を感じる。
皇后のコープが解放された。
Case 2. 山本武
「ツナ、お前も補習なのな」
「あはは……」
土曜日に赤点保持者だけが呼び出された教室で、悄然と座る綱吉を意外そうな顔で武は見た。
武が知る綱吉は、真面目に授業を受けて、放課後は先生にも質問しに行く学習意欲のあるクラスメイト。パッと見、頭が良さそうな印象を持っていたのだ。
「オレ、小学校の頃から勉強出来なかったんだ。中学生になったから、ちょっと頑張ってみようと思って」
嘘である。ウィルヘルミナにカッコつけたかったからだ。
だが対外的に、綱吉はそういうことにしていた。
それに半分くらいは事実だ。自習の大半は小学校の頃に疎かにしていた基礎の復習に重点が置かれており、テスト勉強はやっていなかった。
「偉いんだな、ツナって」
「お、オレなんて全然全然! 山本こそもう野球部でレギュラーになったんでしょ? 一年生なのにすごいじゃん!」
「んなことねーよ。先輩たちなんか、レギュラーとテストどっちも取ってるし、俺なんかまだまだだ」
と、そこで武は何か思いついたようだった。
「なあ、小学生の頃の復習。今度俺も一緒にしていいか?」
「え?」
「な! このとーり!」
「ま、まあいいけど……」
「よっしゃ! ということで、とりまこれ教えてくんね?」
そういって補修組に配られたプリントの問題を指さす武。綱吉は同じ補修を受けている人間に聞くことかよと呆れながら、頼られる嬉しさを知った。
「た、多分でいい?」
「おう!」
武から友情を感じる。
戦車のコープが解放された。
Case3. 笹川良平
ビアンコ・モスカは定期的にやってくる。
綱吉はなんとか撃破に成功しているが、徐々に相手が強くなってきているのを感じていた。
このままではジリ貧。だが、他に頼れる仲間はいない。身体を鍛える必要があった。
「ここがボクシング部かぁ」
漂白世界で戦う際、綱吉はウィルヘルミナからもらったグローブを装備している。
徒手空拳の競技であるボクシングなら、学べるものがあるかもしれないと思ったのだ。
そろりと開いている窓から中の様子を確認する。
(こ、怖ーー!?)
人相の悪い男が沢山いた。
思わず頭を引っ込める。
(なにあれ本当に同じ中学生!?)
「あれ、ツナ君?」
「京子ちゃん!?」
「どうしたのこんなところで? あ、もしかしてボクシング部に入部するの?」
「えっ、いやぁ、入部するかは決めてないけど、身体鍛えたいなって思って……」
その時、バシバシとミットやサンドバッグを打つ音と、野太い声が聞こえ始めて、綱吉はびくりと肩を揺らした。
「や! でも今日はちょっとやめとこっかなーって!」
「お兄ちゃーん! ツナ君が入部したいんだってーー!」
「京子ちゃん!!??」
(というか今お兄ちゃんって言った? ……京子ちゃんのお兄さんがボクシング部にいるってこと? いやいやいや、まっさかー……)
とはいえ部室に入っていってしまった京子を置いていくこともできず、綱吉もなし崩し的にその後を追うことになった。待っていたのは京子の実の兄であり部長の笹川了平だった。
「お前が入部希望者か」
「うん、沢田綱吉君!」
「よし、極限に合格だ!」
「ちょ、早すぎませんか!?」
「良かったね、ツナ君」
(こ、断りづれーー!)
