八幡「765プロ?」   作:N@NO

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彼は彼女とすれ違う。

×××

 

父さんに連れて来られた会場の座席番号は後ろも後ろ。一番後ろだった。

 

八幡「なんだよ、一番後ろとか全然見えないじゃん」

 

そう独り言を漏らした、つもりだった。

 

少女「あ、君もそう思うの?あたしもそう思ったんだ。きっと向こうからじゃあたしたちのことなんてみえないんだろうなって」

 

不意に、隣の席の女の子に話しかけられた。独り言が聞こえていたのだろう。話しかけてきた女の子の見た目は僕と同じくらいだ。

 

八幡「え、あ、うん。そうだね」

 

少女「君もこのグループ好きなの?」

 

八幡「僕は父さんに連れられてきただけであまり知らないんだ」

 

少女「そうなんだ。あたしはね、好きなんだ。かわいくて、キラキラしているの。いつか、いつかあたしもあそこに立ちたいんだ」

 

少女の目はステージのライトを反射しキラキラと輝いていた。

 

八幡「それって…」

 

続きを言う前にライブの始まりを告げる花火が鳴る。父さん、グッズ買いにいってる間にライブ始まってるぞ…。

 

最後尾のここからでも分かるほどのきらびやかな衣装を身に纏ったアイドルたちがステージに表れ、トークを始める。そして、

 

「後ろの人もちゃーんと見えてるからねー!」

 

そう言ったのだ。

 

少女「ねぇ!聞いた?ちゃんと見えてるんだって!」

 

八幡「ほんとに見えてるかはわからないじゃん」

 

少女「あ、そうか…。でも、実際どうなんだろうなぁ…。あ、そう言えばあたし名前言ってなかったね。あたしはねーーーだよ、君は?」

 

八幡「僕は、比企谷…八幡」

 

×××

 

懐かしい夢を見た。

これはいつだっただろうか。

まだ小学生くらいの俺は親父に、あるアイドルのライブにつれていかれた。なんのアイドルだったかは覚えていない。完全に親父の趣味だ。俺をつれていくためと言う言い訳を母ちゃんにしていたのは覚えている。

そうだ、このときのライブも一番後ろだった。こんなところからじゃ、向こうからは見えないだろ、と思った。

でも、その向こうにいるアイドルが「後ろの人もちゃんとみえているからね」って言ったっけか?

確か、その時隣には、女の子がいたような…。名前聞いたんだよな。何て名前だっただろうか。

彼女はアイドルになれたのだろうか…。

 

◇ ◇ ◇

 

文化祭も終わり、本番のライブに向け一層練習が厳しくなってきた。彼女らは今夜も遅くまでスタジオで練習に励んでいる。

俺は、と言うとダンスや歌のレッスンに関しては特に何か出来るわけでもなくただ突っ立って彼女らを見守ることくらいしかしてないが。

 

トレーナー「なんだか、萩原さんと高槻さん、最近動き良くなってきましたね。何かあったんですか?」

 

レッスンを眺めていた俺にトレーナーさんがこそっと話しかけてきた。そう言えば言ってなかったんだっけか。

 

八幡「文化祭ライブをしたのは知ってますよね」

 

トレーナー「えぇ。あ、なるほど、経験を踏んで少し成長したのね」

 

八幡「まぁ、それもあるでしょうけど。本当の目的は違うんです」

 

トレーナー「それは何かしら?」

 

八幡「あいつらに何で練習をしているのか気づいてもらう為ですよ」

 

トレーナー「えーっと、それは本番のライブのためよね?」

 

八幡「そうですね。そして、ライブのためはどういう事か。それを伝えたかったんです」

 

トレーナー「なるほど、そういうことね。凄いわね、あなた。確かにそれが練習する目的ね。でも、それは当たり前すぎて逆に忘れがちになる。本当にあなた只の高校生なの?」

 

八幡「只の高校生っすよ」

 

まぁ、只の高校生じゃなくて、ボッチの高校生なんですけどね。

 

トレーナー「じゃあ、彼女たちはそれに気づけたのね」

 

八幡「実際に伝えたわけじゃないんで気づいてるかどうかは確かじゃないですけどね。単に上手くなっただけかもしれないですし」

 

トレーナー「ふふっ、そうかしらね」

 

◇ ◇ ◇

 

真美「ふひー」

 

真「終わったー。今日も疲れたなぁ」

 

八幡「おつかれさん」

 

やよい「あ、プロデューサー、お疲れ様ですー」

 

春香「段々出来るようになってきましたよ!この調子で頑張りますね!」

 

