後、ハロウィンまだ何にも貰っとらんっ!!
「トリック オア トリートっ!」
よく見た天井だった。毎日変わらない。部屋の中でゲームしたり、ポテチ食ったり。
俺は引きこもりだった。そう自覚している。
ただ、外へ出ようとはこれポッチも思わない。俺の世界の幸せはこれだけだからだ。
あの日、俺の世界は壊された。夢で出会った少女にだ。
それは金髪で綺麗な髪に笑顔が似合う少女だった。
「お兄ちゃん…? 死んだ方がいいんじゃなぁい…?」
ぞっとしたよ、夢であってもさ。
「えぇ、あっ?」
「だってさぁ、必要にされてないじゃんっ。そんな人生私は許さないっ!」
汗が額に流れ落ちてくる。過呼吸が治らない。
「でもねぇ、その人生に感銘も受けてるのっ。だって、秩序が乱れる事がなくていいじゃないっ!」
「でっ! 提案なんだけど私と契約しないっ⁉︎」
ここからこれが本当に夢なのか疑いが強まった。
「けっ、契約って…?」
「君をいるべき所へ送る。必要とされてる所にねぇ…」
「何で、そんな事を…?」
「完璧な人間を求めてるからだ。そして、君の体から生活を見させてもらう。これが契約っ」
「まぁ、ウィンウィンじゃないっ?」
「——まぁ、そうかもなぁ…」
「契約成立、という事で良いかいっ?」
俺は強く頷いた。
「では、死んでくれ…」
次の瞬間からは何も覚えていない。それに会話の内容までも…。
アレは一体何なんだったんだ…!?
目を開けるとそこは見知らぬ街だった。レンガ敷の大通りに高い塔。
しかし、彼は一度も見たことがない。
寝ぼけていると思いつつも焦りを覚え、通行人に話しかける。
「すっ、すみません。この街って…?」
「あぁ、パクスだけど?」
パクスと言う街なのか。聞いた事が無いっ。そのまま、俺は様々な所を見てまわった。
そうして気が付いたんだ。俺がっ! 異世界転生している事にっ!
何故かは分からない。ポテチ生活かっ、ゲームしすぎかっ?
だが、小道を歩いていた時、この世界が恐ろしいと感じた出来事があった。
「こんにちはっ!」
浮かれていたのか路地裏の男に挨拶をした。
「こんにちは、坊やっ!」
いきなり武器で刺されそうになった。
「いぃ…やっ!」
「中々動けたのですね。見くびっていましたよォ。禍々しい者よっ」
紫髪の男が俺目掛けて飛び掛かる。俺が目を瞑りかけた時、前に金髪の幼女が現れた。
「パスサリアっ!」
ガラス片が突き刺さり、男の体に穴を開ける。
「誰ですかァ、穣さん」
幼女が口を開く。
「私は通りすがりの魔人トピューリアなのよっ」
「そうかァ…。ワタクシもテルゼと申します。またどこかで会いましょう…」
「逃げられると思っているのかしらっ?」
そう彼女が言った時、両側の建物の窓から犬が飛び降りてきた。いやっ、犬じゃない。
長すぎる爪に鋭い牙。これが魔獣…と言わざる得ない見た目だ。
「全く、面倒なのよっ」
「パスサリアっ!」
魔獣の落ちる所へガラスの矢を構える。奴らは一匹残らず肉塊と化した。
ただ、アイツを除いて…。
「助けてくれてありがとうっ! トピーっ」
「とっ、トピーっ?」
「あぁ、愛称だよっ。ありがとなっ」
「あまり、トピューリアを馴れ馴れしく呼ぶんじゃないのよっ!」
「そういえば随分と暇そうだけど、お前衣食住はあるのかしら…?」
「衣だけだけどっ?」
「何で自信満々に答えるのよ…?」
「まぁ、私はお人よしを知ってるから住もできるのよっ。問題は食かしら…?」
「あぁ…」
「そこで助けてやったお返しにパーティに入って欲しいのよっ!」
「あぁ…。トピ、トピューリア様のお望みならば喜んでっ!」
「いいのかしらっ、結構危険なのよ…?」
「俺はこうゆう危険な事から逃げてきたからなぁ…」
そう。この幼女に世界を壊されたんだ。
トピューリアは大通りから少しズレた一件の家に案内した。
ここが彼女の言ったお人よしの家らしい。噴水もあって綺麗な家だ。
