君の腕の中で死にたい。   作:何も遺せなかったと思い込むシチュが好き


オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:R-15 残酷な描写 転生 聖女 殉愛
君は誰にでも優しくて、清らかで、温かい。そんな君の、腕の中で死にたい。

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君の腕の中で死にたい。

 僕は、というか生物は皆、死ぬために生まれてくる。その運命の中で各々足掻いて、意味や価値を見出す。

 

 

「ごめんね」

 

 

 謝罪と共に、鹿の首を折る。今はこれが僕の役目だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「狩ってきたよ、皆」

 

「おぉ……いつもありがとうねぇ……」

 

 

 僕の住む村は規模が小さく、二、三頭も狩ればしばらくは食事に困らない。加え、村の若人は僕ともう一人のみ。要するに限界集落だった。

 

 

「おかえりなさい、ネミさん」

 

「うん。ただいま、エルデ」

 

 

 もう一人の若者は『エルデ』という女の子。こんな僕とは不釣り合いなほど、清廉な存在だった。あ、ちなみに僕の名前は『ネミ』。

 

 

「お疲れさまでした。お怪我はございませんか?」

 

「大丈夫。かすり傷一つ無いよ」

 

 

 炊事場にてよっこいしょと鹿を降ろし、調理を始める。残った部分はある程度保存が効く食べ物にしなければ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「主よ、そしてネミさん。今日のお恵みに感謝いたします」

 

 

 静かな湖面。一枚の柔羽。穏やかに戦(そよ)ぐ風。それが彼女だった。

 

 朽ちていくこの集落の中で、彼女が説く教えだけが寄る辺となっていた。

 

 エルデは、僕の太陽(みなもと)であり、月(みちしるべ)であり、杖(いきがい)だった。

 

 だけど、彼女は将来的に死ぬ。それは絶対の運命。だから剣を振るった。誰にも、何者にも負けないほど強くなるために。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「精が出ますね、ネミさん」

 

「ふっ、ふっ……もっと、僕はもっと強くならないといけないからね」

 

 

 木から切り出した剣を振るう。血豆ができても構わずに。

 

 僕は転生者だ。そしてこの世界は、前世で見た創作物が元になっている。

 

 内容は単純だ。世界を脅かす魔王に立ち向かう勇者パーティーの話。幾度となく使い古されたシチュエーション。

 

 だけど一つ確定していることがある。それは魔王討伐の際、エルデが死亡するという結末だ。

 

 

 

 

 ──許せない。

 

 

 

 

 誰よりも優しく、清らかな彼女が死ななければならない? そんな終わり方、認めるものか。

 

 だから……ああ、そうか。僕はきっと、彼女を救うために生まれてきたんだ。であれば、相応の生き方をしよう。できればその腕の中で死ねれば万々歳だ。

 

 今日も剣を振るう。彼女の死に、抗うために。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……そうか……あのおばあさん、亡くなったんだ」

 

「……はい。弔いは済ませました」

 

 

 死はいつか、誰の元にも訪れる。だから命は美しく、尊い。

 

 僕はエルデが好きだ。前世の記憶は限りなく薄れているけど、エルデの存在は熱く灼きつけられていた。

 

 綺麗な人だった。外見もそうだけど、在り方が綺麗だと思った。

 

 そんな彼女が"終わる"様を、僕はハッキリと"予見(み)"た。だから変えないといけない。終わりから、足掻かねばならない。

 

 

「近いうちに集会が執り行われます。……私たちの行く末を、決めるためだとか」

 

「となると……もうそろそろか」

 

「? 何のお話ですか?」

 

「ああなんでもない。気にしないで」

 

 

 この集落はかつてなく限界に近かった。老人たちからエルデと僕は子供を作らないのかという気持ち悪い無言の圧を受けていたけれど、僕らはまだ成人にもなっていない。

 

 僕の両親は集落を襲った獣と相打ちになる形で死亡。エルデの出世は……原作でも細かく言及されていなかったから、分からない部分が多い。ただ一つハッキリしていることは、彼女は外の世界を知っているということだ。神への祈り方を熟知しているのだから。

 

 そして、もうそろそろというのは魔王軍が本格的に勢力を増し始めるということ。集会の際エルデは魔物に襲われ、窮地の場面を原作主人公に助けられる。そこから物語は始まる。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ではこれより、第六十七回会合を始め──」

 

「すみません。その前に、僕からお願いがあります」

 

