扉間「聖杯戦争はワシが解体した」   作:ナハ

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15話 遠坂凛帰宅

 

 

昼過ぎ。遠坂凛は、いつもより少し早足で屋敷へ戻ってきた。

玄関の扉を開け、靴を脱ぐと、そのまま地下室へ向かう。

昨晩は衛宮邸に泊まり、士郎やセイバーと今後の方針について話し合っていた。学校に仕掛けられていた結界への対処は一段落したものの、聖杯戦争はまだ始まったばかりである。

そして、もう一つ。セイバーが、凛の協力者と会いたがっていた。

アーチャーを失ったはずの凛が、何故これほど積極的に動けるのか。その理由を説明するため、別に協力者がいるという話をしていたのである。

ただ、凛にはそれ以上に気になることがあった。

 

(……大丈夫よね?)

 

今朝、衛宮邸で朝食を取っていた時から、妙に嫌な予感がしていた。

根拠などない。だが、あの男のことを考えると、どうにも落ち着かないのである。

自分の姿で言峰教会へ乗り込んだかと思えば、今度は言峰本人に変装して教会へ潜入する。

しかも、事前の相談は一切ない。

 

(……今度こそ、変なことしてないでしょうね)

 

地下室の前まで来た凛は、扉の向こうから話し声が聞こえることに気づいた。

 

「……だから、この部分の術式がおかしいんだよ」

 

「む? ああ、そこか。魔力の流れを逆算するとどうなる?」

 

「それが分からないから聞いてるんだろ。そっちの術式、僕には読めないんだからさ」

 

「ならば、こちらの資料と照合してみろ」

 

「……ったく。最初からそう言えよ」

 

凛は足を止めた。

 

(……あれ?)

 

聞き覚えのある声だった。

一人は間違いなくアーチャーである。

もう一人も、どこかで聞いたことがある。しかも、つい最近だ。

 

(……気のせいよね?)

 

凛は扉を開けた。

 

「アーチャー!! 戻ったわよ! セイバーがそろそろ私の協力者と会いたいって……」

 

「戻ったか」

 

机に向かっていた扉間が顔を上げた。

その周囲では、三体の影分身がそれぞれ研究を続けている。

そこまでは、見慣れた光景だった。問題は、その隣に座っている人物である。

穂群原学園の制服。そして、どこか人を小馬鹿にしたような顔つき。

間桐慎二。彼は椅子に腰掛け、机に広げられた資料を読み込んでいた。

 

「…………」

 

凛は扉の前で固まった。

朝食の席で感じた、あの嫌な予感。

まさか。いや、そんなはずは。凛は一度目を閉じ、改めて地下室を見渡した。

やはり、いる。間桐慎二が。

何故か、自分の家の地下室で魔術書を読んでいる。

 

「……待って」

 

凛は片手を上げた。

 

「待って待って」

 

慎二も、ようやく入ってきた人物へ顔を向けた。

 

「……あ?」

 

「なぁんで慎二がいるのよ!?」

 

凛の声が地下室に響き渡った。

 

「騒ぐな」

 

扉間は何事もなかったかのように答えた。

 

「誰のせいよ!?」

 

慎二はそんな二人を交互に見ていた。

 

「……おい」

 

「何よ!」

 

「待ってくれ、扉間……なんで遠坂が居るんだよ?」

 

「自分の屋敷に戻ってきたのだろう」

 

「……は?」

 

慎二の動きが止まった。

今、何と言った?自分の屋敷?遠坂の?

慎二は改めて地下室を見渡した。

机に積まれた魔術書。壁際の棚。そして、目の前にいる千手扉間。

 

「……待てよ」

 

凛を見る。

扉間を見る。

もう一度、凛を見る。

 

「アーチャー? ……まさかお前……遠坂のサーヴァントなのか!?」

 

「なんだ。知らんかったのか? 気づいて聞いてないと思っていたが」

 

「知るかよ!? 僕は地下室に監禁されてたんだぜ!? ここが遠坂の家だなんて思うか!?」

 

慎二は勢いよく立ち上がった。

 

「というか遠坂! お前サーヴァント失ってたんじゃねえのかよ!?」

 

「失ったわよ! ……影分身だけど」

 

「はあ!? 意味わかんねえよ!?」

 

「私だって意味が分からないわよ!!」

 

