・最初の悪役。
・学校の先生。
・退学させようとしてくる。
・主人公にやられて辞職する。
うん、一緒やな!
白蘭がやらかしてオリ主がベルベットルームの住人として派遣される話です。
設定に矛盾点などございましたらご指摘ください。
沢田綱吉が気づいた時、雲一つない青空の下に寝転がっていた。
呆けたように瞬きしてから、まず青空が変なことに気が付く。なんというか、暗いのだ。発色の良いダークブルーといった感じの色合いで、とてもではないが普通の空に見えない。
加えて周囲には何もない。本当に一切、何もない。コンクリート張りの地面が地平線まで続いている。
「なんだこれ、夢?」
とりあえず立ち上がった綱吉は、自身のほっぺたをつねってみた。
「イタっ」
「もし」
「ヒェッ!?」
不意に後ろから声がして、綱吉は肩を飛び跳ねさせながら驚いた。
そして恐る恐る振り向くと、外国人の少女が立っていた。髪はプラチナブロンドに輝き、肩口で切り揃えられている。年齢は同じくらいだろうか。青が基調の豪奢なレディーススーツを着ており、可愛いというよりも綺麗といった印象が先にくる美少女だった。
(き、京子ちゃんと同じくらい可愛いかも……!?)
女の子と会話した経験が一切ない綱吉は途端に緊張してドギマギしだしたが、少女はお構いなしに端正な顔をずいっと近寄らせ、金色の瞳で下から覗き込んだ。呼気すら感じられるほどの至近距離に、綱吉の緊張が一気にマックスまで高まり、思わず息が止まる。
数瞬、あるいは数秒、綱吉にとってはあまりに長い時間が過ぎた後、ようやく少女が口を開いた。
「
「会ったばかりの女の子に罵倒されたーー!!??」
「まあ初めは誰しも1からスタートですから安心してください。それに優しさは3もありますよ」
「優しさしか取り柄がないって言ってない……?」
「そうとも言えます」
綱吉は泣いた。が、すぐに涙を拭く。
「というか君誰だよ!? ここはどこ!?」
「私はウィルヘルミナ。このベルベットルームの住人です」
「べ、ベルベットルームぅ?」
辺りを見回すが、到底部屋には見えない。
「……こういうこともあります」
「あるんだ!?」
「はい、ベルベットルームは複数ありますから」
ですが気持ちは分かりますと、ウィルヘルミナは頷いた。
まあリムジンをベルベットルームと言い張ることができるのだ。いけるいける。いや、ちょっと無理があるかもしれない。
「で、でもベルベットルームなんて聞いたことないよ」
「知らなくて当然です。ここは現世と幽世の狭間。物質と精神の境目。人が知覚することはまずありませんから。そもそもとして、ここに来る直前の行動を思い出してみてください」
「直前……確か寝ようと思って――え、じゃあここ夢の中ってことーー!?」
そう言うものの、夢の中にしてはあまりに何も無い寂しい世界だと綱吉は思った。
ダークブルーの青空と、まっ平らなコンクリートの地面がどこまでも続く光景は、見ているだけで気が滅入りそうだ。
彼女以外に誰かいないのだろうか?
