八幡「765プロ?」   作:N@NO

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そして比企谷八幡は考える。

相模がいない。

ただそれだけだった。

誰もいない、いつかのような屋上は無情にも身体に海風を吹き付けるだけ。

その事実を認識した俺は南京錠を掛け直すこともせず、階段を飛ばし飛ばしで駆け降りる。

 

クソッ、よく考えたら相模が屋上にいたらなら南京錠かけられねーじゃねーかっ…。

 

今はそんな後悔に頭を使う余裕なんてない。すぐさま思考を残りの候補の検索にかけるが、確信を持てるような場所は思い浮かばない。

腕時計を見ると残り時間は10分を切ろうとしていた。

このままだと……

 

顔を上げ周りを見渡す。エンディングセレモニーが近いためか周りに生徒は見えず確認できるのは誰かが捨てたパンフレットや缶など。流石に視認できる範囲に相模を見つけることはできない。

場所を変えるため正面を見直すと目の前を青みがかった髪の少女が通りかかった。

 

 

八幡「…かわさきっ」

 

突然名前を呼ばれた為かビクッと体を揺らし周りを見渡す姿はかわいかったです。

俺に気付いた川崎が立ち止まってくれたので、そこへ駆けていく。

 

沙希「あんた、なんでそんな急いでんの?」

 

八幡「お前、相模をどっかでみたか?」

 

沙希「は?いきなり何なの?」

 

八幡「いいから」

 

残り時間の少なさのために焦りがでて声が荒くなってしまう。

 

沙希「そ、そんな、怒んなくても…」

 

つり目の川崎が涙目になっておろおろし始める。

八幡「わるい、ちょっと急いでて。別に怒ってないんだ」

 

沙希「そ、そうなんだ。ならいいんだけど…」

 

八幡「それより相模をみたか?」

 

沙希「相模ってウチのクラスの相模?ならさっきテニスコートが見えるほうの校舎裏らへんにいるのを見たけど」

 

あっちの校舎裏だと材木座が見つけてる可能性はほぼないだろうな。全く検討違いのところを俺たちは探してたって訳か…

 

沙希「それがなんなわけ?」

 

聞いたきりで黙りこくっていた俺を怪訝に思ったのか川崎が問いかけてくる。が、それより早く俺の足は動き出していた。

ただ急いでいてもこの貴重な情報の礼くらいは言っておかないとな。

 

八幡「サンキュー!愛してるぜ川崎ッ!」

 

そう言い捨てて全力で校舎裏…俺のベストプレイスへと走る。

 

少し進んだとこで、後ろから絶叫が聞こえた気がした。

 

◇ ◇ ◇

 

今まで何度も来た場所につくと階段のところで校舎に背を向けて相模が座っていた。

足音に気づき振り返った相模の表情は、驚き、そして落胆へと変わっていく?そりゃあそうだろう。相模が見つけてほしかったのは俺なんかじゃないはずだ。むしろ俺になんかには見つかりたくもない、のかもしれない。

そんな相模に近づき、用件のみを簡潔に伝える。

 

八幡「エンディングセレモニーが始まるから戻れ」

 

すると相模が立ち上がり不快げに眉をひそめた。

 

相模「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」

 

そうぶっきらぼうに言うと顔を背けた。俺とは会話はしない、という意思表示であるかの様に。

 

八幡「そういうわけにもいかないんだ。色々と事情があるらしくお前がいないと始まらないらしい」

 

下手な言い訳をしているな、と自分でも感じながら相模を説得しようとする。すると相模が顔を上げ再びぶっきらぼうに言い放つ。

 

相模「もう開始時間とっくにすぎてんじゃないの」

 

コイツ、その事を知っていてあえてここにいて更に俺の説得にも耳を貸さないのか。ふざけてんじゃねえよ、と言いたくなる衝動をなんとか腹の底へと沈め、出来るだけ落ち着いた声を出す。

 

八幡「本来なら、な。なんとか時間を稼いでんだよ。だから」

 

相模「ふーん。誰がそれをやっているの」

 

相模は目を合わせようとせずに髪を弄っている。

 

八幡「…ん、そうだな。三浦とか…雪ノ下たちが」

 

相模「じゃあ雪ノ下さんに代わりにやってもらえばいいじゃん。あの人はなんでもできるんだからさ」

 

八幡「そういう問題じゃないだろ。お前の持ってる集計の結果とかが必要なんだよ」

 

相模「じゃあそれだけ持っていけばいいでしょ!!!」

 

怒鳴り散らす相模を前に一瞬本気で持っていってやろうかと思ったのだがなんとか思いとどまる。こんなやり方をするために俺が来た訳じゃない。なにより雪ノ下はこんなことは望まないはずだ。それは彼女のこれまでの行為を否定することになる。

こんな風に相模とやりとりしている間に時間はどんどん過ぎ去っていく。

 

俺にはなぜ相模が文化祭委員長をやろうとした理由がわからない。それがわからないままには俺に行動しようがない。

俺には…コイツに望む言葉はないも言えない…。この場面で俺に何ができる…?