「……まずは二人とも落ち着かんか。騒いでいては理解もできんぞ」

 

扉間がもっともらしく告げた。

凛のこめかみが引きつる。

 

「ムキーーー! アンタのせいでしょうが!?」

 

その声量に、近くで資料を読んでいた影分身が顔を上げた。

 

「……騒がしいな」

 

「アンタも同じ顔でしょうが!!」

 

「ワシは何もしておらんぞ」

 

「そういう問題じゃないのよ!!」

 

慎二は呆然とその光景を眺めていた。

遠坂凛は学校では優等生として知られ、慎二にとっても長年目障りな存在だった。

その凛が、目の前で顔を真っ赤にして怒鳴っている。

しかも、相手は彼女のサーヴァントだという。

 

「……なあ、扉間」

 

「何だ?」

 

「お前、遠坂のサーヴァントなんだよな?」

 

「そうだ」

 

「……なのに、何でそんなに偉そうなんだよ?」

 

「元々こういう男なのよ!」

 

凛が代わりに答えた。

 

「おい、貴様に聞いておらんぞ」

 

「アンタのことを説明してあげたんでしょうが!」

 

「……ふむ。間違ってはおらんな」

 

「認めるんじゃないわよ!!」

 

慎二は椅子に座り直した。

どうやら、この二人の関係は自分が考えていたマスターとサーヴァントとは随分違うらしい。

少なくとも、ライダーが自分に接していた態度とは正反対だった。

 

「……で?」

 

凛が扉間へ向き直った。

 

「説明してもらえるんでしょうね?」

 

「無論だ」

 

「まず、どうして慎二がここにいるの?」

 

「間桐邸から連れてきた」

 

「……どうやって?」

 

「飛雷神でな」

 

「そうじゃなくて!!」

 

凛は額を押さえた。

 

「何で連れてきたのかって聞いてるのよ!」

 

「事情があってな。あの小僧には少々聞きたいことがあった」

 

「だからって、普通は家に連れてこないでしょう!?」

 

「間桐邸で尋問するわけにもいくまい」

 

「尋問!?」

 

凛の声が裏返った。

 

「ちょっと待って! アンタ、慎二を尋問したの!?」

 

「うむ」

 

「……どうやって?」

 

「水牢の術で拘束した」

 

「…………」

 

凛は口を閉じた。一度、大きく息を吸う。

そして、できる限り穏やかな声で尋ねた。

 

「……つまり、慎二を間桐邸で捕まえて、この家まで連れてきて、地下室に閉じ込めて尋問したと?」

 

「その通りだ」

 

「…………」

 

凛は微笑んだ。

 

「アーチャー?」

 

「何だ?」

 

「何で私に相談しなかったのかしら?」

 

「相談すれば許可したのか?」

 

「するわけないでしょ!!」

 

「ならば相談する意味がなかろう」

 

「そういう問題じゃなぁぁぁい!!」

 

凛の怒声に、慎二が思わず肩をすくめた。

 

「……おい、遠坂」

 

「何よ!?」

 

「いや、何でもない……」

 

慎二は慌てて顔を背けた。

今は余計なことを言わない方がよさそうだった。

それから数分後。

凛は扉間の向かいに座り、事の経緯を聞いていた。

もっとも、完全に落ち着いたわけではない。指先は先ほどから机を叩いている。

 

「……それで? どうして慎二を捕まえる必要があったの?」

 

「桜の件だ」

 

その名前が出た瞬間、凛の表情が変わった。

 

「……桜?」

 

「ああ。慎二が昨晩、桜に危害を加えると口にしておったのでな」

 

凛は慎二を見た。

 

「……どういうこと?」

 

「お、おい! 余計なこと言うなよ!」

 

慎二が慌てて口を挟んだ。扉間は構わず続けた。

間桐邸の地下室で慎二が口にした言葉。

聖杯戦争での失敗を桜のせいにし、帰宅したら暴力を振るうつもりだったこと。そして、それだけでは済まさないとまで言っていたこと。

凛は黙って聞いていた。先ほどまでの怒りとは違う、冷たい表情になっている。

 

「……慎二」

 

「な、何だよ」

 

「それ、本当なの?」

 

「……違うって! ただ腹が立ってただけだよ!」

 

「だからって、桜に何をするつもりだったの?」

 

「……っ」

 

