扉間「聖杯戦争はワシが解体した」 作:ナハ
地下室では、三体の影分身が研究を続けていた。
机の上には遠坂家の魔術書や言峰教会から回収した資料が並び、その一角には、間桐慎二から奪った偽臣の書が置かれている。
現在、最も難航しているのは英霊とマスターを繋ぐ契約の解析だった。
「……ここまでは間違っておらんはずだが」
影分身の一体が、紙に書き写した術式を指先でなぞった。
偽臣の書には、本来のマスターが持つライダーの使役権を、別の人間へ委譲する仕組みが組み込まれている。
その機能については、先日の戦闘で実際に確認した。扉間の封印術によって命令の伝達を遮断したところ、ライダーは慎二の命令に従わなくなったのである。
ただし、偽臣の書の内部にある魔術式は、忍術とは構造そのものが異なっていた。
「魔力の供給と命令の伝達を、どこで切り分けておるのかが問題だな」
「うむ。術式の一部は読めるようになったが、接続先を示す記述がまだ分からん」
「下手に封印を解除するわけにもいかん。もう少し資料を当たるか」
影分身は別の魔術書を開いた。
扉間は術の開発に長けているものの、この世界の魔術を学び始めてから、まだ数日しか経っていない。
知識の不足は、影分身を増やしたところで簡単に埋まるものではなかった。
「……魔術に詳しい人間が一人欲しいところだな」
「おい、さっきから聞こえてるぞ」
部屋の隅から、不機嫌そうな声が飛んできた。
先ほど尋問を終えたばかりの彼は、依然として手足を拘束されたまま椅子に座らされている。
影分身の一体が振り返った。
「何か用か?」
「用があるのはこっちだよ! いつになったら帰してくれるんだ!」
「それはまだ決まっておらん」
「ふざけんなよ! 僕を何だと思ってるんだ!」
「間桐慎二だろう」
「そういう意味じゃない!」
慎二は怒鳴ったが、相手は既に資料へ視線を戻していた。
「……くそっ」
慎二が悪態をついたところで、地下室の扉が開いた。
「何を騒いでおる?」
階段を下りてきたのは千手扉間だった。
「お前! ちょうどいいところに来た!」
慎二は勢いよく顔を上げた。
「いい加減、この縄を解けよ! 話ならさっき全部しただろ!」
「ほう。間桐臓硯についても全て話したのか?」
「……全部は知らないって言っただろ!」
「ならば、まだ聞くことはあるな」
「このっ……!」
慎二が歯を食いしばる。
扉間は構わず椅子を引き寄せ、彼の前に腰を下ろした。
「もっとも、今回は尋問ではない」
「……は?」
「少々、別の話があってな」
扉間は机の上に広げられた魔術書へ目を向けた。
「慎二。貴様、魔術を学んで何年になる?」
「……何だよ、藪から棒に」
「答えろ」
「物心ついた頃からだよ。間桐の人間なんだから、当たり前だろ」
「では、実際に魔術を使った経験は?」
「…………」
慎二は顔を背けた。
扉間はその反応を見て、質問を変えた。
「魔術回路がなければ、一切の魔術が使えんのか?」
「……別に、できることはあるさ。魔術礼装を使ったり、外部から魔力を供給してもらったりね。でも、そんなの本物の魔術師とは違うだろ」
「ふむ。制約はあるが、全く不可能というわけではないのだな」
「……何なんだよ」
慎二は苛立ったように眉を寄せた。
「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ! どうせ僕には才能がないって言いたいんだろ!」
「それは既に分かっておる」
「……っ!」
「だが、先ほどから気になっておった。貴様はどうしてそうも卑屈なのだ?」
「……はあ!?」
慎二は思わず声を上げた。
「お前に何が分かるんだよ! 魔術回路がない人間が、魔術師の家でどんな扱いを受けるかなんて……!」
「だから聞いておるのだ。ワシには貴様らの常識が分からんのでな」
扉間は机から一冊の魔術書を手に取った。
