男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
船長室の執務机に浮かぶホロデータを一通り読み終え、小さく息を吐く。
「……以上が今回の戦闘に関する報告になります、船長。」
目の前に立っているのは、この船のオペレーター。コールサイン、“セイレーン”。
軍で長く管制を務めていたという彼女の報告は、いつも簡潔で無駄が無い。声も相変わらず氷のように冷たいけれど、それが彼女なりの誠実さだということはこの船を継いでからの短い付き合いでも十分に解っている。
……ただ。今日は少しだけ、報告の“量”が多い気が。
「ありがとうございます。随分と丁寧にまとめてくださったのですね。」
「業務ですので。」
相変わらずの即答。
けれど、ほんの一瞬だけ視線が逸れる。普段の彼女ではあまり無い挙動。なにか自身の対応がおかしかったのかと軽く思い出すが……。問題らしい問題は思い当たらない。
あまり聞いて欲しくなさそうな雰囲気だし、とりあえず頭の中にメモだけを残し、資料の方へ意識を戻す。
(ブリッジで見ていましたが……。)
改めて目を通しても、書かれている内容は信じがたいものばかり。
ゾーンリーパー3機を相手に、第8世代の旧式が1機。武装は近接用のブレード1本。それで当船の被弾はゼロ、ギャルさんの機体もほぼ無傷。ブリッジのモニター越しにこの目で見ていたはずなのに、こうして数字として並べられるとやはり夢でも見ていたのではないかと思ってしまう。
(人を見る目には、少しだけ自信があったのですが。)
まさか、ここまでとは。
彼女を選んだ時、私が見たのは“腕”ではなく“人”だった。前任の傭兵のことがあって、船内には傭兵そのものを嫌う空気が広がり始めていた。だからこそ、次に迎えるのは何よりもまず乗組員に銃を向けない人物。出来る限り素行の良い人物を選ぶつもりだった。
正直、腕前は最低限でいい。最悪『商船側』の安全だけ確保できればいいと考えていたのだが……。どうやらとんでもない“当たり”を引いてしまったらしい。
「それで、セイレーン。資料の最後に“所見”とありますが……。」
「はい。あくまで私個人の見解ですが、ご報告しておくべきかと。」
そう前置きし、いつも通り淡々と言葉を続ける彼女。
「まず、技量について。正直に申し上げて軍でもあの水準のパイロットは数えるほどしか見たことがありません。それも中央直属のアグレッサー部隊、“トップオブエース”の映像と同等レベルです。」
「そこまで、ですか。」
「はい。ですので……。彼女は軍の“特務部隊”出身である可能性があります。……あるいは、現在も所属している可能性も。」
思わず、思考が止まる。
あまり軍には詳しくないが……。それがかなり面倒な存在であることは、理解できた。
「……詳しく、お願いします。」
「流れの傭兵を装い何らかの任務に就いている、ということです。この辺りの宙域は宙賊の動きも活発ですから、調査目的で民間船に紛れ込むという話はおかしくありません。もしくは中央政府から何かしらの特命を受けている可能性も。」
であれば実力を“見せつける”意味合いは無いのであくまで可能性の話ですが、と付け加える彼女。
……私が受けた教育は、船の人員を如何に管理することや、商売に関することだ。つまりドレッドに関する知識が少なく、あの戦闘も“途轍もなく凄い”ことしか解らなかった。けれど軍属であった彼女がそう言うのであれば……。可能性はあるのだろう。
確かに、あんな腕前を持っているのなら流れの傭兵などする必要が無い。それこそ軍に行けば仕事は確実にあるだろう。傭兵をするよりも稼げるし、より良い機体を貰う事が出来る。……この違和感は、覚えておく必要がありそうだ。
「それともう一つ。こちらは技量とは別件ですが……、服装についてです。」
「服装、ですか?」
「彼女は首から下を覆う装甲服を一度も脱いでいません。交流こそしているようですが、基本的に部屋の中に籠っています。以前までの“傭兵に好意的でない船内”であれば問題はありませんでしたが……。」
「何か隠していると?」
そう返しながら、思い出す。
契約の時も、食事に招いた時も、彼女はずっとあの白い装甲服姿だった。かなり古いもので、少なくとも普段着で着るようなモノじゃない。最初は流れの傭兵だからこそ“自分を覚えてもらうため”に変な話し方や服装をしているのかと思っていたが……。言葉を交わすごとに、隠しきれない“学”があることは既に理解していた。
(古語のレパートリーが、多すぎる。少なくとも傭兵に落ちる様な者じゃ一生手が届かないレベルの教育を受けていると考えて良い。そして、“何か隠す”のにはちょうどいい服。)
お胸とかお尻とか、出るところは出ているが、少し野暮ったい装甲服。そこに通信機などのナニカ、彼女が受けているかもしれない軍の特命を果たすためのナニカが潜んでいるのかもしれない。私と相対した時の、あの落ち着かない視線。顔だけを見ようとして、けれど時折どうしても胸に逸れてしまう、あの目の動き。
てっきり、少しだけ“そういう目”で見られているのかと思っていたのだけれど。
(……探られていた?)
