八幡「765プロ?」   作:N@NO

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CHANGIN‘ OUR WORLD.

 

『男子、三日会わざれば刮目して見よ』

 

確か、三国志だっただろうか。そんな言葉があった気がする。

 

男の子は成長が早いから、三日の間に大きく成長をする時がある、みたいなニュアンスだろうが、これは別に男子に限った話ではないのだろう。

現に、目の前のアイドル一同の顔立ちはわずか二、三日会わなかっただけなのにこんなに変わっている。

まぁ、実際に物理的に見た目が変わっているのもあるのかもしれないが、それでもこんな景色を見ることは、プロデューサーになってから初めてのことなのだ。

これくらいの動揺はさせてほしい。

 

今、765プロ一同がいるのは都内の撮影スタジオ。

見るからに高そうなカメラにテレビで見たことある、といった感じのグリーンバックシート。その両端には俺の身長を優に超える照明スタンド。

 

あのライブからたくさんのことが変わった。

その中でも一番の変化が、仕事が増えたことだろう。

今回は、久しぶりの全員が集まっての仕事だ。

各メンバーがそれぞれ異なった果物の衣装を着ての撮影。内容は週刊誌TVちゃんの特集だ。

 

いつも一緒にいるから忘れそうになるのだが、彼女たちはアイドル。

何を着てもかわいく見えるし、少しきわどい衣装は目に悪い。

だから、うちの学生が着たらキテレツな格好も、アイドルが着ると様になるのだから不思議だ。

 

「これ以上俺の目を悪くさせないでほしいんだがな」

「何一人でぶつぶつ言ってんのよ」

 

階段から降りてきたのは桃の衣装を身にまとった伊織。

 

「伊織か。ほう、似合ってるじゃないか」

「そ、それはどうもっ。ちょっと子供っぽい気がしなくもないんだけれどもね」

「そんなことないと思うぞ」

 

伊織は15歳だし、間違いなく年相応だろう。

ということは小町が着ても年相応なわけだし、いつか小町にも着せてみたい。

 

「えへへ」

 

そういうと何故か恥ずかしそうにしながら喜ぶ伊織。

そんなに年相応の格好がうれしかったのだろうか。

少し不思議に思って伊織を見つめると視界の上端から、ダダダと激しい音を立てながらメロンの衣装に身を包んだ美希が階段を駆け下りてきた。

 

「ねえ、ハニー?ミキも似合ってる?」

「だから、ハニーはやめてくれって何度も言っているだろうが」

 

これも変わったことの一つだろう。

 

ライブが終わってから、美希はなぜか俺のことをハニー呼びするようになった。

正直、こういう場でそういう呼び方をされるといろいろと誤解を生みかねないから、何度もやめるよう美希には伝えているのだが、改善の兆しは見られない。

 

ふぇぇ、ハチマンには、最近の女の子の気持ちはさっぱりだよぉ。

 

「ねぇ。似合ってる?」

「あぁ、似合ってる似合ってる、世界一かわいいよ」

「やったなのー」

「ちょっと美希!あたしが話してたでしょ!?」

 

ぷりぷりと桃の帽子を被った伊織が怒る。

ぷりぷりと桃ってなんか似ている気がするのは何故だろう。

 

「あれ、でこちゃんいたの?」

「でこちゃんゆーな!」

 

そんな二人の言い争いもすっかり見慣れた景色となった。

なんというか、美希の竜宮への対抗心というか焦りがなくなったのも、その一端だろう

 

「そろそろ撮影開始だろ。ふたりとも適当に切り上げて準備しとけよ」

「はーいなの」

「もう、あんたはてきとうすぎるのよ」

 

変わったところもあれば、変わらないものもある。

 

「こういう何気ないおしゃべりは変わらないですね、プロデューサー殿」

「秋月さん。お疲れ様です」

「お疲れ様です、プロデューサー殿」

 

あのライブ以降も竜宮小町は順調に売れており、今ではメディアに引っ張りだこの状況だ。

それをプロデュースしている秋月さんは、敏腕プロデューサーといえるほどの働きっぷりで、毎日忙しそうにしている。

ほかのアイドル達も売れ始めてきているのだから、未来の自分を見ている気がしてならないのがうれしいような、悲しいような。

 

「あ、そうだ。打ち合わせのことで少しスケジュール調整したいんですけど」

「あ、はい」

 

手帳を取り出し、半分ほど黒く埋まったカレンダーを開く。

基本的に765プロ関連のことしか書くことがないので、だいぶ仕事が増えた証でもある。

着実に社畜への道を歩み進めている証でもあるが。

 

「この日のミーティングには私が出るので」

「こっちのほうを俺が出たらいいですかね」

「えぇ、お願いします。芳澤さん、またうちのこと記事に書いてくれていますよ」

「おぉ、なんかこうしてみると改めてすごさを実感しますね」

 

芳澤さんは、765プロの1stライブのことを記事に取り上げてくれた記者の方で、以前から何かと気をかけてくれていた人だ。なんでも、高木社長の古い友人だとかなんとか。

 

秋月さんから手渡された雑誌を折り目のついたところで開くと、一面にこの前発売となったアルバム『765pro ALLSTARS』の特集が組まれていた。

竜宮小町だけでなく、ほかのメンバーの良いところにバランスよく触れてくれていることからも芳澤さんの敏腕っぷりが伝わる。

 

「なんだか、うちは周りの人に恵まれていますよね」

「でも、それもみんなの力あってこそですよ」

 

