幻想郷にニトフォンが発売されてから、およそ一週間が経過した。
河城にとりが開発したこの小さな通信端末は、当初の予想を上回る勢いで幻想郷の住人たちに受け入れられていた。
発売当日に用意された百台は瞬く間に完売し、追加生産された端末も次々と購入者の手に渡っている。製造を担当する河童たちは、急激に増えた注文への対応に追われながらも、自分たちの技術がこれほど広く受け入れられたことに満足しているようだった。
もっとも、その普及を後押ししたのは、単に離れた相手と連絡が取れるという便利さだけではなかった。
ニトフォンには、購入した時点でいくつかのアプリケーションが組み込まれていた。その中でも特に利用者の関心を集めたのが、にとりが外の世界のサービスを参考に開発した『ニトッター』である。
自分の考えや日常の出来事を短い文章として投稿し、それを他の利用者が自由に閲覧できる。気になった投稿には返信を送ることができ、面白いと思ったものには評価を付けることもできる。
仕組みそのものは実に単純だった。
しかし、普段はそれぞれの縄張りや生活圏で過ごしている幻想郷の住人たちにとって、場所を問わず気軽に交流できるというのは、思いのほか新鮮な体験だったのである。
博麗神社の巫女も、妖怪の山の天狗も、地底に暮らす鬼も、迷いの竹林の住人たちも、ニトフォンを手にした者は次々と自分のアカウントを作成していった。
そして、そんな新しい文化にいち早く順応した者の中には、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの姿もあった。
◇ ◇ ◇
紅魔館。
霧の湖の畔に建つその洋館は、幻想郷でもひときわ異彩を放つ建造物である。
赤を基調とした重厚な外壁、整然と並ぶ窓、広大な敷地を囲む庭園。館の内部には豪奢な調度品が数多く配置され、その主が並々ならぬ財力を有していることを窺わせた。
夕暮れ時。
窓の外では日が傾き、湖の向こうに広がる空が赤く染まり始めていた。
吸血鬼にとって、日が沈む頃は一日の始まりにあたる。
そんな紅魔館の一室で、レミリア・スカーレットはお気に入りの椅子に腰掛けながら、手元にある一台のニトフォンを眺めていた。
背面には、何とも言い難い存在感を放つキュウリのイラスト。
紅魔館の高級な調度品と比べれば、いささか場違いな意匠ではあったが、今のレミリアにとっては些細な問題だった。
この小さな機械は、思っていた以上に面白い。
写真を撮影できるだけでも便利だというのに、離れた相手へ簡単に連絡を取ることができる。さらにニトッターを使えば、自分の言葉を多くの者へ発信できるというのだから、なおさらである。
もちろん、レミリアは紅魔館の主であり、五百年以上を生きる吸血鬼でもある。
そのような存在が、わざわざ他人の目を気にして日常を発信する必要など、本来はないはずだった。
しかし、考えてもみれば、これほど自分の威厳を世に知らしめるのに都合のよい道具もない。
館に居ながらにして、幻想郷の住人たちへ自分の偉大さを伝えられるのである。
これを利用しない手はないだろう。
「ふふ……なかなか便利なものを作ったじゃない、あの河童」
レミリアは満足げに笑みを浮かべ、ニトフォンの画面を操作した。
すでに彼女は自分のアカウントを作成していた。
その名も『カリスマ王レミリア』。
本人としては、これ以上ないほど自分に相応しい名前である。
あえて吸血鬼や紅魔館といった言葉を使わず、カリスマという概念そのものを前面に押し出したところに、彼女なりの美学があった。
プロフィールには自分の姿を撮影した写真を設定し、紹介文にも紅魔館の主であることを堂々と記載している。
準備は万端だった。
あとは、記念すべき最初の投稿をするだけである。
「さて……何を書こうかしら」
しばし考え込んだレミリアだったが、やがて自分にとって最も重要なことを思い出したように頷いた。
そうだ。
自分が発信するべきものなど、最初から決まっているではないか。
レミリアは小さな指で画面を操作すると、自信満々に文章を打ち込んだ。
そして、そのまま投稿ボタンを押したのである。
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【ニトッター】
カリスマ王レミリア
今日もカリスマが溢れて仕方ないわ
【返信】
瀟洒なメイド長
おはようございますお嬢様今日もステキです
カリスマ王レミリア
ありがとう
破壊神フランドール
そのカリスマはいつ地に落ちるかな
引きこもり魔女パチュリー
もう落ちてないかしら
カリスマ王レミリア
聞き捨てならないわ
美少女ゆかりん
カリスマは自称するもではなくってよ
油揚げ九尾
美少女も自称しないと思いますが
美少女ゆかりん
藍
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「…………」
