小鳥「これでよしっと」
最後の音響機材の確認が終わり音無さんが体育館の放送室から出てくる
八幡「すみません、全部やってもらっちゃって。俺そういうの全然わからなくて」
実際俺が音響機材なんかを確認できればわざわざ音無さんが総武高にこなくてもよかったのだが、生憎俺はそういうのに疎い為手伝ってもらった、というかやってもらった。
小鳥「気にしないでください。会場の下見も兼ねてますから」
八幡「ありがとうございます」
小鳥「それにしても高校の体育館ってこんなに広かったのね」
ステージから体育館全体を見渡しながら音無さんがそう言う。
八幡「そうですか?こんなもんじゃないですか、まぁ、他の高校の体育館を見たことがないんでよくわからないんですけど」
小鳥「んー、私の記憶の中ではもう少し小さかったイメージだったんですよ」
音無さんが持ってきた道具を片付け始めたので俺もそれを手伝う。
静かな体育館に道具を片付けるカチャカチャという音が響く。
今この体育館には俺と音無さんしかいない。というのも765プロのミニライブは秘密裏ということで平塚先生が部活が終わったあとに作業ができるよう手配してくれたのだ。
八幡「まぁ、記憶なんてものは曖昧ですから」
片付ける手を止めずに俺はそう呟いた。
道具を全てまとめ終えると、体育館裏に停めてあるワゴン車へとそれを運んだ。
最後の荷物を運び終えワゴン車のドアを閉める。
小鳥「それじゃあ平塚さんのところに行きましょうか」
八幡「そうですね」
体育館の鍵が閉まっていることを確認し体育館を後にした。
平塚先生に作業が終わったことを告げるため俺と音無さんは生徒のいない敷地を通り職員室へと向かう。
普段は開いている校舎の扉も放課後の今では鍵が掛かっているため先生たちが通る為に開けてある職員玄関までは校舎の外から行かなくてはならない。
まだ夏のジメっとした暑さの外は日が落ちているとはいえ、普段冷房の効いた部屋で生活している俺には辛いものがある。それは音無さんもおなじなのか、まだ暑いですね。なんて話をしている。
職員玄関を通り職員室へ平塚先生を呼ぶと少しして荷物を持った平塚先生が出てきた。
平塚「お疲れさまです、音無さん」
小鳥「平塚さんもお疲れさまです。機材の確認は終わりました。後は前日の準備で大丈夫だと思います」
平塚「そうですか、ありがとうございます」
こうして二人を見ていると仕事ができる女性達、という感じで格好いいなと感じる。
平塚「それじゃあ…」
小鳥「行きますか!」
これさえなければ、だが。
平塚先生らに連れられ近くにあるラーメン屋に向かう。
俺は音無さんの運転するワゴン車に乗せてもらう。
時間を確認するために腕時計を見るとそろそろ8時をまわるところだった。夕飯はいらないと小町に伝えてあるが、一応メールを送っておく。
少しして目当てのラーメン屋の近くのコインパーキングに車を停め俺たちはラーメン屋に並んだ。
なんか、このメンバーで飯を食うときって大抵ラーメンな気がするんだが。いや、ラーメン好きだからいいんだけどさ。
因みに今回は平塚先生がおすすめの家系ラーメンだった
ラーメンを食った後平塚先生と別れ、音無さんに稲毛駅まで送ってもらった。
八幡「音無さん、今日はありがとうございました。駅まで送ってもらっちゃって」
小鳥「いいのよ。プロデューサーさん、文化祭盛り上げましょうね!」
八幡「はい」
俺は音無さんがロータリーから出るまで車を見つめていた。
× × ×
翌朝学校に行くと部室に雪ノ下の姿が見当たらなかった。
ここ数日、朝早くに学校に来て部室で文化祭の作業をしているのだ。
いつもは雪ノ下が既に来ていたので鍵が開いていたが今は開いていない。
今日は俺の方が早くついたのだろうか、そう思いながら職員室へ部室の鍵を取りに向かった。
平塚「比企谷」
職員室で平塚先生を呼ぶとやけに神妙な顔で出てくる
八幡「あの、部室の鍵を」
そう簡潔に告げようとしたのだが平塚先生の言葉で遮られる
平塚「雪ノ下なんだが、今日は体調を崩したので休むと連絡があった」
雪ノ下が体調不良…
体力が無かったりするがあいつは自分の体調管理なんかはしっかりできる奴だ。
そんな雪ノ下が何故体調不良を
平塚「ここのところ委員会の方が忙しかったからな。無理がたたったのだろう」
その一言に俺は返事が出来なかった。
俺は雪ノ下の状況を知らなかった。
委員会が今どうであるなどは全く考慮せず、雪ノ下に765プロのライブの準備を手伝ってもらっていたのだ。
いや、彼女が文化祭の副委員長をしているのは知っていた。珍しいことをするものだ、と思ったのは今でも覚えている。
覚えているのに分かっていなかったのだ。
そう後悔にかられていると平塚先生が俺の肩に手をあてる。
平塚「比企谷、自分をあまり攻めるな。私もあの子の無理を知っていながら止めなかったんだ。君だけが悪い訳じゃない」
そう声をかけてくれるがそんなのは只の言い訳であることは俺が一番わかっていた。
彼女に必要以上の仕事をさせていたのは紛れもなく俺自身なのだ。
八幡「はい」
思いとは裏腹のてきとうな返事を返し、鍵を受けとり部室に戻る。
雪ノ下の居ない部室に居心地の悪さを感じながらも俺はやる予定だった仕事を片付けていくのだった。
