八幡「765プロ?」   作:N@NO

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だが、彼に彼女の思いは届かない。

アイドルたちに話をしたあと一人体育館内へと戻ると、薄暗いステージ脇には眩いほどの光が差し込んでいた。

総武校生徒側の出演者のメインである葉山率いるバンドチームが叫び声のような歓声を浴びている。一部の生徒はステージに乗り上がらんばかりに身体をバンドに近づけていた。まぁ、葉山たちのバンドならこれくらいの盛り上がりは当たり前だろう。

 

文化祭でテンションの上がった生徒が危険なことをしないよう舞台袖から文化祭委員が注意しているのも見える。

なにも起こらなければ…。

喉に渇きを感じ、先程購入したお茶を口に含んだ。

 

雪乃「これが終わったら一度幕を閉めて葉山君がトークで少し時間を取ってくれるからそのうちに準備を」

 

急に声をかけられ危うくお茶を溢しそうになる。

 

八幡「っぶね。いきなり声かけんなよ、雪ノ下。びっくりするだろうが」

 

雪乃「ちゃんと声かけたわよ、聞こえなかったかしら?もしかして緊張でもしてるの?」

 

八幡「…。はっ、別に俺が出る訳じゃねぇんだ、あいつらが緊張してるのなら兎も角、俺が緊張するわけねーだろ」

 

雪乃「…そう。そういうことにしておいてあげるわ」

 

やけに恩着せがましくそう言うと雪ノ下は委員に呼ばれ奥に向かっていった。

 

◇ ◇ ◇

葉山たちの演奏が終わり幕が閉められた。

それを確認するとアイドル達を体育館裏から中に入れるため呼びに向かう。

 

八幡「音無さん、出番です」

 

小鳥「分かりました。皆頑張ってね!」

 

舞台袖に上がるとアイドルに気づいた委員が軽く驚きの声をあげた。

竜宮小町ほど有名ではないがたまにTVに出たりしていたので知っている人は知っているのだろう。

キャーキャー言っているのを無視し全員に用意してあったピンマイクを渡す。

 

真美「うぅー、ドキドキしてきたぁ」

 

雪歩「が、がんばろうね」

 

真「最初は美希達だよね」

 

美希「そうなの。ちゃーんと盛り上げておいてあげるの」

 

春香「よーし、じゃあ皆いつものやろっか」

 

そう天海が言うと全員が円陣をくみ、中心に手を添える。

 

春香「765プロー」

「「「ふぁいとー!!」」」

 

外に聞こえないように気を付けているのか小さめな声だったが、気持ちはしっかりしているようだ。

準備はしてきた。

 

あとは生徒が予想通りに動くか、だ。

 

◇ ◇ ◇

 

葉山「これで俺たちの発表は終わりです。本来ならここで終わりなんですけど、今年は特別ゲストが来ています!」

 

「「おぉぉ!!?」」

 

葉山「それでは特別ゲスト!765プロの皆さん!お願いします!」

 

葉山の声と共に暗幕へとサーチライトが向けられる。

またそれと同時に館内にざわめきが広がった。

 

「え、765プロって?」

「お前知らねーのかよ、竜宮小町の所属プロダクションだろ」

「うそっ、私竜宮小町のファンなんだけど!!」

「あずささんみられるのか!?」

 

ざわめきからわずかに聞き取れるその内容はどれも竜宮小町を指すもので他のメンバーの内容は聞こえてこない。

ちらりと横にいる音無さんを見ると悔しそうに握り拳を作っている。

 

小鳥「いつか…いつか、ここでライブがあったことを彼らの自慢になるように頑張りましょうね」

 

八幡「そうですね…でもまぁ、」

 

音無さんが驚いたような顔をしながら振り返った。

 

八幡「このライブが終わった頃には自慢話になってますよ」

 

~ ~ ~

 

幕が開きサーチライトがアイドルたちを照らす。皆がその姿を見ようと立ったり、跳ねたりしているのがステージ脇からも確認できた。プロのアイドルが学校に来ているということで盛り上がりを見せていた。

そして、

 