「先ほどの尋問では、間桐の蟲術について随分と詳しく説明しておったな」
「……それが何だよ」
「使い魔を術式の媒体として利用する仕組みや、魔力の伝達経路についても理解しておった。書物を丸暗記しただけでは、あそこまで説明できまい」
慎二は返事をしなかった。
「魔術師としての適性はなくとも、術式を理解する能力はある。ワシはそう見ておる」
「…………」
「貴様、なかなか面白い才能を持っておるな」
慎二は扉間の顔を見た。
「……何だよ、それ」
「何がだ?」
「また馬鹿にしてるのか?」
「何故そうなる?」
「だってそうだろ! 僕には魔術回路がないんだぞ!? 術も使えないのに、研究者になんてなれるわけないじゃないか!」
扉間は怪訝そうな顔をした。
「……誰が決めた?」
「……は?」
「術を使えなければ、その術について研究してはならんという決まりでもあるのか?」
慎二は言葉に詰まった。
「実際に術を行使できた方が、理解しやすい部分はあるだろう。だが、術式の解析まで実践者だけで行う必要はない。知識を持つ者が研究に加わることに、何の不都合がある?」
「……でも」
「それに、貴様は偽臣の書を扱っておった。魔術礼装の運用についても、相応の知識があるはずだ」
「あれは、お爺様から渡されたから……」
「渡された道具をどう使うかは、貴様自身が考えたことだろう」
扉間は一拍置いた。
「もっとも、学校での使い方は最悪だったがな」
「……余計なお世話だよ!」
「事実だ。民間人を巻き込むような戦術を取っておいて、何を威張ることがある」
慎二は口を尖らせた。
言い返したいことはいくらでもあったが、学園での失敗を持ち出されると反論しづらい。
扉間はそんな彼を見ながら続けた。
「ワシはかつて、火影という立場にあった」
「……火影ってなんだよ?」
「うむ。忍の里の長だ。軍事だけでなく、行政や教育、人材の登用にも関わっておった」
「……へえ」
「里には様々な者がおる。戦闘に長けた者もいれば、情報収集を得意とする者もいる。誰もが同じ能力を持っておるわけではない」
扉間は魔術書を机へ戻した。
「それぞれの適性を見極め、役割を与えるのも長の仕事よ」
慎二は黙って聞いていた。
「貴様には魔術師としての才能がない。それは事実だ。だが、だからといって他の能力まで無価値と判断するのは愚かなことだろう」
「…………」
「少なくとも、術式の構造を理解する力はある。あとは、それをどう活かすかだ」
慎二は俯いた。
今まで、そんなふうに考えたことはなかった。
魔術師の家に生まれた以上、魔術を使えなければ意味がない。
そう教えられてきたし、自分でもそう信じていた。だからこそ、魔術回路を持つ桜が憎かった。
後から間桐家へやってきたくせに、自分が欲しくても手に入らなかったものを、当たり前のように持っている。
「……それで?」
慎二は顔を上げた。
「結局、何が言いたいんだよ」
「うむ。本題に入ろう」
扉間はあっさり告げた。
「ワシの研究を手伝え」
「…………は?」
慎二は目を瞬かせた。
「……手伝い?」
「そうだ」
「……何を?」
「現在、ワシは聖杯戦争の術式を調べておる。だが、この世界の魔術についてはまだ理解が浅い。貴様の知識を借りたい」
「…………」
慎二はしばらく扉間を見つめた。
そして、思わず聞き返した。
「……お前、僕を誘ってるのか?」
「そう言っておる」
「何で!?」
「理由は今説明しただろう」
「そうじゃない!」
慎二は声を荒らげた。
「何で僕なんだよ!? 他にも魔術師なんているだろ! そもそも、お前は僕を捕まえて尋問までしたじゃないか!」
「うむ」
「うむ、じゃないだろ! 普通、そんな相手を研究に誘うか!?」
扉間は少し考えた。
「貴様に利用価値があるからだ」
「…………」