「む? 珍しいな、ネミが人の話を遮るなど。理由を聞かせてくれ」

 

「はい。その前に皆さん、僕の後ろに固まってください。……ほら来た」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 建物を突き破り現れた魔物。僕は剣代わりに薪割り用の斧を構えた。

 

 

「セイッ!」

 

 

 首に一閃。どうやら"造り"は普通の生き物と似通っているらしい。沈黙した。

 

 

「ね、ネミさん……? 今のは一体……」

 

「エルデ。これで終わりじゃない。君も、僕の後ろにいて。守れなくなる」

 

 

 さて、原作の始まりのために頑張ろう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふー……まだ、なのか?」

 

 

 そろそろ斧が壊れる。素手で戦うには僕の能力だと弱すぎる。

 

 

「■■■■ッ!」

 

「あ、まず──」

 

「ネミさんっ!!」

 

 

 ……いってー……。それと、熱い。動脈は避けたが引っ掻かれた所から血が吹き出る。

 

 

「ハァ……ハァ……せめてみんなを逃がせれば……」

 

 

 僕が手遅れになる前にエルデたちを逃がしたかったが、老人たちは遅すぎる。そしてそんな彼らをエルデは放っておけないだろう。

 

 まだか原作主人公。こんなに遅いなんて聞いてないよ。あー……せめて君(エルデ)の腕の中で死にたいなぁ……。

 

 

「■■■■ッ!」

 

「あ──」

 

「ダメぇッ!!」

 

 

 瞬間、追撃を受けて意識を失う僕の背後から凄まじい光が放たれた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うーん……」

 

 

 何か、どこかが痛む。最後に覚えているのはエルデの叫び。あんな必死な声初めて聞いたなぁ……。

 

 あの光は聖女として選ばれた者しか放てない破邪の爆光。原作より早めに覚醒したんだなぁ……。

 

 ……そうだ。僕は力尽きたけど、彼女はどうなった……?

 

 

「うーん……ん?」

 

「ネミさん!? 目を覚まされたのですか!? ……よかった……生きていて、くれた……」

 

「ここは……」

 

「王国の病室です。私たちの身柄は国に引き取られました」

 

 

 エルデはそう言い切ってから、安心したように胸を抑えた。心配させちゃったな。僕が未熟なばかりに……。

 

 

「あ、患者さん起きましたか」

 

「あ〜……はい、なんとか」

 

 

 これから僕はどうなるのだろう。こんな力不足で勇者パーティーに入れるかなぁ……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よ、お前か? 魔物の群れ相手に大立ち回りを演じた奴ってのは」

 

 

 退院し、国の外れにある広間でいつも通り素振りをしていると彼が現れた。

 

 

「ん? そうだけど……君は?」

 

「オレはアント。なあ、一緒に魔王ぶっ倒そうぜ!」

 

「いいよ」

 

「軽っ! ……マジでいいのか?」

 

「君、強そうだし」

 

 

 そうか、アントだ。中々思い出せなかったけど、それが原作主人公の名前だ。

 

 

「そうそう、エルデって子がいるんだけど……」

 

「ああ、エルデならさっき勧誘したぜ。オッケーだってよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 彼女は自分の命を簡単に捧げてしまう。だからこそ、僕がその結末を変えるんだ。

 

 

「よし、そうと決まれば特訓だ! 入団するぞ!」

 

 

 そうそう、修行パートもあるんだった。確かエルデの力は魔法ではないため教会で色々学んでいくんだったな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 まず説明すると、僕が国に受け入れられた理由は並外れて強かったから。何もできない弱者では時世の波に呑まれていただろう。

 

 次いで、エルデが受け入れられた理由。これは聖女にしか扱えない『光』を扱えるようになったからだ。

 

 同じ集落にいた老人たちはその年にしてはキツめの仕事を強制的にさせられている。タダ飯喰らいを保護するほどこの世界は優しくない。

 

 で、現在の僕たちといえば。

 

 

「やるぞ、ネミ! 今日こそお前に勝ってみせる!」

 

「いいよ」

 

 

 僕は周囲と比べてとりわけ強かった。それは騎士団に入っても変わらなかった。

 

 アントはやはり主人公らしく、何度僕に打ちのめされても果敢に立ち向かってくる。成長曲線も高い。僕もうかうかしてられないな。

 

 

「お前らよーやるなー。どんだけタフネスあんだよ」

 