「そ、そういえばオレの名前は沢田綱吉。みんなはツナって呼んでるよ」
「これはどういたしまして。先程申しあげた通り、私はウィルヘルミナ。よろしくお願いしますね、マイボス」
「ま、マイボス?」
英語が苦手な綱吉は意味が分からず首を傾げる。「ボス」という単語だけなら分かったが、別の単語が繋がるともうダメだった。
流石知力1。雨の日に図書室で勉強しろ。
「ええっと、それでここにはウィルヘルミナ以外に誰かいないの? ほら、保護者とかさ」
「このベルベットルームの担当は私だけですね。創造主も姿を見なくなって久しいです」
「え、それじゃあ独りぼっち……てこと?」
綱吉の言葉に、ウィルヘルミナの動きが止まった。
そんなこと聞かれるとは露にも思ってもなかったからだ。
「ここを任されてからは独りでしたね。まあどうでもよいことです」
「いや、どうでもいいわけないだろ」
綱吉が語気を強くする。怒ったような、悲しいような顔をしていた。
そういえばこういう少年だったなと、心の中でクスリとウィルヘルミナは笑った。
「……流石は優しさ3といったところでしょうか。周回プレイヤーのようなセリフ選びですね……」
「え?」
ウィルヘルミナのつぶやきは幸いにも綱吉には聞こえなかった。
「コホン。心配ありませんよ、ツナ。私はそういう存在ですので」
「よく分かんないけど、心配するに決まってるだろ! 女の子が、こんな殺風景なところで独りだなんて」
「はあ、ですがこのベルベットルームは貴方の精神が反映されてこうなっているんですよ?」
「えっ」
「端的に言えば、殺風景なのは貴方のせいです」
「……ええー……それは、はい。ごめんなさい」
言外に心が寂しすぎると言われ、綱吉は泣いた。そんな様子を不憫に思ったウィルヘルミナは「安心してください」と前置きして言う。
「貴方が成長すれば、ここも変わるでしょう」
「そう、なの?」
「はい」
ウィルヘルミナは微笑む。反対に綱吉は暗い顔をした。
「でもオレ、ダメツナだし、成長なんて出来るかな……」
「できますよ。少なくとも優しさは3あります」
実際これは凄いことだ。2ヶ月分くらいは先取りしてるし、そもそもジャンプの主人公が成長しないわけがない。
一週間修行しただけで世界最高峰の暗殺者集団に勝つくらいなのだから。
「さっきから思ってたんだけどその優しさ3って一体何……?」
「人間パラメーターです。5がマックスですので、頑張ってあげましょうね」
「上げればここも変わるの?」
「それは分かりません」
がくっと綱吉の肩が落ちた。
「普通上がる流れじゃないのー!?」
「何分ベルベットルームを担当するのは初めてのことでして……」
ウィルヘルミナにも分からないことがあるらしい。
綱吉が何とも言えない顔をしていると、ウィルヘルミナが少し頬を赤くしながら睨んできたので、慌てて明後日の方向に口笛を吹く。
「それで誤魔化せるのはジャンプくらい……ジャンプでしたね」
「ジャンプ?」
「お気になさらず。そんなことよりも、貴方をここに招いたのは今後訪れる過酷な運命、その一助となるためです」
「か、過酷な運命? 未来のオレに何か起きるの? ゾンビパニックとか?」
「それは言えません。が、ゾンビパニックよりかはマシ……いえ、どっこいどっこいかしれませんね」
「怖すぎるーー!!??」
白目を剝く綱吉。ツッコミ芸は原作開始前からでも健在だった。
「……あの、私から言うのもなんですが、信じるのですか? 貴方はまだ、曲がりなりにもただの中学生。一般人です。荒唐無稽でしょう、いきなり過酷な運命などと」
そう言われて、はたと綱吉は頬をかいた。心の中でも確かにと頷く。
だがそもそもこのベルベットルーム自体非現実的だし、何となくウィルヘルミナは嘘をついていない気がしたのだ。
言葉にはできない。勘といっていい。変かなと笑う綱吉だったが、ウィルヘルミナは目を剥いた。
ベルベットルームという肉体の楔から解き放たれた認知世界において、綱吉のブラッド・オブ・ボンゴレ――超直感が覚醒しかけていた。
(早い、あまりにも早すぎる。これを良い傾向と見るか悪い傾向と見るか……)
「ウィルヘルミナ?」
「! ――いえ、失礼しました。そういうことでしたら話は早く済みそうです」
ウィルヘルミナはおもむろに巨大な本を取り出し、背後に琴を背負った機械戦士を顕現する。
「うわっ!?」
「これはペルソナ。心の闇、シャドウを制御した者のみが手に入れることができる特別な力です。ツナ、貴方はこれを出すことができます」
「お、オレも出せんの!? すっげー!」