「エレナードはいるのかしら…?」
「いるけど…。どうしたの、トピューリアちゃん?」
水色で長髪の可愛い少女だった。
「コイツが私達のパーティに入りたいみたいなのよ。それに住む場所もない。だからエレナードの家にコイツを住まわせてもらえないかしら…?」
「まぁ、パーティの仲間になってくれるなら…。良いわっ!」
エレナードには警戒心と言うものが無かった。なんて危ういんだっ。
「ありがとう。エレなんっ!」
「えっ、エレナンっ?」
「コイツ一回しめといた方がいいかしら…?」
「いやいやっ、愛称だからっ」
「それなら良いんじゃない。エレナンってなんか可愛いしっ」
「それならいいのよ…」
ここから俺のハートフルライフ。エレナンとの同棲生活が始まった。
「まずここが庭よっ。噴水もあって精霊達が住んでいるのっ、仲良くしてね。
でっ、ここがキッチン。そして、あなたの寝室よっ」
「家の紹介は終わったかしら…?」
「えぇ、大まかだけど…」
「なら、カルトにも会わせるかしら…?」
「エレなんっ、カルトって仲間か?
「そうよっ。すっごく明るい子なのっ」
甘いエレナンにこう言わせるカルト。一体どんな恋敵なのか。
「もうすぐ、待ち合わせの時間なのよ。そろそろ行くかしらっ?」
「そうね。」
俺たちはエレナンの家を出てパクスの大通りに向かった。
通りに出て目がついたのは張り出された紙だった。
「それはクエストなのよっ」
「そうよ。街中の人の悩み事が書いているのっ」
「へー」
「まだカルトは来てないのかな…?」
「いやー、今着いたところだよっ。そこの男の人はっ?」
カルトが俺の顔を見つめる。
「あぁ、パーティに入りたくてなぁ」
「そうかっ。じゃあ、よろしくなっ! ところで名前はっ?」
「俺はユウキ アオイだっ。よろしくぅ…」
「俺はカルト フォーティー」
「ゆうき あおいっ⁉︎ 珍しい名前ぇ…」
「——そうかしら…!」
お前ら、まだ名前聞いて無かったのかよ。
「ユウキっ、早速行くかっ?」
「どこにだっ?」
「今から決めるんだ」
張り出された紙の数々を指差した。
「まぁ、できるだけ報酬がデカいやつをなっ!」
試しに目の前の紙を見る。魔獣の退治。パクスの南部にある廃墟に人を襲う魔獣の根城がある事が分かった。腕に自身がある者は退治を願う。報酬、魔硬4枚。
どうやらこの世界では硬貨の事を白硬や魔硬と言うらしい。
「質問なんだが、白硬と魔硬ってどっちが良いんだっ?」
「ユウキっ、今まで大丈夫だったのっ?」
「まぁ、なんとか…」
「もうっ、魔硬は白硬の20倍の価値なのよっ」
もう一度、紙を探した。一番高かったのは魔道具泥棒を捕まえる物だった。
「これとか良いんじゃないかっ、魔道具泥棒を捕まえるやつ」
「魔硬32枚っ!」
「一体、何の魔道具を盗まれたのっ!」
「これはかなり危険そうかしら…? 私とユウキが行くのよっ」
トピューリアは危険と言ったが、指定されたのは俺だった。
「えっ、俺っ!」
「えぇ、最初のクエストは命に関わる方が面白いのよっ」
「じゃあ、俺たちは別のクエストを選んどくよっ」
カルトが澄ました顔で言った。
——この平和なパクスで魔道具が盗まれる事件が起きた。盗まれたのは魔女の魔道具、
これを所持していたリーベル嬢は錯乱していたという…。
「ところでトピューリアっ?」
話した時、トピューリアの足が遅くなるのを感じた。
「何なのかしら…?」
「魔女の魔道具って何だっ?」
「魔女の魔道具は混沌の魔女の遺品ってとこなのよっ!」
「混沌の魔女…?」
「そう…、かつてこの世界に厄災を落としたとか言う…。ほんと、馬鹿げてる…」
どうやら、パクスではかつて混沌の魔女という者がいたらしい…。
そんな話をしてる時、彼女は足を完全に止めた。
「見つけたのよっ!」
黒いローブを纏った長身の男に近づく。よく見ると白い仮面を着けていた。