慎二は言葉に詰まった。

凛はしばらく彼を見つめていたが、やがて扉間へ向き直った。

 

「……それで、ここへ?」

 

「それだけではない。間桐の地下室も調べてきた」

 

「……地下室?」

 

「ああ。あの屋敷には大量の蟲がおった。しかも、ただの使い魔ではないようでな」

 

扉間は間桐邸で確認した地下室の様子を説明した。

無数の蟲が蠢く地下空間。そこに流れる魔力。

そして、臓硯と思われる気配が一箇所に集中していなかったこと。

 

「……間桐の魔術が蟲を使うことは知ってるけど、そこまで詳しく調べたの?」

 

「直接見てきたからな」

 

「……アンタ、本当に何でも勝手にやるわね」

 

「必要な調査だろう」

 

「必要なのは分かってるわよ。でも、せめて事後報告くらいしてほしいの!」

 

「今しておるではないか」

 

「私が帰ってこなかったら、いつまで黙ってるつもりだったのよ!?」

 

「研究が一段落してからだな」

 

「絶対もっと早く報告しなさい!!」

 

凛が机を叩くと、隣の慎二がぽつりと呟いた。

 

「……遠坂、お前も苦労してるんだな」

 

「誰のせいで苦労が増えてると思ってるのよ」

 

「……僕に言うなよ」

 

「アンタも原因の一つでしょうが!」

 

慎二は口を閉じた。

凛は改めて扉間へ向き直った。

 

「……とにかく、桜のことは気になるわ。私からも一度話を聞いてみる」

 

「ああ。ただし、慎重にな。あの娘自身が何も話したがらぬ可能性もある」

 

「分かってるわ」

 

「……あいつに余計なこと聞くなよ」

 

慎二が不満そうに言う。

凛は振り返った。

 

「……」

 

「……何だよ」

 

「今のアンタに、桜へ何を聞くなって指図する権利があると思う?」

 

「…………」

 

慎二は顔を背けた。

凛も、それ以上は追及しなかった。

桜の様子については、以前から気になっていたこともある。

ただ、本人が何も語ろうとしない以上、無理に踏み込めばかえって傷つけてしまう可能性があった。

 

「……それで、慎二はいつまでここにいるの?」

 

「今は研究を手伝わせておる」

 

「……研究?」

 

「ああ。魔術回路は持たぬが、術式については随分と詳しいのでな」

 

凛は慎二を見た。

慎二は得意げに鼻を鳴らした。

 

「何だよ。僕が研究してたらおかしいか?」

 

「……いえ、そういうわけじゃないけど」

 

机の上には、魔術書と研究記録が並んでいる。

その一部には、慎二の筆跡と思われる書き込みまであった。

 

「……本当に研究してたの?」

 

「だからそう言ってるだろ!」

 

慎二は資料を持ち上げた。

 

「偽臣の書の術式を調べてるんだよ。お前のサーヴァント、魔術については分からないことだらけだからさ」

 

「……何ですって?」

 

凛の眉が動いた。

 

「何だよ。事実だろ」

 

「アンタ、私のサーヴァントを馬鹿にしてるの?」

 

「さっきまで散々怒鳴ってただろ!?」

 

「それとこれとは別よ!」

 

「意味分かんねえよ!!」

 

扉間は二人の会話を聞きながら、資料を一冊閉じた。

 

「……貴様ら、意外と仲がよいな」

 

「「どこが!?」」

 

二人の声が重なった。

 

「息も合っておる」

 

「「合ってない!!」」

 

扉間は納得したように頷いた。

 

「やはり仲がよいではないか」

 

「もう黙ってなさい、アーチャー!!」

 

「お前が一番話をややこしくしてるんだよ、扉間!!」

 

二人から同時に怒鳴られた扉間は、面倒そうに資料へ目を戻した。

しばらくして、凛はようやく本来の用件を思い出した。

 

「……ああ、そうだった」

 

「何だ?」

 

「セイバーのことよ」

 

凛は椅子に座り直した。

 

「私の協力者と会いたいって言ってるの。衛宮君も、できれば一度顔を合わせたいみたい」

 

「……なるほどな」

 

扉間は頷いた。

士郎とセイバーは、アーチャーが既に敗北したものと思っている。

その認識を変えるつもりは、今のところなかった。

 