京子が眩しいくらいの笑顔を浮かべる。好きな女の子が嬉しそうにしているのに、断れる男がいるか。いやいない。
もしこれが今よりももっと後、リボーンがいて死ぬ気弾を撃てる状態であればまた話は違っただろうが、残念ながら今の綱吉にこの誘いを断れるほどの度胸はなかった。
むさくるしい男達の胴上げを受けながら、綱吉は涙を流す。
「「「新入部員、確保ーー!!」」」
並々ならぬ情熱を感じる。
剛毅のコープが解放された。
入部は勉学に集中したいという理由で何とか断った。
「――こんなところでしょうか。これからが本番とはいえ、上々の滑り出しです。あとはペルソナ使いの仲間ができてくれればメメントスに案内できるのですが」
漂白世界が離脱不可能かつ一過性な性質上、ペルソナ使いとしてのレベリングやペルソナの強化・収集は全てメメントスで賄う必要があった。
だが一体誰がペルソナ使いになるのか、こればっかりはウィルヘルミナにも分からない。時の運、そして偶然の奇跡に身を任せるしかないだろう。
放課後、母の奈々から今日は早く帰ってくるようにと言われていた綱吉は、そこで家庭教師が来ることを知った。
いらない、咄嗟にそんな言葉が口から出そうになるも、勉強が効率的になれば赤点から脱出できるかもしれないし、人間パラメーターも上がりそうだ。とりあえず会ってみることに決めた。
「ちゃおっす」
現れたのは赤ん坊だった。
「オレの本当の仕事は、お前をマフィアのボスにすることだ」
しかも最後にはそんな物騒なことを言う始末。
逆らえば容赦ない鉄拳制裁が綱吉を襲った。
「いてて……」
「オレの本職は殺し屋だぞ。なめんじゃねー」
(ち、チクショー! こんな赤ん坊に負けるオレって……)
そして夜。ベルベットルームで綱吉はウィルヘルミナにリボーンの滅茶苦茶具合をあらんかぎり語っていた。
「あいついきなり来て小指ひねり上げてきたんだぞ! 信じられる!? しかも超強いし!」
「ふふ、それは大変でしたね」
「ホントだよ! ……はぁぁ、何回かモスカってやつとも戦ったしそれなりに自信があったんだけどなぁ」
「仕方がありませんよ。リボーンはこの世に七人いる最強の赤ん坊『アルコバレーノ』の一人です。確かにツナも強くなりましたが、まだ足元にも及びません」
「あいつそんなに凄いやつなのーー!?」
「そんな凄いやつが、住み込みの家庭教師に来たわけです」
「…………じゃあマフィアのボスってのも、やっぱり本当なの?」
神妙な面持ちで頷くウィルヘルミナに、綱吉は頭を抱えた。
だがそもそも夢の中でしか会えない友達という最大級のファンタジーが目の前にいることを思い出す。これに比べれば「実はマフィアのボスの遠縁でした」という事実はまだ現実味があった。
と、そこで知力2になった綱吉があることに気づく。
「……あれ、となるとウィルヘルミナが時々言う『マイボス』ってもしかして」
「私のボス、という意味ですが」
「やっぱりーー!? え!? ウィルヘルミナもマフィアなの!?」
「いいえ。ただツナがボンゴレ10代目というのはずっと知っていましたよ」
「そうなの!?」
「はい。ですが『掟』により話せませんでした。申し訳ございません」
掟。便利な言葉である。
「……オレ、マフィアのボスなんかになりたくないんだけど」
「ならなくてもいいと思いますが」
「え?」
「重要なのは結果ではなく選択です。ツナはツナらしくあればいいと思います」
原作を見るに、どうあがいてもボスを継がないと各方面がやばそうです、という言葉はあえて飲み込むウィルヘルミナ。
綱吉は数秒考え込んだ後、頷いた。