「ふふ、とはいえ今はまだ無理です。ですが必ず出せるようになりますよ」
目を輝かせる綱吉の年相応な反応に、ウィルヘルミナも頬を緩ませる。
「これに加えて、貴方にはワイルドと呼ばれる特別な素養があります。しかしどちらもまだ覚醒していない力。……本来なら覚醒なしに
「すごい問題ありそうなんだけど!?」
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
フィレモンは笑って許すだろうが、兄姉はめちゃんこ怒りそうだ。
メギドラオン5連は覚悟しなくてはならない。
「まあ、仮にペルソナに目覚めたとして、ベルベットルームがこの状態ではサポートのしようがありませんが……」
ウィルヘルミナが殺風景なベルベットルームを見渡す。
ベルベットルームでは本来、ペルソナの合成や強化などができるが、これでは望むべくもない。
ツナがペルソナを獲得・使用できる状態でないのがせめてもの救いである。
「そ、そういえばワイルドって何なの?」
いたたまれなくなった綱吉が言った。
「……そうですね。それも説明しなくてはいけません。ワイルドは本来ペルソナが一人につき一つの所、複数のペルソナを使うことができます」
「おお!」
「絆を束ね、力にする。故に可能性は無限大であり、大いなる運命の渦中に巻き込まれる」
「おお……?」
「……友を作りなさい、ということです」
「な、なるほど!」
綱吉に友達はいない。
ダメツナといじってくる人間はいるが、それを友達とは言わないだろう。
それなのに友達を作れと言われて、綱吉は途端に不安に思った。
(オレに友達なんか作れるのかな……)
自問自答しながら思い出したのは、クラスメイトであり初恋の少女――笹川京子だった。
そしてウィルヘルミナを見る。
こんな可愛い女の子と話すなんて、生まれて初めての事だった*1。そう思えば、今夜の綱吉はすごい。何故なら女の子と普通に話すことができているからだ。
その事実が、綱吉に一世一代の勇気を振り絞らせた。
度胸2!
「あの……さ、オレと友達になる、ってのはどうかな……?」
「……はい?」
「や、やっぱダメだよね! うん! 知ってた!」
「……いえ、良いのですが。ベルベットルームの住人を“友”ですか。流石はマイボス、懐の広さは世界一かもしれませんね――おや」
我は汝…… 汝は我……。 汝、新たなる絆を見出したり……。 絆は即ち、まことを知る一歩なり。 汝、”愚者”のペルソナを生み出せし時 我ら、更なる力の祝福を与えん……。
(突然ポエムを喋りだしたんですけどーー!!??)
「なるほどなるほど、こうなりますか」
得心がいったと頷くウィルヘルミナ。
そして光の粒子が降り注いだかと思えば、豪奢な執務机が現れた。
「机が出たーー!!??」
「興味深いですよね」
「怖いよ!? なんでそんな落ち着いてられるの!?」
「良いではありませんか。それにどうやら、ツナが絆を重ねることがベルベットルームの発展に繋がるようですよ」
頑張ってくださいね、とウィルヘルミナは笑みを浮かべる。
女性への免疫がない綱吉がそれを断れるはずもなく、赤べこのように頷くしかなかった。
翌日。
(相変わらずわっかんねー!)
授業を受けながら綱吉は内心叫んでいた。
入学したばかりのため、授業はどれも小学生の内容に毛が生えたようなものだが、綱吉には十分難しかった。今も頭から火が出そうになっている。
(でも、頑張らないと……!)
ここでいつもなら船を漕いだり、落書きしたり、ぼうっと空を眺めているところだが、今日の綱吉は違う。
綺麗な女の子――ウィルヘルミナとの約束があった。
夢かとも思ったが、朝起きた時にワイルドの証だという青いシンプルな指輪が嵌められていた。
あれは夢なんかじゃないと、四苦八苦しながら真面目に授業を受ける。
分らなかった点も、度胸をつけるためだと自分に言い聞かせて、恥をかなぐり捨てて教師に質問しに行った。
(に、人間パラメーターだっけ? 少しは上がったよね? これでベルベットルームが少しは賑やかになってくれるといいんだけど……ウィルヘルミナにも褒められたりして)
きちんとポイントは入っています。ピロリン♪
昼間は学業に励み、夜はワクワクしながら眠ってベルベットルームに行く。
そんな日々が二週間続いた。
| ARCANA 愚者 RANK | Ⅲ | ||
| ★★★★★★★★★★ |
「……ツナ。コープを上げるのはよいことですが……他はどうしました?」
結果、友達0人!
自分磨きして夜は夢の中で金髪美少女とお喋りしかしなかった!