「あれ?竜宮小町いなくね?」

 

タイミング悪く一瞬静まり返ったときに発せられたその言葉が館内に響く。

そいつが発した波紋が広がろうとしたそのときだった。

 

美希「みんなー、文化祭、たのしんでるーー?」

 

星井が予定にはなかった台詞を叫んだ。

咄嗟の出来事に周りの反応が一瞬遅れ、それに答える返事はまばらだった。

他のメンバーたちも星井の行為に驚いた目に見えるような行動はしていないものの驚いた様子は何となく感じ取れる。

 

美希「元気ないなぁー、楽しんでないのー?まぁ、竜宮小町が来たと思った人たちもいるもんね」

 

その言葉に罪悪感を感じたのか少し目線をずらしている人たちもちらほら見える。

それはステージに立つ彼女たちからも見えただろう。

そして一瞬の間をあけ

 

美希「…でもね、765プロは竜宮小町だけじゃないってとこ、見せてあげるのっ。ミュージックスタート!!」

 

そう星井が告げ、両サイドに置かれたスピーカーから流れた曲は

 

雪乃「SMOKY THRYLL… 」

 

突然の声に振り返るとそこには雪ノ下が立っていた。

 

八幡「雪ノ下…用事は片付いたのか?」

 

雪乃「えぇ、…いま打てる手は打っておいたわ。それより比企谷くん、どうしてこの曲を?」

 

八幡「高校生なんてのは単純なんだよ」

 

× × ×

 

八幡「総武高でのライブの曲なんだが、一番目の曲は、星井、如月、真美。その三人でSMOKY THRYLLだ」

 

そう言うと全員驚いた反応を見せた。まぁ、そりゃあ自分達の曲じゃないのを言われたらびっくりするだろうが。

 

真「す、SMOKY THRYLLをやるんですか!? 」

 

八幡「あぁ。今さらだが三人とも歌えるよな?」

 

事務所のファイルでそれぞれの歌える曲を確認していたのだが一応確認のために聞く。

 

真美「んっふっふ~。真美と亜美はお互いの曲は全部うたえるよん」

 

美希「もちろんミキも歌えるよ」

 

千早「た、確かに私も歌えますが…でも、どうして SMOKY THRYLLなんですか? 」

 

如月は納得がいかない様子でそう訊いてくる

 

八幡「…厳しいことを言うことになるから、覚悟して聞いてほしいんだが」

 

千早「はい」

 

八幡「まだお前たちは竜宮小町と比べたら知名度はない。だから765プロのライブと聞いて高校生が思い浮かべるのは殆どが竜宮小町だろう。そんな中、竜宮小町がいないってのが分かったら落胆するだろうな」

 

春香「分かってはいたけど改めて言われると辛いなぁ」

 

千早「それがどう SMOKY THRYLLに繋がるんですか 」

 

八幡「高校生なんて単純なんだよ、手のひらなんてすぐに返しやがる。竜宮小町が居ないってのが分かって落胆したやつらの心を SMOKY THRYLLで掴む。様はきっかけ作りのための SMOKY THRYLLだ 」

 

千早「つまり竜宮小町だけじゃないんだ、というのを示すために竜宮小町の力を使うと言うことですよね」

 

八幡「まぁ、言い方が悪いがそう言うことだ」

 

千早「…そうですか。……分かりました、やるからには全力で頑張ります」

 

八幡「あぁ、頼む。この掴みが最重要といっても過言じゃないからな」

 

八幡「それで二番目なんだが…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1:SMOKY THRYLL 星井、如月、真美

2:乙女よ大志を抱け‼ 天海

3:エージェント夜を往く 菊地

4:フラワーガール 四条

5:Kosmos,Cosmos 萩原

6:TRIAL DANCE 我那覇

7:キラメキラリ 高槻

(2~7はメドレー形式)

8:The world is all one‼ 全員

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

× × ×

 

雪乃「…そう」

 

雪ノ下に説明を終えると彼女はそう呟いた。

 

雪乃「…貴方はこのライブを盛り上げる事はよく考えているけど、彼女の…彼女たちの事はあまり見えていないのね」

 

あいつらのことが見えていない?

