ちょっとそこの侮辱的に見える要素があるかもしれませんが、その意図はまったくありません。ただゲームの描写はほぼエアプです……。
朝起きたら女の子になっていた。嘘じゃん、って思ったけど嘘じゃなかった。最初は気が付かなかった。だって一見変化なかったもん。トイレに行って気づいた。座ってする派で助かった。鏡でよく見たら、顔も女らしくなってる。……どうしたらいいのか全然わかんない。さしあたって、元の服でバレることもないだろって、通ってるカードゲームのお店に行こうと思ったら、母親に止められた。
「なみみ、あんたあんなに顔色青ざめてたのに、止めときなさい。まず病院でしょ!」
「……嫌だ」
「嫌って」
ぼくは学校にも行ってない。引きこもり同然だが、お店で対戦するためにだけは外出する。あそこだけが楽しみでもあり、社会とのつながりだった。いい人ばかりなんだ。
ただ親に言われていると、本当になんか体調が悪くというか、お腹が痛くなってきたような感覚がある。絶対気のせい。でも父親も帰ってきてしまって、自動車で病院に連行された。軽い抵抗はしたが、結局借りてきた猫のようになって病院に来た。
「はい、なんか、全然わかんないけど女の子になってて……朝っていうか、11時半ぐらいで……」
めったにない症例で、検査入院になった。標本みたいに写真も撮られたのは不愉快だった。
看護師さんたちは優しくて、色々教えてくれた。
一週間もそこにいてやっと帰ってこられた。ずっと女の子の、しかも赤ちゃんかよというような扱いをされていたからすっかり生まれ変わったみたいな気持ち。自分の部屋が他人の部屋にしか見えない。服も女の子っぽいのに変わってしまってる。まあ元々服買ったことがないけど。下着だってしっかりやり方を練習したからひとりで付けられるし、座る時は大股を開かないっていうのも習った。元々大股なんて開かないけどさ……。
そんなことよりカードショップに行きたい。ズボンを履いて出かけようとしたら、お母さんに止められた。
「どこに行くの? なみみ、まだそんなに出歩いていい状態じゃないでしょう? それに前と違って、危ないのよ」
「危なくないよ、それに身体は動かした方がいいって言われたじゃん」
「わかってる。あとで、お母さんも一緒に行くから、もう少し待ってて」
「やだぁ」
そんなことよりお小遣いがほしい。でも言いづらい。なぜかっていうと、黙って行くことにしたからだ。ぼくは家を飛び出した。
一駅分、電車に乗ればショップにすぐ着く。乗ったばかりの空いた車内をすぐ降りて、心地よい春の陽気を駆け抜けた。
そして学校より見慣れたあの店が視界に入ってくる。
……だが、なんだか建物から妙な威圧感を感じる。入る前に覗き込んだが、中にいる見知った人たちも、妙に何か知らない人のようだ。たぶん身体が小さくなったのがある、ぼくの家も、そして部屋も大きかったからなあ。余裕で届いてた棚の上に指が届かないもん。入ろうとしたら、お母さんからメッセージが来て、絶対に五時までには帰って、と言う。わかった、と答えて店内に入った。
ぼくが入ると全員が一瞬注目した。でも気にしないようなふりをしてそれぞれが対戦したり、カードを見たりしている。女の子が入ってくるなんてことめったにないから、どう対応したらいいかたぶんわかってない。別に特別な対応なんかしなくてもいいのに。
こっちは気にしないようにして、いつも話をしてくれる大学生のお兄さんの隣に座って、デッキを覗き込んだ。これは、引きが強い。これなら勝てそうだな。話したいのはやまやまだけど、対戦中は黙っておかないと。
「あ、あの、見たいの? これ」
妙にどもりながらぼくに話しかけてくる。こっちを見ないからぼくだということに気づいていない。
「ぼく、なみみだよ!」
「えっ、なみみ?って……いつも来てる子? ああ、そうだったんだ……」
彼は気にしないような感じで対戦を進めてたが、なんとなく負けてた。
「今のは勝てたでしょ」
ぼくが言うと、対戦相手のお兄さんにはその言葉が不満だったみたいで、
「勝てないよ、俺がうまかったから」と言い返した。
「そうでもねえよ、何急にカッコつけて、たまたまだよ」
