九尾襲撃事件から数日が経過した。
かつて火の国随一の繁栄を誇っていた木ノ葉隠れの里は、未だ事件の爪痕を色濃く残していた。
里の各所では建物が倒壊し、道路には瓦礫が散乱している。九尾の巨大な爪によって抉られた地面や、九本の尾によって薙ぎ払われた家屋の跡は、あの夜に起きた惨劇を嫌というほど物語っていた。
しかし、そんな絶望的な状況にあっても、人々は決して立ち止まってはいなかった。
瓦礫の撤去が始まり、倒壊した建物の修復作業が進められ、住む場所を失った者達には仮設の住居が用意されている。
まだ幼い子供を連れた母親が配給所に並び、負傷した忍達が包帯を巻いたまま復興作業に参加する姿も見られた。
里全体を包んでいた混乱は、少しずつではあるものの収まりつつあった。
もっとも、失われたものが戻ってくるわけではない。
今回の襲撃によって、多くの忍と民間人が命を落とした。
家族を失った者もいれば、友人や仲間を失った者もいる。
そして何より、木ノ葉は里を守るべき火影を失ってしまった。
四代目火影、波風ミナト。
第三次忍界大戦において数々の戦功を挙げ、黄色い閃光の異名を轟かせた英雄。
若くして火影の座に就き、里の未来を担うことを期待されていた彼は、九尾を封印するために自らの命を犠牲にした。
その死は木ノ葉にとって、あまりにも大きな損失だった。
しかし、悲しみに暮れているだけでは里を守ることはできない。
火影を失った木ノ葉には、新たな指導者が必要だった。
そこで再び白羽の矢が立ったのが、先代火影である猿飛ヒルゼンであった。
かつて三代目火影として長年里を率い、既に後進へとその座を譲っていた老忍。
本来であれば、これからは若い世代を見守りながら、穏やかな余生を送ることもできたはずだった。
しかし、現実はそう甘くない。
ミナトという優秀な後継者を失った今、木ノ葉を立て直すことができる人物は限られていた。
何より、里は非常事態の真っ只中にある。
火影不在の状況を長く続けるわけにはいかなかった。
こうしてヒルゼンは、再び三代目火影として木ノ葉の頂点に立つことになったのである。
もっとも、その本人が新たな就任を喜んでいたかと問われれば、答えは明白だった。
「……ふう」
火影室に、深い溜息が響いた。
執務机に向かっていたヒルゼンは、手にしていた書類を置くと、疲れた様子で眉間を揉んだ。
目の前には、文字通り山のような書類が積み上げられている。
それも一つや二つではない。
机の右側には復興計画に関する報告書が積まれ、左側には負傷者や戦死者の名簿が置かれている。
さらに、その奥には各部隊から提出された被害状況の調査資料や、他国との外交に関する書類まで山積みになっていた。
普段から火影の仕事が多忙であることは、ヒルゼン自身が誰よりも理解している。
しかし、今回は事情が違った。
九尾襲撃による被害は甚大であり、対応しなければならない問題があまりにも多すぎた。
住宅の再建。
医療物資の確保。
戦死した忍達の遺族への補償。
孤児となった子供達の保護。
任務を遂行できなくなった部隊の再編成。
そして、里の防衛体制の立て直し。
どれも後回しにできない重要な問題ばかりだった。
加えて、他国への警戒も怠るわけにはいかない。
忍の五大国は、決して一枚岩ではない。
つい先日まで大戦を繰り広げていた国々が、木ノ葉の弱体化を知ればどう動くか。
場合によっては、この混乱に乗じて何らかの行動を起こしてくる可能性も十分に考えられた。
「……まったく、老いぼれには少々堪える仕事じゃのう」
ヒルゼンは誰にともなく呟いた。
その声には、隠しようのない疲労が滲んでいた。
四代目へ火影の座を譲った時は、ようやく重責から解放されると思ったものだ。
ミナトは優秀な忍だった。
戦闘能力はもちろんのこと、判断力にも優れ、何より里の人々を大切にしていた。