「……予定通りでよかろう」

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

「問題あるまい。兄者の姿で会えばよいだけだ」

 

「……簡単に言ってくれるわね」

 

凛は腕を組んだ。

扉間の変化の術が精巧であることは、既に十分理解している。

問題は、姿を変えることではない。その後の振る舞いである。

 

「いい? 衛宮君はともかく、セイバーは相当鋭いわよ。何か不自然なことがあったら、すぐに疑われるかもしれないんだから」

 

「承知しておる。兄者の姿で接触する以上、正体が露見するような真似はせん」

 

「それと、私との関係についても一応確認しておきたいの。遠坂家の遠縁ってことにするんでしょう?」

 

「うむ。表向きはその設定で通す」

 

「だったら、私が知らない親戚の話を勝手に始めたりしないでよね」

 

「そんな無意味なことはせん」

 

「……本当でしょうね?」

 

「ワシを誰だと思っておる?」

 

「そこが心配なのよ!」

 

凛がため息をついたところで、慎二が会話へ割り込んだ。

 

「……おい、ちょっと待てよ」

 

「何だ、慎二」

 

「さっきから何の話してるんだ? 兄貴の姿で会うとか、遠縁とか……」

 

扉間は慎二へ顔を向けた。

 

「言葉通りだ。衛宮士郎たちには別人として接触する」

 

「……別人?」

 

「変化の術を使うのでな」

 

「……変化?」

 

慎二は眉をひそめた。

 

「何だよ、それ。変身する魔術か?」

 

「似たようなものだが、術の仕組みは違う。実際に見せた方が早いな」

 

扉間は椅子から立ち上がると、両手で印を結んだ。

 

「変化」

 

白煙が立ち上った。

 

慎二は思わず椅子を引いた。

 

「うわっ!? 何だよ急に!」

 

煙はすぐに晴れた。

 

そして、その場に立っていた人物を見て、慎二は口を開けたまま固まった。

赤い上着。黒いスカート。艶のある黒髪と、整った顔立ち。

そこには、遠坂凛が立っていた。

 

「…………は?」

 

慎二は本物の凛へ視線を向けた。

そして、目の前に現れたもう一人の凛を見る。

同じ顔。同じ背丈。髪の長さも、服装も、どこから見ても遠坂凛そのものだった。

 

「……はあああ!?」

 

慎二が叫んだ。

 

「遠坂が二人いる!?」

 

「だから変化の術だと言っただろう」

 

扉間が答える。

ただし、その声は既に凛のものへ変わっていた。

 

「……ちょっと待って」

 

本物の凛が立ち上がった。

目の前にいる自分自身を、頭の先から足元まで眺める。

 

「……相変わらず、無駄にクオリティが高いわね」

 

「当然だ。変装に不備があれば、任務に支障を来す」

 

扉間は凛の声で答えた。

そのうえ、何気なく髪を払う仕草まで本人そっくりだった。

慎二は二人を見比べた。

 

「……おい、本当にどっちがどっちか分からないんだけど」

 

「こちらが本物よ!」

 

凛が自分を指差す。

すると、変化した扉間も同じ仕草をしてみせた。

 

「こちらが本物よ!」

 

口調も声の高さも、完全に一致していた。

 

「ちょっと! 真似しないでよ!」

 

「ちょっと! 真似しないでよ!」

 

「アーチャー!!」

 

「アーチャー!!」

 

「…………」

 

慎二は頭を抱えた。

 

「……やめろよ! 本当に訳が分からなくなるだろ!」

 

扉間はそこで真似をやめた。

 

「ふむ。声と動作にも問題はないようだな」

 

「問題大ありよ!」

 

凛は自分と同じ顔をした相手を睨みつけた。

しかし、そこで別のことが気になったらしい。

もう一度、変化した扉間の姿を上から下まで眺める。

 

「……ねえ」

 

「何だ?」

 

「アンタ、本当に私の姿を完璧に再現したつもり?」

 

「そのつもりだが」

 

「……ふーん」

 

凛は変化した扉間の横へ並んだ。

背丈はほぼ同じ。髪型も同じ。

服の皺や装飾に至るまで、寸分違わず再現されている。

だが、凛はどうにも納得できなかった。

 

「……待ちなさい」

 

「今度は何だ?」

 

「もっと……ほら! 私はスラッとしてるはずよ!?」

 

「…………」

 

