八幡「765プロ?」   作:N@NO

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ふたたび彼は古の都に足を運ぶ。

 

「意外とあっさり了承したわね」

「あはは…まぁ戸部っち隼人君のこと信頼しすぎなとこあるし」

 

あのあと戸部の依頼内容を部内で共有してよいか確認を取ったところすぐにOKメールが届いた。どうやら、メールを送ったとき葉山が隣にいたらしく、奉仕部に依頼しているのだから共有しないと協力は困難だと言われたそうだ。

正直そのまま依頼をキャンセルとかしてくれてもよかったのだが、戸部の決心は揺らがなかったらしい。

 

「ま、こっちができることなんて限られてんだろ」

 

戸部の依頼内容は海老名さんへの告白のサポート。少しでも成功率を上げたいらしく、あの手この手を裏からまわして欲しいとのこと。他人の恋路など興味はないし、寧ろ儚く散ってしまえばよいと思うが、依頼とあっては仕方がない。

 

「修学旅行で告白とか雰囲気にのまれすぎてんだろ」

「えー、でもそういうのも良くない?憧れのシチュの一つだと思うんだけど」

「非日常感の浮かれ気分から正常な判断ができない状態で付き合ったとして長く続くとは思わないけれどね」

「もーっ、ゆきのんもヒッキーもロマンが足りないよ」

「現実的と言ってくれ。んで、どうやって告白のサポートをするつもりなんだ」

 

雪ノ下がカラフルな付箋で彩られたるるぶを手に取る。

 

「戸部君からの正しい依頼内容は『修学旅行で海老名さんとより親密になりたい』というものなのだけれど…。実際あの様子だと告白まで考えているようだし、そこを念頭に考えると最終日の夜が決行日になるのが妥当かしら」

「だね!それまでの自由行動の間に二人の距離を少しでも縮めることができたらいいんじゃないかな」

 

雪ノ下の発言に由比ヶ浜が乗っかる。なんなら、るるぶを持つ雪ノ下を上からかぶさるようにのぞき込んでいるから、由比ヶ浜のあれも雪ノ下の頭に乗っかっている。

雪ノ下の不服そうな表情が、どこか如月に被って見えたがきっと気のせいだろう。というか、気のせいにしないといろんな方面からやられかねない。

 

「って、戸部からの依頼は告白の補助とかじゃなかったのか」

「ええ、あくまで少しでも修学旅行中に親密になれるよう手伝ってくれっていう内容ね」

「じゃあ、別に告白させなくてもいいんじゃねーの?」

 

うーん、と由比ヶ浜。

 

「でも、戸部っちは告白するつもりらしいから、言い間違えたというか言葉のあれってやつじゃないの」

「由比ヶ浜さん、それを言うなら言葉の綾よ。でも、そうね。比企谷君の言う通り、奉仕部への依頼内容は親密度向上なのだから依頼以上の行動は考えたほうがいいかもしれないわ」

「それに海老名さんの件もあるしな」

 

どゆこと?と由比ヶ浜が小首を傾げる。

それに続くように雪ノ下もこちらを見た。

 

「海老名さんの依頼内容だよ」

「ひなの依頼内容?あの隼人君ととべっち以外の男子とも仲良くしてほしいってやつ?」

「表面上のやつはそんなこと言ってたな」

「表面上ってことは本当の依頼は違うということかしら、比企谷君」

「だろうな。というか、あの内容だけならわざわざ奉仕部に依頼しに来る必要はないだろ。そうなれば、何か別の意味が含まれているのは間違いない」

「確かに海老名さんがわざわざ奉仕部に依頼しに来たにしてはいまいち要領を得なかったものね。でも、そうだとした場合海老名さんの本当の依頼内容は何かしら」

 

雪ノ下の指が顎にそっと添えられる。

そして、どゆこと?と由比ヶ浜は再度小首を傾げた。

 

「海老名さんは奉仕部に来たのは今回初めてだ。材木座のようにわざわざ雑談をしに来たとも思えん。それに依頼があると初めにいっていたことを踏まえれば、その内容に何かしらの意図があることは明らかだ。由比ヶ浜から見て最近海老名さんの変わった様子とか何かないのか」

「なるほんねー。けど、ひなの変わった様子かぁ。正直、ひなってスキがないというか自分の弱いところは見せないような気がするんだよね。だからこれと言って特にないかも」

「それじゃあ最近なにか相談に繋がるような出来事とかはなかったか?これは別に海老名さんに関わらず、由比ヶ浜だったらもしくは人によってはみたいな内容でいいんだが」

 

比企谷君、ヒッキー。

雪ノ下と由比ヶ浜の声が重なりお互い顔を見合わせる。

 

「そうだとするなら、きっとそれは修学旅行の班決めだよ」

 

× × ×

 

先日、四条と降り立った新幹線のホームとは雰囲気が打って変わり、ホームには騒然とした生徒たちのいかにも修学旅行行きますっ!といった浮足立った気配に満ち溢れていた。総武高校以外の生徒たちも多く見られ、先ほどから何種類もの制服とすれ違っていた。

隣に立つ由比ヶ浜もその類に漏れず、しっかりと浮かれているらしくその両手には大量のお菓子やら飲み物やらが詰め込まれたコンビニ袋が握られている。

 

「流石に浮かれすぎじゃねーの」

「そんなことないよ、ヒッキー!せっかくの修学旅行、しかも京都だよ。これを楽しまなくて何を楽しむのさ!」

「どうせなら一人で行っての現地集合とかのが良かった」

「あーもー、ヒッキーすぐそういうこと言う!」

「ハチマン、お待たせ!」

 