「……そっか、なんか安心したかも。ありがとう、ウィルヘルミナがいてくれて助かったよ」
「突然マフィアのボスになれと言われて、混乱しないほうが無理な話でしょう。とはいえ、これは以前申し上げた『過酷な運命』、その序奏に過ぎません。ゆめゆめ、警戒を怠らないように」
「えー!? まだ始まってなかったのーー!?」
玉虫色の返事を綱吉が都合よく解釈してくれたことにウィルヘルミナは内心感謝する。
ベルベットルームの住人として、現実に干渉しすぎることはよくない。
未来を教えることなどもってのほかだ。
だから言葉の端々を濁すしかなかったし、ボンゴレに関してもリボーンが来たからようやく言うことができた。
前世の頃から好きだったキャラクターを助けたいという気持ち。これがまた厄介で、酷くもどかしい。
今ならやる夫戦に向かう怪盗団を見送るラヴェンツァの気持ちや、白蘭と綱吉が戦うのを見守るしかなかったリボーンの気持ちが分かるというもの。
綱吉がいなくなったベルベットルームで、ウィルヘルミナは物憂げに息を吐いた。
◇
「ツナ君おはよう!」
「京子ちゃん!? お、おはよう! でもどうしてここに?」
綱吉と京子の家は正反対というわけでもないが、それなりに離れた位置にある。通学路を共にするには少し難しい距離だ。それでも鉢合わせだということは、京子側に何らかの用があるのだろう。
「お兄ちゃんがね、ボクシング部にツナ君を誘えーってうるさくて。だから一応誘ってみるのと、どうせなら一緒に登校してみようかなって」
「そっ、そうなんだー……!」
(お兄さんナイス! でも着実に外堀を埋められてる感が……)
でれでれしながら了平に感謝しつつ寒気を感じる百面相を晒す綱吉。
思いがけず至福の登校時間となったが、そんな様子を見つめる影があった。
(持田先輩に報告だな!)
と走り去る並盛中剣道部部員。
(こいつは使えるな)
その後ろでにやりと笑うリボーン。
(あくどい顔をしてますね、リボーン)
そのさらに後ろで、ベルベットルーム越しに呆れるウィルヘルミナ。
どいつもこいつも野次馬根性たくましい連中である。
そうして時間は流れ、放課後に綱吉が図書室で自習していると、卓上にリボーンが現れた。
まさか学校にまで来るとは思っていなかった綱吉は大きな声を上げそうになったが、ここが図書室であることを思い出して咄嗟に声を潜める。
「(お、お前っ、なんで学校に来てんだよ!?)」
「気にすんな」
「(いや気にするに決まってんだろ!?)」
「ごちゃごちゃうるせーやつだな」
がし、と綱吉の小指をリボーンが踏む。
物理的に黙らされた綱吉が声なき声を上げた。
「……ん? お前このリングはなんだ?」
そしてウィルヘルミナが与えた青いリングを検分し始めた。
「いだだだだだ!?」
だが指ごとリングを掴み上げられてる綱吉はたまったものではない。
リボーンが見る角度を変えるたびに、指を捻りあげられているのだから。
「も、貰いもんだって!」
「ふーん、誰だ?」
「誰でもいいだろ!?」
『――図書室ではお静かに!』
司書教諭の声が聞こえてきた。
二人は目を見合わせた後、リボーンがパッと綱吉を離す。
手を振って指の痛みを冷ます綱吉に、リボーンが言った。
「お前、こんな初歩も初歩の勉強してやがんのか?」
あたかも今知ったばかりのように言っているが、もちろん一か月前から知っている。ポーズというやつだ。
「わ、悪いかよ」
「悪いとまでは言ってねー。基礎は大事だからな。この前のテストの点数が悪かったのもそいつの影響か」