「こ、こっちはこ、こんなに疲れてるのに……同じ訓練してなんで動けんだ……」

 

 

 僕とアントの試合にはいつの間にか見物客ができるようになっていた。で、そんな騒ぎを起こす僕らは当然問題児として扱われるようになり。

 

 

「随分と元気がいいな、貴様ら……」

 

「げ、教官!?」

 

 

 教官の登場により冷汗ダラダラのアント。僕は如何なる処罰を受けようと構わなかったから、毎回試合を断らなかった。

 

 

「よろしい。斬り結ぶ余裕が無くなるまでしごいてやる。罰走ッ!!」

 

「「ッ!!」」

 

 

 騎士団入りしてまだ一年。しかし教官の命令は脳内奥深くにまで刻まれていて、僕たちは無条件で従うようになっていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はっ、はっ、はっ、悪いなネミ。毎度オレに付き合わせて」

 

「はっ、はっ、強くなりたいし、罰走も嫌いじゃないから大丈夫だよ」

 

「頑強だなお前……」

 

 

 教官の指示。それは『体力が潰えるまで走れ』、というもの。

 

 成長に近道は無い。体力作りのためにも、自分の限界は知っておきたかった。

 

 そんなこんなで数時間が経ち。

 

 

「ゼーッ、ゼーッ……も、もう無理……」

 

「ハァ……ハァ……ぼ、僕も……」

 

 

 気づけば夜は明けて、僕らは地面に体を横たえた。監視の目がなくなっても体力の温存はできそうになく、完全に精根尽き果てた。

 

 

「と、とりあえず隊舎戻るか……」

 

「うん……」

 

 

 無い無いの体力を振り絞り立ち上がる。すると、アント以外の気配を感じた。

 

 

「お疲れ様です、ネミさん。アントさん」

 

「……うぇ? なんでエルデがここに……?」

 

 

 アントの疑問も尤もだ。ここは兵士以外立ち入ることはできない。それに今は明け方だ。草木もまだ静まり返っている。

 

 

「隊の方からお二人が罰走していると聞き及んだもので。今日も頑張れるよう、祝福をお捧げできればと」

 

「で、でもいいのエルデ? 勝手に力使ったら君まで処罰受けるかもしれないよ?」

 

「そうかもしれませんね。ですが、私がそうしたいと思ったので」

 

 

 淡い光に包まれ、僕とアントの体力は回復していく。

 

 この世界に魔力はあっても魔法は無い。その代わり、聖女にしか扱えない癒しと封魔の光がある。

 

 

「これでよし。それでは、失礼しました」

 

「おー……あ、ありがとなーエルデー!」

 

「僕からも、ありがとう、エルデ」

 

「ふふ、またいつでもお呼びください」

 

 

 処罰を受ける危険を背負いながら僕らを癒してくれる。そういったところもやっぱり聖女だなぁと思った。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 僕たち騎士団は今、教会に来ていた。その目的はただ一つ。

 

 

「お疲れ様でした、皆さん。どうぞ祝福をお受け取りください」

 

 

 光が教会を包み込む。僕たち騎士団はその輝きに癒されていた。逆を言えばそれで体力を強制的に回復させられるため、訓練の時間は増える。

 

 

「なあネミ、お前エルデさんとはどんな関係なんだ?」

 

 

 帰寮中、誰かが投げかけたその問いで、僕に全意識が向けられた。

 

 

「幼馴染みたいなものです。故郷が一緒なので」

 

「……じゃあ、付き合ってとかは……」

 

「ないですね」

 

「「「ッッッっし!!」」」

 

 

 ガッツポーズをする団員の皆。あー、はいはい、そういうことか。

 

 エルデはモテモテだった。男臭い騎士団にとって数少ない清涼剤なのだから、当然か。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ネミ、エルデ誘って祭り行こうぜ!」

 

「衛兵役はどうするの?」

 

「俺たちまだ見習いだからそんな大役任されねえって。……まあ俺ら誰よりも強いけど、教官からも許可降りたし」

 

「よくネゴシエートできたね……教官相手に……」

 

 

 入団して二年。鍛えて鍛えての毎日。しかし今日だけは違う。

 

 三年に一度行われる、国総出のお祭り。商人はこぞって店を出し、民衆はその空気を楽しむ。

 

 教会で修行を続けているエルデも今日はフリー。アントの手早さには舌を巻かされる。

 

 