「貴方が盗賊の一味かしらっ!」
「一味とは失礼だなぁ…。実際、魔女の吐息は私一人で奪った訳だしねぇ…」
「あぁ、悪い。挨拶を忘れた。やぁ、トピーっ」
「——お前はっ!」
トピューリアの怒りが夜風に乗って襲ってくる。
「まぁ、今は仮面さんと名乗っておこうかなっ」
「アイツは危険すぎる…、ユウキは後ろにいるのよっ!」
俺は白仮面を見ながら、後退りしていた。
「君に用はないが、計画が破綻すると困るものでねっ」
「トゥーラっ!」
トピューリアの額目掛け、破壊光線かっ、ってくらいの禍々しいビームが放たれた。
「はぁ!?」
しかし、先程の魔法は白仮面の方に放たれていた。そして、白仮面は容易くかわす。
「いつ、魔法をっ?」
白仮面が口を緩ませて言った。
「ここ数年…なのよ」
「そうかいっ」
「君の魔法と私の遠距離魔法は相性が悪いようだ…ねっ」
そういうと白仮面はトピューリア目掛けて走り出した。
「パスサリアっ!」
白仮面の正面にガラスの矢を突き出す。
「プワホーラっ」
彼女の魔法は白仮面の複数の光線に全て砕かれてしまう。
「パスサリアっ!」
続いて、白仮面の下から飛び出した。白仮面は上に飛ぶ。
「トゥーラっ!」
下のガラスに放った。
ガラスは砕け散った。白仮面がガラス片の合間から照らされる。白仮面の下から鏡が顔を見せていた。
「あぁっ?」
次の瞬間、白仮面は地面に叩きつけられていた。
「鏡を使った魔法か、面白いねぇ…」
起き上がった白仮面には目立った外傷が無かった。
「その傷でよく言ったものねっ」
「パスサリアっ!」
ガラスの矢は見事な身のこなしで捌かれ、近距離で魔法を喰ってしまった。
「何でっ、その傷で…?」
「君もそろそろ気付いただろ…」
「幻惑の魔気さっ」
その時、トピューリアが倒れる。
「トピューリアァー!」
「さぁ、次は君だっ! 少年っ?」
「おっ、俺…?」
「そうさっ、君は今禍々しい魔力を放っているっ! 関係者だろ…」
「何の事だっ!」
「魔女の使徒、だろ…」
白仮面が笑いながら近づく。
「その力を貸してくれぇ…」
「だからっ、知らないって!」
「じゃ…、死ねっ!」
「お兄ちゃん…? 死んだ方がいいんじゃなぁい…?」
聞き覚えの無い声が突然、聞こえてきた。
「私に貸を作る事になるけど」
「君…、まさかっ?」
「彼と契約してる魔女だよっ」
金髪の幼女は自分を魔女と言った。
「魔女…?」
「そうだよ、ユウキ アオイ君、私は貴方の味方の魔女だよっ」
「そうかっ、君だったか。こんな事して何が面白いんだいっ」
「それは…、ただの好奇心だよ。かつて私が呼ばれた物はどんな物かねっ」
「好奇心っ、呆れるよぉ…。そんなもんっ!」
「プワホーラっ!」
光線の束が魔女に飛びかかる。
「——良いんだ、私を敵にするんだっ。テンペスタ アドゥ ニール」
白仮面の魔法は凄まじい風によって弾かれた。それどころか、白仮面も動けないようだ。
さらに辺りの灯りも消えてしまって、真っ暗だ。
「こんな魔法はっ…。やはり君は狂ってる、魔女だっ」
「インバァ メトロシスっ!」
突如、空が輝き、沢山の光の柱が落ちてくる。
「ユウキ君、トピーを持って逃げてくれない…? ちょっと不味いかもっ」
「分かった!」
ユウキ アオイは光の中でも走り続ける。恩人を助けるために…。
「ありがとう…。ここまで来てくれてっ」
気付いたときには目の前にカルトとエレナンがいた。
「トピューリアは俺が治療する。ユウキ、よく頑張った!」
「じゃ…、私は盗賊をやっつけに行くっ」
俺はエレナンの言葉に驚いていた。
「頭大丈夫か⁉︎」
「… ?」
「トピューリアをこんな目に遭わせた相手だぞっ!」
「ユウキが心配してくれるのは分かる…。でもトピューリアちゃんをこんな目に遭わすなんて…。私は許せないのっ!」
全く、最悪な結果を考えないんだなぁ…。頭がおかしいのやらバカなのやら…?