「なんでお前がテストの点数知ってんだよ!?」
「ママンに聞いた」
「母さん!?」
『こらそこ、図書室では静かにしなさい!』
「ヒィ!? す、スミマセーン!」
今度は遠くから肩をいからせた司書教諭が見えて、綱吉は慌てて図書室から退室した。
人気の少ない場所に移動してから、改めてリボーンを問い詰めようとする。
「お前なんなんだよ!? 仮にも家庭教師だってんなら生徒の自習は尊重しろよな!」
それは本当にそう。
「うるせー。オレにはオレのやり方があるんだ。そもそも家でやりゃいいだろ」
「い、家だとゲームとかあるから集中できないんだよ!」
「今後はオレが嫌でもネッチョリ集中させてやる」
銃を取り出してリボーンが笑い、綱吉の背中に怖気が走った。
「なおさら嫌だわ!」
踵を返してリボーンから逃げ出す綱吉。
その背中をあえて、リボーンは追わなかった。
綱吉が逃げた先で、剣道部が走り込みのために屯していることを、あらかじめ知っていたからだ。
自ら虎穴に入ってしまった綱吉は、ガラの悪い剣道部員とその部長、持田剣介にあっという間に囲まれてしまう。
「おうおうダメツナさんじゃねえか。こんなところにいるとは奇遇だなぁ」
「聞いたぜ? 今日の朝笹川京子と仲良く登校してたらしいじゃねーか」
「うらやましいねぇ! なあ剣介、なんか言ってやれよ!」
「フッフッフ、何度叩きのめしても蘇るしつこいハエめ。 いい加減諦めやがれ、テメェに京子はつり合わないんだよ!」
「ヒュー、持田先輩カッケェ!」
囃し立てる剣道部員。綱吉は追い詰められながらも毅然に言い放つ。
「べ、別に誰を好きになろうが人の勝手だろ!」
今ここで逃げたら京子と交わした友達宣言に嘘をつくことになる。
ウィルヘルミナに後押しされて培った度胸も裏切ることになる。
この二ヶ月で何度も繰り返した、綱吉なりの覚悟の現れだった。
「じゃあ俺が誰を殴ろうとも人の勝手だよなァ!」
だがそんな綱吉の想いも虚しく、頬に剣介の拳が突き刺さった。
悲しいことに、これも二ヶ月繰り返した光景である。
「うっぜぇんだよバァ〜カ! テメーみてぇに声だけデカいウジ虫野郎を見てると腹が立つんだ! 死ねッ!」
「うぐっ!?」
殴られてうずくまっていた綱吉に容赦なく入る蹴り。
囃し立てていた連中も参加し、綱吉は袋叩きにされた。
ボコボコになった綱吉を満足気に見下ろした剣介は、もう二度と立ち上がらせないために宣言する。
「決めたぜ、俺は今から京子に告白する!」
「!?」
「ついに行くのか!」
「マジっすか剣持先輩!」
「かっくぃ〜!」
「おう! んで沢田綱吉! 京子は俺の彼女になるんだ。二度と近寄んじゃねーぞ!」
「ま、待っ」
「黙ってろ!」
トドメと言わんばかりに蹴り飛ばされた綱吉は、去って剣介を見送ることしかできない。
「う、うぐぐ……」
全身に走る痛みはどうでもよかった。こんなのビアンコ・モスカと戦った後に比べれば、全然マシだ。
それ以上に痛かったのは心だった。
漂白世界は認知世界。語弊があるが、心の有り様によっていくらでも強くなれる。超人のような動きだって可能だ。だが現実では、綱吉はまだまだ弱いままだった。
「おいツナ」
「り、リボーン?」
「おめぇ、悔しいか?」
いつの間にか顔のすぐ近くに立っていたリボーン。
綱吉の目に涙が滲んだ。
「っ……ああ、そりゃ悔しいよ! でも、それ以上に……悲しいんだ」
自分の弱さよりも、京子が剣介の彼女になって遠くに行ってしまうことが悲しい。
無力に地面に転がるしかない綱吉には、どうにもならない話だ。
「そうか、ならいっぺん死んでこい」
