――めっちゃ強いロリっ娘が助けてくれる上に罵ってくれるぞッ!!
ダンジョンの一角にて、ドラゴンの尾が魔法使いの女性の体を容赦なく薙ぎ払う。
「が、う゛……ッ!?」
「っ! お前……ッ!」
トドメを刺そうとするドラゴンの一撃を大剣使いの男が滑り込みながら防ぐ。
ミシミシッ――と、大剣ごと両腕にかかってくる一撃の重さに手が痺れ始める。
「あ――あああああああああッ!!」
渾身の力で以て押し返し、ドラゴンの懐へ――柄を握り締め、刀身に暴発しかねない魔力を込める。
直撃すればドラゴンといえどひとたまりもない。
それに今は体勢を崩している……これ以上ない好機。
大剣使いの一撃は寸分の狂いなく、ドラゴンの体を貫く――――
「――――――、え?」
……貫いたのは
……刀身が裂いたのは空気だけ。
デカイ図体をしておきながらドラゴンは
切っ先が皮と肉を破る寸前にドラゴンは掻き消え、その気配は右側へと現れた……大剣使いが恐怖と共に振り向くよりも早く、
「ぐ、が――!」
ドラゴンの前足が大剣使いを踏み潰した。
強烈な激痛が一瞬で全身を駆け巡る。
纏っていた鎧が何の意味もないように砕け、ドラゴンの前足ごと体がダンジョンの床にめり込んでいる。
「くそ……、が――!」
顔だけでも睨んでやろうとするも、背中の
――ドゴォッ!! と。
首が折れるのではないかという威力と共に、大剣使いの体は壁にもたれかかる魔法使いの隣に激突した。
「――あなた!!」
息はしているが、もはや戦闘不能だ。
両手で抱き上げるが、ドラゴンがこの隙を見逃す筈がない。
あの腕力で振るわれれば、自分たちの体は引き裂かれるどころか
「っ……!」
対抗する手段などなく、彼を抱きしめて目を伏せる。
すぐに来るであろう体をミンチに変える振り下ろしを待って………………待って――――
「……え?」
その瞬間が訪れない。かろうじて二人の体を襲えたのは想像よりも弱い風圧だけ……。
どういうこと……? そう思い恐る恐る顔を上げてみる。
――――そこには、
「……
美しい空色の髪と、透き通る銀色の瞳を備えた、自分たちよりも遥かに幼い女の子の姿があった。
◆
鉤爪の一閃は止められていた。
女の子の右手に握られた、銀色の剣によって。
「――――」
――圧倒されずにはいられない。
自分や彼では手も足も出なかったドラゴンを相手に、年端も行かない女の子が一歩も引かず、顔色も変えぬまま、鋭い瞳でドラゴンを迎え撃っている。
服装は……自分たち
上半身には、『灰色の服装』の上から、『青い線の奔った銀色のロングコート』を羽織り、
下半身には、『黒と青のチェックのミニスカート』に、『黒いニーソックス』と『黒のショートブーツ』を履いている。
――『速さ』を重視した、鎧の欠片もない服装。
おおよそこの場には不釣り合いな服装に見えるだろう。
――――
「お兄さんとお姉さん……そこにいてください」
その背中には、強者の風格があった。
呟かれた
「待っ――」
――て。……という言葉が出るよりも早くドラゴンの鉤爪を弾き、女の子は暗いダンジョンに
大剣使いにも、魔法使いにも、ドラゴンの目にも止まらない――
「っ――速いッ――」
ドラゴンの絶叫がダンジョンを軋ませるよりも先に女の子がかっ飛び、次は左の
『グウゥゥゥゥ……!』
一瞬で右腕、左の翼、左足を失ったドラゴンが体勢を崩す。
……
『ッ――――ァ゛ア゛!!』
瞬間――
女の子のみならず、この空間そのものを
「――
細く呟かれる確信。
剣を持つ右手ではなく、カラの左手の
掌より三度、鋭い魔力の光線が
そのうち二閃は炎など相手にせずドラゴンの顔面へと突き進み――
最後の一閃は
『ウ゛――ァ…………』
もはや声ではなく抜け出る空気の音。
視界も声も失ったドラゴンは溺れるように天井を見上げ/――