やれやれとぼくは思ったが、そこからいつも通り細かい戦術の話になってて楽しい。
ぼくもデッキを出そうと思って、持ってきたカバンを開けようと腰を曲げた。
すると、その頭を下げたところで気分が悪くなった。なんか、血が頭に巡ってないみたいな、視界がくるくる回って気が遠くなりそうな感じ。
それでしゃがみ込んでしまった。みんなが慌てて集まって、背中をさすってきたり、店員さんが来てくれたりしているようだけど、そんな周囲の様子が把握しきれない。
「吐きそう……」
ぼくが言うと、慌ててバケツが持ってこられた。でもあんまり綺麗じゃない。なんかこれで吐くのは嫌だった。誰かがトイレにって言ったから、トイレに連れて行ってもらった。
女子トイレなんて初めて入ったけど、すごく綺麗だった。男子トイレはもっと汚かったのに。花の香りもして、少し落ち着いて楽になった。やっぱり無理しちゃ良くなかったんだ。便器に吐くかと思ったけど、持ち直した。
トイレを出たら顔なじみの男の店員さんが近寄ってきた。
「良くなりましたか?」
「あっ、はい、まあ女子トイレずっと占領してるのもどうかと思うし……」
「いつも誰も使ってないから平気っすよ」
「確かにいつも見たことないよね」
「お客さん、そんなに来られたことありましたっけ?」
「いつも来てるよ」
「そうでしたか」
そうだったかなーみたいな顔をしてるけどそれは確かに当然で、前は男として来てたのが今は違うから……。説明しようかと思ったけど、ちょっとめんどくさいな。
「でも」と彼が声を落とす。「こんなところ女の子が一人で来ない方がいいですよ。カードゲーム好きなんですか?」
だけどちょっとその言葉を聞いたら気分がまた急に悪くなってきた。だって、ぼくが好きな場所を店員さんがこんなところっていうなんて。
「うん、好き」
やっと答えたが、なんだか嫌な臭いが漂ってくる。気にしないようにしてたけど、女子トイレから出たら、空気の差があったのかもしれない。
「も……帰る……」
「あ、やっぱり体調良くなかったですか、お大事に。お気をつけて」
その言葉に頷いて店を出たが、その時につい臭かったってつぶやいてしまった。だって外の日差しがこんなに綺麗で風が涼しかったから。ちょうど入れ替わりで入った人に聞かれたかも、って焦って鼻歌でごまかしたけど冷や汗が出る。
家に帰ってショップの親しい人のツイッターを覗いたら、今日お店で気分が悪くなった子がいた、ぐらいのことが書かれてた。ぼくはアカウント持ってないから見てるだけで、ここで話をしたこともないけど。「初めて来てくれた子っぽいから心配」ともあって、現実では親しいのに、不思議だね。っていうか久しぶりに行けたのに何にもできなかった! 明日はもう少し頑張ろう。
今日は、前によく着ていた服を着た。さらにマスクを付けた。なんか家に良い香りのマスクっていうのがあって、これは使えると思ったから。
そのスタイルでお店に着いたら、みんながぼくをなみみと認識してくれた。
「あれ、なんか久しぶりじゃん、どうしたの? もしかして風邪引いてた?」
「昨日も来たけどすぐ帰っちゃって。お兄さんには昨日も話したでしょ」
「え? そうだったっけ?」
対戦に夢中だったのと顔を見てなかったから認識できていなかったらしい。
「女の子が来てたのは覚えてるんだけどなあ」
「ああ、あの子どうなったんだろう、もう来ないかも……」
「そうなったらお前らのせいだぞ」
「それ、ぼく、ぼく」
ふざけ合ってる彼らに、ぼくもちょっとおどけて自分を指さした。
「あの子がなみみ? お前、女の子だったのか!」
「そんなマンガのような展開が現実にあるとは……」
「いや、そんなはずなくない? 声変わりしてない? 声変わりして声が高くなったの?」
「実は、このたび女の子になりまして……」
さり気なく、しかしすごく緊張しながらそれを言った。普通こんなことないもんな。変わった子だと思われる……。
「そうだったんだ」
みんなの反応がよそよそしい。もっと驚いてほしいとも思いつつ、その方がありがたいようにも思う。会話の間が持たないもの。
