男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
「あ、船長!」
そんなことを考えていると、おそらくおチビちゃんの声。そちらの方に視線を向けてみれば……。白い髪に赤い瞳の若い女性。
金のアクセサリーがしゃらりと揺れる、例の“ヒモ”の礼服を纏ったこの船の主。そんな彼女がわざわざ格納庫まで来ていた。……なんでその格好でここまで来るの!? 油とか飛んでるよここ!? ほぼ裸で来るところじゃないッ!!!
内心の悲鳴を顔に出さないよう、全力で笑顔を作る。
「お、おっす船長ちゃん! ただいま~!」
「えぇ、おかえりなさいギャルさん。……ご無事で、何よりです。」
そう言って、柔らかく微笑む彼女。
食事の時に見せた計算っぽさはなく、こちらの安否を気遣い帰ってきたことを喜んでくれてるような顔。……ま、船長だけど新人で、乗組員たちからの心情稼ぎに忙しいみたいだからね! 選んだ傭兵が変な事しなくて良かった、ってことなんでしょ!
「私もブリッジから一部始終を見させて頂きました。正に獅子奮迅の働き。……正直に申し上げれば、ここまでとは思っていませんでした。」
「そう? あーし的には朝飯前って感じ!」
「ふふ。では今回は“運が良かった”ということにしておきましょうか。」
くすりと笑いながら、こちらの言葉を冗談として受け止める彼女。
正直こっちからすればマジで朝飯前というか、最悪軍相手に立ち回ることも考えてたからコレくらい出来て当り前って感じなんだけど……。こっちを評価してくれるのなら、それでいい。周りのクルーたちもニコニコしてるし、彼女からのオーダーであった『実力を見せつける』ってのは無事に完了したとみて良いだろう。
ま、それはそれとして。
「んで船長ちゃん。あちらさんの母艦の方はどんな感じ?」
「報告によるとドレッドが全機撃墜された直後に反転し、レーダーの感知範囲外へと離脱したとのことです。……今度はもっと数を引き連れて来るかもしれません。」
表情を一転させ、口元に手を当てながら思考を回す彼女。
確かに敵を追い払えたのは事実だが、かなり面倒ごとに巻き込まれたと言っていいだろう。
まぁそれも仕方のない話。この商船は小規模ながら機銃とシールドで守られた“質のいい”船だ。それだけトップや乗組員が真面って証明なんだけど……、賊からすれば『美味しそうなカモ』にしか見えないだろう。なにせあっちの規模を考えれば、戦力差は圧倒的なのだから。
(ドレッドの質もそうだけど、整備も行き届いてた。しかも賊の身分でフリゲート艦、さらに多分軍艦を乗り回しているってことは……。相当な勢力になる。)
流石にこの船の装備が真面といえど、軍船相手に殴り合えるほどの砲は持ってない。
直掩として飛べるドレッドも私だけだし、『敵全員が私に突っ込んでくる』なんて馬鹿なことをしない限りは、確実に負ける相手だ。船を預かる彼女からすれば、フリゲート艦よりもヤバいのを多数持ってるかもしれない賊、そんな相手の出所が解らないってのは相当なストレスだろう。
「追撃は行いません。しばらくはレーダーを最大範囲で回し続け、警戒を続けます。ギャルさん、この方針に何か問題はありますか?」
「無いよ! 何かされる前にぶん殴る、ってのには情報も戦力も足りないからね。さっさとこの宙域から離れて、お上に報告する感じでいいんじゃない?」
「……解りました。では、そのように。」
そう言うと、近くにいた乗組員の1人からデバイスを受け取り、おそらくブリッジに通達を行う彼女。意見を求められたから答えたが、この船に関するすべては彼女の判断によって定められる。
ま、気軽に行きまっしょい、って奴だよ、船長ちゃん! ほらあーし最強だし、どんなの来ても先にレーダーで探知出来ちゃえば、先手必勝でまるっきり処理しちゃうわけだから! 安心安心!
「……ふふ、そうですね。その時はぜひ、お力を貸して頂ければ。」
「もっちろん! あーしにお任せ!」
そう言いながら、指先を口元に当て、ギャルらしい笑みをつくる。
……少しばかり不安が残るが、これ以上考えても仕方ない。今回は所謂舐めプモードで相対したが、さっきの奴らよりもヤバいのが出てくる可能性もある。次回からはちゃんとフル装備で向かうことにしよう。弾薬代が死ぬほど怖いけど。
さ! 暗い話題はここまで! 次行きましょ次!