「胸だって……もうちょっと、こう……!」

 

凛は身振りを交えて、自分の言いたいことを伝えようとした。

扉間は凛の姿のまま、自分の身体を見下ろした。

それから本物の凛へ視線を移し、改めて確認する。

 

「……何も変わらんはずだ」

 

「……は?」

 

「虚偽の変化をしてどうする。実物と異なる姿では変装の意味がなかろう」

 

「…………」

 

地下室が静まり返った。

慎二が口元を押さえた。

 

「……ぷっ」

 

凛の眉がぴくりと動く。

 

「……ちょっと、アーチャー」

 

「何だ?」

 

「それ、どういう意味かしら?」

 

「言葉通りだ。貴様の姿は正確に再現しておる。体格を変える必要などない」

 

「……つまり?」

 

「そのままだと言っておる」

 

「…………」

 

凛は満面の笑みを浮かべた。

 

「なんなのよアンタあああああ!?」

 

扉間は凛の顔のまま、怪訝そうに眉を寄せた。

 

「何を怒っておる?」

 

「喧嘩売ってるわよね!? ねえ!? 絶対売ってるわよね!?」

 

「売っておらん。事実を述べたまでだ」

 

「余計に腹立つのよ!!」

 

凛は右手を突き出した。

 

「令呪使うわよ!?」

 

「そのようなことで令呪を消費するな。貴重なものだぞ」

 

「誰のせいで使いたくなってると思ってるのよ!!」

 

慎二はとうとう堪えきれなくなった。

 

「……くっ、ははっ!」

 

「何がおかしいのよ!?」

 

「いや、だって……お前、自分で言い出したんだろ!」

 

「うるさいわね!!」

 

「ははは! 扉間、お前、本当に容赦ないな!」

 

「何がだ? 変化の精度を確認しただけだろう」

 

しかも、その発言はまだ凛の声だった。

慎二は机に突っ伏して笑い始めた。

 

「や、やめろよ! その顔でそんなこと言うなって!」

 

「アーチャー! 今すぐ元に戻りなさい!!」

 

「……やれやれ」

 

再び白煙が立ち上り、扉間は元の姿に戻った。

 

「これでよいか?」

 

「全然よくないわよ!!」

 

凛は顔を赤くして椅子へ座った。

そして、腕を組んでそっぽを向く。

 

「……もう二度と私の姿に化けないで」

 

「それは困る。必要になれば使うぞ」

 

「一言くらい謝りなさいよ!!」

 

「何をだ?」

 

「全部よ!!」

 

慎二はまだ笑っていた。

 

「……くくっ、遠坂、お前も大変だな」

 

「アンタも笑いすぎよ!」

 

「いや、でも……あんな完璧に再現されたら、そりゃ文句も言いたくなるよな!」

 

「慎二!?」

 

「悪い悪い! ……くくっ」

 

凛は机に突っ伏した。

 

(……どうして私のサーヴァントはこうなのよ……!)

 

一方、扉間は今の騒動など気にも留めず、机の上に置かれた資料を揃えていた。

 

「……それで、変化の術については理解できたか?」

 

慎二はようやく笑いを収めた。

 

「ああ……嫌というほどな」

 

「ならばよい」

 

「……ん?」

 

慎二はふと、顔を上げた。

そして、何かを思い出したように扉間を見た。

 

「……待てよ」

 

「何だ?」

 

「そういや、僕から偽臣の書を奪った女子生徒って……」

 

扉間はあっさり答えた。

 

「ワシだが?」

 

「…………」

 

慎二の動きが止まった。

 

「……は?」

 

「ワシが変化しておった」

 

「…………」

 

慎二は扉間を見た。

次に、凛を見る。

そして、再び扉間へ顔を向けた。

 

「……お前だったのかよ!?」

 

「今更気づいたのか?」

 

「気づくわけないだろ!!」

 

慎二は勢いよく立ち上がった。

 

「あの女子生徒! やたら速くて、訳の分かんない術使って、僕の本を奪っていったあいつ!!」

 

「うむ」

 

「お前だったのかよ!!」

 

「そう言っておる」

 

慎二は頭を抱えた。

 

「……じゃあ、何か? 僕はお前に襲われて、本を奪われて、その後またお前に捕まって……」

 

「そうなるな」

 

「……二回も同じ奴にやられてたのかよ!?」

 