まあいいやと思って、ぼくはカードを出して誰かと対戦しようと思った。でも親しい人はすでにやっているみたいだし、どうしようかな、久しぶりなのに見るだけじゃつまんない。しかしぼんやりしていたらちょうど知ってる人が空いたから、すぐにその人を捕まえた。というか黙って対面に座ったら、それだけでなんとなくやる雰囲気になった。
カードを並べると、後ろに人が来た。個人的に後ろに来られると気まずい。自分の内面を晒してるみたいな感じだから。あと、下手なのがバレる。
「デッキを見たら、なみみだなってことがわかるな……」
「えっ、そうでしょ?」
その声がよく話す狭山さんだとわかって、嬉しくなって反応してしまった。ぼくは続けて話す。
「もっとカード変えたいんだけど、お金が無くって、もう三ヶ月も良いのが引けてなくてほぼ変化無し」
ぼくは残念ながらあんまり強くないが、カードの弱さの割にはそこそこ勝ってる気持ちはある。狭山さんは向こうを覗いてからこっちに戻ってきた。
「これなら勝てるよ」
そう顔を近づけて囁いてきたが、それがなんだか嫌な気持ちになった。今までこんなことはなかったような気がするけど、すごく息苦しい。なかったというが、昨日もこうなったんだ。それがだんだん耐えられなくなった。
「ごめん、タイムです」
そう言ってカードを置いて外に出た。マスクを外し、その辺を少し行ったり来たりする。なんだったんだろう、って思った。今日も外は天気が良い。潮風が吹いてる。
柑橘系のジュースを買って席に戻ったら、ぼくのカードは横にずらされてもう別の人が対戦してた。ぼくはカードを拾った。
ちょっと寂しい気持ちになった。もう帰ろうか、元気もないし、どうでも良くなってきた。でもさっきの対戦相手だった植田さんが近寄ってくる。
「すまん、席を空けなきゃだったから。後でまた空いたら続き、やる?」
「あ、やろうかな」
考えなしに言ったけど、持ってたジュースを飲み終わったらそれをそのまま戻しそうな感じになった。病み上がりだからなのかな。
「やっぱりちょっと気分が悪いんで帰ります」
「えっ、そう? そういえば昨日も体調悪かったんだっけ、大丈夫? ひとりで帰れる?」
帰ると言った頃になって、大人たちがあれこれ世話を焼こうと集まってくる。それが息苦しくって、でも息苦しいと感じてしまうことに驚いてしまった。ここはぼくの救いの場のはずなんだが?
帰り道で駅に入る前、平日の夕方だからほとんど人がいなかったけど、変な男の人に声をかけられた。「変な人」とかいっても、むしろすごくカッコいい感じで、外見だけを見たらショップの仲間の方が変ではある。ぼくも全然人のことは言えなくて、補導されないか心配だったりする。堂々としていれば捕まらないともいったりするけど、それができるなら苦労はしてない。
とにかく隅っこをとぼとぼ歩いていたぼくだったので、イケメンが、しかもちょっとワルっぽい人が声をかけてきたことに、大変ビビった。ただとっさにゲームの勝負を思い出した。冷静に、恐れずに立ち向かうんだ!
「きみ可愛いね、一人でどうしたの? 今、暇?」
「暇じゃないです!」
早歩きで逃れようとしたが、早歩きが遅い! 落ちてる体力に荷物も重くて、なんかすぐ疲れちゃう。
「暇じゃなくてもよかったらお茶でもしない? おごるから。俺みたいなやつ嫌い?」
嫌いだと言いたい。迷惑。しかしそんなことを言う勇気もない。それはさておき、困ったことにお腹が鳴ってしまった。聞こえなかったことにして、必死に首を振って意思をアピールする。
でも彼はそれを「嫌いじゃない」という意味だと受け取ったのか、笑ってから、「ちょっと待ってて」とすぐそこにあったコンビニに行った。大人しく待つ必要もなかったのに、待つでもなくぼんやりしてたら本当にすぐ出てきて、コーヒーとパン、というかスイーツみたいなやつをくれた。
「お腹空いてるみたいだし、座って食べようよ」
「で、でも……」
すごく嫌だったけど、買ってくれたものを断るのも何か申し訳ない。たぶんこれが彼の手だったのかもしれないけど、その時は焦ってしまって考えられなかった。つまりベンチに並んで座ってしまった。ぼくは詐欺に引っかかりやすいのかあ?