これからの木ノ葉を任せるに相応しい男だったのである。
それだけに、彼を失ったことは悔やんでも悔やみきれなかった。
「……ミナトよ」
ヒルゼンは静かに呟いた。
窓の外には、火影岩が見える。
そこには歴代火影の顔が刻まれており、最近新たに加えられた四代目の顔も並んでいた。
あの穏やかな笑顔を思い出すたび、胸の奥が締めつけられる。
「お主には、もっと長く里を任せたかったのじゃがな……」
返事はなかった。
当然である。
その声を届けたい相手は、既にこの世を去ってしまったのだから。
ヒルゼンはしばらく窓の外を見つめていたが、やがて小さく息を吐き、再び書類へ手を伸ばした。
悲しんでいる時間さえ、今の木ノ葉には惜しかった。
その時だった。
窓際に、微かな気配が現れた。
「三代目様」
静かな声が響く。
ヒルゼンが顔を上げると、窓枠の傍らに一人の忍が片膝をついていた。
動物を模した仮面。
全身を覆う特殊な装束。
木ノ葉隠れの暗部に所属する忍である。
「うむ。報告かの?」
「はっ」
暗部は短く答えた。
その声音には、どこか慎重な響きがあった。
ヒルゼンは手にしていた筆を置き、正面から暗部へ向き直る。
「九尾の件じゃな?」
「はい。あの夜に発生した、原因不明の現象についてです」
その言葉を聞いた瞬間、ヒルゼンの表情が僅かに険しくなった。
九尾襲撃事件。
それは既に終わった出来事である。
少なくとも、九尾そのものは四代目火影の命と引き換えに封印された。
しかし、あの夜に起きた出来事のすべてが解明されたわけではなかった。
むしろ、事件が終わった今だからこそ、無視することのできない疑問が浮かび上がっていたのである。
九尾が木ノ葉の里を襲撃していた最中、不可解な現象が立て続けに発生した。
一つ目は、九尾が放った尾獣玉である。
四代目火影が最初の尾獣玉を時空間忍術によって転送したことは、既に確認されている。
しかし、その直後に放たれた二発目の尾獣玉については、明らかに事情が異なっていた。
その攻撃は、里へ直撃する寸前に突然軌道を変え、遥か上空へと舞い上がって爆発したのである。
あの時、多くの忍達は四代目火影が何らかの術によって防いだのだと考えていた。
しかし、調査を進めた結果、ミナトがその尾獣玉に対して術を使用した形跡は確認できなかった。
何より、その直後に起きた出来事が問題だった。
九尾が突然、地面へ押さえつけられたのである。
それまで暴れ回っていた巨大な狐が、まるで見えない何かに拘束されたかのように身動きを止めた。
そして、その拘束が解かれた直後。
今度は九尾の巨体が猛烈な勢いで吹き飛び、里の外へと消えていった。
その光景を目撃した忍達は少なくなかった。
しかし、誰一人として原因を説明できなかったのである。
「……何かわかったか?」
ヒルゼンが尋ねると、暗部は僅かに首を横へ振った。
「申し訳ありません。現在も調査を続けておりますが、原因の特定には至っておりません」
「そうか……」
「事件当時、里は極度の混乱状態にありました。九尾そのものを目撃した者は多数おりますが、問題の現象を引き起こした人物、あるいは術の発動を確認した者は見つかっておりません」
暗部は淡々と報告を続けた。
「尾獣玉の軌道が変わった瞬間についても、複数の証言を得ております。しかし、そのいずれも『突然上空へ弾かれた』という内容に留まっています」
「術を使った者を見たという証言は?」
「ありません」
「九尾が拘束された時はどうじゃ?」
「こちらも同様です。何らかの封印術ではないかという意見もありましたが、当時その場にいた封印術の使い手について調査したところ、該当する者は確認できませんでした」
ヒルゼンは腕を組んだ。
九尾を拘束できるほどの封印術。
それ自体は、存在しないわけではない。
例えば、うずまき一族に伝わる金剛封鎖であれば、尾獣を拘束することも可能だろう。
