八幡「765プロ?」   作:N@NO

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一方通行の終着点。

「それでは、情報整理から始めようかしら」

「それは、さっき話したじゃねーか」

「いいえ、事実確認のための整理ではないわ。今度の整理は、あなたの認識の整理、

よ」

「…認識?」

つまり、雪ノ下が言いたいことは、俺の中での認識がずれている、ということなのだろうか。確かに、そのきらいはあるかもしれないが自覚がないことには修正のしようがない。

「ヒッキー、どうして美希ちゃんは竜宮小町に入りたかったんだと思う?」

俺の思考を読んだかのように由比ヶ浜が問う。

なぜ、星井は竜宮小町に入りたかったのか。いや、違う。なぜ、星井は竜宮小町に入らなくてはいけない、という考えに至ったかだ。竜宮小町に求めたもの…。それは、

「輝きたかった、からか?」

「輝き?えっと、竜宮小町じゃないと輝けない、なんてことはないと思うけど…」

「いえ、そうではないのではないかしら。その考えに至るきっかけがあるのでしょう、比企谷君」

「あぁ、星井は竜宮小町に入れなければ、輝けない、と言っていた。ここから考えるに、竜宮小町に対する負けを感じていた可能性がある」

「負けって…。美希ちゃん文化祭の時もすごく輝いてたのに」

「えぇ。でも、世間の目はどうかしら?文化祭の時に、765プロと聞いて、そして竜宮小町は出ないと聞いた後の生徒たち…いえ、観客の態度はどうだったかしら」

「それは…」

たとえ、個人がどんなに努力をしようとも、どんなに才能にあふれようとも、世間に認められなければ、それが輝くことはない。だが、ひとたび人気が出れば周りの見る目が変わる。全く同じことをしているのに、ブレイク前と後では、人の集まりが変わるなんてのはざらだ。残念ながら、これが現実で、そしてこの業界の厳しさでもあるのだろう。

「…星井は、どこかでそれを悟ったのか」

「そうね…、そして比企谷君。あなたもその一端を担っているのよ」

「それは、どういう意味でだ?」

「そのままの意味よ。あなたも星井さんが、竜宮小町以外のメンバーが、竜宮小町には勝てないと思っていた、ということよ」

俺も、あいつらが竜宮小町には勝てないと思っていた、のか?

「それは…あるかもね」

ここまで聞き専になっていた由比ヶ浜がカップを置いて、口を開いた。

「ヒッキーさ、文化祭のライブの時、美希ちゃんたち三人にSMOKY THRILLを歌ってもらったでしょ。それは、なんで?」

「それは、観客の心をつかむきっかけとしてだな」

「そこなんだよ、ヒッキー。そのきっかけに竜宮小町の力を借りちゃ駄目だったんだよ」

「…」

「あなたの本来の目的は何だったのかしら?実戦経験を積ませることかしら。それならば達成できたでしょうね」

ここまで言われれば、さすがの俺だって気づく。本来ならば、もっと早い段階で気づくべきだった事に。結局のところ、俺の本来の目的は果たすことはできなかったということだろう。本来の目的、それはアイドル達に自信をもってもらうこと。竜宮小町がいなくても、大丈夫だという自信だ。その自信をつけるために竜宮小町に頼った、これでは本末転倒だ。

「…如月は気づいていたのかもな」

自分の考えた通りになると思って、これが最善の策だと思って。だが、それは俺の考えた中のみでの話だった。それならば、どうするべきなのか。

腹は決まった。

「情報整理はできたようね。なら、早くいった方がいいのではなくて?」

「あれ?ゆきのん、もう終わりでいいの?」

「えぇ。なぜなら奉仕部は」

 

「魚を与えるのではなく、釣り方を教える。だろ」

一度思い知ったことを忘れるなんて、材木座を馬鹿にはできないな。

 

×××

 

ドーナツ屋を出て、雪ノ下達と別れた後、電話を掛ける。

腕時計へ目をやると予定している電車の出発時刻には、まだ時間がある。

「…もしもし」

「星井。話がしたい、今どこにいる?」

「ミキはプロデューサーと話なんてないから、わざわざ教えたりしないの」

「…だろうな。じゃあ、俺が星井のいるところに向かえば話を聞いてくれるか?」

「もし、そんなことできたら、プロデューサーは変態さんなの」

星井の声が少し明るくなる。

「なんとでも言いやがれ。悪口には慣れている」

こんなの毒舌女王に比べたら、犬に噛まれるくらいだ。

何それ、結構いて―じゃねーか。

「ふーん。まぁ、来られるのなら…だけどね」

「あぁ、待ってろよ」

ツーツー、と無機質な電子音が流れる。電話帳を再度開き765プロの事務所へ電話を掛ける。

2コール目できれいな声の受け答えの定型文が聞こえてくる。いつもなら最後まで聞くところだが今回は、ふざけている暇はない。

「音無さん、比企谷です」

「あら、プロデューサーさん。こんにちは。どうかしましたか」

「申し訳ないんですが、今日の天海たちの送迎変わってもらえませんか」

「えぇ、それは構いませんが、なにかあったんですか」

「はい、星井を、星井美希を連れ戻しに行ってきます」

「そうですか。プロデューサーさん、美希ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」

「はい」

音無さん、優しすぎるだろ。仕事を急にほっぽり出すようなやつにこんな対応をしてくれるなんて。

 