かちゃりと、綱吉の額に銃口が突きつけられた。
「へ?」
そして綱吉がろくに反応する間もなく、引き金が引かれる。
撃ち抜かれる頭部。ばたりと綱吉の身体から力が抜け、死んだかに見えた次の瞬間――変化は起こった。
もこもこと服が動いたかと思うと、脱皮のように突き破ってパンツ一丁の綱吉が現れたのだ。
いつもの優しげなタレ目はつり上がり、額には炎が燃えている。
拳を握りしめながら、綱吉が叫んだ。
「
窓から飛び出した綱吉に、リボーンは不敵な笑みを浮かべる。
「イッツ死ぬ気タイム」
校舎を爆走する綱吉。その異様な姿に誰もが驚き、悲鳴を上げた。
リボーンが綱吉に撃ち込んだのは『死ぬ気弾』。
ボンゴレファミリーに伝わる特殊弾である。
対象の脳天に撃ち込むと効果を発揮し、死に際に後悔していたことに対して、死ぬ気で取り組ませることができる。
なお、後悔がない場合はそのまま死ぬ模様。
綱吉が京子の元にたどり着いた時、丁度剣介もいた。
「京子、ちょっといいか?」
「? 持田先輩?」
「俺、お前のことが――
「ちょっと待ったぁぁぁあああッ!!!」
――ッ、ダメツナてめぇしつぐばら!?」
そして死ぬ気モードの綱吉のドロップキックが、剣介を吹き飛ばした。
京子が、ギャラリーの剣道部員+αが、思わず目を点にする。
綱吉がパンツ一丁で突然現れたのだからある意味当然だ。
そして周囲の雰囲気を置き去りに、綱吉が叫んだ。
「笹川京子! オレと付き合ってください!!!」
空気が、凍った。
同時に綱吉の死ぬ気モードも切れる。
「え……あ、あれ?」
「つ、ツナ……君?」
びっくりした顔の京子が目の前にいた。
周りを見れば、誰もが形容しがたい視線を綱吉に送っている。
(な、なんだかよく分かんないけどやっちまった〜〜!?)
「え、えっとね。ツナ君……」
「は、ハイ!?」
「私――
『ゼっタイに、ユるサねェ……うジ虫ガァがが』
世界にノイズが走った。
京子が、口を開いた瞬間で止まっている。
綱吉は咄嗟に剣介を見た。
剣介は明らかに様子がおかしかった。目は血走り、身体からどす黒いオーラが揺らめいている。
ブブブ、視界がカラーと白黒に切り替わる。
白黒の世界――漂白世界だ。
そして剣介がいた場所に、シャドウがいた。
だがいつものビアンコ・モスカではない。
剣介をそのまま巨大化させ、異形の化け物にした感じだった。
ピンクの身体、肥大した有角の頭部、細長い六腕にはそれぞれ竹刀が握られている。
「あいつは!?」
「あれは持田剣介のシャドウです。モチダ・アスモデウス・ケンスケシャドウといったところでしょうか」
「ええーー!? なにそれーー!? というかウィルヘルミナいつの間に!?」
「ご機嫌よう、マイボス。素敵な告白でしたね」
綱吉の隣に、いつの間にかウィルヘルミナが立っていた。
『ヨウ、ダメツナァ』
「喋った!?」
『コノ力ハ凄イゼェ、ブッ潰シテヤルヨ! 勝負ダ沢田綱吉ィ!! 商品ハモチロン、笹川京子ダ!』
意気軒昂に竹刀を振り回すケンスケシャドウ。
これまでにない強敵だ。祈るような面持ちで、ウィルヘルミナは綱吉を見る。
「いつものビアンコ・モスカより一段……いえ二段は上の相手です。くれぐれもご注意を」
「うん。ペルソナ!」
綱吉がリングに力を込めると、背後にコルレオーネが召喚された。
リングはペルソナ召喚器の役割も持っているのだ。
『京子ハ、俺ノモンダァ!』
「京子ちゃんは物じゃない!」
綱吉は六刀をくぐり抜けながら『メギ』を当てる。
だがケンスケシャドウの耐久力はビアンコ・モスカの比ではない。