レミリアは無言で画面を見つめていた。
投稿してから、まだそれほど時間は経過していない。
しかし、すでに複数の返信が寄せられていた。そこまではいい。
自分の投稿が注目されるのは、むしろ当然のことである。
問題は、その内容だった。
「……どうして私のカリスマを誰も認めないのかしら」
彼女は不満そうに眉を寄せた。
最初に返信してきた咲夜はいい。実に素晴らしい。主人への敬意が感じられる、模範的な返信である。
しかし、その後がいけなかった。
妹のフランドールはカリスマが地に落ちるなどと言い出し、パチュリーに至っては、すでに落ちていると断言している。
長年の友人と実の妹が揃ってこの有様とは、一体どういうことなのだろう。
しかも、見覚えのあるスキマ妖怪まで口を挟んできたかと思えば、今度はその式神との間で妙なやり取りが始まっている。
「まったく……どいつもこいつも」
レミリアは小さくため息をついた。
そのとき、画面の上部に新しい通知が表示された。どうやら、また返信が届いたらしい。
気を取り直して確認してみると、そこにはさらに多くの利用者が集まり始めていた。
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【カリスマ王レミリアの投稿への返信】
賽銭大好き
カリスマって自分で言うものなの?
カリスマ王レミリア
当然よ。私は紅魔館の主なのだから
マジックキノコ
そういや紅魔館の主って何してるんだ?
カリスマ王レミリア
紅魔館を統治しているわ
マジックキノコ
具体的には?
カリスマ王レミリア
色々よ
賽銭大好き
何もしてないじゃない
カリスマ王レミリア
失礼ね!
眠らない門番
お嬢様はいつも紅魔館の平和を見守ってくださっています!
引きこもり魔女パチュリー
基本的に寝てるけどね
破壊神フランドール
あとお茶飲んでる
瀟洒なメイド長
お嬢様のお茶の時間は大切な公務です
賽銭大好き
公務の基準が低すぎるわ
カリスマ王レミリア
あなたたち少しは私を敬いなさいよ!
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「なんなのよ、これは!」
思わず声を上げたレミリアは、椅子の背もたれから身を起こした。
自分の投稿が、いつの間にか紅魔館の主としての仕事内容を議論する場所になっている。
しかも、誰一人として自分の偉大さを正しく理解していないではないか。
特に霊夢と魔理沙の二人は、遠慮というものを知らない。
幻想郷の異変を幾度も解決してきた彼女たちとは、以前から付き合いがある。多少の無礼については今さら驚きもしないが、だからといってニトッター上でまで好き放題言われるのは面白くなかった。
レミリアが反論を考えていると、背後から控えめな声が聞こえた。
「お嬢様、お茶のおかわりはいかがでしょうか」
振り返れば、銀髪のメイド長、十六夜咲夜がティーポットを手に立っていた。
普段と変わらぬ優雅な立ち居振る舞いである。
レミリアはそんな彼女を見上げると、先ほどまで画面に向けていた不満をそのまま口にした。
「咲夜。あなた以外、誰も私のカリスマを理解していないわ」
「それは困りましたね」
咲夜は穏やかに答えながら、主人のカップへ紅茶を注いだ。
香り高い茶葉の匂いが室内に広がっていく。
「ですが、お嬢様の素晴らしさを理解している者は、私だけではないと思いますよ」
「そうかしら?」
「ええ。皆様、きっと照れ隠しをなさっているのでしょう」
あまりにも都合のよい解釈だった。
しかし、レミリアはその言葉に気をよくしたらしい。
「ふふ、そうね。私のカリスマがあまりに眩しいから、素直に認められないのかもしれないわ」
「おっしゃるとおりです」
咲夜は微笑みながら頷いた。
もっとも、彼女自身がニトッター上で何を考えているかについては、主人にわざわざ説明するつもりもなかった。
◇ ◇ ◇
一方、幻想郷の各地でも、レミリアの投稿は徐々に注目を集め始めていた。
ニトッターには、人気のある投稿や多くの返信が寄せられている話題を表示する機能が備わっている。
まだ利用者の数が限られていることもあり、一つの投稿に大勢が集まると、あっという間に目立つ場所へ表示される仕組みだった。
そして今、レミリアの投稿はまさにその状態にあった。
最初は紅魔館の関係者による内輪のやり取りだったものが、霊夢や魔理沙の参加によって周囲へ広まり、それを見た別の利用者が次々と返信を残すようになっていたのである。
本人が意図していた形とは少々異なるものの、カリスマ王レミリアの名は着実に幻想郷へ広まり始めていた。
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【カリスマ王レミリアの投稿への返信】
常識に囚われない元女子高生
カリスマ王ってすごい名前ですね!