「じゃあ、また会おうぜ、エーレなんっ!」
「うんっ!」
◇◇◇
私には恩人がいる。恩人の名前はトピューリア、彼女が私の世界を広げてくれた。
「お、お前の属性は水なのよっ」
「じゃあ、私、水マホオが使えるのっ?」
「そうかしら…。——まぁ、ここで練習すると良いのよ」
私はトピューリアちゃんに魔法を教わっていた。
ただ、私の水魔法は他の魔法より強かった。だから、幼い頃の私は第5次魔法戦争の時に戦場に連れてかれた。
「待つのよっ、誰の権限でエレナードを連れて行くの⁉︎」
トピューリアの声が頭に響いていた。
戦場は悲惨だった。
潰された者、焼かれた者、バラバラの者もいた。
誰かが私に言った。
「あの森に魔法を放てっ」と。
「えっ、でも…」
「いいからっ撃てっ!」
私は急いで呪文を唱えた。
「——えっ、エボカティオっ!」
地を豊かにするとトピューリアから教わった魔法だった。すると、雨が降り出した。
魔法は撃った。ただ、大人たちは怒号を浴びせた。
「魔法は人を殺すもんなんだよっ! こんなふざけた魔法。魔法じゃねぇ…!」
私は泣いた。ただひたすらに…。
雨も強くなってきた。そこから2ヶ月間は日が出なかった。
世界は凍え、凍死者多数でこの戦争は終わった。
今はもう関係ないけどあの森には敵国の兵士が潜伏していたらしい…。
この頃から憎悪という感情を覚えた。混沌の魔女に対しての。
今からずっと昔、魔女ケイオスは世界を混沌に落としたとされている。
そして、魔法戦争はあの魔女が落とした混沌が原因。
私は混沌の魔女を許さない…。
「ユウキ、ありがとう。こんな所からトピューリアを助けてくれて…」
粉々になった住宅街の中、声が漏れていた。
「おやおやっ、その顔見覚えがある。確かぁ…、魔法戦争?」
「こんばんは、私はエレナード」
「私は仮面…、いや、ピティオさっ」
ピティオっ⁉︎ トピューリアが言っていた魔人の一人だ。
「友達だったの? トピューリアとは…」
「まぁ、そうだねぇ。1000年以上の付き合いだしねぇ…」
トピューリアをどうして傷つけたか、それだけが聞きたかった。
「じゃ…、どうしてっ! 風穴を開けたの?」
「邪魔だったんだよぉ…。分からないかなぁ…?」
魔人、これこそが魔女の混沌。魔人は魔女からより大きな力を与えられている。
だから歳で死ぬ事もないし、魔法も段違いの凶悪さ。
「魔人も魔獣もいつか滅ぼす予定なのっ、ここで死んで…、ピティオっ」
「あの子を知らないくせにっ。君はすごく他責思考なんだねぇ…」
「カタラクタっ!」
ピティオの上から鋭い水が落ちる。
「貴方、魔力探知弱いでしょ…」
普通の魔法使いは水が生成される前に気づくはずだった。
「はぁー! 外傷を付けれてないくせに何だっ。このガキがよぉ…!」
「カタラクタ!」
「だから、話を聞けぇ!」
「——プワホーラっ!」
水を避けたピティオは光線を発する。
ピティオが使う魔法は魔力消費が大きい。ただ、洗練されている。
でも、私だって同じ。戦争から学んだ、本当の魔法を。
「アクアっ ペルフラレっ!」
ピティオも魔法も全て水の中に消える。
「ねぇ…、こんな魔法で倒せるとおもったぁ…?」
暗闇からトコトコとピティオが歩いてくる。ピティオの耐久力は異常だ。
何かがおかしい。防御魔法…? いや、手ごたえがある。なら回復魔法っ。
ただ、あんな魔法と回復魔法を併用するなんて人間でも魔人でも不可能のはず。
——まさか、盗まれた魔女の魔道具って魔女の吐息!