天使の呼び声にばっと振り返ると左手にはキャリーケース、右手にはお菓子が詰め込まれたコンビニ袋を携えた戸塚が右手を掲げながらこちらに近づいてくる。

 

「大丈夫だ、全然待ってないぞ」

「ありがと、ハチマン。新幹線の中で食べるお菓子選んでたら遅くなっちゃってさ」

「なるほどな、大事だよなそういうの。うんうん」

「ちょ、ヒッキー、あたしのときと反応全然違うじゃん」

「まぁ、そういうこともあるよな、うんうん」

「てかヒッキーもテンションおかしいし、修学旅行ウキウキじゃん」

 

1人の京都はいつでもいけるが、戸塚と一緒に京都旅行って考えたら、胸がどきどきして息がくるしくなっちゃう。ドキッこういうのが恋なの!?

ちがうか、違うな。違うことにしておこう。後ろにいる海老名さんの眼鏡がきらっと光った気がするし。

 

「とりあえず、海老名さんの様子はそんな変わってなさそうだな」

「うん、あれからそういう話にはならないようにあたしも気を付けてたし、大丈夫だと思うよ。それにしても、ヒッキーあれでいいの?なんかとべっちに悪くない?」

 

由比ヶ浜が葉山にやたらと絡んでいる戸部のほうに視線を投げながら苦笑いする。

 

「悪くないだろ、まっとうに依頼を遂行するだけだ」

「まぁ、ひなの依頼の可能性も考えたら今はあの作戦が一番なんだよね、ゆきのんも賛成していたし」

「ま、そういうことだ。だから依頼のことはそんなに気にせず素直に京都を楽しめ」

「…、だねっ!」

 

★ ★ ★

 

遡ること一週間前。

 

「とべっちの告白を手伝わない?」

「あぁ、海老名さんからの依頼を改めて考えてそれが一番いいんじゃねえかなって思ってな」

「意外ね」

 

そう口にした雪ノ下が口元を緩ませた。

 

「どういうことだ、そんなに依頼内容を改めて考えたのが変か?」

「いいえ、そこでは…いえ、それも意外といえばそうね。あれだけ労働は嫌だと言っていた男が、プロデューサーになってからはずいぶん労働に意欲的になったわ。よかったわね、社畜ヶ谷くん」

「おい、んで何が意外なんだ」

「あなたがそういうことを私たちに相談してきたとこよ。特にそういう悪だくみの類は一人で抱え込んで一人で背負おうとしていたでしょ」

「確かに、ヒッキー最初そういうこと多かったよね。文化祭とかさ」

「今回は必要だと思ったから情報共有しただけだ。たまたまだろ」

「ううん、そんなことないと思う。やっぱ、ヒッキーちょっとずつだけど変わっていってるよ」

 

由比ヶ浜が微笑む。

 

「プロデューサー、大変だろうけどあたしに手伝えることがあったら何でも言ってよね」

「あー…まぁ手伝えることがあったら、な」

「うん、それでいいよ」

「それで、比企谷君。戸部君の告白を手伝わないというのは」

「あぁ。戸部からの正しい依頼内容は『修学旅行で海老名さんとより親密になりたい』だったな」

 

ええ、と雪ノ下。

 

「だから、それに関しては努めよう。だが、告白を成功させたいとか告白までしたいとは依頼されていない。だから告白に関しては手伝わない。なんなら場合によっては阻止しても良いと思っている」

「そ、阻止!?手伝わないってのは分からなくもないけど、なんでそこまでするの?」

「それが、海老名さんの依頼内容ってことね」

「そういうことだ。海老名さんのあの遠回しな依頼は戸部の依頼と関連付けて考えると意味が通る部分が出てくる」

「なるほど。『最近とべっちの様子がおかしい』と『今まで通り楽しくやりたいもん』とい言うのはそういうことだったのね」

「あくまで予想でしかないが、現状両方の依頼達成に向けては、戸部の告白はさせないというのが妥当なところじゃないかと思う」

「そうね。確かに戸部君からは告白に関しては匂わせてはいたものの直接口にはしていなかったのだから理にはかなっていると思うわ」

「なるほどー、確かにグループ内でそういうのあるとギクシャクするよね」

 

わかるわかる、と頷く由比ヶ浜を雪ノ下が微妙な表情で見つめた。

こほん、と一呼吸おく。

 

「だから、それとなく二人が一緒になるくらいの手伝いでいいんじゃねえか。由比ヶ浜もあのグループが変な感じになるの嫌だろうし」

「えへへ、ありがと。ヒッキー」

「やっぱり、あなた変わったわよ。少し気持ち悪いわ」

「あはは、確かに気使えすぎててヒッキーっぽくないかも」

 

そういう二人の表情はやけに明るい。

 

「言っとけ。とりあえずそういうことでOKか」

「「OK」「了解」」

 

プロデューサーというキグルミに包まれた比企谷八幡。

中身がおっさんでもキグルミならば女子にちやほやされて囲われる。

では、そのキグルミをはがれた時いったいどんな反応をされるのだろうか。

 

それとも、そのキグルミのまま死ぬのだろうか。

 

 




書けば書くほど、話が進まないのは何故でしょうか
予定ではもっとスムーズに終わるはずなのに...

Pしている八幡はPヘッド被ってるのかってくらいキャラ違う気がしますけど、きっとそういうことだと補正しておいてください。

間あかないよう頑張るので、ご意見ご感想よろしくお願いします。  

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