カリスマ王レミリア
そうでしょう?あなたは見込みがあるわね
常識に囚われない元女子高生
自分で王様を名乗るのって外の世界だと結構勇気がいりますよ!
カリスマ王レミリア
どういう意味かしら
御柱風神
早苗、それ褒めてないでしょう
土着神ケロちゃん
カリスマ王かあ。私も土着神王にしようかな
御柱風神
やめなさい
美少女ゆかりん
名前なんて自由でいいじゃない
油揚げ九尾
紫様は少し自重してください
美少女ゆかりん
藍、今日のお夕飯は油揚げ抜きね
油揚げ九尾
申し訳ありませんでした
マジックキノコ
上下関係が分かりやすいな
賽銭大好き
式神って大変ね
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紅魔館の一室で、レミリアは新たな返信に目を通していた。
話題が自分のカリスマから、いつの間にか八雲家の夕食事情へ移っている。
せっかく自分が立てた話題なのだから、もう少し中心人物への敬意というものがあってもよいはずだった。
とはいえ、利用者たちが次々と書き込んでいく光景そのものは、なかなか興味深い。
ニトフォンがなければ、こうして遠く離れた相手と気軽に会話を交わす機会など、そう多くはなかっただろう。
妖怪の山に住む神々が、紅魔館の吸血鬼と会話をしている。
その横から博麗の巫女が口を挟み、さらにスキマ妖怪まで現れる。
考えてみれば、何とも不思議な光景である。
もっとも、その場にいる誰一人として、そんなことを気にしている様子はなかった。
そして、話題が賑やかになるにつれて、今度はさらに意外な人物まで姿を現し始めた。
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ゲームマスター蓬莱
カリスマって何かしら?ゲームのステータス?
山菜専門家もこう
違うだろ
ゲームマスター蓬莱
じゃあ何?
山菜専門家もこう
知らん
マジックキノコ
知らないのに否定するのかよ
狂気のウサギ
姫様、そろそろ夕食のお時間です
ゲームマスター蓬莱
あと5分
ムーンドクター
その5分は何度目ですか?
ラッキーラビット
師匠もニトッターやってるんだ
ムーンドクター
貴方たちが仕事をしているか確認するためよ
ラッキーラビット
げっ
狂気のウサギ
てゐ!?
ゲームマスター蓬莱
みんなここにいるじゃない
山菜専門家もこう
お前ら何やってんだ……
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蓬莱山輝夜をはじめとした永遠亭の住人たちまで、いつの間にかニトッターを利用し始めていた。
普段は迷いの竹林の奥で暮らしている彼女たちが、こうして外部の者と気軽に交流できるようになったのも、ニトフォンの普及による変化の一つである。
もっとも、投稿内容を見る限り、永遠亭の内部事情が以前よりも周囲に知られやすくなっただけのようにも思えた。
それにしても、なぜ誰も彼も自分の投稿を連絡掲示板のように扱うのだろう。
「……私のカリスマの話はどこへ行ったのかしら」
レミリアは小さく呟いた。
しかし、そんな彼女の不満をよそに、ニトッター上の会話はますます混沌としたものになっていく。
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さるの
あたいもカリスマあるぞ!
偉大な妖精
チルノちゃんすごいね!
さるの
あたいさいきょーだからな!