「いいよ。行こうか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よろしかったのですか? お二人の間にお邪魔して……」

 

「君がいないと始まらないよ。ねえ、アント」

 

「そーだぜエルデ。お前がいての俺たちなんだから」

 

 

 三年に一度なだけあって賑わいは凄かった。

 

 広場を駆ける子供、ニコニコと微笑む親、商人の快活な声。どれも祭りという特別感に彩られている。

 

 

「お、串焼きあんじゃん。お前ら食うか?」

 

「じゃあ一本お願いしようかな」

 

 

 そう言って、今度はエルデに目を向ける。

 

 

「お前んちの戒律的に肉って食えるの?」

 

「家畜を殺めることはできませんがお供物を受け取ることはできます」

 

「意外と優しいんだな」

 

 

 『意外と優しいんだな』、というのは僕の内心でもあった。

 

 

「よし、じゃあ行ってくる」

 

 

 僕とエルデからお金を受け取り串焼きの屋台へ駆け出していくアントを、僕たちは眺めていた。

 

 

「……私たち、変わりましたね」

 

「そう? 君は相変わらず清らかだと思うけど」

 

 

 狩る僕。迎え、祈るエルデ。あの村にいた頃は毎日が平穏だった。だが、今の環境がなければ到底魔王は倒せないだろう。

 

 

「ネミさん。少し、お話を聞いていただけますか」

 

「僕でいいなら、いくらでも」

 

 

 茶化せるような雰囲気ではない。僕は襟を正すように、裾を整えた。

 

 

「私がネミさんの村に来た理由は──」

 

 

 伏線じみた告白ではない、ただの身の上話。それでもどうしてあの村に来たのか、どうして両親がいないのか、よく分かった。

 

 

「……すみません、祭りの場には相応しくないお話でした」

 

「いや、いいんだ」

 

「おーいお前らー、買ってきたぞー」

 

 

 ベストタイミングでやってかたアント。串焼きを齧り、そろそろ揚がるであろう花火を見るため、足を動かした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「なんつーか……俺ら、強くなりすぎたか?」

 

「魔王を倒すために足りすぎるなんてことはないよ」

 

 

 今日も僕とアントは試合をして、教官から罰走の号令を受けた。しかし長らくこの生活を続けていたおかげか全く疲れが湧かない。

 

 僕たちは気づけば成人になっていた。その情緒を噛み締める暇もなく、その時は訪れるだろう。

 

 

「明日の重大発表ってなんなんだろうな」

 

「……僕たちは、強くなったから。あらかた予想はつく」

 

 

 忘れるな。僕が生まれた意味を。

 

 ……それでもせめて、叶うなら。

 

 エルデ。君の腕の中で死にたい。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「それでは、参りましょうか」

 

「俺たちはいいけど……お前は大丈夫なのか? 体力的に……あ、そうか、お前は癒しの光を使えるのか」

 

 

 迎えた旅立ちの日。パーティーは僕とアント、エルデの三人。原作では二人きりだったことを考えるといくらか武力は増えただろう。

 

 重大発表というのは、僕たちが魔王討伐の部隊に選ばれたという報告だった。適齢期を迎えていたし『だろうな』と思ったことが記憶に新しい。

 

 さて、行こうか。

 

 僕は、死兵だ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「なんか……思ってたより温(ぬり)ぃな」

 

「でも油断はできないよ。旅はまだ始まったばかりだからね」

 

 

 魔王の城に向かう道中は、恐ろしいほどに平穏そのものだった。

 

 出会う魔物も赤子の手をひねるように屠れる。僕たちの鍛錬は無駄ではなかったことを自覚した。

 

 

「ネミ、魔力探知頼む」

 

「うん」

 

 

 短いやり取りの後、敵性存在の探知を行う。生物には皆魔力があり、意識を薄く張り巡らせることで魔物の存在を確認できる。

 

 

「敵影無し」

 

「よし、飯にすっか。俺魚獲ってくるからネミはエルデの護衛と火起こし頼む」

 

「分かった」

 

「どうかお気をつけください、アントさん」

 

 

 アントが狩りに向かう間、僕とエルデは何も喋らなかった。なんとなくそうする空気ではなかった。

 

 だからこそ、僕は口火を切った。

 

 

「ねえ、エルデ。戦いが終わったら、どうしたい?」

 

「私……ですか? そうてすね……」

 

 