カルトからも聞いていた。魔力を半永久的に生み出せるって…。
「もう、終わらせようか…。エレナードっ」
「えぇ…。エボカティオっ!」
私の周りに雨を降らせる魔法を打ち上げる。
「トゥーラっ!」
華麗に交わし、呪文を唱えた。
「アクア ペルフレラっ!」
後ろへ振り返り魔法を放った。魔法を放ったピティオは立ち尽くしていた。
「何故、私が後ろにいたと思ったんだ…?」
「魔女の吐息を持っていたそれが敗因よ。魔力は普通反発するけど魔女の吐息の役割は供給。私の雨とその魔力は混ざる、貴方が前にいた時、後ろから感じたの…」
「そう、かぁ…。こんな致命傷を負って逃げれないなっ、少し話そうエレナード」
「… ?」
「私は1000年魔法の研究をした。だが、君には勝てなかった。だから、これからパクスがどういう道を歩むのか、話してやる…」
ピティオが仮面を外し、こちらに投げた。顔が見えたがフードが深く、どんな表情かよく見えない。
「これからのパクス…?」
「あぁ…」
「混沌の魔女ケイオスは死んで無い…。今もこの地で生きている」
「えっ、でも、魔女戦争の時に…」
ケイオスは1000年前に死んでいるはずだった。
「まぁ、魔女の墓へ行くと良い…」
「——もう一度混沌が降りかかる前に、ねぇ…」
もうピティオが目を覚ます事は無かった。
◇◇◇
魔女の墓。それがこの塔の名前だ。その塔の下には魔女の死体が眠っている。
「本当に迷信だったのか…?」
「ピティオはそう言っていたの。それに復活するみたいな事も…」
「アイツの事よっ、混乱させるためかしら…?」
「とにかく、ここで消えたんだよなー」
「まぁ、ユウキ君の言う通りだと思うよっ」
金髪の少女が言った。
「お前は…?」
「秩序の魔女。そう言えばユウキ君以外には伝わるかなぁ…?」
秩序の魔女。混沌を倒した魔女、彼女も死んだはずだが…?
「えぇ、秩序の魔女っ!」
「お前、有名人だったのか」
「うん。国中の人に知られてると思うよっ」
「でっ、どうしてここに…?」
「ユウキ君と契約したから…、それだけ」
「まぁ、私の魂は妖精みたいに魔力で形作った物なのぉ。だから、顕現には限りがあるの」
「——こうして話せるのも貴重なんだよ」
「じゃあ、何故?」
「混沌の目的を話す事を託されたから、ピティオからねっ」
秩序も奴らとグルなのか、と場は静寂に包まれる。
「——混沌はこの世界の魔力を奪うんだって」
「魔力を奪う…?」
「何で?」
「理由はないと思うなっ。混沌の事だし、興味本位じゃない…?」
「次の質問だ。何でそれをお前が知ってる?」
「はぁー、ピティオにも生きてて欲しかったよ」
「——ピティオ達はねぇ、魔女の復活を望んでいるんだ。まぁ、そこからねぇ…」
「お前はどうなんだ?」
「私は反対かなぁ…。魔力を吸われて死ぬ生物が何体いるのか分からないからね」
「だから、ユウキ君と契約したんだ。変化を望まなければ、力に溺れないしねっ!」
「そうか…」
そんな時、ユウキは悲しそうな顔をしていた。
「ユウキ、どうしたんだ…?」
「何でも無いっ」
「まぁ、君の気持ちも理解できるよ。手を開いて」
ユウキは不思議そうに手を開いた。すると長剣が現れる。
「これは…?」
「君も仲間を守りたいんでしょっ。その為の武器だよぉ」
「じゃあ、これは勇者の剣…?」
見た目はパクスで使われている鉄剣に見える。
「——んな訳ないかしら…」
「トピーの言う通りただの武器さ。ただ、私の憑代として使えば最強の魔剣となる」
「憑代に馴染むには少なくとも数ヶ月かかる。契約は保留になるけど…」
「いいさっ。俺だってこのパーティの一員だっ」
「分かったよ」
秩序の魔女は眩い光に消えていき、託された剣だけが残った。
「じゃあみんな、ユウキを、未来の勇者を頼んだよ…」
秩序の魔女の声が頭に響く。皆も強く頷いていた、ただし俺を除いては…。
エレナードもトピューリアもヤル気満々だった。でも、俺は…?
