木ノ葉隠れの里を襲った九尾事件から、さらに数年の月日が流れた。
かつて巨大な狐によって壊滅的な被害を受けた里は、今ではすっかり以前の賑わいを取り戻していた。
破壊された住宅街には新しい家々が建ち並び、商店街からは客を呼び込む威勢のよい声が響いている。通りを歩けば買い物を楽しむ住民達の姿があり、忍術の修行に励む若い忍達や、元気に走り回る子供達の姿も珍しくなかった。
木ノ葉には今も家族を失った者達が大勢暮らしており、里のあちらこちらには九尾事件の犠牲者を弔うための場所が設けられている。
「おーい! 変なTシャツ姉ちゃーん!」
里の通りを歩いていたへカーティアの背後から、元気な声が響いた。
振り返ると、数人の子供達がこちらへ向かって手を振っている。
まだ忍者アカデミーへ通う前の幼い子供達であり、へカーティアにとってはすっかり顔馴染みとなった面々だった。
「あら、みんな元気ねん!」
へカーティアは笑顔で手を振り返した。すると、子供達は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ねえねえ、変なTシャツ姉ちゃん! 今日もお仕事?」
「そうよん。これから任務の報告に行くところなの」
「へー! すごーい!」
「ねえ、その服ってどこで買ったの?」
「あら? これ?」
へカーティアは自分の胸元へ視線を落とした。
奇抜なTシャツ。彼女が長年愛用している、お気に入りの衣装である。
もちろん、この世界で購入したものではない。
「ふふっ。これはねえ、特別なところで手に入れたものなのよ」
「特別なところ?」
「そう! とっても素敵なところよん!」
「へー! でも変な服だよね!」
「…………」
へカーティアの笑顔が、一瞬だけ固まった。変なTシャツ。何とも懐かしい響きである。
かつて幻想郷でも、似たようなことを口にした人間がいた。
東風谷早苗。守矢神社に仕える風祝であり、現人神でもある少女である。
あろうことか、早苗はへカーティアの衣装を見て『変なTシャツヤロー』などと呼んだことがあった。
実に失礼な話である。地獄の女神に向かって、変なTシャツヤロー。
しかも本人は、悪気があるのかないのかわからない態度で、堂々とそんなことを言ってのけた。
あの時ばかりは、さすがのへカーティアも少々腹が立った。一瞬、本気で地獄へ落としてやろうかと考えたほどである。
もっとも、実際にそんなことをするほど短気ではなかったが。
そして今、目の前にいる子供達は、何の疑問もなく彼女を変なTシャツ姉ちゃんと呼んでいる。
「……んー」
へカーティアは少しだけ考え込んだ。
地獄の女神としての威厳。自分のお気に入りの服装に対する誇り。
そういったものを考えると、この呼び名は少々不本意だった。
しかし、目の前にいるのは無邪気な子供達である。彼らに悪意などないことは、見ればわかる。
何より、へカーティアは一応優しい女神様なのだ。子供相手に腹を立てていても仕方がない。
「もう、変なTシャツじゃないわよん。これは最先端ファッションなの!」
へカーティアは腰に手を当て、少しだけ胸を張った。
「えー? 最先端?」
「そうよん!」
「でも変だよ?」
「…………」
またしても遠慮のない言葉が飛んできた。
へカーティアは苦笑した。
「まったく、子供って正直ねえ」
しかし、その表情に怒りはなかった。
むしろ、どこか楽しそうですらある。
彼女にとって人間の子供達と交流することも、異界観光の楽しみの一つだった。
神である自分に対して、何の遠慮もなく話しかけてくる。それはそれで、なかなか面白いものなのである。
「それじゃあ、私そろそろ行くわねん!」
「はーい!」
「また遊んでねー!」
「もちろんよん!」
へカーティアは子供達へ手を振ると、再び通りを歩き始めた。
その背後から、またしても元気な声が響いた。
