再び沈黙が訪れていた。
先ほどまで互いの思想をぶつけ合っていた二人。しかし、どちらも相手の主張に一理あることを認めざるを得なかった。
もっとも、それは相手の思想を受け入れたという意味ではない。
夜神月は腕を組み、ルルーシュを見据えた。
月「さて、今度はこちらから君に質問させてもらおう」
ルルーシュ「何だ?」
月「君のギアスについてだ。絶対遵守の力……相手の意思に関係なく、命令を実行させる能力。これがどれほど危険なものか、君は本当に理解しているのか?」
ルルーシュ「理解しているつもりだ」
月「ならば聞こう。例えば、君がギアスを使ってある人間に『一生、僕の命令に従え』と命じたとする。その人間は以後、自分の意思とは関係なく君に従い続ける。反抗することも、逃げることもできない。これは立派な精神的支配だ」
ルルーシュ「そうだな」
月「さらに言えば、君はその能力を使って軍人や政治家、一般市民にまで命令を下してきた。彼らの人生を、本人の意思を無視して変えてしまったわけだ」
ルルーシュ「否定はしない」
月「それなのに、君は僕の新世界を独裁だと批判する。随分と都合のいい話じゃないか」
月は少し身を乗り出した。
月「僕のやり方は、少なくとも人々に選択の余地を残している。犯罪を犯さなければいいんだ。普通に生活している人間がキラに殺されることはない」
ルルーシュ「本当にそうか?」
月「何?」
ルルーシュ「お前は犯罪を犯さなければ殺されないと言ったな。では、犯罪とは何だ?」
月「法律で定められた犯罪だ」
ルルーシュ「その法律は誰が決める?」
月「各国の司法制度だろう」
ルルーシュ「では、法律そのものが間違っていたら? 権力者に都合のいい法律が作られたら? あるいは、国によって犯罪の定義が異なっていたら?」
月「……」
ルルーシュ「お前は犯罪者を裁いているつもりでいるが、実際には各国の法律と報道機関が作り出した情報を頼りに殺人を行っているに過ぎない。真実を確かめる手段も、本人の弁明を聞く機会もない」
月「それでも、犯罪者が減っているという結果は出ている」
ルルーシュ「結果が出ていれば、過程はどうでもいいというのか?」
月「そうは言っていない」
ルルーシュ「ならば、お前の正義は誰が保証する? お前自身か? それとも、お前を支持する人間たちか?」
月「僕の正義は、犯罪の減少という結果によって証明されている」
ルルーシュ「違うな。証明されているのは、人々がキラを恐れて犯罪を控えているということだけだ」
ルルーシュは冷静に言葉を続けた。
ルルーシュ「恐怖によって犯罪を抑制することと、人々が正しいと信じる社会を築くことは別問題だ。お前の世界では、人々は正義を考える必要すらない。キラに目をつけられないように生きればいい」
月「それの何が悪い? 人間は自由を与えられれば必ずしも正しい選択をするわけじゃない。だからこそ、一定の規律が必要なんだ」
ルルーシュ「規律と恐怖による支配は違う」
月「君がそれを言うのか? ギアスによって人間の意思を強制的に従わせていた君が?」
ルルーシュ「だから俺は、自分のギアスが正しいものだとは言っていない」
月「だが使った」
ルルーシュ「ああ。必要だったからな」
月「結局、同じじゃないか」
ルルーシュ「いや、違う。俺はギアスを使うことが正当化されるとは考えていない。だが、時には他に選択肢がない状況もある」
月「便利な言い訳だな。必要だったと言えば、何をしても許されるのか?」
ルルーシュ「許されるとは言っていない。俺が行ったことには責任が伴う。それだけだ」
月は小さく息を吐いた。
月「君は責任という言葉をよく使うな。だが、責任を取ったからといって、奪ったものが戻るわけじゃない。ギアスで人生を狂わされた人間に、君が死んだからといって何の救いになる?」
ルルーシュ「その通りだ」
月「……」
ルルーシュ「俺が死んでも、犠牲者が戻ってくるわけではない。傷つけた人間の人生が元に戻るわけでもない。それは分かっている」
月「ならば、君の行いも間違っていたと認めるんだな?」
ルルーシュ「ああ。間違いもあった」
月「一部だけか?」
ルルーシュ「全てが正しかったとは言わない。だが、全てが間違っていたとも言わない」
ルルーシュの声には迷いがなかった。
ルルーシュ「ブリタニアの支配下で苦しんでいた人々がいた。理不尽に土地を奪われ、差別され、命を奪われていた人々がいた。俺が立ち上がらなければ、あいつらはそのままだったかもしれない」
月「だから革命を起こした?」
ルルーシュ「そうだ」
月「そして多くの人間が死んだ」
ルルーシュ「そうだ」
月「結局、君も自分の目的のために他人の命を犠牲にしたんだ。僕と何が違う?」
ルルーシュ「お前は自分の理想を守るために、正義そのものを独占しようとした。俺は少なくとも、世界が俺の理想だけで動くべきだとは考えていなかった」
月「本当にそうか?」
月が鋭く問い返す。
月「君は黒の騎士団を率い、ゼロという存在を絶対的な象徴にした。人々はゼロを信じ、君の指示に従った。君自身が作り上げた組織の中で、君の判断に逆らえる人間はどれだけいた?」