悔しいが俺には魔道具を扱う技術しかなく、普通の攻撃魔法すら全く使えない。
あの魔女に託された者に教えれる事は何も無かった。
数週間が立った。彼が修行を始めてから…。
ユウキはパクス最強の五人の剣士の一人として名を馳せた。彼は魔法を使えなかったが、
魔剣に入っていた魔法を使えた。
「俺は彼を妬んでいるのか…?」と悩んでいると、とある噂を聞いた。
パクス出身の伝説の戦士が街に戻ってくると。理由は察しがついていた。
「ユウキ アオイ、どこにいる? このレイヤと戦わないか?」
戦闘の申出だった。
「良いが、何でだ?」
「興味があっただけだっ。場所は魔女の墓、どうだ?」
「いいぜっ。嬢ちゃん」
ユウキとレイヤは魔女の墓の中で戦う事になった。しかし、塔の中には観衆すらいなかった。レイヤの恐ろしさを知ってる為だろうか…。
「どう決着をつけるっ?」
「そりゃ、戦えない方の負けだろ…」
レイヤの恐ろしい点、それが忍耐。彼女は諦めたく無い性格で例え心臓に刃がたったとしても相手を殺して自分も死ぬと噂が立つほどだ。
「そうかっ」
巨大な斧を振り下ろす。
「こんな攻撃簡単にっ」
大剣で糸も容易く避けるが、後ろに倒れこむ。さらに斧を叩き込んだ。
「オレはいつどこででも戦い続けてる。だから、君には勝てない…」
「そうかよぉ…」
斧と大剣がぶつかり、二人は距離をとった。
「その大剣…。やっぱりなんか入ってるなぁ…」
「——秩序の魔女か…?」
今思うに彼女には全てが見えていた。
「そうだが…?」
「じゃあ、ソイツを殺せ…!」
「もしくはお前が命を落とせ…!」
彼女の目は憎悪で染まっていた。
「嫌だね…」
「じゃ…。死ねっ!」
次の瞬間にはレイヤがユウキの前にいた。俺はすかさず二人の間に煙幕を投げ入れた。
「俺の友達に手を出すなっ!」
空に薄まっていく煙の中、レイヤを睨んでいた。
「そう、じゃ…、みんな殺す…」
「そうすりゃ文句ないでしょう…」
「あぁ、殺せるもんならなぁ…!」
「鑑定の書」
一つ目の本で至る所から鎖が飛び出している。この本は相手の能力を知ることができる。
一本の鎖が本のどこかに挟まった。そのページを開くが何も書いていない。
どうやら属性が無いようだ。
相手の猛攻を受け流しながら能力の特徴を掴む。また鎖が挟まる。
「おりゃーー!」
ユウキが魔剣を振るう。今この間にも斧と魔剣はぶつかりあっている。
「ユウキっ。ソイツのは触れることで魂の動きを見れる魔法だっ」
「それ以外にも何かある気をつけろっ!」
「分かったっ!」
「そっちから片付けるかっ」
次の瞬間、レイヤは目の前に立っていた。咄嗟に頭が回った。
何で、あの距離を一瞬で…? 自分の魂の動きの操作したとでも言うのか?