……? 何かが、顔に乗って――――
…………それが最期だった。
顔に飛び乗った女の子の振り下ろしは、ドラゴンの頭から股下までも両断した。
◆
腰の鞘へと剣を納める。
細く息を吐いたところで、ドラゴンの返り血を浴びていることに気づいた。
口元を袖で拭いながら魔法を使い、返り血を綺麗さっぱり落とす。
「お兄さん、お姉さん、大丈夫ですか?」
コツ、コツ。と、ブーツの
目の前で膝を折り、大剣使いの髪を
「――ぁ。……だ、大丈夫だよ……あなたのおかげで生きてる。ありがとう」
「ありが、とう……君のおかげで命を拾えたよ。
……その……君は、一人……?」
「えぇ、一人です。ずっとこのダンジョンにいますから……」
まるで大剣使いの熱を測るように、額に手を置きながら魔法を行使する。
大剣使いの傷が治っていき……身に纏う鎧さえも元通りになっていく。
「え――? こ、これは……!?」
「それで動けます。鎧はサービスです」
素っ気なく答え、次は魔法使いに手を触れる。
大剣使いよりは怪我が少ないからか、すぐに治すことができた。
「これで大丈夫です。
――さあ、さっさと出てってください」
――と。
突然冷たい言葉を吐いたかと思うと、女の子は二人から顔を背けた。
「へ……? で、出てけって……」
ぷいっ、と背中を向けた女の子は淡々と丁寧な口調で、
「言葉のままです……これ以上怪我されたら面倒ですし、ここの危険性もわかったでしょう……このダンジョンにはもう近づかないように」
足音だけを残して女の子はダンジョンの奥へと姿を消していく。
「あ……えっと――た、助けてくれてありがとう。
君の名前は……?」
去る背中に大剣使いが問いかける。
女の子は小さく息を吐いた後、
「――ルナ。それが私の名前です。
あと……街へ戻ったら酒場の旅人さんたちに伝えてください――弱い人はこのダンジョンに来ないでください。邪魔です」
さらりと毒を吐いて……二人の窮地を救った女の子――ルナは今度こそダンジョンの奥に姿を消した。
◆
……………………………………
(……よし、無事に出てった)
の~っそりと、こ~っそりと、二人の後を追いかけて、帰りに魔物に襲われることはないか見守りながら……何事もなく出ていったのを見て胸を撫で下ろした。
「い……言い過ぎたかな……?」
先ほどの敬語毒舌とは違う、村の女の子のような、なんともない口調。
――これがルナの
先ほどのはわざと……ここから遠ざけるように作った口調だった。
そんな事をする理由は単純――
……自慢ではないが、ルナは強い。
そこらの旅人よりは強い。まだ一二歳という若さではあるが、その若さで先ほどのドラゴンを打倒できる実力を持っている。
そのルナがこのダンジョンに入り、魔物と戦った時に思ったのだ。
このダンジョンの魔物は全てが一線級の実力を持っている。
……もし、実力の伴っていない他の旅人がこのダンジョンに入れば殺されてしまうのは目に見えている。
それを黙って見ていることはできない……何か守る方法はないか……そう考え、思いついたのは――
(
……結構メンタルに来る。
あえて嫌なやつを初めて演じてみたが、視線がツラかった。
最初は、単純に危ないので近づかないようにと言うつもりだったが、
――自分が大人ならまだしも……子どもの、それも身長一四〇センチメートルの女の子の話を
はい、はい――という感じでなあなあにされて、中に入って返り討ちにされるんじゃないか……?
――――そう思い、その方法を改めた。
より心に刺さるように普通の口調ではなく、敬語で罵ってみたが……、
(あぁ~~~! お兄さんとお姉さん、大丈夫かな? 旅人やめちゃったりしないかな……!?)
なんて本末転倒な事まで考えてしまう。
(…………落ち着け。
私が悪者になれば誰も酷い目に遭わないのは確かなんだから……よしっ!)