美希「ミキも竜宮小町になれるように頑張るの!」

 

八幡「そうか、頑張れよ」

 

雪歩「あ、あのプロデューサーさん」

 

八幡「ん?」

 

雪歩「私、あのライブで分かったんです。何のために練習を頑張るのか」

 

顔を上げ、しっかりとこちらを見つめ続けた。

 

雪歩「私たちが頑張るのはライブを成功させるため、そうずっと考えてたんです。でも、本当は違った。来てくれるファンの皆さんに楽しんでもらえるために頑張るんだって」

 

なんだ、ちゃんと伝わってたか。

 

雪歩「ありがとうございました」

 

八幡「いや、礼を言われるようなことはしてねーよ。それは萩原、お前が自分で気付けたんだろ」

 

雪歩「でも、そのきっかけを作ってくれたのはプロデューサーさんです。きっとあれがなかったら私はこの事に気づけなかったと思うんです。だから…ありがとうございます」

 

八幡「そ、そうか。まぁ、よかったな」

 

こうも率直に言われるとこっぱずかしいな。まぁ、でも、これでライブへの布石はだいたい打てただろう。

 

あとはこのまま順調に行ってくれれば大丈夫だろう。

 

◇ ◇ ◇

 

星井がレッスンに来なくなった。

その知らせを聞いたのは順調になってきてからまもなくだった。

 

最初は只の風邪かなんかだと思ったのだが、レッスンを休むのが数日続いている。

 

最近何かあったか、と記憶を探ったが特に思いつかない。最近の星井は調子も良く、ライブに向けメンバーのなかでも一段と気合いが入っていたはずだった。

 

スマホを取りだし、唯一の手がかりの星井からのメールを開く。

 

 

…うそつき(><)

 

 

そう一言だけ書かれたメール。

何度も連絡をしたが一向に返信は帰ってこない。何度開いたか分からないこのメールを閉じ、星井美希のいなくなった練習に目を向けた。

 

春香「美希、最近どうしたんだろうね」

 

雪歩「体調崩しちゃったのかなぁ」

 

やよい「心配ですー」

 

春香「もうすぐライブなのに大丈夫なのかなぁ」

 

他のメンバーも星井を気にしているようでそんな話が聞こえてきた。準備体操をしながら、どこか不安げな様子が伝わってくる。

 

通知の来ないスマホを握りしめならが、そんな彼女たちを見ていると、入り口で秋月さんが俺を呼びにきた。

 

レッスンスタジオから出て少し離れた場所に来ると秋月さんは立ち止まった。

 

律子「美希来てないんですか?」

 

やはり星井の件か。

 

八幡「はい。メールはきたんですが…」

 

律子「どんな?」

 

八幡「それがよく意味がわからなくてですね…。うそつきって一言だけ」

 

律子「もしかして…」

 

八幡「何か思い当たることがあるんですか?」

 

律子「えぇ、実は…」

 

◇ ◇ ◇

 

うそつきってそういうことだったのか。

秋月さんから星井について聞き、やっと気づいた。

あいつは竜宮小町みたいになりたかったのではなく、竜宮小町になりたかった、ということに。

それを俺が知らなかった為の食い違い…か。

何とも言えない思いを胸に重いスタジオの扉を開けた。

 

扉を開けるとアイドル達が皆一斉に集まった。星井のことが本当に気になっているんだな。

 

「「プロデューサー!」」

 

真「あの、美希と連絡とれましたか?」

 

八幡「いや、まだだ」

 

雪歩「どうしたんだろ…心配になるよね」

 

真美「みきみき、どうしたんだろ」

 

美希を不安に思う気持ちがでて少しざわつく。星井のやつ、ライブ前だってのに…

 

千早「私たちが騒いだって仕方がない気がするわ」

 

ピタリとざわつきが止まる。

 

八幡「如月…」

 

千早「美希には美希の事情があると思うの。だから、私たちがするべき事はライブに向けて集中することじゃないのかしら」

 

「「あぁ…」」

 

如月に皆の視線が集まる。そして、

 

貴音「そうですね、雪歩もやよいも良くなってきたとはいえ、まだまだすることはありますし」

 

「「は、はい!」」

 

八幡「みんな、如月たちの言うとおり星井の事は俺にまかせてくれないか」

 

「「はいっ!」」

 

真「それじゃあ、先生くるまで…」

 

俺が何とかしなくては…。




こんばんは。シンデレラ4th見事外れたN@NOです。
文化祭が終わってライブ編に入ります。俺ガイル勢がどう関わるか、上手く出来るといいです。

意見、感想よろしくお願いします。

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