「霧吹雪」
これはビンの先の頭から霧を発生させる魔道具。レイヤに吹きかけると塔全体へと広がる。
「こんなの時間稼ぎにもな…」
「気づいたか…。これを作った人によると霧吹雪の中身は水じゃなくて水精霊らしいっ!」
レイヤの力は魂の動きを見たり、魂ごと肉体を動かす物。
それゆえに霧状の水精霊は最高の目眩しだ。
斧が鈍り簡単に避ける。
「そこかっ」
水精霊の動きでユウキが大剣を振る。さらに受ける。
「あまりオレを舐めないでくれ…」
斧を自ら引いてユウキに触れる。ユウキが消え。斧を霧の中へとぶん投げる。
霧の中から硬い物同士がぶつかる音が聞こえた。
「ユウキっ。大丈夫か?」
「あぁっ!」
「ちっ!」
「——それも避けるのかっ」
レイヤは斧に向かう。
「待つのよっ。お前の負けかしら…」
塔の上にはトピューリアが立っていた。
「お前も魔女の味方か…?」
「——私は誰の味方でもない。凄い人の味方なのよっ」
その瞬間、レイヤは短剣を持ち、霧を突き抜ける。
「お前ぇ…、魔女の味方だなっ!」
「——えぇ、あの子は凄く優しかった…」
足場のない空中、短剣を振り回す。
「パスサリアっ!」
トピューリアは鏡の上に立ち、魔法を放つ。いくつか当たり、血も落ちるが攻撃を止めない。
「お前、魔女が嫌いかしら…?」
「あぁ…、大嫌いだっ!」
レイヤも自分の残像と位置を入れ替え、空中で戦い続ける。
「鏡孤部屋っ!」
レイヤの周りを鏡で囲むトピューリアの切り札。その空間はあると思い込まないと見えない。そもそも、この魔法は中からは壊せない。
「忠告だっ。魔女を信用…」
空間が完全に閉じ、声も聞こえなくなった。
「これで勝ったのかっ!」
「どうかしら…? 早く、エレナードの元へ行くのよっ」
二人でトピューリアについて行く。その時、気付く。パクスが巨大な影に覆われている事に。
「——あれは…、空遊魚?」
空遊魚は真っ白な体に赤い斑点模様の魔獣で混沌の象徴とされている。
「エレナードはアイツと戦っているのよっ」
「時間を稼がれたのか…? レイヤに」
「そうかしら…?」
空に漂う魔獣にどこからか撃たれる水魔法。そして、潰れている民家。
これが混沌…。
「混沌、素晴らしいですねェ…」
紫髪の男が空を見上げながら呟く。発言の異常さから魔道具を構える。
「——テルゼっ!」
「お久しぶりです…。ユウキ君!」
「やはり、最後の魔道具は…。貴方が持っていたのですねェ…。トピーさんっ」
「——面倒くさくので、黙らないでください…」
「そんなにおかしな事…?」
「えぇ、そうですよォ。ケイオスと言う方とお友達とは聞いていましたがァ、あの方が言うに最期の瞬間も魔道具を受け取ってはいなかったとねェ…」
魔女ケイオス。1000年以上前に混沌を落とした災厄の存在。
愛用していた鏡をトピューリアが取り出す。
「そう、そうっ、それっ、それェ…。ピティオさんっ、どこまで読んでいるんですかァ…!」
「魔女の手鏡はトピーさんっ、が持っていたのかァ…」
「——それさえ渡してくれればァ、もう一度ケイオスに会えるのですっ!」
乾燥しきったトピューリアの目から涙がこぼれ落ちる。
「——私はっ、ピティオと違ってケイオスの意思を継ぐかしら…!」
トピューリアは鏡をしまう。
「なぁ…、テルゼ。お前は最初、混沌に執着があるように見えた…。ケイオスに会う事が目的じゃないのかっ?」
「うーーん、混沌の魔女なんて知らないさァ…。ワタクシは150年ほど前に生まれた魔人ですから…。まぁ、目的はもう意思もない混沌を利用し、世界を狂気で覆わせる事ォ!」
