八幡「765プロ?」   作:N@NO

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彼女は戻り、彼は人を探す。

「ごめんなさいなの」

 

約1週間ぶりに事務所に姿を見せた星井の第一声だ。俺がフォローに入りながら皆に説明をしよう、と提案したのだが自分でできると断られた。決して俺が役に立たないから断られたわけではない。これが彼女なりの誠意なのだ、…と信じたい。

 

さて、問題はこれに対する765プロのほかのメンバーの反応。おそらく、もめるようなことはないだろうという判断をしたからこそ、星井一人に任せたのだが。まぁ、もしもの時は音無さんが何とかしてくれるだろう。

俺には無理、はちまんわかってる。

 

「ミキ、ちょっとやる気なくなっちゃってたの…でも、ミキね」

「ちょ、ちょっと美希、そんな、私たち別に気にしてないし」

「そうですよ。美希さん」

 

天海や高槻らがフォローを入れる中、

 

「謝ってなんてほしくない」

 

千早の一言で一瞬空気が凍り付いた。とっさに音無さんがフォローを入れようとしたが、それを制止する。大丈夫ですよ、そう目で訴えると音無さんに伝わったのかうなずき返してくれた。

 

「ち、千早ちゃん」

「…それよりも今は後れを取り戻したいの。プロとして、ライブを成功させたい」

「うん、ミキ頑張る!絶対成功させるの!」

 

張りつめていた空気が解け、何人からか安堵の息が漏れた。

 

「音無さん、さっきは耐えてくれてありがとうございました」

「いいえ、あの子たちを信じたプロデューサーさんが正しかったですよ。あそこで私が行かなくても、ちゃんとできたんですから。美希ちゃん、戻ってきてくれてよかったですね」

「はい。…まぁ、本当にやばくなったら音無さんが何とかしてくれるって信じてたんで」

「せっかく少しかっこよかったのに、その言葉が残念ですね」

 

皆が美希の周りに集まりがやがやし始めると事務所の扉が開いた。

 

「あれ、ミキミキだ!」

「あんた何やってたのよ~!」

 

竜宮メンバーが仕事を終えてちょうど帰ってきたようだ。

余計騒がしくなった事務所がどこか懐かしく思える。

 

「全員揃いましたね」

 

満面の笑みを浮かべた秋月さんのその言葉に、張りつめていた気持ちがようやく緩んだ気がした。

 

「ねえ、プロデューサー」

 

彼女らの様子を離れて眺めていた俺に伊織が近づいてくる。

 

「あんた、どうやってミキを説得したの?あの子結構頑固だとおもうんだけど」

「なに、そこはあれだ。俺のあふれる人徳と人柄で、くるりんぱって感じだよ」

「くるりんぱ、って何よ。変な冗談は置いといて。どうなの」

 

え、くるりんぱ、知らないの?もしかしてローカル言語?あおなじみとか使わない感じ?ヤダ、恥ずかしい。

 

「まぁ、秘密だ」

 

ここで正直に話すと恥ずかしさで死ねるので。伊織、お前は俺の夜を枕に向かって叫ぶ時間に変えるようなひどい子じゃないもんね?信じてるよ。

 

「はぁ、まあいいわ。ミキを連れ戻してきたのは事実なのだし。…その、意外とやるじゃない」

「…まあな」

「それだけよ」

 

伊織は長い髪を手で梳き、ミキのいるグループに合流しに向かった。

もしかしてこれをわざわざ言うために?なんてお決まり展開はさすがにないだろうが、褒められてうれしくないほど捻くれてもないのでありがたく言葉を受け取っておく。

窓際から、俺に与えられた席に座り、マイノートパソコンを開く。もちろん、コースターにはマッカンが置かれている。夕暮れが日に日に早まる今日、本番まであと少し。星井が戻ってきた。これで抱えていた問題はなくなった。あとは本番までの準備をしっかりと積むだけだ。

俺も出来る限りは頑張りますか。

 

×××

 

