八幡「765プロ?」   作:N@NO

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思いのほか、三浦優美子はちゃんと見ている。

 

修学旅行も二日目。映画村から金閣寺とエリアでいうと太秦から洛西に向けて動く予定となっている。

 最初の目的地である太秦映画村は実際の撮影にも使用する映画セットが組まれているなど時代劇舞台を模したテーマパークだ。ドラマの撮影のセットとかは見たことはあったが、ここまで大規模に舞台となっているのを見るのは初めてだからなんかわくわくしてしまう。

 これもうちょっとした職業病だろ。少し前まで気にもしなかったセットの作りや、撮影時の画角を考えた看板の向きなどに修学旅行生が興奮しているあたりちょっと末期まで来てるに違いない。

 今回の依頼人の戸部はというと、映画村に着くやいなや全員のチケットを買いに走るなど涙ぐましいアピールに努めていた。なんかこう、ここまで来るとちょっと尊敬してきてるまである。せっかくなら存分に思いを伝えてもらって砕け散ってほしい。いや、砕けちゃうのかよ。 その一方で、戸部の依頼内容も、そしてその対象の海老名さんの心中も察しているのであろう葉山は微妙な顔をしていた。皆にやさしい葉山隼人はこんな時どんな選択をするのだろうか。

 

映画村の街並みやからくりなどを一通り楽しんだ後、やっぱり定番はこれだよねとばかりの由比ヶ浜セレクトでお化け屋敷に入ることとなった。

所詮お化け屋敷と侮るなかれ、こちら東映のガチ演者がする本気のお化け屋敷なのだ。つまり、どういうことかというと。

 

「お、終わった。結構怖かった」

 

気を張っていた由比ヶ浜がふらふらと脱力し、その身をベンチに預ける。俺も由比ヶ浜の後に続き腰を落とした。いや、ほんとにどっと疲れた。心臓がまだばくばくいっていて辛い。これあれなんじゃない、不整脈。

ベンチでぜーはーしていると、先にゴールしていた戸塚がてとてとと寄ってくる。

 

「八幡、すっごく楽しかったね」

そう微笑む戸塚に思わずくらっと来る。おっと、今度は立ち眩みかな。

 

「よし、そしたらそろそろ次行くか」

 

葉山が周りを見渡しそう告げる。皆特に異論もなさそうだった。向かいのベンチに座っていた三浦がよっと勢いよく立ち上がった。

 

「したら、海老名呼んでくんね」

そういうと足早に土産屋のほうに向かっていった。

見ると土産屋で新撰組グッズをみてはぁはぁしている海老名さんと、木刀を手に取り「ほえーたけー」と言っている戸部がいた。

う、うん。お化け屋敷の効果…早速出ている…のか?

 

× × ×

 

太秦映画村の次は洛西エリア。紅葉のシーズン×修学旅行シーズンということも相まって洛西エリアに向かう市バスは混雑を極めていた。その証拠に先ほどから2本バスが来ているが乗車率300%は優に超えるようなみっちり具合で、はいれる隙間はわずかだったため見逃すしかなかった。

 

「なぁ、タクシー使わないか」

 

いうと由比ヶ浜は眉をひそめた。

 

「タクシー?タクシーって高いんじゃないの?高いのはダメ」

 

目の前でバッテンのポーズをとる由比ヶ浜。なんかこいつ妙に主婦っぽいとこあるよな。

だがこっちだって専業主夫志望だ、負けてられない。

 

「いいか、由比ヶ浜。一見するとタクシーは高く見えるが実はそうではないんだ。例えばここから仁和寺であれば2㎞ちょっと。つまり1000円程度で向かうことができる。小型を捕まえて4人ずつのれば一人頭250円程度とそこまでバスと変わらん。なんなら、このバスの待ち時間と混雑を避けられるなら安いくらいだ」

「うーん、そういわれると確かに」

「だろ、そして何より」

「何より?」

「タクシー移動が楽すぎて、ほかの移動手段が面倒になってしまう」

「うわー、業界浸ってて最低」

 

がちの軽蔑の目を向けられるとそれはそれで何か悪くない気持ち。

実際、仕事でタクシー乗るようになってから本当に実感する。2㎞は歩いたら30分かかるがタクシーなら5分なのだ。多少高くとも、早い、楽に越したことはない。タイムイズマネーなのだ。

 

「まぁ、今回についてはヒッキーのいう通りではあるからみんなに聞いてみるけど」

 

そう途中で言葉を止めると由比ヶ浜がじっと見つめてくる。

 

「あんまり楽をして自堕落にお金使ったらメっだからね」

「お、おう」

 

ピシッと人差し指を立てる由比ヶ浜。お前は俺の母ちゃんか。

 

「ならよし」

 

そう微笑む由比ヶ浜の横顔は紅葉の反射のせいか少し赤く染まって見えた。

 

× × ×

 

大広間での夕食は実ににぎやかだった。やれ誰が一番飯を食えるだの、やれ誰が早くオレンジジュースを飲めるかなど、どうして男子高校生は普段と違う環境になるとこうもはしゃいじゃうんでしょうね。

 俺らの班はあの後仁和寺、龍安寺と周り、そこで偶然雪ノ下に会った。軽く状況打ち合わせを行い別れたのち、最終目的地である金閣を参拝を無事終えた。参拝時間ぎりぎりまでいたこともあり、宿に戻った時には入浴時間はすでに過ぎ去っていた。昨日に引き続き今日も大浴場入れず。無念。

 飯を食い終わったクラスメイトらは誰が一番麻雀がうまいのかで盛り上がりを見せていた。おかげで今夜はその最強の座を決めるらしい。今部屋に戻ればその余波に巻き込まれかねない。ということは今部屋に戻るのは得策ではないので、腹ごなしにコンビニでも行くか。