カリスマ王レミリア
カリスマと強さは別の概念よ
さるの
じゃああたいは両方ある!
マジックキノコ
無敵だな
賽銭大好き
そうね
破壊神フランドール
お姉様よりカリスマありそう
カリスマ王レミリア
フラン!?
まっくろくろすけ
そーなのかー
眠らない門番
皆さん、お嬢様は本当に素晴らしい方なんですよ!
引きこもり魔女パチュリー
美鈴、門番の仕事は?
眠らない門番
ちゃんとやってます!
瀟洒なメイド長
美鈴
眠らない門番
はい
瀟洒なメイド長
門の前でニトフォンを触っているのが見えます
眠らない門番
えっ
マジックキノコ
草
賽銭大好き
便利な時代になったわね
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紅魔館の正門前。
門柱の傍らに立っていた紅美鈴は、手元のニトフォンを見つめながら、ゆっくりと顔を上げた。
視線の先には、いつもと変わらない紅魔館の庭園が広がっている。
そして、遠くに見える館の窓。
そこに誰かが立っているような気がした。
「…………」
美鈴は静かにニトフォンを懐へしまい込んだ。今日も紅魔館は平和である。
少なくとも、門番としての職務を果たしている限りは。
◇ ◇ ◇
さて、ここまで来るとレミリアも黙ってはいられなかった。
せっかく自分の名を冠したアカウントを作り、カリスマについて堂々と発信したというのに、寄せられる返信の大半が冗談や雑談ばかりなのである。
これでは、紅魔館の主としての威厳が伝わらないではないか。
レミリアは一度ニトフォンを置くと、傍らに置かれたティーカップを手に取った。
香り高い紅茶を一口含み、気持ちを落ち着ける。
確かに、文章だけでは自分の魅力を十分に伝えきれていないのかもしれない。
それならば、別の方法を試してみればよい。
幸いなことに、ニトフォンには写真を投稿する機能が備わっている。
実際、魔理沙があちらこちらで写真を撮影していることは、レミリアも聞いていた。
自分の姿を直接見せれば、口先ばかりの連中も少しは考えを改めるだろう。
「咲夜」
「はい、お嬢様」
「写真を撮るわ」
レミリアは椅子から立ち上がると、自信満々に胸を張った。
「私のカリスマを、幻想郷中に見せつけてあげるのよ!」
その宣言に、咲夜は恭しく頭を下げた。
「かしこまりました。では、お嬢様が最も美しく映るように撮影いたしましょう」
普段から主人の世話を任されているメイド長にとって、写真撮影など大した仕事ではない。
もっとも、レミリアの求めるものが単なる記念写真ではない以上、多少の工夫は必要だろう。
咲夜は部屋の照明を調整すると、背景に余計なものが映り込まないよう周囲を整えた。
その間、レミリアは大きな椅子へ腰掛け、片肘を肘掛けに乗せながら、いかにも尊大な表情を作っている。
背後には重厚な赤いカーテン。
傍らには美しい装飾の施されたテーブル。
そこに座る紅魔館の主は、確かに一枚の絵としては申し分のない姿だった。
「お嬢様、もう少し右を向いていただけますか」
「こう?」
「はい。そのままで」
咲夜がニトフォンを構える。
小さな電子音とともに、画面の中へレミリアの姿が収められた。
出来上がった写真を確認したレミリアは、満足そうに頷いた。
「完璧ね」
「ええ、大変お美しゅうございます」
「ふふ、これなら文句も言えないでしょう」
彼女は早速、撮影したばかりの写真をニトッターへ投稿した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ニトッター】
カリスマ王レミリア
これが紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。
我が威厳を存分に感じなさい。
【豪奢な椅子に腰掛け、尊大な笑みを浮かべるレミリアの写真】
【返信】
瀟洒なメイド長
素晴らしいですお嬢様!
破壊神フランドール
お姉様いつもそんな座り方してないじゃん
カリスマ王レミリア
今それを言う必要ある!?
引きこもり魔女パチュリー
撮影に15分かけてたわね
カリスマ王レミリア
パチェ!?
マジックキノコ
なんか偉そうだな
賽銭大好き
実際偉そうじゃない
眠らない門番
かっこいいですお嬢様!
常識に囚われない元女子高生
おお!すごい!お姫様みたいですね!