とはいえ成果は出ている。ベルベットルームには机だけでなく、椅子も追加されていた。
「あははは……」
「笑い事ではありませんよ。入学してもうそろそろで一ヶ月だというのに、ろくな友人がいないとは……」
「一応話せる相手くらいはいるよ……?」
「
「はい、おっしゃる通りです……」
「気になる方はいないのですか?」
「い、いやー、そのためだけに友達になるっていうのも、なんか気が引けちゃって……」
気まげな綱吉の言葉に、ウィルヘルミナは納得する。確かに綱吉に「誰かのために打算で友達となる」ことは難しいかもしれない。
「考えが及ばず申し訳ございません、マイボス」
「別に頭まで下げなくていいよ!?」
深々と頭を下げたウィルヘルミナ。
今はいいが、戦いはいつ始まってもおかしくないため、せめてペルソナの合成くらいできるようにしておきたかったのだ。
だからといって綱吉を慮らないのは論外。
ままならないものだと唇をかむ。
「……あまり
「ウィルヘルミナ?」
「なんでもありません。ツナ、誰か気になる人はいないのですか?」
「え!? そ、そんなこと急に言われても」
「例えばほら、同じクラスの笹川京子とか」
「なんで京子ちゃんがここで出てくるのーー!?」
「好きなんじゃないんですか?」
「へぁ!!??」
ウィルヘルミナが首を傾げる。
「この際です。笹川京子と恋……は行き過ぎですかね。友人になりましょう」
「む、無理だよ! オレなんかとじゃつり合わないって!」
「……友人につり合うも何もありませんよ。これは試練です。達成するまで、ベルベットルームに来ることはできません」
「そんなーー!?」
そうして綱吉はベルベットルームから追い出され、目を覚ました。
小鳥のさえずり声が聞こえる。
「マジか……マジかあ……」
しばらくの間、綱吉は頭を抱えた。
◇
嘆いてばかりはいられない。
それに 友人がいないことは、薄々綱吉も気にしていたことだった。
夢の中でだけ会える特別な友人に、熱を上げすぎていた。美少女だし話していて楽しいし何故か最初から好感度高いしで、居心地が良するのが悪い。
思春期真っただ中かつ、どちらの意味でも妄想たくましい年頃の少年に入れ込むなという方が無理な話だ。
とはいえそれを理由に友人を作るのは不純な気がした。
好きな京子とお近づきになるため。それならまだ納得できる―――より高い壁に感じてしまうのは気のせいだろうか。
とにもかくにも、暇さえあれば京子を見つめる日々が始まったのだが。
「あ! 京子ちゃ――」
「おーい、京子」
「あ、花」
「あっ……」
入学して間もないにも関わらず、京子は既に学校でも随一の美少女として話題の存在だった。
周りには常に人がいて、なんとか一人になる瞬間を狙っても、まるでボディーガードのように京子を守る黒川花に邪魔されてしまう。
加えて京子を狙う上級生にも目をつけられるようになり、鋭い視線が突き刺さること突き刺さること。
あともう少しすれば校舎裏に呼び出されてタコ殴りにされる予感がした。
放課後、綱吉は図書室で項垂れていた。
一応ノートは広げているが、勉強する気はまるで起きない。
頭は「どうやって京子と友達になるか」でいっぱいだった。
「マジでどうしよう……」
「もし」
「……ま、待ち伏せする? でもなんかストーカーみたいだし」
「ツナ?」
「それに怖がらせちゃったらそれこそ……」
「おーい」
「か、かくなる上は……!」
「むむ……」
俯く綱吉の耳に、ウィルヘルミナはふっと息を吹きかけた。
「うわああぁぁあ!!??」
「……そんなに驚かれると傷つきますね」
「あ、いや違っ! そんなつもりじゃなくて!?」
慌てる綱吉を置いて、ウィルヘルミナが周囲を指さす。
「見てください、この景色を。おかしいと思いませんか?」
「え? おかしいって別になん……ってなんだこれ!? 白くなってるーー!?」
「……さぞや深く考え込んでおられたのですね。数分前からこうでしたよ」
図書室は真っ白だった。慌てて窓に駆け寄れば、並盛中どころか空も土も草も木も、周囲にあるもの全てが灰を被ったかのように真っ白になっていた。
「な、なんだよこれ」
「漂白世界。名付けるならそんな所でしょうかね」
「ひ、久しぶり、ウィルヘルミナ」