結局その食べ物は小さい癖になかなか高くて、その値段ほどおいしかったって感じはしない。なんでこんなのくれるんだろうって思うし、自分だったら絶対に買わない(これ食べるぐらいならゲーム買う)。
「あの、お金払います……」
本当に嫌々で財布を開けようとしたら、彼はそのぼくの手を取って「気にしないで」と言う。
「それより遊びに行かない? 連絡先も教えてよ」
「え、嫌です……」
ぼくが素直にそう答えると、彼は目を丸くして、本当に驚いたみたいに、だけどぼくからしたらずいぶんオーバーなリアクションを取った。
「ここで断る? しっかり食べておいて……!」
ノリツッコミみたいに笑ってるけど、声が大きくてちょっと怖い。
「え、あ、ごめんなさい」
なんで謝らないといけないのか。ムカつく、ムカつく。手を掴んだままで離さないというかモミモミしてくるし。
「あの、ゲームとかやってます?」
ぼくはいつもやってるカードゲームの名を出して聞いた。やっていたらそれで勝負をつけようと思った。簡単なルールならここでもできる。こんなやつ叩きのめしてやる。
「やってないなー、子供の頃ちょっとやってたかな。きみ、そういうの好きなんだ、面白いね。もしかしてオタク?」
「もう、離して!」
「ごめんて! 女の子がやってるなんて可愛いじゃん、俺にも教えてよ。手取り足取り」
ぼくは追いすがる彼から駅に逃げた。本当に不愉快で嫌なやつだった。二度と会いたくない。
数日の間を空けてショップに向かったけど、駅を降りたところでまたあいつ、確か大石とかいう男がいた。前に聞きたくもないのに自己紹介された。すごい早さで見つかって、寄ってくる。
「また会えたね、あそこのショップ行くんでしょ? 一緒に行こうよ」
「嫌です……」
「ほら、これあげる」
欲しくもない甘い飲み物をもらった。苦い顔で受け取り、ぼくはマスクを付けた。
「なんで顔隠すの? 可愛い顔見せてよ」
からかわれてるように思えて不愉快だった。
「うるさいなあ、病み上がりなんですよ」
「えっ、何の病気してたの?」
「内緒です」
聞いてくるのをかわしていたら、お店に着いた。なんで来ちゃったんだろ、こんなのを連れて……でも、みんなが助けてくれるかもしれない。
たぶん気圧の差とかで重くなってるドアを開けた。ムワッと独特の熱気が漂う。ここに来ると、無条件でワクワクしていた。でも後ろの大石さんを思い出すとワクワクできない。こいつが暴れたらぼくが戦犯だ。
みんながぼくの方を見たが、大石も同時に目に入って軽く驚いてる。というより怯んでる。あからさまに場違い感のチャラい男。
だけどよく考えたらぼくも場違いかもしれない。今となっては。
とにかくこいつを野に放ってみんなに迷惑をかけたくないから、ぼくが教えてあげる羽目になる。
「じゃあ、とりあえずこの初心者パックを買って……」
「いや高っけえっすねこれ、なみみちゃんのやつを貸してくれない?」
「やだぁ……」
とは言いつつ、初心者布教用のものを持っているというのは悪いことに事実だったから、それを渡した。
「これはあげたんじゃないからね。後でちゃんと返してよ」と念押しして。
そして、空いてた机を使ってバカ丁寧に教えてあげる。初心者は丁寧に沼に沈めよとは先人の教えだ。しばらく大石さんは大人しく習っていたが、だんだん気が変わってきたようだ。
「それにしても、ここ臭くね?」
ぼくは机を叩いてしまった。
「文句言うんだったら、帰ってよ!」
「ごめん、ごめん、怒らないでなみみちゃん」
「馴れ馴れしく名前呼ばないで!」
「なみみちゃんのために言ってるんだよ」
周りの人たちがついにぼくに助け舟を出してきた。
「あ、あの……嫌がってるじゃないですか。そういうのはマナーが悪いですよ」
「マナー?」
「つきまといとか、暴言とか」
「なんでだよ、俺達仲良しなんだけど」
「仲良しじゃないし!」とぼくは狭山さんの後ろから口を挟む。でもそこからもちょっと距離を置いた。
「ほらほら、なみみちゃん離れてるし。マナーが悪いのはそっちだし」
「え、なんで?」
「だって臭すぎオタクたち。人としてマナー違反っしょ。なみみちゃんも気分悪くなることなかった?」
みんな沈黙してしまった。
「なみみちゃんここいたら身体壊すから、もう出ようよ」
大石がぼくの手を引いて店を出るが、誰も追っかけてこない。
「みんなっ……」
まるで囚われのヒロインのように蚊の鳴くような声を出して店を出た。
「ほら、外の空気と全然違うし」
そう言われると事実だから言い返せない。
「でも、もしそうだったとしても、あんたといっしょにいる理由なんてないから。カード返してよ」
「あ、中に置き忘れてた」
地団駄踏んでぼくは怒る。
「最低じゃん! もう知らない! さよなら!」
走って逃げるぼくの耳に、「なんだあの変な女」という声が聞こえた。女じゃねえっつうの!