「貴様が気づかんかっただけだ」

 

「……くそっ!!」

 

慎二は椅子へ座り直した。

凛はその様子を眺めながら、額に手を当てた。

 

「……アーチャー」

 

「何だ?」

 

「アンタ、本当に何でもやってるのね」

 

「必要なことをしておるだけだ」

 

「……そう」

 

凛は深く息を吐いた。

すると、慎二が思い出したように顔を上げた。

 

「……ちょっと待てよ」

 

「今度は何だ?」

 

「お前僕が学校でしてた事も知ってたよな……学校にもいたのか?」

 

「おったぞ」

 

「……どこに?」

 

「倒れておった女子生徒の一人だ」

 

「…………」

 

慎二は口を開けたまま固まった。

凛もまた、ゆっくりと扉間へ顔を向けた。

 

「……ちょっと待って」

 

「何だ?」

 

「倒れてた女子生徒って……」

 

凛は記憶を辿った。

学校の結界が解除された後、衛宮士郎と一緒に倒れた生徒たちを助けて回った。

その中に、一人の女子生徒がいた。廊下の隅で倒れていて、声を掛けると意識を取り戻した少女。

 

「……まさか」

 

「うむ。貴様らに助けられたな」

 

「…………」

 

凛は天井を仰いだ。

 

「アンタぁぁぁ!!」

 

「今度は何だ?」

 

「私、あの子のこと本気で心配したのよ!?」

 

「知っておる」

 

「知っておる、じゃないわよ! だったら何か合図くらいしなさいよ!」

 

「衛宮士郎がおっただろう。ワシの存在を知られるわけにはいくまい」

 

「……っ!」

 

凛は言葉に詰まった。確かに、その通りだった。

士郎やセイバーにアーチャーの生存を知られないため、扉間はわざわざ別人に変装している。

凛が正体に気づいて変な反応をすれば、それこそ偽装が台無しになってしまう。

 

「……だからって、何も私に助けられる必要はなかったでしょう!」

 

「貴様の方から来たのだが」

 

「そうだけど!!」

 

「怪我人を見捨てず救助する姿勢は評価できるぞ」

 

「何でアンタに褒められてるのよ!?」

 

慎二はそんな二人を眺めていたが、やがて小さく呟いた。

 

「……遠坂、お前……」

 

「何よ!」

 

「いや、何でもない……」

 

慎二は再び顔を背けた。

どうやら、自分だけがこの男に振り回されているわけではないらしい。

そのことだけは、よく分かった。騒ぎが落ち着いた頃には、凛はすっかり疲れ切っていた。

 

「……とにかく、アーチャー」

 

凛は椅子に座り直した。

 

「一つだけ約束して」

 

「何だ?」

 

「これから何か大きなことをする時は、必ず私に報告すること」

 

「……ふむ」

 

「いい? 絶対によ!」

 

扉間は少し考えた。

 

「……可能な限り善処しよう」

 

「何よ、その政治家みたいな返事は!?」

 

「状況によっては報告する暇もあるまい」

 

「そういう時は仕方ないけど! 少なくとも、同級生を地下室に連れ込む前には連絡しなさい!!」

 

「……分かった」

 

「本当でしょうね?」

 

「うむ」

 

凛はようやく椅子の背もたれへ身体を預けた。

話し合うべきことはまだ残っている。

 

「……もう、本当に疲れたわ」

 

凛は額を押さえた。

 

その隣で慎二も、深いため息をついた。

 

「……僕もだよ」

 

「アンタと一緒にしないでくれる?」

 

「何だよ! 今だけは意見が合っただろ!」

 

「合ってないわよ!」

 

「……また始まったか」

 

扉間は二人を眺めて呟いた。

そして、机の上に置かれた魔術書を一冊取り上げる。

 

「まあ、話が済んだのなら研究を再開するぞ」

 

「……は?」

 

慎二が顔を上げた。

 

「いや、ちょっと待てよ。今こんな状況だぞ?」

 

「だから何だ?」

 

「だから何だ、じゃないだろ! 遠坂が帰ってきたんだぞ!?」

 

「それが研究を中断する理由になるのか?」

 

「……お前さぁ」

 

凛も呆れたように扉間を見た。

 

「アーチャー。さすがに今日はもう少し話し合うことがあるでしょう?」

 