ビアンコ・モスカが剣介という依代を得たことにより、存在が強化されていた。
ビアンコ・モスカが無人販売機だとすれば、ケンスケシャドウは現地で店長を雇ったフランチャイズ店。
動きも機敏で、人間特有のいやらしさがそこにはあった。
だが半覚醒状態の超直感は据え置きだ。攻撃の隙間を上手く綱吉は突いている。
「万能属性は強力ですが、ダウンが取れないのは不便ですね。今のところ当たらなければどうということはない、と言った感じですが、一撃当たれば大ダメージは必至……」
「――おめー何もんだ」
不意にかちゃりと背後から音がした。
鋭い表情をしたリボーンが拳銃をウィルヘルミナに向けていた。
「晴れのアルコバレーノ、リボーンですか。まさか認知世界に入門するとは」
「動くんじゃねぇ」
「無駄ですよ、リボーン。ここは認知世界です。あらゆる物理法則は大衆の認知に塗り替えられ、ペルソナ能力を持たない貴方では、見た目同然の力しか発揮できません。それはもう、貴方も分かっていることでしょう」
「……」
尚も警戒を続けるリボーンに、ウィルヘルミナは困った笑みを浮かべた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はウィルヘルミナ。ベルベットルームの住人です。どうぞお見知りおきを」
「……チッ。オレはリボーンだ。おい、ツナが出しているあれはなんだ」
「ようやく会話をする気になりましたか」
「いいから質問に答えろ」
「ふふ、貴方が女子供に手を挙げない主義なのは存じていますよ」
ウィルヘルミナは綱吉を指さす。
「あれはペルソナです。己を超克した時に現れる、もう一人の自分。シャドウにはペルソナ使いしか勝てません」
「おめーは戦わないのか?」
「私は掟により手を貸すことができませんから」
「……そうか。ツナが負ければどうなる」
「死にます。そして世界が終わります」
突然話のスケールが大きくなったことで、リボーンの目が僅かに揺れる。
「世界、だと? にわかには信じられねーな」
「お気持ちはよく分かります。ですがアルコバレーノである以上、
ウィルヘルミナがリボーンに振り向く。
「そう警戒なさらないでください。貴方の目的と、私の目的の方向性は同じです。共にツナの成長を願う同士として、彼の戦いを見守りましょう」
「……仕方ねーな」
そう言って隣に並んだリボーンを見て、ウィルヘルミナはにっこりと笑った。
リボーンもニヤリと笑う。
ウィルヘルミナから敵意が感じられないないことは明らかだ。分からないことは直接聞けばいいと、リボーンは方針を切り替えた。
「ツナはなんであんな動けてんのに、さっきは不良程度にボコボコにされてたんだ?」
「ここが認知世界だからです。認知世界では認知世界のルールが優先されます」
「ふむ」
「そしてペルソナ使いはその認知のルールをある程度能動的に操ることができます。いわゆる『理想の自分の動き』を出力することが可能なのです」
「なるほどな」
「ですがこれらはあくまでも認知世界だけの話。現実では現実のルールが優先されます」
「……オレは見た目が『赤ん坊』だから、力も『赤ん坊』まで落ちてると」
「はい。ついでに言えば、貴方が持つ銃も『赤ん坊が本物の中を持つわけがない』という認知により、ただの玩具になってますよ」
「マジか」
「マジです」
リボーンは己の手の中にある銃をしげしげと見つめた。
「どう見ても本物なんだがな」
「持田剣介にそんな審美眼があるとでも?」
「ねーな」
ウィルヘルミナとリボーンが話す横で、綱吉とケンスケシャドウの戦いにも動きがあった。