しかし、あの時の現象はそれとも異なっていた。
鎖のようなものが見えたわけではない。
地面に術式が浮かんだわけでもない。
九尾は突然、何の前触れもなく動きを止めたのである。
そして、何より理解できないのが最後の現象だった。
「……九尾を吹き飛ばした件については?」
ヒルゼンが尋ねる。
暗部は僅かに間を置いて答えた。
「現場の調査結果から、九尾が何らかの衝撃を受け、物理的に吹き飛ばされた可能性が高いと考えられます」
「……物理的に、か」
「はい。九尾が通過したと推定される経路と、里の外に残されていた衝突の痕跡を調査しました。その結果、時空間忍術による転送ではなく、強烈な外力によって移動したと考えるのが自然です」
ヒルゼンは黙り込んだ。
九尾を、物理的な力で吹き飛ばした。
言葉にするのは簡単だ。
しかし、実際にそれを行うとなれば話は別である。
九尾は尾獣の中でも特に強大な存在であり、その巨体は並の忍術ではびくともしない。
巨大な尾を一振りするだけで家屋が倒壊し、地面が抉られるほどの力を持っている。
そんな存在を、里の外まで吹き飛ばす。
一体、どれほどの力が必要になるというのか。
少なくとも、ヒルゼンの知る限り、そんな芸当を容易く行える忍など存在しなかった。
「……初代様ならば、あるいは可能だったかもしれんがのう」
ヒルゼンは小さく呟いた。
初代火影、千手柱間。
忍の神と呼ばれた伝説の男であり、かつて九尾をも制圧した存在である。
あの男であれば、九尾を相手にしても圧倒的な力を発揮できただろう。
しかし、柱間は既にこの世を去っている。
今の木ノ葉に、あれほどの力を持つ忍はいない。
そして、仮に存在していたとしても、何故その人物が姿を現さなかったのかという疑問が残る。
「チャクラの痕跡は?」
「……それが、最も不可解な点です」
暗部の声音が僅かに低くなった。
「尾獣玉が弾かれた地点、九尾が拘束された場所、そして九尾が吹き飛ばされた周辺を調査しました。しかし、術の発動を示す痕跡が確認できません」
「……何じゃと?」
ヒルゼンの眉が動いた。
「九尾自身が残したチャクラの痕跡は確認されております。また、戦闘に参加した木ノ葉の忍達が使用した忍術についても、ある程度は特定できています。しかし、問題の現象に直接結びつくようなチャクラの痕跡が見つからないのです」
「……つまり、術を使用した痕跡そのものがないということか?」
「はい。少なくとも、我々の調査では確認できておりません」
ヒルゼンは深く考え込んだ。
忍術を行使する以上、通常はチャクラが関与する。
もちろん、すべての術が明確な痕跡を残すわけではない。
高度な術者であれば、チャクラの動きを隠蔽することもできるだろう。
しかし、九尾を拘束し、あの巨大な身体を吹き飛ばすほどの力を行使しておきながら、まったく痕跡を残さないというのは異常だった。
ましてや、それを行った人物の目撃情報すら存在しない。
「……第三者、かのう?」
ヒルゼンは静かに呟いた。
その可能性は、既に何度も考えていた。
九尾を操っていた何者か。
四代目火影が戦ったという、正体不明の仮面の男。
その存在と今回の現象が関係している可能性も、否定はできない。
しかし、そうだとすれば不可解な点が多すぎる。
何故、里を襲撃していた九尾の攻撃を妨害したのか。
何故、九尾の動きを封じたのか。
そして何故、九尾を里の外へ追い払ったのか。
少なくとも、その行動は結果的に木ノ葉を救うものだった。
「わかりません……チャクラの痕跡もなく……調査は難航しています」
暗部は申し訳なさそうに頭を下げた。
「現時点では、何者かが介入した可能性を否定できません。しかし、その人物が木ノ葉の忍なのか、他国の忍なのか、あるいは別の存在なのかについても判断できない状況です」
「……ふむ」
ヒルゼンは窓の外へ目を向けた。
そこには、復興作業を進める木ノ葉の姿があった。