「お久しぶりです。まあ二日ぶりくらいですが。黒川花の壁は分厚かったですね」
「見てたのーー!?」
「もちろん。マイボスの動向は常にチェックしてますとも」
綱吉が顔を赤くしながら叫ぶ。真のストーカーがここにいた。
だがそれよりも気になることがある。
「というかウィルヘルミナ、外に出れたの!?」
「ここは外ではありませんよ。ベルベットルームと同じ、認知世界の一つです」
「に、認知世界?」
ウィルヘルミナは頷き、綱吉の手を取って立ち上がらせる。
「行きましょう。一つの場所に長く留まるのは危険ですから」
音も風もない、真っ白な並盛中を歩く。
その中で綱吉が気になったのは、校内外問わず乱立する白い柱だった。
「この塩の柱は一般人の方々です」
「学校の皆ってこと!?」
これはペルソナ3の影時間における象徴化と同一の現象だ。
一般人は漂白世界に一切干渉できないが、逆に干渉を受けることもない。その絶対防御の姿勢が可視化されてこうなっている。
だから気にしなくていいと、ウィルヘルミナは綱吉を落ち着かせた。
「ツナ、貴方はこれからシャドウと呼ばれる存在と戦わなくてはなりません」
「シャドウ?」
「認知世界に巣食う、人の隠れた欲望が生み出した化け物です」
無理だと叫びそうになったが、すんでのところでそれを飲み込み、一縷の望みをかけてウィルヘルミナに聞く。
「ば、化け物って、どんな?」
「それは分かりません。ですが……野生のヒグマのようなものですかね」
「無理無理無理無理無理無理!? チワワにも勝てないのに絶対無理だよ!?」
「でなければ、彼らは一生柱のままですよ」
途端に綱吉は顔を強ばらせた。
逃げたいのだろう。何か理由にできそうなものはないかと視線を彷徨わせ、最後は頭を掻きむしるも――塩の柱になっているたくさんの罪のないクラスメイトと、京子の顔を思い出す。
「う、ウィルヘルミナは……? ほら、昨日出してたあのかっこいいやつでどうにか……」
「私は戦えません」
「なんで!?」
「そういう存在だからです」
ベルベットルームの住人が直接的に力を貸すことは禁じられている。
リボーン風に言うのなら『掟』というやつだ。
過度な干渉を行えば、逆に倒されるべき異端となるだろう。
現状のような、直接出張って隣でナビゲートすることすら、かなりグレーな行動だ。
しかしいくら主人公補正があれど、通常モードの綱吉を一人放り出すのは死にに行かせるようなもの。
ウィルヘルミナは神さま仏さまフィレモンさまどうかお許しくださいと、割とガチめに祈りながらここにいた。
「この漂白世界の主を探し出し、倒さなくてはいけません」
「本当にゲームみたいになってきたよ……」
「命懸けですがね」
「嫌すぎる!?」
「慣れてください。それより来ますよ」
「へ? 来るって何が――」
着弾、轟音。
綱吉が悲鳴をあげながら吹っ飛ぶ横で、ウィルヘルミナが華麗に着地する。
「イテテテ……な、なにあれ!? ロボット!?」
「白いモスカ……さしずめビアンコ・モスカと言ったところですか」
煙からゆらりと姿を現したのは白い巨大ロボ――皆さんご存知モスカだった。
大きさは2mほど。ガスマスクを模した頭部からはシュコーっと排気音が聞こえてくる。
今の綱吉が知る由もないことだが、肩部装甲にはミルフィオーレファミリー特有の模様が刻まれている。
おもむろにビアンコ・モスカが綱吉に腕を向けた。
指先は空洞――銃口だ。
「目を回している暇はありませんよ、ツナ。避けて!」
「避け、ヒィ!?」
爆ぜる白い地面。通常モードであることに加えて、肉体的にも貧弱な今の綱吉がこれを避けられたのは奇跡――でもなんでもなく、きちんと理由がある。
この漂白世界は認知世界の一つであるため、半覚醒状態の超直感が働いているのだ。
また超直感は本来無機物には効かないが、ビアンコ・モスカは綱吉の敵として最もふさわしい普遍的な存在をシャドウが模しているに過ぎないため、超直感はビシバシ反応する。
常時回避率上昇は強い。
「遅れましたがあれがシャドウです。倒してください、ツナ」
「どうやって!?」
「ペルソナを使うのです」
「使えないんだけど!?」
「今覚醒しなさい」
「んな無茶なーー!?」
漫才してる間もモスカは止まってくれない。背中のブースターが輝きだし、唸りをあげる。