「ばいばーい! 変なTシャツ姉ちゃーん!」
「……だから変じゃないってば」
へカーティアは苦笑しながら肩を竦めた。もっとも、その声にはどこか諦めたような響きも混ざっていた。
どうやら、この呼び名がなくなる日は当分来そうになかった。
そんな里の子供達の中に、へカーティアと特に親しい少年が一人いた。
うずまきナルト。金色の髪に青い瞳。頬には三本ずつ、髭のような模様が刻まれている。
いつも元気いっぱいで、時には大人達が手を焼くほどの悪戯を仕掛ける、何とも賑やかな少年だった。
彼もまた、へカーティアを変なTシャツ姉ちゃんと呼ぶ子供達の一人だった。
ただし、本人が直接呼びかける時には、少しだけ違う。
「へカーティア姉ちゃーん!」
その日もまた、商店街を歩いていたへカーティアの耳に、聞き慣れた声が届いた。
振り返ると、通りの向こうから小さな少年が走ってくる。
金色の髪を揺らしながら、元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見て、へカーティアは自然と笑みを浮かべた。
「あら、ナルトじゃない!」
「へへっ! やっぱり姉ちゃんだった!」
ナルトは嬉しそうに笑った。
その表情は、年相応の無邪気な子供そのものだった。
「今日は何してるんだってばよ?」
「今はお買い物の途中よん。ナルトは?」
「オレは暇だから遊んでたんだ!」
「あら、そうなの?」
「うん! でもみんな帰っちゃったから、何しようかなって思ってたんだってばよ!」
へカーティアは小さく頷いた。ナルトはいつも元気だった。
里のあちらこちらを走り回り、時には悪戯をして大人達に叱られ、時には一人で何かをして遊んでいる。
そんな姿を、へカーティアはこれまで何度も見かけていた。
最初は、単に元気な子供がいるものだと思っていた。しかし、ある時から彼女はナルトに特別な興味を抱くようになっていた。
きっかけは、彼の内側に感じた力だった。
「……ふふっ」
へカーティアは目の前の少年を見つめながら、小さく微笑んだ。
金色の髪。青い瞳。そして、その身体の奥深くに封じ込められた巨大な力。
それが何なのか、彼女にはすぐにわかった。
かつて自分が里の外へ蹴り飛ばし、最後には人間達によって赤子へ封印された巨大な狐。
その力が、目の前の少年の中に眠っていたのである。
気づいた時には、少々驚いたものだった。何しろ、彼女にとってあの夜の出来事は、ほんの少し前のことのように感じられていたからだ。
神であるへカーティアにとって、人間の数年間など決して長い時間ではない。
しかし、あの時生まれたばかりだった赤子は、今では自分の足で走り回り、元気に話しかけてくる少年へと成長していた。
「……大きくなったものねえ」
へカーティアは思わず呟いた。
「ん? 何が?」
ナルトが不思議そうに首を傾げる。
「あら、何でもないわよん」
へカーティアは笑顔で答えた。
ナルトは納得したのか、それ以上追及することはなかった。
もっとも、へカーティアには一つだけ気になることがあった。
彼女がナルトへ近づくと、決まって少年が腹部を掻き始めるのである。
そして、今回も例外ではなかった。
「……んんっ」
ナルトが突然、服の上から腹を掻き始めた。
「どうしたの?」
「んー……なんか腹がむずむずするんだってばよ」
「あら、そうなの?」
「うん。たまになるんだよなー」
ナルトは不思議そうに自分の腹を見下ろした。
特に痛いわけではない。ただ、何となく落ち着かないような、むず痒いような感覚がするのである。
その原因について、当然ながらナルト自身は何も知らなかった。
「……あらあら」
へカーティアは小さく笑った。
彼女には、何となく理由がわかっていた。ナルトの中に封じ込められている九尾。
ナルトの中にいる狐は、どうやら彼女のことを相当に嫌っているようだった。