×××

 

「…よくミキがここにいるってわかったね、プロデューサー」

「まぁな」

星井がいたのは熱帯魚ショップ。色とりどりの様々なサカナたちが、いろいろな水槽の中を泳いでいる。星井がみていた水槽には、黄色のベタが泳いでいた。

「サカナ、好きなのか」

「そんなに。でも、見ていると落ち着くの」

「そうか」

星井は立ち上がると出口のほうへ向かう。

「ここじゃ、話しづらいから別のとこいこ」

 

星井についていくと、公園の中の池にかかった橋の近くで立ち止まった。

池には、鴨が一羽泳いでいる。

先ほどの人込みは嘘のように消え、自然の音だけが聞こえてくる。

暫くの間、それを楽しむかのように星井は池をのぞき込んでいた。

「ミキの家はね、パパもママも、ミキのやりたいことをしなさい。っていってくれてね。それでね、ミキも、それでいいと思ってたの」

「まぁ、どこの家も娘はかわいいんだろ。うちも小町にはめちゃくちゃ甘いぞ、俺には厳しいのに」

「それは、プロデューサーだからでしょ。でもね、最近それも違うのかなって。つらいこととか、苦しいことがあってもドキドキするようなことがしたいって思うようになったの」

「そうか。なら、最近星井がドキドキしたことはなんだ?」

「竜宮小町!ミキね、竜宮小町に入ったら、今よりもっとキラキラでドキドキすると…、あ、でも…なれないんだもんね」

星井の笑顔がだんだんと消え、また先ほどまでと同じ態勢になる。

「ミキ、どうすればもっとドキドキできるのかな」

耳をすましていなければ聞き取れないような声量で、自然の音にかき消されてしまいそうな声で、ぽつりとつぶやく。

「そんなの、アイドルになればいいだろ」

「でも、竜宮小町に入れなければ、あのおっきいステージで、かわいい衣装をきて、かっこいいダンスを踊れないの」

「文化祭、どうだった?」

「…楽しかったよ」

まだ、星井は池を見つめ続けている。

「ドキドキもしたし、わくわくもしたよ。キラキラできたと思うよ。でも、でも、竜宮じゃないと仕事こないもん」

声色が強まる。やはり、星井は分かっていたのだろう。人気がすべてであることを。

だが、だからこそ

「今まではそうかもしれない。だが、これからはそれが変わる。今度のライブで星井達の実力を見せつける。そしたら、今まで気づかなかった奴らもその魅力に気づくだろ。そうすれば」

「みんな見ないよ。どうせ、竜宮小町をみに来ているんだもん」

「もし、そうだとしたら社長はこんなライブは組まないと思うぞ。星井たちが、竜宮に負けず劣らずの実力を持っていると知っているからこそ、このライブを組んだはずだ」

ちらりと大きな瞳でこちらを見つめる。先ほどよりかはその瞳に希望の光があるよう

に見えなくもない。

「かわいい衣装は?」

「竜宮に負けないくらいの衣装がもう届いてるぞ」

「じゃあ、ミキが歌詞を忘れたら助けてくれる?」

「俺がステージに出てきてもいいならな」

「それは最悪なの」

最悪とか言うなよ、本気なの伝わってるからね。まぁ、本気で出る気はないんだけどさ。

「星井、俺はこれからも間違ったことをすることになるかもしれん。だが、これだけは保障する。お前たち全員、輝けるアイドルになるだろうよ。人間観察が趣味の俺が言うんだ、まちがいない」

「なんだか、今日のプロデューサー変なの。ちょっとキモいの」

「悪かったな」

これでもかっこいい言葉選んでるつもりなんだよ。

「じゃあ、プロデューサー、これだけは約束して。ミキのこと、竜宮小町みたいなキラキラ輝ける素敵なアイドルにしてね」

「あぁ」

「あ、あと、もう絶対嘘つかないこと」

「わかった、約束しよう」

「じゃあ、ミキ頑張ろうかな。また、アイドルやるの!」

 

頑張れば報われる、努力は裏切らない。そんなことは、ありえない。頑張ったって、どんなに努力したって報われないことはある。だが、努力していないやつが成功できるほど甘くはない。なら、俺は努力ができるよう協力しよう。それが輝く世界へと続いているのなら。

 

 




遅くなりました。今度こそ、今度こそは間隔を開けることなく更新したいと…思います…本当です。。
意見、感想よろしくお願いします。

あ、形式を変えました。賛否あればそれもお願いします。

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