「あ、あれって……」
「突っ込んでくるつもりでしょうね」
フレイムランブルでよく見た。
「うわああぁぁ!?」
綱吉がへっぴり腰を上げて逃げ出し、一拍遅れてウィルヘルミナが並走する。
その背中を飛翔したビアンコ・モスカがミサイルを撒き散らしながら追いかけた。
「ツナ、逃げてるだけでは何も始まりませんよ」
ぴょんと足元に着弾したミサイルの爆発を避けながら、ウィルヘルミナが言った。
「そ、そんなっ、こと、言われたって……!」
綱吉は少し走っただけでもう息絶え絶えだった。
とはいえこの頃の綱吉は運動音痴のモヤシ故に仕方がない。
コケてないだけマシである……と言いたいところだが、実際はビアンコ・モスカが『沢田綱吉は強敵である』という認知を持っているお陰である。
「このままでは皆塩の柱のまま、ツナも死にます。良いのですか、本当にそれで」
「で、でもっ!」
「頭が悪くて運動音痴。ビビりで不器用。取り柄は優しさだけ。そんな自分を変えようと、今日まで努力してたではないですか」
「あ、あれはだって!」
「私は嬉しかったんですよ。辛いことでも、誰かのためなら頑張れる。例え
「う、ウィルヘルミナ……?」
「だから私は信じ続けます」
綱吉はウィルヘルミナから強い信頼を感じた。
「でも、オレは……――うわっ!?」
「ツナ!」
走りながら俯いた綱吉はついに転んでしまった。
身体を強く打ち、足は震えて直ぐに動けそうにない。
「う……」
「ツナ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。ウィルヘルミナは逃げ――」
痛みに呻きながら、綱吉は顔を上げようとする。
その瞬間だった。飛んできたビアンコ・モスカが、目の前にいたウィルヘルミナを跳ね飛ばしたのは。
鉄の巨体が綱吉の頭上を轟速で通り過ぎる。
「は」
そんなことはどうでもよかった。
頭が真っ白になりながらも、綱吉の目は細く華奢なウィルヘルミナの身体が枯れ木のように舞い、ぐしゃりと遠くに落ちるのを目撃した。
豪奢なスーツはホコリだらけで、遅れて赤く染まり出し、血の水たまりができる。
「……え……う……」
喉が震えた。頭が痛い。ウィルヘルミナに向かって手を伸ばす。
「う、ウィルヘルミナ……?」
返事はない。何秒たっても、ピクリとも動かない。まるで――
「嘘だ。こんな、こんな……」
駆動音が、聞こえた。
震えるまま視線をずらせば、着地したビアンコ・モスカがこちらを見ていた。
綱吉の中で、無理だ、勝てるわけがないと心が震えた。
「お、お前が」
だがそれ以上に、ウィルヘルミナが殺されたことへの怒りが、綱吉の中で燃え盛っていた。
「お前の、せいで……! ――うぐ!?」
腹立たしいだろう。何も出来ない無力な自分が。
腹立たしいだろう。友を奪った彼奴が。
怒れ、そして立て。
優しさとは、ただ柳のように吹く風に流されることだけではない。
相手と向き合わない優しさなど、塵にも等しい。
拒絶される覚悟、それを恐れない覚悟、受け入れる覚悟。そして、報いる覚悟。
さあ、お前はこれからどうする?
「オレは、立ち向かう。ウィルヘルミナの仇を……撃つッ!」
良いだろう。その覚悟、しかと聞き届けた。
我は汝、汝は我。
ここに契りを結ぼう。
叫べ、我の名を!
」「行くぞ、コルレオーネ!!!」
叫びと共に綱吉の身体からは橙色の炎が吹き荒れ、黒いボルサリーノとマントを羽織った怪人へと姿を変えた。
「これが、オレのペルソナ」
綱吉の身体に今までにないほどの力がみなぎり、万能感が頭を支配する。
だが感慨に耽るのは後だ。一刻も早くビアンコ・モスカを倒し、ウィルヘルミナの容態を早く確認しないといけない。
綱吉は思うがままにコルレオーネへ命じる。
「『メギ』!」
万能属性単体小ダメージが、ビアンコ・モスカを貫いた。
◇
戦いはすぐに終わった。
互いにレベル1。戦略のクソもなく、隙を見てメギを四発するだけだった。
相応にダメージも食らった。擦り傷や切り傷があちらこちらにでき、全身あざだらけだ。
綱吉はそれでも身体に鞭を打って、転びそうになりながらもウィルヘルミナの元に駆け寄った。
制服が血で汚れることなんてどうでもよかった。急いで容態を確認する。
息は――ある。まだ死んでいない!