無理もない。かつて九尾は、へカーティアによって散々な目に遭わされている。
尾獣玉を片手で弾かれ、身体を拘束され、挙げ句の果てには里の外まで蹴り飛ばされた。
九尾にとっては、決して忘れられない屈辱だったに違いない。そして今その忌々しい女神が、よりにもよって自分の人柱力と仲良く話している。
おまけに、封印の中には女神の力が僅かにまとわりついており、九尾はそれを振り払うこともできなかった。
実に不愉快な状況である。ナルトの腹部がむず痒くなるのも、その影響なのかもしれなかった。
「……ふふっ。元気そうで何よりねん」
へカーティアは小さく呟いた。
「ん? 姉ちゃん、何か言った?」
「何でもないわよ。ほら、そんなに掻いたら赤くなっちゃうわ」
「わかってるってばよ!」
ナルトは元気よく答えた。その様子を見て、へカーティアは穏やかに微笑んだ。
彼女は、ナルトの両親を知っている。波風ミナトにうずまきクシナ。
あの夜、九尾から生まれたばかりの息子を守り、命を落とした二人。
そして、死の間際まで我が子の幸せを願い続けた親達である。
へカーティアは、その最期を見届けていた。二人がどれほどナルトを愛していたのか。自らの命を犠牲にしてまで、この子を守ろうとしていたことを彼女は知っている。
しかし、目の前の少年は何も知らなかった。父親の顔も母親の声も。
自分がどれほど愛されて生まれてきたのかも。
何より残酷なことにこの少年は、里の人間達から決して温かく迎えられてはいなかった。
うずまきナルト。その名前を聞いた時、木ノ葉の大人達の多くは複雑な表情を浮かべる。
ある者は露骨に顔をしかめ、ある者は目を逸らし、またある者は何も言わずにその場を離れる。
理由は明白だった。あの夜、木ノ葉を襲い、多くの命を奪った怪物。
その九尾が、ナルトの身体に封じ込められているからである。
三代目火影である猿飛ヒルゼンは、九尾に関する情報を不用意に広めることを禁じていた。
しかし、既に事実を知っている大人達の感情まで、命令一つで変えられるわけではなかった。
あの夜、家族を失った者。仲間を失った者。大切なものを奪われた者。
彼らの中には、九尾への恐怖や憎しみを、幼いナルトへ向けてしまう者も少なくなかった。
本来であれば、ナルト自身に何の罪もない。
彼はただ、生まれたばかりの赤子として九尾を封印されたに過ぎないのだから。
大人達は理由を教えてくれない。ただ、自分を見ると嫌そうな顔をする。
店に入れば露骨に態度を変えられることもあり、近所の子供達と遊んでいても、その親が慌てて子供を連れ戻してしまうことがあった。
何故、自分だけがそんな扱いを受けるのかナルトには、まったく理解できなかった。
そして、へカーティアはそれを知っていた。何しろ、彼女は神である。人間達の表情や態度から、彼らが何を感じているのかを察することは難しくなかった。
「…………」
へカーティアは、そんなナルトを眺めながら時折考えることがあった。
あの夜、命を懸けて息子を守った二人。彼らが今のナルトを見たら、何を思うだろうか。
自分達の命を犠牲にしてまで守った子供が、里の人間達から疎まれている。
そんな現実を知れば、きっと悲しむことだろう。
人間には、人間の事情がある。九尾によって大切な者を失った人々の悲しみも、決して偽物ではない。
だからといって、ナルトへの扱いが正当化されるわけではないが、神である自分が力で人々の感情を塗り替えることも、正しいとは思えなかった。
それに、何より彼女はこの世界の人間達の営みに、必要以上に介入しないと決めている。
もっとも目の前の子供と仲良くすることまで、遠慮する必要はないだろう。
「……ねえ、ナルト」
「ん?」
「お団子でも食べに行かない?」
その言葉を聞いた瞬間、ナルトの表情がぱっと明るくなった。
「いいのか!?」
「もちろんよん!」
「やったー!」
ナルトは嬉しそうに飛び跳ねた。