ぱんぱん、と服についた汚れを落としながら、
(敬語毒舌の練習……敬語毒舌の練習……!)
うにゃ~! と唸りながら、他に誰もいない魔境クラスのダンジョン内でルナの毒舌が響き渡った。
◆
それからも、旅人は何人もこのダンジョンを訪れた。
でも、その度に危ない目にあって……ある人を助けた時は、
「自分の身の程もわからないのにここに来たんですか?
ハッ、ただのバカですね。大人なのに子どもでも浮かぶ考えが浮かばないんですか?
とっとと身の丈にあったダンジョンに行ってください」
……その日は、ダンジョンを研究しているという学者でもある旅人がやってきて、
「ここを調べに……? 学者なのにダンジョンに満ちる魔力濃度もわからないんですか……? こんな魔境じみたダンジョン、新人の旅人でも好奇心で近づこうとしませんよ。
学者なら無謀か否かの区別くらい見極めてください」
……ある時は老人の旅人が来て、
「攻撃を一度回避するだけでぎっくり腰になるなんて、よく今まで生きてこられましたね。
私がいなかったらここまで来ての無駄死にでしたよ? 自殺願望でもあるんですか?
……………………ここに座ってください、すぐに魔法で治しますから。
治ったらできるだけ早く帰ってくださいね」
……たまには酒に酔った旅人が来たことも、
「酔っぱらいが何の役に立つんですか? 攻撃が当たらないどころか歩きもおぼつかないのに。
……まだわかりませんか?
あなたみたいな役立たずはお呼びじゃないってことですよ」
◆
……ルナは来る者全てに、来る気が失せる言葉をかけつづけた。
……………………なんか優しさを隠しきれてない部分がちらほらあったが。
まあ、とにかく……自分への非難と引き換えに人が守られたのならそれで良い。
良い…………
「なん、で――――」
「おい、ここにめっちゃ強いロリっ娘がいるって噂は本当か!?」
「顔面偏差値が高いらしいぞッ! それに、なんだかんだ言いつつ老人に優しくしてくれたツンデレっ娘らしい!」
「ねえー!! ルナちゃーん!! 居るー!?」
「強くて……ロリっ娘で……罵ってくれる……ぐへへ――」
「なんでこうなったのおぉおおおおおおーー!?」
ダンジョンを取り囲む沢山の旅人たち。
老若男女を問わず、場所を問わず、遠くから噂を聞いて駆けつけた旅人までいる始末。
そんな彼らの目当ては何を隠そうルナちゃんだ!
ではルナの何がそんなに目を引くのか……見た目か、強さか、愛らしさか……否――――ッ!
「なあ、マジなのか? ロリっ娘が
「マジだマジ! 色んな人が証言してる!
何よりだ――酔っぱらっていた旅人曰く、『あなたみたいな役立たずはお呼びじゃないってことですよ』って火力の高い罵りもしてくれるとよ!!」
「――ちなみにその時の酔っぱらいが俺だァアアッ!!
酔ってても忘れてなかったんだよ! あのゾクゾクする目を! 見下す声を! そして君をだ!! ルナちゃんッ!!」
――ルナのもたらす『敬語毒舌』を求めてだッ!!
「勘弁してぇええええええええええーッッッ!!」
【ルナ】
空色のショートヘアーに、銀色の瞳が特徴の一二歳の少女。
身長は一四〇センチメートルで、平均よりも小さく、小柄で華奢。
危険な魔物が徘徊しているダンジョンに入り浸り、ここに入った人を助けては二度と来ないように敬語毒舌で罵り、追い払っている。
――――だが、逆にそれが旅人たちのハートを鷲掴みにし、大人気ダンジョンにしてしまった。
……しかも優しいルナが悪者のフリをしているだけなので、それが合わさりツンデレっ娘と勘違いされた。
…………ロリっ娘、敬語、毒舌は、癖にブッ刺さる人が多かったらしい。
◆
完全な一発ネタ。
でもたまにはギャグもいいと思ったり。