「ウィルヘルミナ! しっかりして!」
必死に声をかければ、ウィルヘルミナの瞼が僅かに震えた。目を覚ましたのだ。
「……ツ……ナ………モスカ、は……?」
「倒したよ! オレ、ペルソナに覚醒できたんだ!」
「それは、それは……フフ、おめでとう……ございます。我がことの、ように、嬉しく存じます」
「うん……! うん……!」
「ツナなら……きっと、できると信じていました。あなたは、あの沢田綱吉なのだから」
ウィルヘルミナは今にも死にそうだというのに、苦痛に顔を歪めながらも健気に微笑んで見せる。
それが申し訳なくて、悔しくて、綱吉の目からは気づけば涙があふれていた。
「……泣いてい、るのですか?」
「だって、だってこんなに血が出てるじゃないか……!」
ウィルヘルミナと知り合って二週間と少し。
優しい綱吉が友情を感じるには十分な時間だ。
もっと真剣に話を聞いていれば、もっと沢山の友人を作っていれば、そんな無限の「たられば」が、綱吉の頭の中に浮かんでは消える。
「ごめん、ごめん……! オレのせいで……!」
「謝罪は……不要です。『メディアラハン』」
瞬間、光があふれ、身体から痛みが消えた。
全体全回復スキルである。
綱吉の目が点になり、ウィルヘルミナがけろっとした表情で起き上がった。
「……へ?」
「ふう、すっきりしました。お姉さま方に揉まれた時以来でしょうか、こんなに痛みを感じたのは」
「な……! な、ななな……!?」
「ふふ、ツナ。ペルソナ使いがそう簡単に死ぬわけないじゃありませんか」
いたずら成功と、ウィルヘルミナがぺろりと舌を出した。
「はーーー!!!???」
嬉しさ半分怒り半分、そしてそれ以上の安堵。諸々をないまぜにした絶叫が、白い空に響いたのだった。
◇
廊下を歩く京子の背中から、綱吉は声をかけた。
「あの、京子ちゃん!」
「? 沢田君? どうかしたの?」
「オレと……オレと」
言い淀む綱吉。京子は疑問符を浮かべている。
ふと横から花が歩いてくるのが見えた。
時間は少ない。綱吉は覚悟を決めた。
「オレと友達になってください!」
「うん? 別にいいけど……」
「……や」
「?」
「やったーー!!」
ベルベットルームからそれを見ていたウィルヘルミナが、拍手しながら綱吉の成長を祝福していた。
| ARCANA 太陽 RANK | Ⅰ | ||
| ★★★★★★★★★★ |
『ウィルヘルミナ』
オリ主。白蘭がやらかしたせいで派遣されてきた。ベルベットルームの住人。
初めての仕事がまさかのワンオペで宇宙猫になった後、マイクラのフラットワールドのようなベルベットルームに驚愕する。綱吉の前では猫をかぶっていた。
『ビアンコ・モスカ』
シャドウがモスカを象った姿。
漂白世界を展開し、未来から綱吉を殺しに来たが、最も遠い時間軸のため存在が摩耗し、レベル1になっていたため綱吉でも勝てた。
白蘭のやらかしの産物。
『漂白世界』
影時間みたいなもの。塩の柱もそう。
放置するとその時間軸が「何でも好きに書き込める白紙の状態」になる。
やってることは大体イマジン。
『コルレオーネ』
綱吉のペルソナ。映画ゴッドファーザーの主人公が元ネタ。
ペルソナクロスで初ペルソナ召喚時に「ペルソナ」と叫ばないやつがいるらしい。
『メギ』
万能属性単体小ダメージ
がないのでオリジナルスキル。
『笹川京子』
対応するアルカナは太陽。
恋愛とどちらにするか非常に迷ったが、兄の存在が大きかった。
続きません。