「ならば、貴様らが話しておればよい。ワシは資料を調べておく」

 

「……アンタ、本当に自由ね」

 

「時間は有限だからな」

 

扉間は平然と答え、魔術書を開いた。

その隣では影分身たちが、既に研究を再開している。

慎二はしばらくその光景を眺めていたが、やがて諦めたように椅子へ座り直した。

 

「……ったく」

 

机の上から、先ほどまで読んでいた資料を取り上げる。

 

「おい、扉間。ここの術式なんだけどさ」

 

「む? ああ、そこか」

 

「この記述、前の資料と矛盾してるんだよ。どっちが正しいんだ?」

 

「……ふむ。見せてみろ」

 

二人は何事もなかったかのように研究の話を始めた。

凛はそんな様子を呆然と眺めていた。

つい昨日まで敵だった慎二が、自分の屋敷の地下室でアーチャーと研究している。

しかも、本人たちは妙に息が合っている。

一体、何がどうなればこんな状況になるというのか。

 

「……アーチャー」

 

「何だ?」

 

「私、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「うむ」

 

「……私がいない間、何があったの?」

 

扉間は資料から顔を上げた。

 

「先ほど説明しただろう」

 

「……そうじゃなくて」

 

凛は慎二を指差した。

 

「何でアンタたち、そんなに仲良くなってるのよ!?」

 

「「仲良くない」」

 

今度は扉間と慎二の声が重なった。

凛は両手で顔を覆った。

 

「……もう嫌、この家」

 

その横では、慎二が何事もなかったように資料へ視線を戻していた。

 

「……で、扉間。さっきの続きなんだけど」

 

「うむ。まずはこの部分からだな」

 

「ちょっと! 私を置いて研究を再開しないでよ!!」

 

地下室に、再び凛の怒声が響いた。

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読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ゼロの使い魔・ドラゴンクエスト外伝 ~アバンと異世界のメイジたち~(作者:アバン流口殺法はご遠慮ください)(原作:ゼロの使い魔)

かつての勇者にして勇者の家庭教師・アバンは、大魔王バーンを打ち倒した後で行方不明となった弟子の消息を求めて、再び破邪の洞窟の深層に赴いた。▼前人未到の迷宮深層を進む彼の前に、突如として見たことのない、輝く鏡のようなものが姿をあらわす。▼そのとき異世界ハルケギニアでは、「ゼロ」の蔑称で呼ばれ落ちこぼれとみなされていたメイジの少女が、今まさに春の使い魔召喚の儀式…


総合評価:5647/評価:8.75/連載:31話/更新日時:2026年11月08日(日) 08:13 小説情報

この刃、未だ名を持たず(作者:テスト中)(原作:無職転生)

知識がないオリ主が新しい世界でなんとか生きていくお話。


総合評価:4858/評価:8.28/連載:5話/更新日時:2026年11月07日(土) 17:29 小説情報

英霊スバルのゼロから始める聖杯戦争(作者:どんぱち)(原作:Fate/staynight )

「サーヴァント・セイバー、ナツキ・スバル。召喚に応じてただいま参上!」▼ 英霊ナツキ・スバルは、2004年冬木に第五次聖杯戦争のセイバーとして召喚された。スバルは衛宮士郎と共に、最弱のサーヴァントとして幾度の死を乗り越え、聖杯戦争の終結を目指す。▼「行くぜ、英雄夢想。──運命様、上等だ!」▼※『Fate/stay night』と『Re:ゼロから始める異世界生…


総合評価:7087/評価:9.2/完結:30話/更新日時:2026年10月28日(水) 19:00 小説情報

うちは一族生存戦略(作者:far)(原作:NARUTO)

NARUTO世界で、オリ主に前世の記憶が覚醒。▼そのタイミングはうちは一族のクーデター決起集会。▼さあこのオリ主は、生き延びることが出来るか。


総合評価:8741/評価:8.48/連載:17話/更新日時:2026年10月30日(金) 13:02 小説情報

よく聞け、いいか、ここをローマ帝国とする!(作者:とくめいのネロ)(原作:コードギアス)

Fate/シリーズより、ネロちゃまをブリタニア皇族にINさせてみたお(^ω^)▼っていう、小説。▼


総合評価:5924/評価:8.42/連載:13話/更新日時:2026年09月18日(金) 17:16 小説情報


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