それがどういうことか聞き返そうとした瞬間会場がワァっと盛り上がった。

驚いて振り返ると、どうやら SMOKY THRYLLのサビにはいったらしい。有名なフレーズが流れ何となく知っているという層も盛り上がったようだ。

 

その盛り上がりに気をとられ俺は完全に雪ノ下に先程の呟いた言葉に質問するタイミングを逃した。

 

俺がこの言葉にどんな思いが込められていたのかを知ったのはずっとあとだった。

 

美希「みんなー、ありがとなのー」

 

千早「次はメドレーです」

 

真美「にいちゃん、ねえちゃんたちー、たのしんでってよね!」

 

イェーーーイ

 

SMOKY THRYLLがおわり歓声がワッと沸く。

星井たちが此方に帰ってきたのと同時に音無さんの合図で委員がメドレーの音源をかけ始める。

明るい感じのメロディーが流れるのを確認し星井たちと入れ替わるように天海が出る。

 

春香「それじゃあいってきますね」

 

千早「がんばって」

 

春香「うん!」

 

天海がステージに出ると先程と変わらぬ大きさの声量が会場に響いた。

 

この調子なら大丈夫そうだな

 

 

おとめよーたいしをいだーけ~♪

ゆめみてーすてきーになれ~♪

 

~~~~~~~~

 

八幡「おつかれさん」

 

SMOKY THRYLLを歌い上げ帰ってきた3人にタオルを渡す。

 

真美「ありがとー」

 

千早「ちゃんと盛り上がりましたね」

 

美希「ねぇねぇ、ミキ竜宮小町みたいに輝いてた?」

 

八幡「ん?あぁ、ちゃんと輝いてたよ」

 

流石プロ、とだけあって先程までの生徒のバンドとは空気が違っていた。俺からみてそうだったのだから、はじめて生でみたアイドルのステージなら間違いなく輝いてみえていただろう。

 

美希「やったのー」

 

そう言うと星井は嬉しそうに手をあげた。

 

八幡「お前達まだ最後に曲残ってるんだから気ぬくなよ」

 

真美「わかってるよん」

 

一曲目がおわった彼女たちに声をかけたあと、舞台袖でじっと見守っている音無さんのところへと向かう。

俺に気づいた音無さんが小さな声で囁いた。

 

小鳥「プロデューサーさん、掴みは巧くいきましたね」

 

八幡「そうですね」

 

俺もそれにならって声を潜めて返す。滅多なことでもなければ外に聞こえることもないだろうが念には念をいれておくのが俺流。

なんなら雑念や無念なんかもいれるまである。

 

小鳥「春香ちゃんもしっかり歌えているし」

 

真「うぅ、緊張してきたぁ」

 

袖から客席側を改めてみて緊張したらしく菊地が緊張を解こうとピョンピョン跳ねだした。

ジャンプとともにピョンピョン動くアホ毛を見つめていると猫の気持ちがわからなくもない気がする。にゃーお

 

そんな菊地の肩を音無さんがトントンと叩いた。

 

小鳥「落ち着いて、ね」

 

真「はい、頑張ってきます」

 

そう言うと乙女よ大志を抱けからエージェント夜を往くのイントロへと変わるタイミングで菊地はステージへと駆け出した。

 

◇ ◇ ◇

 

SMOKY THRYLLを歌った三人のお陰でライブは完全に温まっていたため、順調に進んでいった。

そして

 

八幡「最後は全員曲だ。最後まで全力で楽しませてきてくれ」

 

「「「「はいっ」」」」

 

次の曲が始まるのです。




皆さん、お久しぶりです。何とか年内に更新出来ましたね。(少し内容が薄いのはきっと気のせい)

そんなことより今日は特別な日ですね。
そうです!雪歩の誕生日!寧ろそれ以外何もないですね!
間に合ってよかったです。
更新はこれで今年最後になると思います。1年間見てくださっている方々、ありがとうございます。来年も是非よろしくお願い致します。

意見、感想よろしくお願いします。

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