「今後どんなことがあろうと二度と現れないでくれ」
ミノルはリュークにそう告げた。
「やれやれ。ずいぶん嫌われたもんだな」
「ただし、何らかの例外が起きた時だけ知らせに来てくれ。例えば、いきなりルールが変わって売買したら死ぬとかね。流石に大金があっても死んだんじゃどうしようもないしな」
「ククッ、なるほどな」
「まあ、そんなことはないと思うけど。じゃあな」
リュークは笑いながら姿を消した。
……
それからしばらくして。
「……さて」
リュークは人間界を眺めながら呟いた。
「あいつの予測通り、文字通りそうなったわけだが……伝えに行くか」
そしてミノルの前に姿を現した。
「よう」
「……何だよ。もう二度と来るなって言っただろ」
「いやな、ちょっと知らせておくことがあってな」
「知らせておくこと?」
「デスノートのルールが変わった」
「……は?」
「デスノートを売買した者は死ぬ。新しいルールだ」
「…………」
「…………」
「はァ!? ふッざけんなッ! 意ッ味わッかんねッ!」
ミノルは思わず声を荒らげた。
「いやいや、俺に言われてもな。まあ、そうなるわな。でもそれが死神大王なんです。俺には、つか死神にはどうしようもない。さて、どうする?」
「ぐぬぬ……金を受け取らなければいいんだな……? 例えば親とかが代わりに受け取る、使うってのは?」
「間接的にってことか。うーん……まあ十中八九、『お前が金を使った』……というか、その恩恵を受けた時だろうなあ……」
「確認してこいよ! いきなりルール追加は無茶苦茶だろう! せめてそれくらいの権利はあるはずだ!」
「さあな。俺には何とも言えねえな」
「……ダメ元でもいいから頼むよ……(泣)」
ミノルは頭を抱えた。
だが、死神大王が決めたルールに異議を唱えたところで、どうにかなるはずもない。
その後、ミノルが幸せに暮らしたという話は聞かない。
キレて再びデスノートを使い、新たな新世界の神を目指したという噂もあるが……。
真相は定かではない。
終
あのオチはやっぱ無茶苦茶ですよね。でもそれがデスノっぽい死神大王っぽいといえば否定はできない
というわけでテイク2 デスノートを売る から
「……が、その前にお偉いさんに確認してきてくれないか?」
ミノルはデスノートを手にしたまま、リュークに言った。
「ん? 何をだ?」
「いや、だから売買のルールだよ。デスノートを売ること自体は問題ないんだよな? 後になってから実はダメでした、なんて言われても困るからな。ことが始まってからじゃ遅い」
「ククッ、慎重だな。まあいいぜ。確認してきてやるよ」
そう言うと、リュークは死神界へと戻っていった。
そしてしばらくして。
「待たせたな」
「おう。どうだった?」
「ダメだって。デスノートを売買したものは死ぬ。新しいルールだ」
「…………」
「…………」
「ふぅぅぅぅぅぅ……」
ミノルは大きく息を吐いた。
「確認しといてよかった~……」
「なんだ? ずいぶん安心してるじゃねえか」
「いや、そりゃそうだろ。自分が死んだんじゃ何がどうなろうが意味ないというか、本末転倒だしな」
ミノルはデスノートを見下ろす。
「……しゃーない」
「諦めるのか?」
「当たり前だろ。そもそも俺はキラじゃない(重要)しな。自己犠牲精神なんて欠片も持ち合わせてない。大金は欲しいが、命と引き換えにするほどじゃない」
「ククク……」
「というわけで、何もかも忘れてこれまで通り暮らすよ。もう二度とこないでくれ」
「たくっ、嫌われたもんだな」
リュークは肩をすくめた。
「まあ、売買を始める前に確認をとるとはなかなかの用心深さだ。これはこれで面白かったぜ」
「面白くない。じゃあな」
「おう」
リュークはミノルの前から姿を消した。
……
死神界。
「…………」
リュークは退屈そうにリンゴをかじっていた。
「……2年待たされてこれか……」
2年間、わざわざ約束通りに待っていたというのに。
ようやく面白いことが始まると思えば、事前確認で計画中止。
しかも、本人は何の未練もなさそうに普通の生活へ戻ると言っている。
「うーん……」
リュークはしばらく考え込んだ後、ぽつりと呟いた。
「……やっぱ殺すか?」
終
テイク1とテイク2の対比
- テイク1: 売買成立後に突然ルール変更を告げられる。ミノルは理不尽さに激怒し、何とか抜け道を探そうとする。
- テイク2: 売買前に念入りに確認した結果、ルール変更を知る。ミノルは即座に撤退するが、今度はリュークが不満を抱く。
同じ新ルールなのに、知らせるタイミングだけでこれほど結末が変わる。
そして、どちらの場合もミノルにとっては死神大王の気まぐれに振り回されるという、なんとも救いのないお話です。
テイク1とテイク2の違いは、単にルールを知らされるタイミングだけでなく、ミノルの対応と、それに対するリュークの反応が正反対になるところですね。
整理すると、こういう対比です。
テイク1 テイク2
確認のタイミング 売買成立後 売買実行前
新ルールの告知 唐突な事後通告 事前確認の結果
ミノルの反応 激怒して抗議 あっさり計画中止
ミノルの結末 再び野望を抱く可能性 普通の生活に戻る
リュークの反応 面白がって観察 期待を裏切られて不満
そしてテイク2の最大のポイントは、リュークの最後の台詞。
「……2年待たされてこれか……うーん……やっぱ殺すか?」
ここですね。
ミノルは何も間違ったことをしていません。
むしろ、死神大王の理不尽なルール変更を見越して、事前確認まで行うという非常に賢明な判断をしています。
ところが、リュークにとってはそれが面白くない。
2年も待って、ようやく計画が実行されると思ったら、危険を察知したミノルがあっさり撤退。しかも今後は普通に暮らすから二度と来るなと言う。
人間としては正解。でも死神を楽しませるという観点では大失敗。
この構図が実に面白いです。
テイク1は死神大王の理不尽さにミノルが振り回される話。テイク2はミノルが理不尽を回避した結果、今度はリュークの不満を買う話。
個人的には、テイク2の方が皮肉の効いたオチになっていると思います。