カリスマ王レミリア
ふふ、なかなか見る目があるじゃない
土着神ケロちゃん
背伸びしてる子供みたいでかわいいね
カリスマ王レミリア
子供じゃないわ!
御柱風神
諏訪子、相手は吸血鬼なんだから少しは敬意を払いなさい
土着神ケロちゃん
神様だからいいじゃん
マジックキノコ
そういう問題か?
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レミリアは画面を見つめたまま、額に青筋を浮かべていた。
なぜだろう。どうしてこうなるのだろう。
せっかく咲夜に撮影してもらった完璧な写真だというのに、肝心の返信は相変わらず好き勝手な内容ばかりだった。
しかも、妹と友人が揃って撮影の裏事情を暴露している。
これでは格好がつかない。
「フラン……パチェ……!」
レミリアが低く唸ったところで、さらに通知が届いた。
どうやら、今度は写真の投稿をきっかけに新しい利用者まで集まってきたらしい。
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腹ペコゴースト
素敵な椅子ねえ
ハンターハンターヨウム
幽々子様、そこですか?
腹ペコゴースト
お茶菓子も美味しそうだわ
ハンターハンターヨウム
写真の主役を見てください!
カリスマ王レミリア
そうよ!私を見なさい!
腹ペコゴースト
あら、可愛い吸血鬼さんね
カリスマ王レミリア
可愛いじゃなくて威厳よ!
さとりの部屋
随分と賑やかな話題ですね
無意識な石
お姉ちゃんもカリスマあるよ!
さとりの部屋
こいし、突然何を言い出すの?
死体キャット
さとり様は偉大ですからねえ
メガフレア
さとり様さいこー!
マジックキノコ
なんか別のカリスマが生まれてるぞ
パルパル
随分と慕われてるのね。妬ましいわ
スパイダーヤマメ
あんたは相変わらずだねえ
桶の神様
桶
賽銭大好き
突然の桶
マジックキノコ
何の話してたっけ?
カリスマ王レミリア
私の話よ!!!
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「もうっ!」
とうとうレミリアは、ニトフォンを握りしめたまま椅子から立ち上がった。
先ほどまで優雅に紅茶を飲んでいた吸血鬼の面影は、すっかり消え失せている。
そもそも、なぜ自分の投稿に地底の住人たちまで現れているのか。
そして、なぜ突然桶が登場するのか。これでは話題の収拾がつかないではないか。
「咲夜! どういうことなの!」
「申し訳ございません、お嬢様。私にも少々理解が追いつきません」
さすがの咲夜も、こればかりはどうしようもなかった。
普段なら主人の望みを先回りして叶える彼女であっても、幻想郷中の住人の発言を制御することなど不可能である。
しかも、返信が増えるにつれて話題はますます脱線していた。
どうやら、これがニトッターというものらしい。
誰かが発言すれば別の誰かが反応し、その返信にさらに別の誰かが口を挟む。
最初の投稿者が何を言いたかったのかなど、途中から誰も気にしなくなることすらある。
外の世界ではありふれた光景なのかもしれないが、幻想郷の住人たちにとっては、まだまだ新鮮な遊びだった。
そして、そんな状況を面白がる者が現れないはずもなかった。
◇ ◇ ◇
妖怪の山。
山の中腹にある建物の一室で、射命丸文は机に向かいながらニトフォンを操作していた。
彼女もまた、発売と同時に端末を手に入れた一人である。
幻想郷で新聞記者として活動する文にとって、遠く離れた場所の出来事を素早く知ることのできるニトッターは、非常に魅力的な情報収集手段だった。
何しろ、自分が現場へ足を運ばなくとも、住人たちが勝手に日常の出来事を発信してくれるのである。
もちろん、投稿された内容が全て真実とは限らない。
しかし、何が話題になっているのかを知るだけでも、新聞記者としては十分に価値があった。
そんな文の目に、ある投稿が飛び込んできた。
「おや?」
画面には、紅魔館の主が堂々と椅子に腰掛けた写真が表示されている。
その下には大量の返信が寄せられ、何やら楽しげなやり取りが続いていた。
文はそれらを一通り読み進めると、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「これは……なかなか面白いですねえ」
彼女は早速、ニトフォンの画面を操作した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
パパラッチ天狗
【速報】
紅魔館当主レミリア・スカーレット氏、自らをカリスマ王と称する。
なお関係者からは「もう落ちている」「背伸びしている子供」などの証言。
カリスマ王レミリア
文!!!!!