『堕ちろカトンボが!』
「うぐあ!?」
「ツナ!」
竹刀の一撃を受けた綱吉が吹き飛び、地面に転がる。
「まじーな、ついに当たっちまったぞ」
「……はい。純粋な殴り合いに勝機はありません」
リボーンが拳銃に死ぬ気弾を装填した。
「
「やらねぇわけにはいかねーだろ」
「……あまりに危険すぎます。不発どころか後悔があっても本当に死ぬ可能性が……」
「じゃあこのまま指を咥えて見ているつもりか?」
ウィルヘルミナは、綱吉ににじり寄るケンスケシャドウを見遣る。
絶体絶命の状況だ。綱吉は目を回していて動けそうにない。このままでは本当に死んでしまうだろう。
ウィルヘルミナは目を瞑り、覚悟を決めた。
「…………分かりました。死ぬ気弾を貸してください」
「ほいっとな」
「うわっとと……!? り、リボーンっ?」
投げ渡された死ぬ気弾を慌てて取るウィルヘルミナ。
「フ、ようやくその澄まし顔が崩れたな」
「……全く、今回だけですからね」
ウィルヘルミナはリボーンを恨ましげに見てから、死ぬ気弾を両手で包み込んだ。
朱色だった死ぬ気弾の色が真紅に変わる。
「そいつは?」
「存在の方向性を少し弄りました。あくまで元からある可能性を引き出しただけですが、効果は保証します」
「十分だぞ」
リボーンが死ぬ気弾を再装填する。
そして躊躇なく発砲した。
弾丸はカーブを描き、目を回す綱吉の脳天に突き刺さる。
瞬間、綱吉の身体から橙色の炎が吹き上がった。
「こいつは……」
「異なる世界のペルソナ使い達は、認知世界に入った際、敵意を受けると装いが変化します。これはその現象の再現したもの」
炎が形を変え、マントとスーツになる。
額には死ぬ気の炎が灯った。
その姿はまるで――
「死ぬ気弾によって開放された潜在能力の方向性を、装いで固定します。この姿ならそう」
「ボンゴレ
綱吉が再び立ち上がる。
擬似的なハイパーモードとなったことで、再び気力が戻ったのだ。
「ここで死んだら、死んでも死にきれねぇ……!」
『執拗イヤツダ!』
振り下ろされる竹刀。
人間の身体程の太さがあるそれを、綱吉は手刀で焼き払う。
『オ、オレガ小学生ノ頃ニ買ッタ竹刀ガ!』
「次だ。『メギ』」
『ギャアアア!?』
先程までとは戦いの次元が違った。
目にも止まらぬ早さで綱吉は残りの竹刀全てを叩き折る。
『ウ、嘘ダ……!』
「もう諦めろ」
『グ、グググ……』
武器を失い、体力も尽きたケンスケシャドウが戦意を喪失した。
綱吉も追撃を加えず様子を見ていると、ウィルヘルミナが前へ進み出た。
「ツナ、認知世界の持田剣介を倒すと、現実の持田剣介にも影響が出ます」
「?」
「この世界で持田剣介を殺した時、現実の持田健介も死ぬ、ということです」
「!」
「そいつは……」
アリバイなしに暗殺し放題なことにすぐ気づいたリボーンが声を上げたが、ウィルヘルミナはリボーンに黙っているようジェスチャーする。
「ですが逆にここで説得することができれば、それは現実にも反映されるということです」
「なるほど――持田先輩、京子ちゃんはお前のものじゃない」
『アア、ソウダナ……オレガ間違ッテイタ……』
「やるなら正々堂々だ」
『! オ前……!』
ケンスケシャドウが目を見開く。
「オレも京子ちゃんが好きだ。だから、貴方の好きという気持ちも尊重したい」
『……ヘッ、馬鹿ナヤツ……デモ、イイヤツダナ……。分カッタ。俺ハ元ノ俺に戻ロウ』
そう言って、ケンスケシャドウは消えた。
漂白世界に静寂が戻る。
「よくやったなツナ」
「素晴らしい戦いでした」