へカーティアは笑いながら、その小さな頭を軽く撫でた。
「それじゃあ行きましょうか!」
「うん!」
こうして二人は、並んで商店街へと歩き始めた。
それは、特別な出来事ではなかった。里の大人が子供を食事へ誘う。
理由もなく自分を避ける大人達が多い中で、へカーティアはいつも変わらない態度で接してくれる。
自分を見ても嫌な顔をしない。話しかければ笑顔で答えてくれる。そして、時にはこうして一緒に食べ物を買いに行ってくれる。
それが、ナルトにはたまらなく嬉しかったのである。
「いらっしゃい! おや、へカーティアちゃんじゃないか」
商店街の一角にある団子屋。
店先に立っていた年配の女性は、へカーティアの姿を見つけると嬉しそうに声をかけた。
「あら、おばちゃん! 今日も元気そうねん!」
「おかげさまでねえ。今日は何にする?」
「そうねえ……私はいつもの三本にしようかしら。ナルトは?」
へカーティアが隣にいる少年へ視線を向けた。
「えっ!? オレも選んでいいのか!?」
「当たり前じゃない。好きなのを選びなさいな」
「じゃ、じゃあ……これ!」
ナルトは店先に並んでいる団子を指差した。甘いタレがかかった焼き団子である。
へカーティアも好んで食べているものだった。
「あら、私と一緒ねん!」
「へへっ! これ美味そうだってばよ!」
「そうよ。ここのお団子、とっても美味しいんだから!」
へカーティアは満足そうに頷いた。
店主の女性はナルトの姿へ一瞬だけ目を向けた。そして、僅かに表情を曇らせる。
「……その子も一緒なのかい?」
「ええ。今日はこの子と一緒に食べるのよん」
へカーティアは何の疑問もなく答えた。
その口調は、普段とまったく変わらないものだった。
店主は少しだけ迷ったようだったが、やがて小さく頷いた。
「……そうかい。ちょっと待ってな」
そう言って、団子を焼き始める。
ナルトはその様子を黙って眺めていた。
ほんの僅かな態度の変化。しかし、彼はそれに気づいていた。
大人達が自分を見る時の表情。あの何とも言えない、嫌そうな顔。
もう何度も見てきたものだった。
「…………」
ナルトは少しだけ俯いた。
その様子に気づいたへカーティアが、首を傾げる。
「あら、どうしたの?」
「……何でもないってばよ」
「そう?」
「うん……」
先程までの元気な様子が、少しだけ薄れていた。
へカーティアはそんなナルトを見つめたが、無理に問い詰めようとはしなかった。
ただ、いつも通りの笑顔を浮かべる。
「ここのお団子ねえ、焼きたてが一番美味しいのよ。冷めても悪くないんだけど、やっぱり出来たてがいいわねん」
「……そうなのか?」
「そうよ! だから熱いうちに食べるのがおすすめね」
へカーティアは楽しそうに話し続けた。
ナルトも少しずつ表情を戻し、やがて再び団子へ興味を向け始める。
ほどなくして、店主が焼きたての団子を差し出した。
「はいよ。熱いから気をつけてね」
「ありがとう、おばちゃん!」
へカーティアは代金を支払うと、ナルトへ団子を手渡した。
「はい、ナルト!」
「ありがと、姉ちゃん!」
ナルトは嬉しそうに受け取った。そして、早速一口頬張る。
「……ん!」
その表情が、一瞬で明るくなった。
「うっめえええ!」
「ふふっ。でしょう?」
「すっげー美味いってばよ!」
「気に入ったならよかったわ!」
二人は店の近くにある腰掛けへ座ると、並んで団子を食べ始めた。
周囲には買い物客が行き交い、商店街の賑やかな声が聞こえている。
特別なことは何もない。ただ、二人で団子を食べているだけだった。
しかし、ナルトは何とも嬉しそうだった。
「なあ、姉ちゃん!」
「あら、何?」
「姉ちゃんってさ、忍者なんだろ?」
「そうよん!」
へカーティアは得意げに左腕を持ち上げた。
そこには木ノ葉の額当てが巻かれている。
「見ての通り、立派な下忍よ!」
「すっげー!」