 ばれれば怒られるだろうが、あくまでもばれればだ。俺には自前の光学迷彩(ただのボッチ)がある。何食わぬ顔をしていれば案外気づかれないもんなのである。

 結局誰にも見咎められることなくコンビニにたどり着いた。

とりあえずいつもの習慣で雑誌コーナーを見て回る。以前だったらサンデーGXでも探していたところだが、今日は四条の出ている旅行雑誌の発売日だからね。献本で事務所にはあるんだろうが、こういうのは自分で買うのがいいんだ。無駄に使いきれない給料が振り込まれているのだ。少しくらい事務所に還元してもよいだろう。

探していると高圧的な声が降りかかってきた。

 

「ヒキオじゃん」

 

見つけものが得意で、見つからないことも得意な俺が先に見つかってしまったらしい。

嫌な呼び方をした主に、どろりと腐った視線を送る。

だが、俺をヒキオと呼んだそいつ、三浦優美子は俺には目もくれず雑誌を眺めていた。くしくもそれは俺が探していた四条貴音が表紙を飾る雑誌。

 三浦のほうには顔を向けず、俺も雑誌ラックに並べられた四条が表紙の雑誌を手に取り、そのまま目的のページを探すようにぱらぱらとめくっていく。

 

「あんたさー、ううん。あんたら一体何しているわけ?」

 

いきなり言われてびくっと背中が跳ねる。

何だろう、こいつ口調が怖いんだよな。同じギャル系でも美希のほうは威圧感ないんだけどな。年下アイドルにびくびくしているプロデューサー嫌すぎるな。

 

「あんま姫菜にちょっかい出すのやめてくれる?」

 

そういう三浦の視線は手に持つ雑誌から一ミリも動かない。

 

「聞いてんの?」

「聞いている。だが、別にちょっかいを出しているわけではない」

「出してるから言っているんでしょ。そういうの迷惑なんだけれど」

 

そういうと三浦は次のページへと紙を送る。

 

「だが、そうして欲しいという人間もいるんだ。誰かのメリットが誰かのデメリットとなるのはよくあることだ。悪いが諦めてくれ。それにお前が直接的な被害を受けているわけでもないだろ」

「はぁ?」

コミュニケーション能力に長けていない俺でもすぐに判別のつく、敵意に満ちた女王の瞳。

 

「これから被害を受けるの」

「……」

 

思わぬ一言に言葉が止まる。一つ一つ文句を言ってくるのであれば、それ一つ一つに屁理屈で対抗しようと思っていたのだが、当てが外れた。

まさか、未来のことを危惧して文句を言われるとまでは考えていなかった。

 葉山と同じく三浦もまたリーダーの素質がある人間なのだ。葉山のように自分のグループの動向くらい把握しているのだろう。そして同じくらい今の状況の変化を恐れてもいる。

 かつて由比ヶ浜がその一歩を踏み出すことを躊躇するくらいにこの女王は保守的なのだろう。それが彼女なりのやさしさなのかもしれない。

 

「海老名、黙ってれば顔は良いからさ。紹介してくれってよく言われるの。でもそういうこと言うとなんだかんだ言って拒否ってさ。照れてるだけだと思って、あーしも結構しつこく勧めたわけ。そしたら、あいつなんて言ったと思う?」

「さぁな」

 

そんなノーヒントでわかるか。友達でもあるまいし。

分からんと肩をすくめていると、三浦はそっと顔を伏せた。

それは、先ほどの獄炎の女王らしからぬ、どこか物憂げな仕草だった。

 

「『あ、じゃあもういいや』って。笑いながらそう言ったの。超他人事みたいに」

 

三浦が言ったその言葉は、やけにリアルに脳内再生された。

きっと海老名さんならこういうに違いない、と寸分違わず実際にその目で見たかのような景色が浮かぶ。

その声音は冷酷で、その笑顔も仕草も偽物で、そして一歩引いたその距離は何人たりとも踏み越えることはできないのだろう。

 

「あーし、自分が好きで良いなってことは皆もそうなんだと思ってた。これ良くない、っていえば皆が頷いてたから。でも、姫菜はちょっと違うの。いいものにはいいっていうし、好きじゃなければ嫌っていうの。最近結衣もそんな感じに変わってきた。それが前よりもずっと心地いいの」

 

「あーしさ、いまが結構楽しいんだ。でも海老名が離れていったら今みたいにはできないかもしれない。もう一緒にバカみたいなことやってられなくなるかもしれない」

 

そう続ける三浦の声は震えていた。

 

「だから、余計な事しないで」

 

そこでようやく三浦と目が合う。その目に秘められている思いがその眼差しにははっきりとこもっていた。

ならば、俺も精いっぱいの誠意を込めて答えよう。

 

「それなら心配ない」

「なんでそう言えるわけ」

「まず、この修学旅行でお前らの関係が変わらないように動いているのが俺への依頼だからだ」

「なにそれ」

 

はぁ?という顔の三浦に続ける。

 

「そして、何より、葉山がどうにかするって言ってたからな」

「なにそれ、まぁ、隼人がそういうならいいけど」

 

そういって笑う三浦は再び四条の写るページへと目を移した。

 

× × ×

 

「修学旅行中悪いな、一つ頼みごとがあるんだが」

 

明日の最終決戦に向けたピースが今頭の中でつながった。

 




ここにきて、この周期での連投。われながら頑張ってる。
このまま修学旅行走り切りたいですね。
早いもので2015年に投稿してから10年たってるんですね、そりゃアイマスも10周年から20周年になるわけです。
ご意見。ご感想が励みになりますのでよかったら一言でもよろしくお願いします。
生きてたんだ、ってコメントでいつもクスリとしてます。
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