「関係者チケット…ですか」

「はい。プロデューサーさんが招待したい人数を教えてもらえれば用意しますよ」

 

関係者チケットか。誰か呼ぶ奴がいたかと脳内検索をかける。小町は来たがるだろうしなぁ。

あとあいつらに声をかけないわけにもいかないだろう。

世話になったからには対価がいるってのは鉄則だし。

あ、あと戸塚。戸塚にも世話になってるし、今後も世話されたい。何なら、戸塚をステージに出すまである。

あの笑顔が世界に届けば戦争は一夜にしてなくなるだろう。

 

「あ、あの、プロデューサーさん?」

 

はっ、と音無さんの声で我に返る。戸塚の笑顔はやっぱり独り占めしたいよな。

 

「なーに変な顔してんのよ」

「い、伊織。…ごほん、ちょっと世界平和について考えていてだな」

 

嘘は言ってない、嘘は。

 

「馬鹿なこと言ってないで、で、誰呼ぶか決めたの」

「小町と奉仕部関連のやつらの予定だ、なんだかんだで世話になってるからな」

「そうですね。あ、平塚さんの席は私が声かけたので大丈夫ですよ」

 

ほんと平塚先生と音無さん仲いいな。これがスタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う原理なのかね。

 

「伊織は誰呼ぶんだ?」

「…私は。…まだ、考えているわ」

 

視線を外し、一瞬悲しそうな顔をみせる。

 

「そうか。まぁ、なんかあれば話なら聞くぞ。一応俺もプロデューサーなわけだしな」

「そうね、いちおうあんたもプロデューサーだものね。本当に困ったら相談するわ、だから」

「あぁ、わかったよ」

 

わざわざ、そのあとは聞かない。誰にも簡単に踏み入ってほしくない話もあるものだ。だからこそ、俺は踏み入らない。ただ、あの一瞬見せた伊織のあの顔が、少し頭に残った。

 

「ぴ、ぴよぉ。私も相談に乗れるのに…私空気みたいです…」

 

×××

 

「と、いうわけなんだが来るか?」

 

場面は変わり、奉仕部部室。あれこれ考えたが、まずはこいつらに話しておかないといけない気がした。誘う相手も大していないのだから、考えることも大してないだろうが、と自分に突っ込みを入れながらもあれこれ考えちゃう。伊達にボッチはやっていないのだ。

 

「行きたい行きたい!というか絶対行く!ね、ゆきのん」

「そうね、文化祭でお世話になったのだし見に行くのが良識ある人としてn」

「雪ノ下、お前そんなこと言いながら純粋に楽しみなんじゃないのか」

「あなたなにを根拠にそんな訳の分からないことを」

「あ、ヒッキーも思った?あたしもね、ライブの話聞いたときに、あ、ゆきのんすごくうれしそうだなって思ったの!」

 

こほん、と一拍おき雪ノ下が由比ヶ浜から顔をこちらに向き替える。

 

「とにかく、それで引き立てや君。私たちのほかに誰か声をかけたのかしら」

「おい、引き立て役とか言うなよ。本当にそうなんだから傷つくだろうが。あとは、戸塚に声をかける予定だ」

 

はぁ、と由比ヶ浜。

 

「ほんとヒッキー彩ちゃん好きだよね」

「戸塚にも萩原の件で世話になったからな」

 

あと、個人的に話すきっかけが欲しい、なんて口が裂けても言えんがそんな魅力的な戸塚はマジ天使。やっぱり戸塚もアイドル目指していくべきだと八幡思うよ。

 

「いい加減その顔をやめてくれるかしら」

 

…やっぱり、戸塚のかわいさは俺だけが知っていればそれでいいよね。

 

昼休み後の5限の体育の授業。グラウンドが使えないため、普段とは異なり体育館でバスケとバドミントン、二つに分かれて行われていた。

夏は終わった、と世間では言われているのだが、残暑のせいで秋の涼しさなどひとかけらも見えない太陽の下から逃れられるため多くの生徒が喜んでいた。

かくいう俺もその一人。

というか炎天下でつらいうえに、打席に立った時のあの両チームの盛り上がりに欠けるあの微妙な空気を感じないといけないとかどんな罰ゲームだよ。

 