家に帰っても腹が立つけど、同時に落ち込む。なんかもう行きにくくなってしまった。みんなに合わせる顔もない。合わせる顔は女になってしまった時に、とっくに無くなっていたのかもしれない。
数日、部屋に閉じこもってゲームばっかりしてた。久しぶりに部屋から出たら、お母さんから注意された。
「女の子になったんだからもう少し身だしなみを……」
ぼくはムッとして言い返す。
「身だしなみなんか気をつけたって、変なやつに絡まれるだけだもん」
「何かあったの?」
聞いてくるから今更大石のことを話した。お母さんは驚いていた。
「そんな人に声をかけられても、まともに相手したらダメよ。あなた可愛いんだから特にね。気をつけないと」
「余計なこと言わないで!」
反発しつつも、なんか本当にはずかしい。ぼくは可愛いのか。それは感じることもあり、感じないこともある。鏡で自分を見るとなんかすごく変にも見える。違和感はあまりなくなったが、その代わりこれが自分の顔かと思うと、変じゃないか不安になる。でもそれって三日お風呂に入ってない女だから……なんだかんだと言う前に汚い。お風呂入ろ。看護師さんからも清潔にってすごく言われてたし。
それから何ヶ月か経った。ぼくも学校に行くようになった。ちょっと下心があって、こんな特別な、あるいは珍しい人間が来たらみんなびっくりしてちやほやされるかもなあ……っていう考え。でもそうしたら想像以上にモテた。女子から。嬉しい。女子となんてほとんど話したことなかったし……。みんな、女子のおしゃれとか遊びをいっぱい教えてくれるのが全部新鮮な感じで楽しかった。自分を可愛くするっていうのがゲームみたいだった。置き忘れたカードゲームのことは、ますます完全に忘れてた。
それからやっと久しぶりに、ショップに来た。中に入ったら、全然変わってた。すごく、空気が綺麗。みんな服装とかなんか小綺麗で別人みたいになってる。全員知った顔なのに不思議。あと前はなんか緊張しすぎて一触即発みたいだったし。
「あっ、なみみ。久しぶりだね」
狭山さんがすぐ声をかけてくれた。そこから集まってきて注目を受けるけど、もうそれにも慣れた。
「なんかすごい可愛くなっちゃってるね」
「ふふっ、そうでしょ?」とぬけぬけと答える。「でもみんなもなんか全然雰囲気変わったしさっぱりしてる。どうしたの?」
「それは、だいぶ前になみみが出ていって、それで俺達も反省したところがあったというか……あの時はごめんね。あの後大丈夫だった?」
「ああそれはこちらこそ、だいぶ失礼な態度だったかもしれなくて、でも特に何もなかったよ。あの変な男ともすぐに別れたから」
別れたというとみんなが微妙な顔になったから補足した。
「付き合ってたとかじゃなくて、店を出た後で私も即そいつから逃げたって感じ」
「ならよかった。久しぶりだけど、忘れてったカードまだどっか保管してあるよ店に。またやる? 結構環境変わったけど知ってる?」
ぼくは両手を上げてそれを制した。
「ごめん、もう止めたんだ。だってとてもじゃないけど、出費が多くて、私、今やることも多くてみんなに誘われるしね……カードやってる暇とお金がないの。まあ、特にお金がね……」
そのままお手上げして、嬉しい悲鳴だけどと言った。
「そっか……じゃあ、やらないのにわざわざ会いに来てくれたんだね。それか忘れてたの取りに来たのかな? どっちにしても、あれから嫌に思わずまた来てくれたの嬉しいよ」
「ん? いや? そういう理由じゃないよ」
ぼくは店に入っていって店員さんと話した。店員さんは店長を呼ぶために一旦奥へ引っ込んだ。
「今日はバイトの面接に来たんだよ。だってお金がなくってさあ、もし受かったらみんな仲良くしてくださいね」
そう言ったらみんな嬉しそうにおおと控えめな歓声を上げた。