パパラッチ天狗
あややや、早速ご本人から反応が!
マジックキノコ
仕事早すぎるだろ
賽銭大好き
もう記事になってるじゃない
モフモフ天狗
文様、新聞の仕事はどうしたんですか?
パパラッチ天狗
これも立派な取材ですよ、椛
モフモフ天狗
そうですか……
厄ブレード
カリスマが落ちるというのは厄に当たるのでしょうか?
カリスマ王レミリア
落ちてないわよ!
酒大好きゆーぎ
おっ、面白そうなことやってるじゃないか!
すいかだよ
宴会の話?
酒大好きゆーぎ
違うみたいだねえ
すいかだよ
なんだー
カリスマ王レミリア
もう誰か話を聞きなさいよ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
文の投稿は、それまでレミリアのことを知らなかった利用者にまで広まっていった。
ニトッターには、気に入った投稿を他の利用者へ紹介する機能が備わっている。
面白いと思った投稿を再び共有すれば、その投稿はさらに多くの者の目に触れることになる。
そして、幻想郷に暮らす住人たちは、どうやら面白そうな騒ぎを見つけることにかけては非常に優秀らしかった。
気づけば、レミリアの写真は数多くの利用者に共有され、元の投稿を知らない者まで話題に参加するようになっていた。
さらに厄介なことに、ニトッターには特定の話題をまとめて表示する機能まで用意されている。
その機能によって、今まさに一つの言葉が急速に注目を集め始めていた。
――カリスマ。
もちろん、本来の意味で注目されていたわけではない。
むしろ、その言葉を自称する紅魔館の主と、周囲の遠慮のない反応が面白がられていたのである。
しかし、そんな事情など関係なく、表示される数字は増え続けていった。
◇ ◇ ◇
再び紅魔館。
レミリアは疲れたように椅子へ身を沈めていた。
少し前までは、幻想郷の住人たちに自分のカリスマを知らしめる絶好の機会だと考えていた。
だが、今となっては、その考えも少々甘かったと言わざるを得ない。
ニトッターという場所では、発言した言葉が必ずしも自分の意図したとおりに受け取られるわけではないらしい。
それどころか、少しでも面白い要素があれば、勝手に話が膨らんでいく。
レミリアはそのことを、身をもって理解し始めていた。
「……まったく、くだらないわね」
不満そうに呟きながらも、彼女の指はニトフォンの画面を操作し続けていた。
新しい返信が届けば、つい確認してしまう。
誰かが自分の名前を出していれば、何を言っているのか気になってしまう。
そして、妙なことを書かれていれば、黙っていられない。
気づけば、彼女は先ほどからずっとニトッターを眺めているのだった。
そのとき、不意に扉が開いた。
「お姉様、何やってるの?」
顔を覗かせたのは、妹のフランドールである。
姉と同じく吸血鬼であり、背中には七色の結晶が連なる特徴的な翼を持つ少女だった。
レミリアは妹の姿を見るなり、じろりと睨みつけた。
「フラン。あなたねえ、少しは姉を敬うということを覚えなさい」
「えー? ちゃんと敬ってるよ?」
「どこがよ!」
フランドールは不思議そうに首を傾げると、自分のニトフォンを取り出した。
その画面には、先ほどのレミリアの写真が表示されている。
「だって、お姉様の投稿、すっごく人気だよ?」
「……え?」
「ほら、みんな見てる」
そう言われて、レミリアは改めて自分のニトフォンへ視線を落とした。
すると、確かに投稿に付けられた評価や返信の数が、最初に確認したときとは比較にならないほど増えている。
しかも、フォロワーと呼ばれる、自分の投稿を継続的に閲覧する利用者の数まで大きく伸びていた。
「……本当だわ」
レミリアは目を瞬かせた。
なるほど。
確かに返信の内容は不満だらけだったが、結果として自分の存在は多くの者に知られることになった。
考えてみれば、これも一種の成功ではないだろうか。
本人たちがどのような意図で話題にしていようと、紅魔館の主としての知名度が高まったことに変わりはない。
「ふ、ふふ……」
レミリアの口元に笑みが戻り始めた。
「そうよね。結局のところ、私のカリスマは隠しきれないということなのよ」
「そうかなあ?」
「そうなの!」
妹の疑問を勢いよく遮ると、レミリアは再び画面を操作した。
ここまで注目されているのなら、最後に一言くらい書き込んでおくべきだろう。
何しろ、自分はカリスマ王なのだから。
数々の無礼な返信にも動じず、堂々と締めくくってこそ、紅魔館の主に相応しい。
レミリアは満足げに頷くと、新たな文章を投稿した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カリスマ王レミリア
随分と盛り上がっているようね。
まあ当然かしら。
これが私のカリスマというものよ。
【返信】
賽銭大好き
まだ言ってる
マジックキノコ
懲りないなあ
破壊神フランドール
お姉様ほんと面白いね
引きこもり魔女パチュリー
ある意味才能ね
眠らない門番
お嬢様すごい人気ですね!