少なくとも、あの夜に何者かが九尾の動きを止めてくれたことによって、多くの命が救われたのは間違いない。
それがなければ、被害はさらに拡大していただろう。
ならば、その人物は木ノ葉にとって恩人とも言える存在である。
しかし、だからといって正体不明の存在を放置するわけにはいかなかった。
九尾を容易く退けられるほどの力。
もし、その力が今度は木ノ葉へ向けられたならば。
考えるだけでも恐ろしい話だった。
ヒルゼンはしばらく沈黙していたが、やがて暗部へ向き直った。
「わかった。引き続き何かわかれば報告に参れ」
「はっ!」
「ただし、復興に支障を来すほど人員を割く必要はない。今は里の立て直しが最優先じゃ。調査は慎重に進めるように」
「承知しました」
暗部は深く頭を下げた。
そして、次の瞬間には音もなく窓際から姿を消していた。
再び火影室に静寂が戻る。
「……やれやれ」
ヒルゼンは深い溜息をついた。
九尾事件だけでも頭が痛いというのに、さらに得体の知れない存在まで現れた可能性がある。
しかも、その正体を探ろうにも手掛かりがない。
あの夜、何が起きたのか。
誰が九尾を退けたのか。
そして、その人物は今どこにいるのか。
わからないことばかりだった。
「……ミナトよ。お主ならば、この謎を解けたかもしれんのう」
ヒルゼンは寂しげに呟いた。
四代目火影は、優秀な時空間忍術の使い手だった。
もし彼が生きていれば、あの現象について何らかの見解を示してくれたかもしれない。
しかし、今となっては確かめようもなかった。
ヒルゼンは再び執務机へ視線を落とした。
そこには、相変わらず山のような書類が積まれている。
「……さて、仕事に戻るとするかの」
考えていても仕方がない。
今は一つでも多くの問題を片づけなければならなかった。
ヒルゼンは右手に置かれていた書類の束を手元へ引き寄せた。
その中には、住民登録に関する資料も含まれていた。
九尾襲撃によって家屋が倒壊し、多くの住民が避難を余儀なくされたため、里では現在、住民の所在確認と登録情報の整理が進められている。
また、戦死した忍達の名簿や、任務に復帰できる忍の確認も並行して行われていた。
書類の種類は実に様々だった。
忍の所属部隊に関するもの。
任務の割り当てに関するもの。
里の施設を利用するための申請書。
そして、新たな住民の登録に関するもの。
ヒルゼンは慣れた手つきで、一枚ずつ書類へ目を通していった。
「……復興資材の追加申請か。こちらは承認しておかねばの」
筆を動かし、必要な箇所に署名をする。
次の書類へ目を移す。
「……ふむ。こちらは負傷者の医療費に関するものじゃな」
内容を確認し、再び筆を動かす。
その作業を繰り返すうちに、机の上に積まれていた書類が少しずつ減っていった。
もっとも、新たな書類が次々と運び込まれてくるため、仕事が終わる気配などまるでなかった。
「……まったく、火影とは因果な仕事じゃ」
ヒルゼンは苦笑した。
そして、次の書類を手に取った。
それは、木ノ葉隠れの里の住民登録書だった。
住民の氏名や所属、身分などが記載された、ごく一般的な書類である。
九尾事件の混乱によって登録情報の整理が必要になったため、こうした書類が火影室へ回されてくること自体は珍しくなかった。
ヒルゼンは何気なく、その内容へ目を通した。
そこには、一人の女性の情報が記載されていた。
氏名。
へカーティア・ラピスラズリ。
所属。
木ノ葉隠れの里。
忍階級。
下忍。
そして、その横には本人の顔写真が貼りつけられていた。
写真に写っているのは、赤い衣装を身にまとった一人の女性。
首からは奇妙な鎖が伸びており、頭には何とも不思議な装飾が付いている。
明らかに一般的な忍の装束とは異なる服装だった。
それだけではない。
女性はカメラへ向かって満面の笑みを浮かべ、右手で堂々とピースサインを決めていたのである。