「魔術について知識があり、偽臣の書を実際に使っていた。加えて、今はここにおる。わざわざ他の人間を探すより手っ取り早い」
「……それだけ?」
「それだけだ」
慎二は唖然とした。
あまりにも身も蓋もない理由だった。
「……僕が、役に立つっていうのか?」
「そう判断した」
「魔術回路もないのに?」
「くどい。貴様に魔術回路がないことなど、とっくに承知しておる」
扉間は少し呆れた顔をした。
「それとも、貴様は自分の知識に価値がないと思っておるのか?」
「……そんなわけないだろ!」
慎二は即座に答えた。
「僕だって、魔術については相当勉強してきたんだ! 間桐の書庫にある本だって、読めるものは全部読んだ!」
「ならば、それを役立てればよい」
「……っ!」
慎二は口を閉じた。
当たり前のように返された言葉に、どう反応すればいいのか分からなかった。
扉間は一度立ち上がり、慎二の正面へ向き直った。
「いいか、慎二」
それまでの淡々とした口調とは違い、相手へ言い聞かせるように続ける。
「今まで貴様に与えられてきた評価は、一度忘れろ。貴様にしかできぬことはあるはずだ。それを見極めてからでも、魔術の道を諦めるのは遅くない」
「…………」
「臓硯に認められ、間桐家の後継者になることが全てではないのだ」
慎二は俯いた。
後継者になることが全てではない。
そんなことを言われたのは、初めてだった。
間桐家の長男として生まれた以上、自分は家を継ぐべき人間だと思っていた。
それができなければ、自分には何も残らない、だから必死だった。
だが、目の前の男は、その考え方自体に疑問を投げかけている。
「……でもさ」
慎二はしばらくしてから口を開いた。
「僕が研究を手伝ったとして、本当に自由にしてくれるのか?」
「協力し、こちらの条件を守るならばな」
「……信用できると思う?」
「信用するかどうかは貴様が決めろ。だが、ワシは意味もなく約束を破るつもりはない」
扉間は続けた。
「まず、桜に危害を加えることは一切許さん。暴力も脅迫もだ。今後も同様と心得ろ」
慎二は顔をしかめた。
「……それって、自由って言えるのかよ」
「他人を傷つける自由まで保証するつもりはない」
「…………」
「それから、ここで知ったことを臓硯や言峰綺礼へ漏らすな。無論、研究資料の持ち出しも禁止する」
「……ずいぶん注文が多いんだな」
「貴様には前科があるのでな。無条件で信用するほど、ワシは甘くない」
慎二は言い返せなかった。
「それに、学校へ仕掛けた結界についても、責任を取ってもらう必要がある。研究に参加したからといって、あの件をなかったことにはせんぞ」
「……分かってるよ」
不機嫌そうな返事だった。
扉間も、それだけで慎二が反省したとは思っていない。
「では、もう一つ確認しておくか」
「……まだ何かあるのかよ」
「貴様の知識が、実際にどの程度役立つのか試したい」
そう言って、扉間は机から一枚の紙を取った。
偽臣の書から写し取った術式の一部である。
「これを見ろ」
慎二は差し出された紙に目を落とした。
「……何だよ、これ」
「分からんか?」
「いや、偽臣の書の術式だろ? それくらい分かるよ」
慎二は紙を眺め、すぐに眉をひそめた。
「……でも、おかしくないか?」
「どこがだ?」
「ここだよ。何で途中で切れてるんだ?」
慎二は術式の一部を指差した。
「命令を伝える経路だけ写しても意味ないだろ。前後の接続がなきゃ機能しないんだから」
「……ほう」
「そもそも、このままだと使用者本人が魔力を供給する構造になってるじゃないか。偽臣の書はそうじゃないだろ」
慎二は別の箇所へ指を移した。
「本来のマスターとの契約を利用するんだから、こっちに繋げないと駄目なんだよ。ここを省略したら、ただの不完全な術式になっちゃうじゃないか」
扉間は黙って説明を聞いていた。
「……だから、こういう構造にしないと」