 

七面倒なことを言っている相模への苛立ちで拳を強く握りしめた。

その時相模がポツリとあることをもらした。

 

相模「雪ノ下さんはいいよね…才能があって、努力しないでもなんでもできて」

 

は?

 

一瞬相模が何を言ったのか本気で理解できなかった。雪ノ下が努力しない?

才能があるのは認める。何でもできるのも認める。だが、努力しない、というのは理解できない。その言葉は一緒に仕事をしてきた雪ノ下の何を見て言えるのか。

 

八幡「ちげぇよ」

 

相模「は?」

 

八幡「雪ノ下は努力しないで何でもできるわけじゃねーよ」

 

無意識のうちにそう言っていた。

 

相模「何言ってんの?だって実際あの人はなんでもこなしていたじゃないっ。私なんかよりずっと有能でっ、だから雪ノ下さんに任せればいいじゃないっ」

 

相模の文化祭委員長という立場からの逃げは雪ノ下という有能な人物からの逃避だったのだろうか。それじゃあ何のためにコイツは委員長になって、わざわざ奉仕部に依頼をした?

 

八幡「お前はなんで委員長なんてやろうとしたんだ?」

 

相模「そんなのあんたに関係ないじゃないッ」

 

八幡「そうだろうな、関係ない」

 

相模「だからっ」

 

だからなんだ?帰れ、か?まぁ、そう言われても帰るつもりはないがな。俺としても見逃せない理由がある

 

八幡「お前、努力したのか?」

 

相模「な、何言ってんのよ、意味わかんない」

 

俺の発言に明らかに動揺を見せる。まぁ、唐突な内容だし意味がわからないと言われてもしょうがない、が、この場合相模は何を言われたのか理解しているだろう。

 

八幡「お前が委員長としての仕事をサボっている間に雪ノ下がどれだけその分働いたと思ってるんだ?お前からしてみれば何でもできてしまう雪ノ下が凄くて自分は何もすることがない、みたいに感じてるみてーだが、そいつはちげーよ」

 

相模「…」

 

八幡「周りから見れば雪ノ下が頑張って仕事をしているのにお前はただ仕事をほっぽりだしてるだけだ。雪ノ下が才能だけで何でもできる?ふざけんなよ、そんなわけあるか。あいつが裏でどんだけ努力をしているのか知らないだけだろ」

 

そうだ。雪ノ下に限ったことじゃない。765プロのあいつらだってそうだ。ファンに見せている1面は本当に1面で、その輝かしい華やかな1面を見せるためにどんだけの思いと努力が隠れているのか。それがわからないような奴に彼女達のことなんて理解できない。

 

その事だけは俺が何としても守らなければならない。

 

なぜなら

 

俺がプロデューサーで、彼女たちのその努力を一番近くで見ているのだから。

 

 

八幡「相模。お前のその意地はただの言い訳でしかねーんだよ」

 

本当は相模も気付いているんだろう。自分が今どういうことをしているかだなんて。ただ意地になっているだけで、ただ自尊心を守りたいだけで…。

だから俺が、俺のやり方で、俺のプロデューサーとして学んだことで…コイツに言ってやらなきゃならない。

 

八幡「自分が今できることを理解しろ。それがお前の立場としてしないといけない最低限のことだ」

 

相模「…」

 

八幡「…早く戻れよ」

 

少しの静寂が訪れる。相模は黙って下を向き両手でスマホを握りしめている。

やっぱり、俺じゃあ無理…か。

 

そう思ったとき

 

葉山「探したよ、ここにいたんだね」

 

俺には出来ない最後の一押しができる奴が来た。

 




更新遅くなって申し訳ないです。
総武高校の校舎配置が見付からず適当になってしまっているのでその辺はご了承ください。
多分次で文化祭編終わると思います。アイドルマスター側の出番、暫しお待ちを。

感想、意見よろしくお願いします。

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