瀟洒なメイド長
流石でございますお嬢様!
美少女ゆかりん
まあ注目されることも才能の一つよね
油揚げ九尾
紫様、そろそろ夕食のお時間です
美少女ゆかりん
あと五分
ゲームマスター蓬莱
分かるわ
ムーンドクター
姫様
ゲームマスター蓬莱
はい
カリスマ王レミリア
なんで私の投稿で家庭内連絡してるのよ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「もう嫌っ!」
レミリアはとうとうニトフォンをテーブルへ置いた。
いくら何でも自由すぎる。
せっかく格好よく締めくくろうとしたのに、最後はまたしても他人の家庭事情で終わってしまった。
しかも、当の本人たちは悪びれる様子もない。
これでは、どれほどカリスマを示そうとしても、全く意味がないではないか。
レミリアは深々とため息をつくと、傍らに置かれた紅茶へ手を伸ばした。
すっかり冷めてしまったそれを一口飲み、ようやく気持ちを落ち着ける。
「……咲夜」
「はい、お嬢様」
「ニトッターというものは、随分と騒がしい場所なのね」
「そうですね。皆様、随分と楽しんでいらっしゃるようです」
咲夜は穏やかに答えた。
確かに、ニトフォンが発売されてからというもの、幻想郷の住人たちは以前にも増して気軽に言葉を交わすようになっていた。
これまでは顔を合わせる機会のなかった相手同士が、何気ない投稿をきっかけに交流することも珍しくない。
もちろん、今回のように一人の発言が思わぬ方向へ広がっていくこともある。
だが、それもまた新しい文化の一つなのだろう。
そんなことを考えていた咲夜だったが、ふと主人が小さく笑っていることに気づいた。
「……でも、悪くないわね」
「お嬢様?」
「こうして皆が私の言葉に反応するというのも、なかなか面白いじゃない」
レミリアは再びニトフォンを手に取った。
その画面には、今も新しい返信が届き続けている。
中には自分をからかうような内容も多かったが、少なくとも退屈することはなさそうだった。
それに、これほど多くの者と同時に会話をする機会など、紅魔館に閉じこもっているだけでは滅多に訪れない。
いつもの霊夢や魔理沙だけではない。
妖怪の山の神々、迷いの竹林の住人、地底の妖怪たち。
普段は接点の少ない者たちまで、一つの話題を通じて集まってくるのである。
これを面白がらないというのも、少々もったいない話だった。
「ふふ……次は何を投稿しようかしら」
レミリアは楽しそうに画面を眺めた。
先ほどまでの怒りは、すっかりどこかへ消え失せている。
もっとも、その様子を見守る咲夜には、一つだけ気になることがあった。
主人はどうやら、今日だけで相当な時間をニトッターに費やしているらしい。
この調子では、今後さらに熱中してしまう可能性もある。
とはいえ、普段は退屈そうに過ごしていることも多い主人が、新しい娯楽を見つけたというのなら、それ自体は喜ばしいことでもあった。
咲夜は小さく微笑むと、静かにティーポットを持ち上げた。
「お嬢様、お茶のおかわりをお持ちいたしますね」
「ええ、お願いするわ」
そう答えたレミリアの視線は、すでにニトフォンの画面へ戻っていた。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして。
妖怪の山にある河童の作業場では、にとりがニトッターの利用状況を確認していた。
ニトフォンの発売から日が浅いこともあり、通信設備の稼働状況や利用者数の推移を調べることは、現在の彼女にとって重要な仕事の一つである。
特にニトッターは、想像以上の勢いで利用者が増えていた。
当初は簡単な連絡や情報交換に使われる程度だろうと考えていたのだが、どうやら幻想郷の住人たちは、もっと自由な使い方を見つけたらしい。
「へえ……ずいぶん盛り上がってるねえ」
にとりは端末に表示された投稿数を確認しながら、感心したように呟いた。