ナルトは目を輝かせた。
「じゃあさ! すっげー忍術とか使えるのか!?」
「忍術?」
へカーティアは少しだけ考え込んだ。
忍術。この世界の人間達がチャクラを用いて行使する技術である。
もちろん、彼女自身は忍術を使う必要などない。
それどころか、チャクラを使わずとも忍術を遥かに上回る現象を引き起こすことができる。
しかし、それをそのまま説明するわけにはいかなかった。何しろ、今の彼女は普通の下忍という設定なのだから。
「んー……そうねえ。私はどちらかというと、力仕事が得意なのよん」
「力仕事?」
「そう! 重いものを運んだり、邪魔なものを片づけたりね!」
「へー!」
ナルトは感心したように頷いた。
「でもさ、忍者ってすっげー術を使うんだろ?」
「そうねえ。色々あるみたいね」
「オレも絶対忍者になるんだ!」
ナルトは突然、拳を握り締めた。
その表情には、幼いながらも強い決意が浮かんでいた。
「それで、いつか火影になるんだってばよ!」
「……火影?」
へカーティアは首を傾げた。
火影。この里で一番偉い人物に与えられる称号。それくらいは、さすがの彼女も既に理解していた。
何しろ、木ノ葉で数年間暮らしているのである。
ただ、目の前の少年がその座を目指しているというのは、少々意外だった。
「へえ! それは大きな夢ねん!」
「だろ!?」
ナルトは嬉しそうに笑った。
「オレが火影になったら、みんなオレのこと認めてくれるんだ! そんで、すっげー忍者になるんだってばよ!」
その言葉を聞いて、へカーティアは少しだけ目を細めた。
認めてもらいたい。幼い少年の口から出てきた、何とも切実な願いだった。
普通の子供であれば、強くなりたい、格好いい忍者になりたい、という憧れだけで火影を目指しても不思議ではない。
しかし、ナルトの場合は少し違う。彼は、周囲の大人達から認めてもらいたいのだ。
自分を避ける人々に振り向いてほしい。自分の存在を、誰かに必要としてほしい。
そのために、誰よりも偉い忍者になろうとしている。何となくその気持ちが理解できた。
「……ふふっ」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「いいじゃない! 頑張りなさいな!」
「おう!」
「でも、火影になるならちゃんと修行しなくちゃねん」
「わかってるってばよ!」
「それなら安心ね!」
へカーティアは笑いながら団子を頬張った。
そんな彼女を見て、ナルトも嬉しそうに笑った。
「なあ、姉ちゃん!」
「んー?」
「オレが火影になったら、姉ちゃんも認めてくれるか?」
その問いかけに、へカーティアは少しだけ驚いた。
そして、すぐに笑顔を浮かべた。
「もちろんよん!」
「本当か!?」
「ええ。でもね、ナルト」
へカーティアは団子を持つ手を止め、少年へ向き直った。
「別に火影にならなくても、私は貴方のことちゃんと見てるわよ?」
「……え?」
ナルトが目を瞬かせた。
へカーティアは、当たり前のことを話すように続けた。
「元気いっぱいで、よく笑って、たまに悪戯もするけど……なかなか面白い子じゃない!」
「……へへっ」
「だから、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかしらねん」
ナルトは黙ってへカーティアを見つめていた。
火影にならなくても。すごい忍者にならなくても。自分を認めてくれる。
そんなことを言ってくれる大人は、ナルトにとって決して多くなかった。
「……そっか」
小さな声で呟く。
そして、やがて満面の笑みを浮かべた。
「ありがとな! へカーティア姉ちゃん!」
「あら、どういたしまして!」
へカーティアは楽しそうに笑った。彼女にとっては、何気ない会話だった。
しかし、ナルトにとっては違っていた。その言葉は、少年の胸の奥へ静かに残り続けることになったのである。