「ですね。して、こちらの残骸についてですが……。契約上、傭兵が戦闘で得た戦利品はその傭兵の所有物となります。」
「だよね~。でもたぶん、あーしのマルちゃんには使えない気がするんだよねぇ。」
まだしっかり見てないので解らないが……。ドレッドというモノは基本的に、世代が変われば別物になる。
一応中で動いてるプログラムとか、腕とか足とかのパーツに互換性があったりすることもあるのだが……。私の愛機である第8世代に、今回鹵獲した第11世代のパーツを使うってのは難しいものがあるだろう。ほら、3色ケーブルにType-Cぶち込もうとしても無理、みたいな感じ。
まぁ“変換機”みたいなモノもあるので、頑張れば使えないこともないのだが……。
「あ、ダメみたいですね。」
「だねぇ、長っちが言うなら確実だ。」
ちょっと視線を後ろにずらし、持って帰った“ゾーンリーパー”の近くにいた整備長の方に目を向けてみれば、静かに顔を横に振る彼女の姿が。専門家が無理というのならば、マジで互換性が無いことが窺える。
となるとまぁ、アレは売る以外の選択肢が無くなる訳だが……。
(闇市でもなぁ。)
売れないことも無いが、よくよく考えれば微妙。利益が出るか怪しいところだ。
身元隠さなきゃ色々不味いし、買い叩かれないように気をつけなきゃいけない。勿論売る相手も変なところに情報を売らない様な人を探さなきゃだし、そもドレッドみたいな巨大物を“商船に間借りして置かせてもらう”場合、手数料を取られちゃう。
……これほんとに利益出るか?
「あ~。船長ちゃん? コレ、よかったら買い取ったり、しない?」
「私達が、ですか?」
「そそ。あーしが持ってても使い道ないし、売りに行く伝手もないしさ? 船長ちゃんなら売り先とか知ってそうだし、運ぶ手間もかかんないじゃん。だから今後もこういうのがあったら、全部そっちに流すって感じにしてもいい? あ、手数料として色々毟り取って大丈夫だからね?」
軽い調子でそう提案してみれば、少しだけ目を見開いた後、顎に手を当てて考え込んでくれる彼女。
あ、腕を動かしたせいで色々揺れ……
い、いや見てない。見ないぞ!!!
「……解りました。相場を確認した上で、適正な価格で買い取らせていただきます。ただ正確な値段は判断が付きかねますので、振り込みはまた後程、という形になりますが。」
「マジ!? やった! 船長ちゃん大好き!!!」
「ふふ。では、1つお礼として。」
そう言って、真っ直ぐとこちらに視線を向ける彼女。
「本航海で貴女の機体にかかる弾薬費と整備費。その全てを当船で負担させていただきます。」
「……へ?」
「船を守っていただいた上に、戦利品まで当船に任せていただくのです。その程度のことはさせてください。……それに、弾代を気にして剣1本で出撃されるのはこちらの心臓に悪いので。」
最後の一言だけ、ほんの少しだけ困ったような顔で。
思わず整備長の方を見れば、肩を竦めながら『アタシはさっきの戦闘前からそのつもりだったけどな。』みたいな顔をしている。いや、そういうのは最初に言ってよ! 整備はしてくれるって話だったけど、弾薬とかに関しては契約書に無かったじゃん! え? 普通そういうのは船持ちって慣習? こ、これまでの船じゃ傭兵は“例外”だったのに、私含めてくれるの!?
(か、感謝しかない……! え、いや、ちょっと待って?)
頭の中で、電卓が猛烈な勢いで回り始める。
ビーム砲のエネルギーパック代。実弾の弾薬代。関節の消耗部品に、スラスターの交換費用。今まで私の財布を容赦なく削ってきたそれらが、全部、タダ。
「船長ちゃん……!」
「はい?」
「戦利品の取り分とかいらない! 全部持って行って!!!」
感激のあまり彼女の両手を取ってそう叫べば、何処か恥ずかしそうな笑みを浮かべる彼女。
いや、ほんと助かります! 色々と馬鹿にならないので……!
あ、それと。喜びすぎて手を掴んだ拍子に、“首から下”がばっちり視界に入っちゃったのは、不可抗力なので許してください。マジで。
1~6話の後書きに下記のようなオマケを追加いたしました。よろしければご覧下さい。
○ギャル
2000年代、現代から少し未来の時代を生きた元宇宙飛行士。最初は国家機関を目指していたが、試験に落ちたため民間の飛行士となっている。火星と木星の間にある小惑星帯の有人調査の任務にアサインされ単身向かったが、突如謎の宇宙嵐に巻き込まれ時間渡航。約8000年後であるこの時代に到着した。本来なら自死を選ぶレベルで男の扱いが酷い時代だったが、運よく保護してくれる女性と出会い今日に至る。
あらすじ通りギャル偽装はほぼ趣味であり、理想のギャル(平成)を体現することに全力を掛けている。下手な女子より髪に気を使ってるし、化粧品にも詳しいタイプ。鏡とかガラスとかあったら少し立ち止まって自慢のツインテの確認をするくらいには気合が入っている模様。ある意味エンジョイしているのかもしれない。