 しばらく考え込んでいる彼女だったが、僕の顔を見てハッとしたように微笑み、

 

 

「ネミさんと、これからを生きたいです」

 

「……そう、なんだ」

 

 

 それは叶わない夢。僕の理想は、君の腕の中で死ぬことだから。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「流石に魔王城付近の魔物は強いな。まあ俺らからすれば造作もないことだが」

 

「そうだね。……できるだけエルデの力はバラしたくないから、派手な戦いはできないな……。あ、エルデ足元気をつけて」

 

「っ、と。ありがとうございます」

 

 

 魔物を殺した。魔族を殺した。僕たちは、立ちはだかる全てを殺し尽くしてきた。

 

 

「こりゃまた、派手にやりましたなぁ」

 

「「ッ!?」」

 

 

 背後を取られていた。いつからだ? 殺気は感じなかったが……。

 

 

「……君も、魔王の軍勢か?」

 

「いや違う違う。わたしは魔族だけど穏健派の方だよ」

 

「何故俺たちの前に姿を現した。戦わないなら何故構う」

 

「貴方たち、魔王を倒すんでしょ? ならわたしたちの街で一泊しない? ……要するに、宣伝だよ。わたし、宿屋の娘だから」

 

「魔族でも宿屋とかやるのか……」

 

 

 アントとアイコンタクトを取る。問題は……

 

 

「エルデ、大丈夫?」

 

「はい。私はお二人に従います」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「よーこそよーこそ。まあゆっくりしてってよ。あ、そうそう、そろそろお祭りが始まるから顔出ししてみれば?」

 

 

 招かれた先に敵意は一切感じ取れなかった。すれ違う魔族たちは僕らを物珍しげに見てはくるものの襲おうとする者は誰一人としていない。

 

 

「……どうする? 祭り、行ってみるか?」

 

「思えば私たちは魔族の方々のことを何も知りませんでしたね……ネミさん、いかがなさりますか?」

 

「……行ってみるのも、悪くないかもね」

 

 

 念のため武装してから、僕たちは街に繰り出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「にんげんだー」

 

「ほんものー」

 

 

 魔族にも、子供がいることを知った。

 

 

「ここじゃあ人間も魔族も等しく命! ってわけで、お前さん方も踊らんしゃい」

 

 

 魔族にも、穏やかな心を持つ者がいることを知った。

 

 

「おうおう! 人間がここに来るたぁ珍しいなぁ! どうだ、一本模擬戦してみねぇか?」

 

 

 魔族にも、気の良い者がいることを知った。

 

 

「……僕たちは、肝心なことを忘れていたね、アント」

 

 

 僕とアントはどこかで『魔族なら殺していい』という観念に囚われていた。魔族もどうせ、魔物と変わりないと。僕たちは何も間違っていないと。

 

 エルデは誰にでも優しくて、清らかで、温かい。その思いは魔の者にも運ばれていた。しかし僕とアントは殺すことを正当化していた。罪の意識すらなかった。

 

 

「そうだな。……俺はこれからも、立ちはだかる魔族は殺す。けど、今日のことは忘れないようにする」

 

 

 エルデは、そんな僕らに微笑みかけていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……デケェな」

 

「魔族の王ともなれば、規模も想定外のようですね」

 

「……行くよ、二人とも」

 

 

 魔王を討ち、この世界に安寧をもたらす。僕の存在意義は、それだけだ。

 

 

「シッ!」

 

「ハァッ!」

 

 

 使う魔力はエルデの光で回復する。悪い言い方をするとエネルギータンクが近いから節約しなくて助かる。

 

 次々にやってくる魔族たちを斬り伏せ、僕たちはとうとう魔王の座へ辿り着いた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ほう……貴様らが勇者か。……悪くない」

 

「あー、なんだ。出会い頭に言うことでもねぇが……死んでくれ。クソ魔王」

 

「エルデ、僕たちの後ろにいて」

 

「……どうか、ご武運を」

 

 

 示し合わせたわけでもなく、戦いが始まった。僕とアントは魔力を滾らせ、エルデがサポートに入る。

 

 

「行くぞ、ネミ!」

 

「! "アレ"か! 分かった!」

 

「ほう……!」

 

 

 何度も斬り結んできたからこそ、培われてきたコンビネーション。この幻惑的な攻撃で倒れなかった者はいなかった……が、今日それは覆された。

 

 

「……全部、受け流したのか」

 

