「京都さいこー!」
東京駅から約二時間、なんやかんやの青春(笑)劇場を目の端に写しつつ、戸塚との会話を楽しんでいればアッという間。
高校生のこれまでの人生においてそれなりの長旅となる修学旅行のはずが一ヵ月に二回目の京都。なんというか少し趣にかけてしまうところはあるな。
「結衣~、はしゃぎすぎでしょ。てか、京都寒くない?」
「え~、あ確かに!寒いかも?」
「いやいや、すぐわかるっしょ~。海老名さんも寒くない、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー」
新幹線で同席となっていた川崎の威圧感でまともに話せていなかった時間を取り返そうと、戸部が積極的に海老名さんに向かって話を振るがさらりとかわされる。
うーん、これは海老名さん側のガード硬すぎるから、海老名さんの依頼そんなに気にしなくてもいい気がするまであるな。どっちかというと戸部のほうの援助のが必要か?
どっちの依頼も当たり障りのない落としどころに持っていくって言ったけど、これもしかしなくても一番面倒な選択肢選んでしまったな。
「ほんとだ、八幡、寒いね」
「京都は地形的に盆地だからな、夏は暑いし冬は寒い。まぁ、逆に言えばそれだけ四季がはっきりとしているからこそ、美しい四季折々の景色がみられるんだろうな」
「へぇ、流石八幡!物知りだね」
この内容全部前回京都に来た時京都出身のディレクターさんが言ってたのをパクっただけなんだが、こうも褒められるとくすぐったい気持ちになるな。やっぱり戸塚は最高。戸塚しか勝たんよね。
火照った気持ちを胸に秘め、俺たちは最初の目的地、清水寺へと向かうバスへ乗り込んだ。
京都市街地は、バスが多い。市民バスから観光バスと様々なバスばかり。ここ京都駅周辺は大小さまざまなバスとタクシーが入交り、正直古都の雰囲気は感じない。むしろ今や車に限らず、多くの外国人も入り交じる日本有数のユニバーサルなエリアともいえるだろう。
修学旅行が重なっているということもあってか他校のバスも多く、清水寺のバス停までの道のりはゆっくりだった。
「八幡はこの前清水寺に行ったんだっけ」
「まぁな、そん時はロケバスだったのと時間帯も今と違っていたからか、ここまで混んではいなかったけどな」
「そっかー。これみんな修学旅行できているバスだもんね」
わぁ、と声を漏らしながら窓の外を眺める戸塚、かわいい。
「あ、見て。八幡」
そう言う戸塚の指の先には竜宮小町が写る小さな看板が立っていた。
「こういうところで知っている人のPR看板とか見かけるとうれしくなっちゃうね」
「だな」
きっと竜宮小町に限らず、765プロのアイドルたちはこれからも前に進んで、今よりもっと表に出る機会が出てくるんだろうな。どんどん変化していくあいつらの一方で、果たして、俺はいつまでそばにいることができるのだろうか。
『今まで通り楽しくやりたい』海老名さんの依頼の一言がふと頭をよぎる。変化を求める戸部と、変化を恐れる海老名さん。その両名からの問いに俺は中途半端な落としどころを解とした。
もし、この問いが765プロの誰かからで、変化を求めた場合、俺はその変化を恐れず受け入れることは果たして出来るのだろうか。
「八幡、どうしたの?なんだか難しい顔して」
「いや、なんでもねぇよ。ちょっと京都の趣に浸ってただけだ」
「お、ヒキタニくん、いいねぇ~、まじみやびって感じだべ」
戸部、せっかく海老名さんの近くに誘導されていたくせに会話進まないからってこっちのサンクチュアリまで侵略してくるんじゃねぇ。
「うん、うん。みやびって感じだね」
そこ、がはまちゃんも乗るんじゃありません。
× × ×
「知らない天井だ」
気づいたら布団に倒れこんでしまったのか、日中の服装のままだった。
記憶を整理する。
そう、今日は修学旅行だったはずだ。
一日目はまず清水寺へと行き、その道中で戸部と海老名さんの親愛度高めるイベントの胎内巡りに巻き込まれた。その後目的の清水寺散策し、南禅寺まで行き、そこから何故か銀閣まで歩かされたのだ。
確かに遊歩道から見える紅葉はきれいだったし、哲学の道の側を流れる小川を眺めつつ歩くと賢くなった気になりつついい運動となったと思う。あの辺を歩くのは戸部と海老名さんにとってもなかなかいい雰囲気だったとも思う。
そして、今日の予定を終え、宿につき、飯を食って、それでそれで。
なんで俺は今ここで寝ているんだ?