「お前、誰に喧嘩を売ったのかしら…」
「パスサリア!」
平坦な景色の中、ガラスの矢が飛びつく。そして、テルゼが走り出す。
「力尽くで、奪うまでェ…!」
周りの瓦礫から犬型の魔獣が出てきた。
「爆岩」
赤い岩を魔獣に向けて投げる。魔力に反応して爆発する魔石。
「トピー、鏡返しだっ」
「分かったのよっ」
トピューリアが鏡を作り、テルゼをユウキの方へ飛ばす。
「お前、俺らの100倍弱いぞ…」
魔剣がテルゼの胴を真っ二つにした。
「魔女の子宮ってさァ、魔力から魔獣を生み出すんだァ…。だから、人間をそのまま魔獣には出来ない…。でも、ワタクシの魂を縛り付ける魔法を使えば…人間どももォー」
「あのっ犬達はお前がっ!?」
「あぁ、そうですよォ…。ありゃ、ただの人間ですゥー」
テルゼがユウキに手を伸ばす。
「パスサリアっ」
「終わりよ。クソ雑魚」
「そうだねェ…。トォーピィー…」
一同はエレナードは無事かと心配する。未だ空に魔法が放たれていた。
◇◇◇
「アクア ペルフレラっ!」
もう魔力が無かった。空遊魚の重力操作に耐える魔力も。
トピューリア、ありがとう。私を助けてくれて…。
カルトもありがとう。人殺しって知ってながら優しく接してくれて…。
ユウキ、ありがとう。私の大好きな人でいてくれて…。
「クルゥゥゥッッ…!」
もう、終わりと思った時、鏡が見える。
「全く、エレナードは諦めが悪い性格だったはずよっ…」
「トピューリアっ!」
「大丈夫だったのっ!」
「えぇ…」
「カルトもユウキもっ!」
「あぁ、いるぞっ」
みんな、鏡の上に立っていた。
「空は自由に歩ける物なのよ…!」
トピューリアが空に足を置くと鏡が出てくる。
「じゃあ、行くか」
みんなで空に飛び込む。怖がってない。みんな、楽しんでいる。
本当、このパーティ。
頭のおかしな人ばっか…。
「パスサリアっ!」
トピューリアも雨を浴びせる。
「魔除けの矢」
カルトも魔道具を飛ばす。
「おりゃあああっ」
ユウキも切り付ける。
「天より舞い降りし、雨の神よ。テンペスタ フニーレっ!」
恐ろしい光線が白い体を真っ赤に染めた。
「ギイイイィィィーーータタァ!」
やがて空さえも真っ赤な混沌に食い尽くされた。
◇◇◇
「はァ…。はァ…。死ぬところだった」
南部のまだ綺麗な路地の中、テルゼはいた。
「まぁ、胴が無くなってもワタクシはァ、死なないけどねェ…!」
「そして、仮面も吐息も子宮もある。まだァ、混沌を…」
突如、目の前に影が現れる。
「あぁ…。それ見つけたさぁ…」
「はァー?」
「俺は彼女と和解した。魔女を憎んでいたのは秩序の問題で、しっかりと話し合った」
「彼女…?」
「魂を見れるらしくてよっ、全ての魔道具を見つけてくれたさっ」
「全く、オレへの人遣いが悪いんだから…」
「——オレがこの世界に来た原因を作ったのはお前だなっ」
レイヤがナメクジのように這うテルゼを踏みつける。
「うぐゥ…」
「でも、これは呪いみたいに毎日自分に掛けているんです。殺せませんよォ…」
「お前魔道具みたいだなぁ…」
そう言われたテルゼから血の気が抜ける。
「お前、解呪出来るのか?」
「あぁ、魔道具好きだからな…」
「今のうちに痛ぶっとけ…」
レイヤは無表情で目の前の肉塊へ刃を落とす。
「では、さようなら…」
「待ってェ、死にたく…な…い…」
魔道具は最後の魔人トピューリアが壊して終わった。
そして、今。レイヤも入った俺のパーティは故郷に遊びに行く方法を今も模索している。