「悪くない。悪くないぞ、人間。もっと見せてみろ」

 

「チィッ、エルデ! 僕に合わせて!」

 

 

 今度は破邪の光に包まれた状態で斬りつける。流石に封魔の力が効いたのか、魔王は体を震わせた。

 

 

「ぐ、ぬ……」

 

「今だアント! 一気に畳みかける!」

 

「承知ィ!」

 

 

 魔力全開。地面を蹴り、肉薄する。そしてあらん限りの力を叩き込んだ。

 

 

「クハッ、ククク……なるほどな。人間が、ここまでの力を得るか」

 

「! マズ────」

 

「では、今度はこちらが本気を出そう。──『黒世』」

 

 

 視界が、黒で包まれた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『ネミさん。少し、お話を聞いていただけますか』

 

 

 祭りの日。僕はエルデの身の上話を初めて聞いた。

 

 

『私は元々、貴族の生まれでした。……私が生まれる頃には没落してしまいましたが』

 

 

 聞けば、母が敬虔な信徒だったとのこと。だからエルデは祈り方を知っていた。

 

 

『家が取り壊され、奴隷にされる寸前で両親に逃がしてもらい、ネミさんの村に流れ着きました』

 

 

 その告白に僕はなんて返しただろう。記憶が疎らだ。

 

 

『──ありがとうございました、ネミさん。貴方のお陰で、私は私で在れました』

 

 

 なんだ……? なんで今、それを思い出した?

 

 ……あ、そうだった。僕は、君の親がそうしたように、

 

 

「君(エルデ)を助けるために……」

 

 

 生まれてきたんだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ほう……! まだ立つか!」

 

「ネミさん……!」

 

「ネ、ミ」

 

 

 よかった。魔王の意識がこちらに向かう。アントは死に体だが、治りはする怪我だ。

 

 原作主人公のアントは、エルデを喪った悲しみで覚醒する。

 

 だが、この世界では、違う。

 

 

「──ギっ、あ」

 

 

 動け。その愛を証明したいのなら。

 

 

「あっ、グ、ぐ、ぁぁあああっ!!」

 

 

 ──臨界状態。今の僕を表すに最適の言葉。

 

 仕組みは単純。魂を構築するソレごと全魔力を燃やし尽くし、一時的に爆発的な力を得る。言葉にすると簡単だが、魔力操作技術がこの極限下に置かれていなければできない芸当。

 

 

「貴様、名は」

 

「ネミ、だあっ!!」

 

 

 剣を振るう。この交錯で、勝敗は決する。

 

 

「『黒世』」

 

「があああぁッ!!」

 

 

 魂を構築する魔力ごと全てを剣に乗せる。帰り道のない、極死の一撃。

 

 

「グハ、ァ……! クク、見事だ、ネミよ。貴様の名、忘れることはない……!」

 

「カ、フ」

 

 

 届いた。けど、その代償はあまりにも大きく。

 

 

「エ゛ル゛、デ。ふ゛う゛い゛ん゛、を゛」

 

「……ッ! はい……!」

 

 

 光が闇を飲み込む。……魔王、討伐。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ネミ……! ネミ……! ちくしょう、俺は……俺は何もできなかった……!」

 

「ネミさん!」

 

「ゴフッ、ゲホッ」

 

 

 体中から血が流れ出る。エルデは自分が汚れることも構わず、僕を抱きかかえる。

 

 

「治って……! お願い、治って!」

 

「無理、だよ、エルデ。魂が、もう脆弱化してる、から」

 

 

 ……よかった。僕は、役割を果たせた。アントも、エルデも、生きている。僕の望んだ全てだ。

 

 

「エルデ」

 

「治れ! 治れ治れ治れ──」

 

「エルデ。聞いて」

 

「……なんです、か」

 

「僕、君に会えてよかった。君を守れて、幸せだった」

 

「満足しないで! ネミさんも、これからなのに……!」

 

「泣かない、で。生きて、いるん、だから、もっと、もっ、と」

 

 

 ああ……何を言いたかったんだっけ。もうあたまがまわらない。

 

 

「エルデ」

 

「…………はい、なんですか」

 

「時間だ。行くよ」

 

「はい。……どうか、安らかに」

 

「エルデ」

 

「はい、なんですか」

 

「あ──、 」

 

 

 いしてる、と続けることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もですよ、ネミさん」

 

 

了

 

(書けるかどうかは別として)ハッピーエンドif見たい?

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