「あ、八幡起きた?」
俺の隣で体育座りをした戸塚が横からのぞき込む形で顔を見つめる。
「あ、いや、これはいったいどういう?あれ?」
いつの間にか戸塚と結婚して、新婚生活が始まるシーンまで飛んでしまったのだろうか。
「ご飯食べた後、八幡疲れて寝ちゃったんだよ。起こそうかと思ったんだけど、八幡全然おきなくってさ。だからほら」
そう言って袖をつかんでポーズする。なるほど、浴衣戸塚、、、悪くない。
「先お風呂行っちゃいました」
「そうか、じゃあ俺も行ってくるとするか」
タオルはどこかしら、と立ち上がろうとすると背後から
「残念、ハチマンよ、風呂の時間はもう過ぎたぞ」
「うぉっ、材木座、いたのか。てか、まじか」
「うん、先生が部屋風呂を使っていいってさ」
「そうか。というか、材木座は何でここにいるんだ」
あまりに普通にうちのクラスの部屋にいる材木座への疑問。
「聞いてよハチエモン。あいつらひどいんだ、このゲームは4人用だから順番まで待てって」
「いや、普通にいい奴らかよ、大事にしろよそいつら」
お前のことはぶらずちゃんと内輪に入れてくれてるんだから。
「そういえば八幡、寝ている間に携帯鳴ってたよ。誰かから電話かも」
「すまん、助かる。確認ついでに下行って飲み物でも買ってくるわ。何かいるか?」
「「え」」
あー、いつもの癖で買い出し次いでのお使い聞いてしまった。戸塚達からしたらわけわからんわな。
「いや、すまん、なんでもな、」
「じゃあ僕は八幡のお勧めで」
と間髪入れずに戸塚。
「…了解。材木座はラーメンでいいか」
「ふむぅ、魅力的な提案だな」
「真剣に考えるなよ、じゃあ適当に買ってくるわ」
「「よろしく」」
言葉にするには少し難しい感情だが、この何気ない会話を学校の人間とするなんて4月には思いもしなかったんだろうな。財布とスマホをジャンパーのポケットに放り入れ、こちら側の扉からしか動かないタイプのドアノブを引いた。
× × ×
エレベーターは一般の方も使うからと階段の使用が義務付けられていた。履きなれない館内スリッパじゃなくスニーカーに履き替えていて助かった。3階から1階のロビーへと階段を下ると、ちょうど自販機の目の前に立つ戸部と目があう。
「お、ヒキタニくん、お疲れ~」
「お疲れって何に対してのお疲れだよ」
「いやいや、依頼に対してとかじゃん。ヒキタニくん、結構気使ってくれてたしさ」
ばんばんと肩を叩くな。やたらスキンシップで肩たたくやついるけどマジでやめてほしい。
ディレクターさんのやつとかまじ、痛いんだよ。
「ま、悪くなさそうだったな。だけど、実際やってるのは由比ヶ浜だし、礼を言うならあいつに言ってやれよ」
「あー、それはモチなんだけれどさ。やっぱお礼くらいはさ。おかげで告る決心もついたというか。とにかく明日もオネシャス」
そういうと足早に階段を駆け上る音だけが残った。
告る決心、か。うーむ、思っていたより面倒なことになりそうな予感がするな。
はぁ、とため息をつきつつスマホを開く。どうやら戸塚の言っていた着信は音無さんからのようだった。本日の業務報告とそれから天海も今日から京都に修学旅行できているということ。もしかしたらすれ違っちゃいますかもね、なんてフラグまでついていた。
「そんな、まさかな」
どっと押し寄せた疲れを癒すべく、甘味ことMAXコーヒーを摂取することにした。
MAXコーヒーはどこかしら、と自販機を眺めるとどの自販機にもあの毒々しいカラーの缶が見当たらない。そうか、ここは京都、、、。われらがチバラキのソウルドリンクはここまで来れていないのね。なんて感傷に浸りながら、気持ちマッ缶に形の似ているUCCのミルクコーヒーを選ぶ。
うん、やっぱそんな甘くないな。
ソファーでやや控えめな甘さに一息ついていると、視界の端にすたすたと歩く見知った人影が現れた。湯上りのためか髪をアップにして、珍しくラフな格好の雪ノ下だった。