さて、個人競技のバドミントンを選んだはいいものの、これ思ってたより壁打ち難しいな。

 

「はちまん」

 

テニスの時とは異なった軌道を描くシャトルに苦戦していると、天界からの呼び声がかかった。

その美しい声の元を見るため振り返るとそこにはまごうことなき羽をまとった天使…ではなく戸塚がラケットとシャトルを両手に持ち立っていた。

 

「戸塚か、どした」

「えっと、一緒にやらない?」

 

小首をかしげる動作を加えられたその破壊力。これほどまでにyoutuberでなかったことを悔やんだ日はないだろう。ビデオを回していなかったことは残念だが、ちゃんと心のメモリーに刻んでおこう。

 

「あぁ、いいぞ」

 

ぽん、ぽんと気の抜けた音が俺と戸塚の間を何度も往復する。臨時の種目変更のため大した説明もなく好きに打ってろ、と体育教師に丸投げされたためお互いに正しいフォームとは言い難く、別のコートにいるバドミントン部の堀山がここぞとばかりに張り切りながら打っている球と比べるとへなへな感が増して見えた。

 

「あはは、やっぱりテニスとは違うね。面も小さいしさ。思ってるようにいかないや」

「まぁ、人生もそんなもんだろ。思っているよりも大したことなかったり、うまくいかなかったりなんてざらだ」

 

カンと当てそこない、俺が打ったシャトルは大きくネットの上を行く軌道を描いた。

 

「えいっ」

 

パシッと先ほどまでより高音のはじける音とともに俺の足元にシャトルが転がる。

 

「でも、ほら。練習したらうまくいくこともあるよ」

「…たしかにそうみたいだな」

 

そういいながら転がったシャトルを拾い上げた。

 

「ふぅ、体育館でもやっぱ暑いね」

 

ぽんぽんとあまり激しく動いていなかったが汗が止まらない。誰だよ、日陰だから涼しいとか言ったやつ。完全に蒸し風呂だろ、これ。

体育館の壁に倒れこむようにして、もたれかかると隣に戸塚が腰を下ろした。

 

「やっぱり八幡運動神経いいんだね。変なとこに打っちゃってもちゃんと返してくれるし」

「そんなことはないと思うがな。あー、そうだ。戸塚、再来週765プロのライブがあるんだが来ないか」

「行きたい!…のはやまやまなんだけど生憎その日ちょうど大会なんだよね」

 

がっくり、と漫画ならば擬音がつくのではないかというくらいに肩を落とす戸塚に目を奪われていると

 

「話は聞かせてもらったぞぉ、はちまぁぁん」

「うぉっ、びっくりした、なんだ材木座か」

「八幡!我も、我もいきたいぞライブぅ」

 

材木座のせいか周りの気温が上昇した気がする。暑苦しいことこの上ない。

 

「あつい、離れろ材木座」

「我はな、この前の文化祭のステージでミキミキのファンになってしまったのだ。あの輝く彼女をもう一度生で見られる機会。逃しはしなぁい!」

 

星井のファンか、材木座にしては珍しいな。

 

「二次元の嫁で十分なのかと思ってた」

「それとこれとは全く別問題だ」

「それじゃ、材木座君。僕の代わりにみんなのこと応援してきてね」

「我に任せろぉ」

 

そんなこんなで戸塚の代わりに材木座が来ることになった。

ライブまで二週間。その時間はあわただしく過ぎ去っていった。




半年ぶりでしょうか。こんばんは、お久しぶりです。
かなり放置してしまいました。
反省しています。なので、今年中にライブ終了させたいと考えてます。大丈夫です。きっと終わります。
次話投稿も極力早くするので気長に待っていてください。
意見、感想よろしくお願いします。

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