こうして利用者が積極的にサービスを使ってくれることは、開発者として実に嬉しい。
通信設備の維持や追加生産など、まだまだ仕事は山積みだが、それだけ需要があるという証拠でもある。
ふと、人気のある話題を表示してみる。
すると、ある単語が目に飛び込んできた。
――カリスマ。
「……カリスマ?」
にとりは首を傾げた。
なぜそんな言葉が話題になっているのだろう。
不思議に思って投稿を開いてみると、そこには紅魔館の主であるレミリアの写真と、それに対する大量の返信が表示されていた。
内容を読み進めるうちに、にとりの口元が徐々に緩んでいく。
「……ぷっ」
思わず笑い声が漏れた。
どうやら、自分が開発したニトッターは、想像していた以上に愉快な場所になっているらしい。
せっかくなので、にとりも一言だけ書き込むことにした。
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ニトッター公式
皆様、ニトッターをご利用いただきありがとうございます!
おかげさまで大盛況です!
マジックキノコ
お、にとりじゃないか
賽銭大好き
あんたも見てたのね
ニトッター公式
もちろん!開発者だからね!
カリスマ王レミリア
にとり!あなたが管理者なら、この失礼な連中をどうにかしなさい!
ニトッター公式
え?
カリスマ王レミリア
私のカリスマを誰も理解していないのよ!
ニトッター公式
……仕様です
マジックキノコ
草
賽銭大好き
便利な言葉ね
破壊神フランドール
仕様なら仕方ないね!
引きこもり魔女パチュリー
そうね
カリスマ王レミリア
納得できるわけないでしょう!!!
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にとりは画面を見ながら、とうとう声を上げて笑い始めた。
幻想郷には、様々な性格の住人がいる。
妖怪もいれば人間もいる。神々や幽霊もいれば、妖精のように気ままな存在もいる。
そんな者たちが、同じ場所で自由に言葉を交わす。
考えてみれば、最初から賑やかにならないはずがなかったのだ。
もっとも、その結果として紅魔館の主がここまでからかわれることになるとは、さすがのにとりも予想していなかった。
「いやあ、これは面白いもの作っちゃったねえ」
にとりは満足げに笑いながら、再び利用状況の確認へ戻った。
一方、その頃の紅魔館では。
「にとりいいいいいっ!!」
主人の怒声が、館の廊下にまで響き渡っていた。
その声を聞いた咲夜は、手にしていたティーポットを見下ろすと、何とも言えない表情で小さくため息をついた。
どうやら、今日も紅魔館は平和らしい。
こうして幻想郷に誕生した新たな交流の場『ニトッター』は、発売からわずかな期間で、多くの住人たちの日常へ溶け込み始めていた。
そして、その記念すべき最初の大きな話題として、紅魔館の主レミリア・スカーレットの名が刻まれることになったのである。
もっとも、本人が望んでいた意味でのカリスマが広まったのかどうかについては、甚だ疑問が残るところではあったが。
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カリスマ王レミリア
明日こそ私の本当のカリスマを見せてあげるわ
破壊神フランドール
毎日言ってるね
賽銭大好き
明日もやるの?
マジックキノコ
楽しみにしてるぜ
引きこもり魔女パチュリー
やめておきなさい
瀟洒なメイド長
明日も楽しみですお嬢様!
美少女ゆかりん
期待しているわね
油揚げ九尾
紫様、もう寝てください
美少女ゆかりん
あと五分
ゲームマスター蓬莱
分かるわ
ムーンドクター
姫様もです
カリスマ王レミリア
だから私の話をしなさいよ!!!!
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