私達は一切後ろめたいことはしていない。法を守る重要性は両親から絶えず言い聞かされていた。だから運んでいるものも問題ないし、犯罪歴のある乗組員は一切入れていない。積んでいる武装も規則通りで、この一帯の地方政府から賞状を貰っても良い位には整えている。
(となると、この船は隠れ蓑。)
格納庫でした『戦利品の取り分』の話から、“ギャル”を名乗る彼女はまだ私達と行動を共にすることが察せられる。つまり他に何か目的があることになるが……。
「……船長?」
「あ、いえ。少し考え事を。」
小さく咳払いをして、思考を戻す。
特務部隊の出身か、あるいは現役か。肌を見せない理由も解らない。確かにギャルには、解らないことが多すぎる。
けれど、解っていることも多い。
ノリル。彼女の言う“おチビちゃん”に絡まれても嫌な顔一つせず、一緒になって笑っていたこと。整備長に怒鳴られても、頭を下げて謝っていたこと。そして何より、この船の誰一人として傷つけることなく、帰ってきてくれたこと。
「セイレーン。報告、ありがとうございました。」
「……いえ。」
「彼女の素性については、今は詮索しません。仮に軍の方だったとしても、少なくとも私たちに害をなす人ではない。それは、これまでの彼女を見ていれば解ります。」
人を見る目には、少しだけ自信があるのだ。
両親を急に亡くしてこの船を継ぐことになった時。経験も伝手も無い私に残っていたのは、それくらいだった。整備長である彼女も、乗組員たちも支えてくれた。けれど彼女達も人である限り、それぞれの意志がある。……人を率いる身であるのならば、彼女たちを養うためにも線引きはしっかりしないといけない。
信じられるのは自分と、その“限られた”能力だけ。
「ただ、念のため。引き続き彼女のことは気にかけておいてください。……監視ではなく、気にかける、です。」
「……了解しました。」
オペレーターですし、話す機会も多い筈。そう思い彼女にお願いしたのだが……、ほんの少しの間の後に、返って来る言葉。セイレーンにしては、少々おかしなモノ。
疑問に思い彼女の顔を覗き込むが……、変化はなし。けれど何故かさっきメモした彼女の様子、視線を逸らしたり深く踏み込んでほしくない雰囲気が過る。やはり、何かしら問題があるのだろう。船員の精神状態を維持するのも船長の役目。セイレーンには悪いがより詳しい聞き取りを行うため口を開こうとするが……。
柔らかに響く、船の電子音。
【まもなく目的の惑星の軌道上に到着します。船長、ブリッジにお戻りください。】
「わざわざありがとうございます。すぐに行きますね? ……セイレーン。」
「はッ!」
そう声をかけると、元軍人らしい声と共にすぐに動き出す彼女。あちらの管制との会話もあるし、彼女に関するお話はここまでだ。ちょっと長めに滞在するつもりだし、セイレーンとの話はまた今度時間を取ることにしよう。……いちおう“彼女”には傍に付いておくよう言いつけておいたし、何かあればすぐに教えてくれるはずだ。
(にしても。)
あまりにも視線が胸とか、秘部にちらちらと向くものでしたからてっきり私に興味でもあると思っていたのですが……。そういう偽装なのかもしれません。
(どちらにせよ、ギャルさんとの縁は重要なもの。可能性は低いでしょうが、“偽装”でない可能性も考えて……。)
今度は、刺激的な服を着てもいいかもしれませんね?
◇◆◇◆◇
「う~ん。平和は良いですなァ、なんて。」
というわけであーし御一行、無事到着!