じっと土産物屋を見つめる視線のその先にはおそらく京都限定のパンさんグッズでも並んでいるのだろう。コーヒーをすすりながらそんな雪ノ下を眺めていると、こちらに気づいたのかすたすたと向かってくる。
「のぞき見とは趣味が悪いわね」
「先にここでくつろいでいたのは俺だ。あとからお前が来た。たまたまだ」
「どうかしら、大方部屋で何かやましいことがあって居たたまれなくなってここに逃げてきたのではなくて」
「むしろ気を利かせて席を外してきたところだ。お前は?」
はぁ、と雪ノ下はうんざり気味にため息をついた。
「…クラスメイト達の話題がこっちに向かってきてね。どうしてああいう話題が好きなのかしら」
どんな話題か興味はあるが、下手に聞くとなんだかよくない気がする。なぜだろう、俺のシックスセンスがダメだって言ってる。
「ま、まぁ、興味持たれるのはいいことだからな」
「他人事のようにいうけど、これも毎度あなたが」
「いや、待て。俺は悪くない。オーケー?」
よくわからないがとりあえず主張することにした。主張するだけならタダだからね。
すると雪ノ下はこめかみあたりを抑え瞳を閉じる。そして諦めたように口を開いた。
「そういえば、作戦はどうなのかしら」
「ぼちぼちってとこだな」
そう答えると雪ノ下がうつむく。
「悪いわね、別のクラスだからそこまで手伝えなくて」
「大丈夫だ、同じクラスの俺が大したことしてないから」
「いや、それはしなさいよ」
「一つ気になるとすれば、戸部が今回告白をするつもりみたいってことだな」
「なるほど、やはり言葉ではそうは言っていなかったけれども、そういうことのようね」
ああ、とうなずく。
「問題はどこで戸部が告白をするかだ」
「しないように誘導するのではなく?」
雪ノ下がこてんと首をかしげた。
「実際それができればばんばんざいなんだが、最悪のパターンを想定して告白をするとしたらどこか、まで考えるべきかと思ってな」
「なるほど…、すぐには分からないけれど私のほうでも考えてみるわ」
「頼む」
なんて話していると、平塚先生が通りかかった。
スーツの上にコートを羽織り、夜中だというのにサングラスまでしている。俺たちに気づくと明らかに狼狽していた。
「な、なぜ君たちはこんなところに」
「いや、まぁ、普通に飲み物買いに来ただけですけど。先生こそこんな時間にどうして」
「う、うむ。ほかの人に言うなよ、、、」
そう言って照れた様子の平塚先生は妙に乙女チックで心がドキドキする。これはレッスンに生かせそうだな、なんて一瞬頭をよぎるくらいにはプロデューサーが板についてきたのかもしれない。
「これから、ラーメンを食べに」
だめだ、この人。俺のときめきを返してくれ。
「まぁ、君たち二人くらいならいいか、ついてきたまえ」
そういうと雪ノ下と俺は平塚先生に強制連行?され、ラーメンを食べた。
おいしかったです、まる。
× × ×
部屋に戻ると戸塚と材木座がふたりでババ抜きをしていた。
「どこまで行っていたのだ。ずいぶん長かったな」
「そうか?」
まぁ、確かに出てから2時間近くたっているしな。
「で、飲み物と我のラーメンは?」
「あ」
そういえばそれが目的でロビーにいったんだった。
「まさか忘れたのか?」
「まさか」
そういうと俺は自分の腹をポンと叩き、
「しっかりここにあるぞ」
「貴様!食べてくるとは!末恐ろしい奴」
はっはっはっと材木座を馬鹿にしていると、戸塚が笑顔で一言。
「じゃあ、もう一回やり直しだね」
ふぇぇ、戸塚が怖いよぉぉ。
こうして俺の修学旅行一日目の夜は更けていった。
皆様、久方ぶりです。
書こう書こうと思っても月日って勝手に流れるんですよね、不思議。
あっという間に一年二年たってしまうのが恐ろしいです。
この文字書きモチベのまま修学旅行編は書ききってしまいたいです。
感想や意見が励みになりますので、よかったら何か書き込んでみてください。
それでは、次話でお会いできるのを楽しみにしております。