秋月さんがうれしそうにそう言うと、にっこりとほほ笑んだ。

 

「あ、もうTVちゃんの撮影が始まる時間ですね、行きましょうか」

 

765プロの快進撃。

今、まさにうちのプロダクションはノリに乗っていた。

 

× × ×

 

「「「えええーーーー!?」」」

「レギュラー番組?」

「しかも生放送!?」

「あぁ、前々から話をしていた企画がようやく通ってな。日曜午後の1時間枠が丸々765プロ出ずっぱりになる感じだ」

 

ほぇえ、と皆口をそろえながら、目を見開く。

日曜午後の一時間なんて多くの人が目にする時間帯だ。

この番組がこれからの765プロの一進に一役買ってくれるだろう。

 

「歌のコーナーもあるんですね」

「あぁ、前回の1stライブを見てくれたディレクターさんが是非に、と言ってくれてな」

「なかなか見る目があるの」

「まこと、うれしい限りです」

 

この番組では、それぞれのアイドル達にコーナーを受け持ってもらうことになっている。

その企画を順々に伝えていく。

 

「そして、この番組のメインMCが天海、如月、星井の三人だ。進行役頼んだぞ」

「え、わ、私ですか?」

「あぁ。特に天海、よろしくな」

 

あたふたする天海に対して、如月が不安がちに、

 

「私、話すのはそんなに得意じゃないから、もしもの時は助けてね、春香」

「う、うん。任せてよ、千早ちゃん」

「なんか、生放送で春香が転ぶ姿が目に浮かぶわね」

「もう、伊織。あまり春香をいじめないの」

 

あのね、春香、と秋月さんが一呼吸置く。

 

「メインMCは、社長と私とプロデューサー殿との三人で決めたの」

「どうして、私たちなんですか?」

 

不安げに天海が尋ねる。

 

「それぞれ思いは違うかもしれないけれど。私は、それぞれタイプの違う三人だから選んだのよ」

「タイプの…ちがう…」

「ね→ね→。ほかにはどんなことやるの→?」

「気になりますなぁ」

 

亜美と真美に急かされ、仕方なく机に企画書を置き、全体に見えるようにしながら話を続ける。

 

「他には、こんな感じにだな……」

 

「やっと解放された」

「お疲れ様です、プロデューサーさん。これ、冷蔵庫に入っていたやつですけれど」

 

天海から、黄色でおなじみのマッカンを手渡される。

マッカンの在庫は買いだめしてあるので、まだまだ潤沢にあるはずだ。

 

「お、サンキュー」

「…あのですね」

 

少し神妙な顔つきの天海が俺の座るソファの横に少しだけ間をあけて腰を下ろす。

えっと、と言ってから体感ではかなりの時間がたった気がする。

 

なんだろう、ドキドキと変な汗が止まらない。

 

担当とはいえ、年頃の女の子にこの距離に座られるといろいろと困ることが多いな。

ゴホン、と咳ばらいをして、気づかれないよう、もう少し天海から距離をとる。

 

「どした」

 

何でもないような風を装いつつ、天海に続きを促す。

 

「あ、あの。…その、どうしてプロデューサーさんは私のことをメインMCに推してくれたんですか?」

「自信ないのか?」

「どうだろう…、一人だったら不安でいっぱいかもしれません。でも、みんながいるから」

「それでいいんだよ。大体一人で何でもできる奴なんてそうそういないもんだ。あの雪ノ下だって苦手なことがあるんだ」

「え、そうなんですか?雪ノ下さん、完璧そうに見えますけど」

 

天海は心底驚いた表情を見せる。

 

「俺もこの前までは一人が最強だと信じて疑わなかった。けれど、どうしても一人だけじゃどうにもならない時がある。この前のライブだってそうだ。お前たちアイドルだけじゃなく、社長や音無さん、スタッフの人、そして奉仕部の奴らがいたりして、たくさんの人たちに支えられて成功しただろ」

「はい」

「そうやっていろんな人に支えられて人は成長していくらしい」

「何だか、最初のころのプロデューサーさんなら言わなそうな言葉がたくさんですね」

 

かもな、と苦笑いで返す。

 

「ちゃんと天海たちが頑張っていることを知っているからな。俺は、別に努力している奴は嫌いじゃない。寧ろ好きなほうだ」

「…好きな、ほう」

「努力は人を裏切るかもしれないが、成功した人は皆努力しているもんだ。本当はあの委員長にいろいろ言ってやりたかったんだがな」

 

俺はあいつのプロデューサーなんかじゃないからな。

 

「ま、ほかに天海を推した理由があるとすれば、個人的に天海と話していると安心するというか、気疲れしないというか。そういう雰囲気がテレビを通して視聴者に伝わってほしいと思ったり、なんなり…」

 

やだ、ちょっと最近調子がいいからって調子に乗りすぎて変なことまで話しちゃった気がする。やーだー。ヤダ過ぎて山田になるわね。

ならねーよ。

 

「そっか。そういう風にプロデューサーさんに思ってもらえていたんだ」

 

羞恥心で悶えている俺とは裏腹に満足そうな表情を見せる天海。

まぁ、俺の黒歴史一つで一人のアイドルが笑顔になるもんなら安いか。

 

「私、メインMC頑張りますね。プロデューサーさんっ」

 




...甜花...頑張った!

なんだかんだで、無事投稿できました。
次はいつになるかは不明ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

感想、意見、アドバイス等よろしくお願いします!

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