「リボーン、ウィルヘルミナ……あだだだだだ!?」
額の炎が消えた瞬間、綱吉が悲鳴を上げた。
「な、何これーー!?」
「限界に限界を超えた反動ですね」
「まだまだ未熟だな」
「当然です。ツナはこれからなんですから」
だがこのままでは筋肉痛で動けそうにない。
ウィルヘルミナはため息を吐いた。
「……本当に特別なんですからね。『ディア』」
ペルソナ全書からピクシーを呼び出したウィルヘルミナは綱吉を回復した。
「これで少しはマシになるでしょう」
「いいのか?」
「絆創膏を貼ったようなものです」
「あ、ありがとうウィルヘルミナ」
「どういたしまして」
何とか身を起こした綱吉に、今度はリボーンが声をかける。
「見直したぞ、ツナ。お前はオレの想像を上回った初めての生徒かもしんねーな」
「リボーン……」
「それにもうファミリーを作ってるとは。ボスになる意欲も満々で、オレは嬉しいぞ」
「ちょ、それは誤解だって! ウィルヘルミナも何か言ってよーー!」
「良かったですね、マイボス」
「ちょっとーー!?」
リボーンから確かな信頼を感じる。
| ARCANA 魔術師 RANK | I | ||
| ★★★★★★★★★★ |
そうして漂白世界が解かれた。
場面は現実へと戻る。
ウィルヘルミナが手を振って消え、リボーンも姿を晦ました。
「ち、ちょっと――」
「――沢田綱吉!」
「持田先輩!?」
がし、と剣介が綱吉の肩を掴んでいた。その目は伏せられていて、表情は分からない。
殴られると思って綱吉は顔を逸らしたが、いつまでたっても痛みは来なかった。
「……持田先輩?」
「俺は、お前を認める!」
「へ?」
「お前は俺に何度殴られても立ち上がってきた。お前はスゲーやつだ。普通そこまでやられたら諦める……!」
「お、おーい?」
「お前の好きは本物だ。俺も京子が好きだったけど、トロフィーみたいに見てなかったかと言われたら嘘になる。お前の好きにゃ、敵わねぇッ!」
「も、持田先輩……!?」
「お前のドロップキック、痺れたぜ……こんだけの力があるんだ。もう認めるしかねぇだろ」
剣介は実に清々しい顔をしていた。
「行けよ後輩、決めちまえ」
ぐるりと綱吉の身体が反転する。
疲労困憊の綱吉が逆らえるはずもなく、顔を赤くする京子の前に突き出された。
「き、京子ちゃん」
「ツナ君……え、えっと、私ね」
誰もがごくりと唾を飲んでいた。
綱吉も唾を飲む。
「私……」
「き、京子ちゃん……ぁ、れ――」
「え、ツナ君!?」
ばたりと、綱吉は気絶した。
すごくいいタイミングだった。
溜まり溜まった疲労は、どうやらディアでも誤魔化せなかったらしい。
喧騒が巻き起こる中、物陰でリボーンが、ベルベットルームでウィルヘルミナが同時に嘆息する。
「悲しむべきか、原作通りになったことに安堵するべきか……まあ、ツナらしいといえばらしいですかね」
『モチダ・アスモデウス・ケンスケ』
カモシダのパチモン。
未来から送られてきたシャドウと持田剣介のシャドウが合体した存在。
改心の流れはメメントスでボコって言うことをきかせるのと一緒です。
『リボーン』
皆さんご存知。今話のMVP。
彼が認知世界に入れたのにはきちんと理由があります。
『死ぬ気弾(装纏)』
ウィルヘルミナが手を加え、力の方向性を定めたもの。別名ボンゴレI世なりきり弾。
もしかしたらウィルヘルミナ無しにも実現出来る可能性はあるし、ギリギリ許されるやろと考えた。
デメリットは小言弾と一緒。
小言弾がただの劣化品になるじゃんとか言わないように。
『ディア』
味方一体のHPを小回復。
続きません。