実に楽しそうだった。
忍としての身分を証明するための写真というよりは、旅行先で記念撮影をした観光客の写真と表現する方が、遥かにしっくりくる。
しかも、氏名は『へカーティア・ラピスラズリ』。
この国ではまず耳にしない、随分と珍しい名前である。
普通であれば、この時点で何かがおかしいと感じても不思議ではない。
いや、そもそも住民登録書に下忍としての所属まで記載されている以上、忍者登録に関する資料との照合が必要になるはずだった。
木ノ葉の忍として正式に登録されているのならば、忍者登録番号や経歴、所属部隊といった情報が存在するはずである。
ましてや、写真に写っている女性はどう見ても普通の忍ではない。
何故か満面の笑みでピースサインまで決めている。
どう考えても怪しい。
それどころか、明らかに偽造された書類だった。
しかし。
「……ふむ」
ヒルゼンは何の疑問も抱かなかった。
書類に記載された名前を確認し、所属と階級を確認する。
そして、写真へ一度だけ目を向けた。
「……へカーティア・ラピスラズリ、か」
珍しい名前ではある。
しかし、それだけだった。
どのような経緯で木ノ葉の忍になったのか。
何故、これほど奇妙な服装をしているのか。
そもそも、この女性が本当に木ノ葉の下忍として存在しているのか。
本来であれば浮かんで然るべき疑問が、何一つ頭に浮かばなかった。
ヒルゼンにとって、それはごく普通の書類だった。
見慣れた登録情報の一つ。
木ノ葉に所属する下忍の個人情報。
ただ、それだけのものとして認識されていたのである。
「……問題なさそうじゃな」
ヒルゼンはそう呟くと、書類へ筆を走らせた。
そこには、特に不自然な点など存在しない。
少なくとも、彼の認識の中では。
承認を終えた書類を、他の処理済みの書類と一緒に重ねる。
そして、次の仕事へ取りかかった。
「……さて、次は何じゃったかのう」
火影室には、再び筆が紙の上を滑る音だけが響き始めた。
誰も気づかなかった。
その書類が、いつ、どこで作成されたのかを。
誰が登録したのかを。
そもそも、へカーティア・ラピスラズリという名の下忍が、これまで木ノ葉に存在していたのかどうかさえ。
本来ならば、記録を照合すればすぐに不審な点が見つかってもおかしくなかった。
しかし、誰もその必要性を感じなかった。
書類を受け取った事務員も。
登録情報を整理した担当者も。
そして、長年木ノ葉を率いてきた三代目火影、猿飛ヒルゼンでさえも。
誰一人として、疑問を抱かなかったのである。
まるで、最初からその女性が木ノ葉の下忍として存在していたかのように。
まるで、それが当然の事実であるかのように。
何の違和感もなく、何の疑いもなく、その名前は木ノ葉の記録へと紛れ込んでいた。
一方その頃。
木ノ葉隠れの里では、復興作業が続けられていた。
忍達が瓦礫を運び、職人達が壊れた建物を修復し、住民達が少しずつ日常を取り戻そうとしている。
そんな里の片隅で、一人の女性が楽しそうに周囲を眺めていた。
赤い衣装に、奇妙な鎖と球体。
そして、何処かの世界から迷い込んできたとは思えないほど、気楽な表情。
へカーティア・ラピスラズリ。
地獄の女神であり、三つの身体を持つ規格外の神。
つい数日前、尾獣玉を片手で弾き、九尾を蹴り飛ばした張本人である。
そんな彼女が今、何をしているのか。
それは、まだ誰にもわからない。
ただ一つ、確かなことがあった。
木ノ葉の忍達が必死になって捜している正体不明の存在は、今もこの里にいた。
そして、その存在は既に――。
木ノ葉隠れの里に所属する、一人の下忍として登録されていたのである。
もちろん、本人の実力と階級がまったく釣り合っていないことについては、今さら説明するまでもないだろう。
何しろ、この下忍。
数日前に忍界最強の尾獣を蹴り飛ばしているのだから。