慎二は机にあった筆記具を手に取り、空いている部分へ線を書き加えた。
「これで少なくとも、命令を伝える部分と、魔力を供給する部分は分けられるはずだよ」
「……なるほどな」
扉間は修正された紙を受け取った。説明には筋が通っていた。
何より、慎二は術式を構成する各部分の役割を把握している。
単に魔術書の内容を暗記しているだけでは、このような指摘はできないだろう。
「……悪くない」
「……え?」
「貴様の説明だ。参考になった」
慎二は扉間を見た。
「……本当に?」
「うむ。実際、こちらの解析結果とも一致しておる」
「…………」
「ちなみに、接続部分を省いたのはわざとだ。貴様が気づくか確かめたかったのでな」
「……はあ!?」
慎二の顔が引きつった。
「お前、僕を試したのかよ!?」
「試すと言っただろう」
「普通に問題出せよ! 何でわざわざ変な術式を見せるんだ!」
「問題点を見つけるのも研究者の仕事だからな」
「……くそっ!」
慎二は悪態をついた。
だが、その顔には先ほどまでの困惑とは違うものがあった。
自分の知識が、目の前の男に通用した。しかも、相手は説明の内容を理解したうえで、正しく評価している。
それが、慎二には意外だった。
「……なあ」
「何だ?」
「お前、本当に僕を研究に参加させるつもりなのか?」
「何度言わせる気だ?」
「……いや、だから……」
「先ほどの説明で、貴様が使えることは分かった。あとは実際に働いてもらうだけよ」
慎二はしばらく黙っていた。
目の前には、今まで見たことのない術式がいくつも広げられている。
偽臣の書。英霊召喚に関する資料。
そして、魔術とは異なる文字が刻まれた札。
慎二はその中の一枚へ目を向けた。
「……あれ、何なんだよ」
「どれだ?」
「あの札だよ。偽臣の書に貼ってあるやつ」
「封印術の札だ」
「……封印?」
「ああ。忍術の一種よ」
慎二は改めて札を見た。
偽臣の書が奪われた時、あの奇妙な術によってライダーへの命令権が失われた。
自分には理解できなかった力。あれについても、ここでは研究しているらしい。
「……それも調べてるのか?」
「無論だ。もっとも、貴様にはまず魔術側の解析を任せるつもりだがな」
「……ふーん」
慎二は視線を落とした。
しばらく考えてから、口を開く。
「……分かったよ」
扉間が顔を上げた。
「何がだ?」
「手伝えばいいんだろ。研究」
「うむ」
「ただし、約束は守れよ。ちゃんと自由にしてもらうからな」
「無論だ」
慎二は扉間を睨んだ。
「……それと、僕のことを馬鹿にするなよ」
「成果を出せば評価する。失敗すれば指摘もする。それだけだ」
「……ったく」
慎二は不満そうに口を尖らせた。
それでも、拒絶する言葉は出てこなかった。
扉間は影分身へ目を向けた。
「縄を解いてやれ」
「よいのか?」
「構わん。ただし、勝手に屋敷を出ることはまだ許さん。必要なら見張りも続けろ」
「了解した」
影分身が慎二へ近づき、拘束を解いた。
慎二は自由になった両手を揉みながら、ゆっくり立ち上がった。
「……それで、何をすればいいんだよ」
「まずは偽臣の書の解析を手伝え。貴様が実際に扱っていた術具だ。分からぬ部分も、他の資料よりは少ないだろう」
「……まあ、そうだけど」
慎二は机へ近づいた。
そこには、自分が使っていた偽臣の書が置かれている。
表紙には、扉間による封印術が施されたままだった。
「……これ、どうやって封じたんだよ?」
「術式への干渉だ。魔術とは別の方法で機能を抑えておる」
「……別の方法?」
慎二は身を乗り出した。
「ちょっと待てよ。魔術式じゃないのに、偽臣の書の機能だけ止められるのか?」
「実際に止まっただろう」
「いや、そうだけどさ!」
慎二は封印札を覗き込んだ。
「……何だよこれ。全然読めないじゃないか」
「当然だ。貴様らの魔術とは体系が違う」