あの戦闘から目的の星までの数日間、宙賊の“ち”の字も無かった。レーダーには何も引っかからないし、アラートも鳴らない。一応警戒として定期的にドレッドの中に籠ったりしたんだけど、淡々と冷たいセイレーンちゃんの声が響くっていう、平和そのものな航海だった。
……まぁ、だからといって手放しで喜べるわけじゃないんだけど。
(ちゃんとした“組織”。しかも宙賊がドレッド落とされて大人しくするはずが無いんだよなぁ。)
行き当たりばったりのチンピラが持てる装備じゃないのは、誰もが理解してくれるだろう。
しっかり徒党を組んで、しかも結構な規模でやってる連中。そいつらが貴重なドレッドを3機も落とされて『はいそうですか』で終わらせてくれるほどこの世界は甘くない。むしろ『お前らウチが雑魚って思って嘗めてるよなぁ! 落とし前付けさせてやんよ!』と謂れの無い事を叫びながらぶっ殺しに来る可能性しかない。
故に警戒はずっと継続していたのだが……。無事目的地に着いちゃった。
流石の宙賊といえど、軍や警察がうじゃうじゃいる惑星に近寄るとは思えない。何処かの航路で待ち伏せしてる可能性もあるが、ここまで攻め込んでくることは無いだろう。故に私のお仕事も一旦ストップし、自由時間が始まったわけなのだが……。
(うん、船に残ろ。)
え? 船の外には歓楽街とか色々ある? SF世界特有の楽しそうなイベントも一杯?
うるせぇこっちは“男”なんだよッ! バレたら死ぬッ!
ご存じの通り、町ってのは人が多い。つまりそれだけ“違和感”を持たれる可能性も増えるわけで。変声機は付けているが、常に女声を意識して会話してる。宇宙服のおかげで体型は問題ないし、簡単な接触ぐらいなら普通に誤魔化せる。けれどそれが万全なのかといえば……、答えは否。
うん、無理。危険が多すぎる。
部屋の中で大人しくしておくか、愛機であるマルちゃんのコックピットの中に籠るか。この船からすれば完全な“部外者”であるためあまり自由な行動が出来ないだろうが、この2つくらいなら許してくれるだろう。そう思いながら簡易ベッドに寝転がろうとした瞬間……。気配を感じる。
装備確認、ヨシッ!
「ギャルさーん! 町行きましょ、町!」
ノックと同時に扉が開き、おチビちゃんが飛び込んでくる。
……うん、ノックの意味ないね。私みたいに無駄に感覚鋭く無きゃ終わってたよ? 勿論私が。性別バレて。
「誰かと思えば、おチビちゃん! ハロハロ~! あとすっごく素敵なお誘いだけど、あーしとしては船で留守番させてもらおうかな~って!」
「えぇ!? せっかく着いたのにっすか!?」
「ほら、あーし護衛だし? 船空けるわけにはいかないじゃん?」
「港の中は警備隊がいるから大丈夫っすよ! それに船長が、ギャルさんにも息抜きさせてあげてって言ってたっす! あと整備長もドレッドひっくり返して整備するって言ってたんで、多分出来る事無いっすよ?」
「……マ?」
「マっす!」
あ~~~。つまり船長ちゃんからの『外に出ておいてくださいね?』という通達と、整備長からの『お前の愛機直してやるからちょっかいかけんな』ってお話を遠回しに彼女が伝えに来てくれた、ってことですね? あと前同様おチビちゃんは私の監視役。
なるなる、これでさっき考えてた両ルートが崩壊しましたねクソが。あとどっちにも逆らえないじゃん。
船長は雇い主なので、基本命令には従う必要がある。整備長には恩があるし、ドレッドは手入れしないと私が死ぬ。さらに悪いことに、このおチビちゃん。目がキラッキラしてらっしゃる。断ったら絶対しょんぼりするやつだ。任務は任務として、普通に街を楽しみにしてる奴だ。
こ、これは断れない奴……!
「……ちょ、ちょっとだけね?」
「やった!!!」
○ノリル(おチビちゃん)
『商船』における最年少。とある惑星で孤児をしていたが、偶々積み荷が乗っていた車両に転がり込んでしまい、そのまま『商船』に乗り込んでしまった。本来なら密航者なので宇宙にポイされるはずだったが、人格者である整備長が哀れに思い小間使いとして残ることになる。現在はギャルの監視や、船長や整備長への連絡係を務めている。
人の顔を伺うことに長けており、相手が話しかけても大丈夫かどうかを感覚で理解している。ギャルの事は結構信頼しているというか、甘やかしてくれる存在だと無意識で判断しており、ドレッド乗りという刺激的な職をしているせいか彼の近くにいることが多い。(それを理解した船長が、定期的に彼女からギャルの話を聞き出している。自覚の無いの監視員。)
乗組員としての経験が薄いこともあってか、目に入るモノすべてが初めて。とっても興味津々。