集中すると時間が過ぎるのは早いもので気がつくと予鈴がなっている。部室の鍵を返してから教室に行くには時間が少し余りそうだったので、気持ちを落ち着かせるために自販機へと足を運ぶ。お茶を片手に持ちながら平塚先生に鍵を返しに行き教室に戻ると、ちょうど登校してきたであろう由比ヶ浜が見える。あいつにも雪ノ下のことを話しておいた方がいいだろう。
八幡「由比ヶ浜」
結衣「うわっ」
後ろから声をかけたせいか俺が声をかけたせいかは分からないが由比ヶ浜が変な声をあげる。
結衣「なんだヒッキーか、どしたの?」
振り返り俺だということに気付いて足を止めてくれる。
八幡「雪ノ下が今日休んでいるの知ってるか」
結衣「……え、そう、なの?」
八幡「体調崩しているらしい」
由比ヶ浜は驚いたように息をのむ。別に体調を崩す何て事は誰にでもある。しかし、雪ノ下が独り暮らしであることなどを考慮すると不安になるのだろう。
結衣「あたし、放課後にゆきのんの家行ってみる」
由比ヶ浜ならそう言うだろうと思っていた。
八幡「そうか、それじゃあ頼む」
授業の開始を知らせるチャイムがなり俺たちは急いで教室へと向かった。
× × ×
昼休みになり購買に昼飯を買いに行くために教室を出ようとしたところで由比ヶ浜に呼び止められた。
結衣「ヒッキー、ゆきのんのことで話があるの。お昼買ったら部室これる?鍵は私が行くから」
八幡「あぁ」
結衣「じゃあ、あとでね」
そう言うと由比ヶ浜は職員室の方向へと走っていった。
購買でかったパンを持ちながら、自販機でカフェオレを二つ買う。
奉仕部の部室は外から見れば普段と何一つ変わらない。
少し重いドアを開け俺は教室のなかへと入っていった。
カフェオレを1つ由比ヶ浜に渡し、話を始める。
結衣「ゆきのんが文化祭の副委員長をやってるのはヒッキーも知っているよね」
八幡「あぁ」
結衣「実はね、はじめはゆきのん副委員長やってなかったの。さがみんが補佐をしてって依頼したからなんだ」
さがみん?誰だそれ。
カフェオレのプルトップを引き上げ缶を開けた。
俺が誰だか理解してないのに気づいたのか由比ヶ浜が教えてくれる。
結衣「はぁ、同じクラスの相模南ちゃんだよ。文化祭委員長なの」
文化祭委員長からの依頼で副委員長になったのか
結衣「それでゆきのんが補佐をしてたんだけど、何て言うかさ、ゆきのんって完璧じゃん?だから文化祭の仕事を大体一人で仕切っちゃったらしくてさ」
雪ノ下なら不可能ではないことは容易に予想出来るがその事に俺は少し違和感を覚えた。
結衣「それから、かな?隼人君に聞いた話だから詳しくは分からないんだけど、さがみんが準備が進んでるからクラスも出ようって言い出して次第に委員に出る人が減ってっちゃったらしくて」
八幡「そりゃあ、委員に望んでなったわけじゃない奴も多いだろうからそうなるだろうな」
一人休み始めたらまた一人、それが連鎖し多くのやつが休む。割れ窓理論って奴だな。
結衣「それで、さがみんもうちのクラスにいること多くなってさ」
八幡「は?いや、あいつ文化祭委員長なんだろ?」
結衣「うん…。でも、ゆきのんがそれでもできちゃうから…」
相模も相模なのだが雪ノ下も、らしくない。
八幡「それで無理がたたったってことか。誰かその現状に対してなにか言わなかったのかよ」
結衣「うーん、そこまではわからないかな。私も委員なわけじゃないし」
由比ヶ浜が申し訳なさそうにする
八幡「いや、すまん」
そう謝り、俺はカフェオレを一口啜る。
あ、やっぱりMAXコーヒーと比べると苦いな
八幡「つまり、俺が知らない間に雪ノ下が相模から依頼を受けていたってことだよな」
結衣「うん、多分体調を崩しちゃったのはそれが原因じゃないかなって思ったから…ヒッキーにはつたえとかなきゃって」
反射的に目線をそらしてしまう
八幡「いや、別に俺に伝えなくてもいいだろ」
結衣「そうかもだけど……でも、部活の事はちゃんと知らせておこうかなって」
八幡「…そうか」
結衣「ねぇ、ヒッキー」
由比ヶ浜は俺の渡したカフェオレの缶を手の中
で転がしながらそう呟く
結衣「…あたしと一緒にゆきのんの家行ってくれる?」
間をとるように俺はもう一口カフェオレを啜った。
八幡「別に俺が行かなくてもいいだろ」
結衣「また、そうやって…」ボソッ
結衣「あたしだけじゃゆきのん会ってくれないかもしれないし」
八幡「そんなことはないだろ」
雪ノ下も由比ヶ浜がわざわざ家にまで来たら追い返すようなことはするまい。
結衣「…それに、あたし一人だけだとちょっと不安というか…」
相変わらず由比ヶ浜は手の中で缶を転がしている。
八幡「…まぁ、俺も少し雪ノ下に言いたい事があるから」
由比ヶ浜は嬉しそうにこちらを振り返る。
結衣「ありがと、ヒッキー」
そう言うと由比ヶ浜はカフェオレを開け一口のみ、弁当を食べ始めたので俺も購買のパンを食べる。
俺も、由比ヶ浜もなにも言わずに昼飯を食べ静かな空間が少し寂しく感じられた。
なんだか全然文化祭が始まらないのですが…
アイマスキャラはもうしばらくお待ちくださいませ
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