「でも、術式への干渉はできてるんだろ? だったら、こっちの魔術式との対応関係を調べれば……」
慎二はそこで言葉を止めた。
そして、もう一度札を見た。
「……面白いな、これ」
扉間は口元を緩めた。
「そうだろう」
「いや、何でお前が得意げなんだよ」
「ワシの術だからな」
「……本当に嫌な奴だな」
慎二は呆れながらも、封印札から目を離さなかった。
それからしばらく、慎二は偽臣の書に関する資料を読み込んでいた。
分からない箇所があれば質問し、自分が知っていることについては説明する。
影分身たちは慎二の話を聞きながら、これまでの解析結果と照合していった。
「……ここは違う」
慎二が紙の一角を指差した。
「何がだ?」
「命令権の移譲と、魔力供給の経路が一緒になってる。これじゃ、偽臣の書がなくなった時にライダーとの契約まで切れることになるだろ」
「……確かに、そう解釈できるな」
「でも実際には切れなかった。だから、この二つは別の仕組みになってるはずなんだよ」
影分身は資料を見直した。
「ふむ。ならば、この部分を独立した術式として考えるべきか」
「そうだと思うけど。少なくとも、僕が知ってる範囲ではね」
「……よし。そちらの仮説で整理し直してみるか」
慎二は少し意外そうな顔をした。
自分の意見が、当たり前のように研究へ取り入れられている。
間桐家にいた頃なら、考えられないことだった。
「……なあ、扉間」
資料を読んでいた扉間が顔を上げた。
「何だ?」
「お前、僕が研究で役に立たなかったらどうするつもりだったんだ?」
「……別の役割を探しただろうな」
「……は?」
「人間には向き不向きがある。研究が駄目なら、他の仕事をさせればよい」
「……それでも駄目だったら?」
「その時は、その時よ」
扉間はあっさり答えた。
「少なくとも、何もできぬ人間だと決めつけるには早かろう」
慎二は黙った。
そして、手元の資料へ目を落とした。
「……変な奴」
「何か言ったか?」
「何でもないよ」
「ならば手を動かせ。まだ調べることは山ほどあるぞ」
「……ったく、人使い荒いな」
慎二は文句を言いながらも、資料を手に取った。
それから数分後。
「……おい、扉間」
「何だ?」
「この術式、さっきの説明と合わないんだけど」
「どこだ?」
「ここだよ。どう考えても、前の記述と矛盾してるだろ」
扉間は差し出された紙を確認した。
「……ふむ。確かに妙だな」
「だろ? だから言ったじゃないか」
「よし、こちらも調べ直すぞ」
「……おいおい、また最初からかよ」
「当然だ。間違った前提で研究を続けても意味があるまい」
「はぁ……」
慎二は大げさにため息をついた。
扉間は別の資料を広げる。
「何だ、もう疲れたのか?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「まだ始めたばかりだぞ」
「だからって、いきなりこんな量の資料を読ませるなよ!」
「貴様ならできると思ったのだがな」
慎二の手が止まった。
「…………」
「……何だ?」
「……別に」
慎二は再び資料へ目を落とした。
「……できないとは言ってないだろ」
「ならば続けろ」
「分かってるよ!」
慎二は机へ向き直り、先ほどの術式をもう一度読み始めた。
しばらくして、その横から扉間が別の資料を差し出した。
「こちらも確認しておけ」
「……は?」
慎二は顔を上げた。
既に目の前には、何冊もの魔術書と大量の研究記録が積まれている。
その上へ、さらに資料が追加されたのである。
「ちょっと待てよ! まだこれだけ残ってるんだけど!?」
「分かっておる。終わってからでよい」
「終わる気がしないんだけど!?」
「研究とはそういうものだ」
「……本当に嫌な奴だな、お前!」
「聞こえるように言っておるのだろう?」
「そうだよ!!」
扉間は構わず、次の魔術書を開いた。