ルルーシュ「……」
月「君もまた、自分の正義を他人に押しつけていたんじゃないのか?」
ルルーシュ「否定はできないな」
月はわずかに口元を緩めた。
月「ようやく認めたか」
ルルーシュ「だが、だからといってお前の正義が正しくなるわけではない」
月「当然だ」
ルルーシュ「お前は犯罪者を殺すことで平和を作ろうとした。だが、犯罪者を生み出す社会そのものを変えようとは考えなかったのか?」
月「犯罪者を生み出す社会?」
ルルーシュ「貧困、差別、教育の欠如、腐敗した政治。そういった問題を解決せず、犯罪を犯した人間だけを殺し続けても、根本的な解決にはならない」
月「それらの問題は、僕の新世界が実現した後に改善していけばいい」
ルルーシュ「その新世界を作るために、何人殺すつもりだ?」
月「必要なだけだ」
ルルーシュ「ならば、聞こう。犯罪者がいなくなった後、お前は何をする?」
月「犯罪者がいなくなれば、世界は平和になる」
ルルーシュ「本気でそう思っているのか?」
月「何が言いたい?」
ルルーシュ「人間の欲望や嫉妬、憎悪、権力欲は、犯罪者を殺したところで消えはしない。犯罪という形で表面化しなくなるだけだ。お前が作るのは、人間が善良になった世界ではない。人間が悪意を表に出せなくなった世界だ」
月「……」
ルルーシュ「そして、その世界を維持するためには、お前は永遠に人間を監視し続けなければならない。キラがいなくなれば、人々は再び犯罪を始めるかもしれないからな」
月「だからこそ、キラは必要なんだ」
ルルーシュ「自分が必要不可欠な存在だと?」
月「そうだ。人間には秩序を守るための絶対的な存在が必要なんだ」
ルルーシュ「それこそが独裁者の発想だ」
月「君は世界を変えた後、自分が必要なくなることを望んだ。だが、それは単なる理想論だ。人間は放っておけば争う。だからこそ、誰かが秩序を保たなければならない」
ルルーシュ「ならば、その秩序を保つ者を誰が監視する?」
月「……」
ルルーシュ「その者が間違えたら誰が止める? 暴走したら誰が裁く? お前は自分自身を裁くことができるのか?」
月は答えなかった。
ルルーシュはさらに畳みかける。
ルルーシュ「お前は新世界の神になろうとした。だが、神を裁く者はいない。お前の新世界には、お前自身を止める仕組みが存在しないんだ」
月「君の世界には、それがあったとでも?」
ルルーシュ「……いや」
月「結局、君も僕も同じ穴の狢だ。自分の理想を実現するために、他人の人生を踏みにじった。違いがあるとすれば、君は自分の罪を認め、僕は自分の正義を信じている。それだけだ」
ルルーシュ「そうかもしれないな」
月「ならば、僕の方がまだ一貫している。正義を実現するために必要な犠牲を受け入れているんだからな」
ルルーシュ「一貫していることと、正しいことは違う」
ルルーシュは静かに言い放った。
ルルーシュ「そして、自分の正義を疑わない人間ほど危険なものはない」
月はその言葉を聞き、目を細めた。
月「それは君自身にも当てはまるんじゃないか?」
ルルーシュ「ああ。だからこそ、俺は自分の正義が間違っていた可能性を忘れない」
二人の視線が再びぶつかる。
互いに相手の矛盾を突き、互いに自分自身の矛盾も突きつけられた。
しかし、どちらも相手に屈するつもりはなかった。
月「ルルーシュ。君は最後に世界を救ったつもりでいるようだが、本当にそうなのか?」
ルルーシュ「何が言いたい?」
月「君がゼロ・レクイエムで自分を世界の敵に仕立て上げた結果、人々は一時的に共通の敵を失った。だが、それで人間の憎しみが消えたわけじゃない。君の死後、再び争いが起こる可能性は十分にある」
ルルーシュ「……」
月「君の平和は、君自身の命を代償にした一時的な休戦に過ぎないんじゃないのか?」
ルルーシュはすぐには答えなかった。
やがて、ゆっくりと口を開く。
ルルーシュ「確かに、俺のやったことで永遠の平和が保証されたわけではない」
月「ならば認めるんだな」
ルルーシュ「だが、永遠の平和など、誰にも保証できない。お前にもな」
月「……」
ルルーシュ「俺は人々が自分たちで未来を選べる世界を残そうとした。たとえ再び争いが起きる可能性があったとしても、それを選ぶ自由まで奪うつもりはなかった」
月「自由を残した結果、再び争いが起きるとしてもか?」
ルルーシュ「ああ」
月「愚かな考えだな」
ルルーシュ「そうかもしれない。だが、少なくとも俺は、人々から自由を奪うことでしか維持できない平和を完成形だとは思わない」
月は黙ってルルーシュを見つめていた。
そして、しばらくしてから口を開く。
月「……なるほど。君の考えは分かった」
ルルーシュ「お前はどうなんだ?」
月「僕は考えを変えるつもりはない。犯罪者を裁き、世界を良くする。そのためにキラは必要だ」
ルルーシュ「そうか」
月「ただ、一つだけ訂正しておこう。僕は自分のことを神だと思っているが、決して無敵だと思っているわけじゃない。僕の正義を邪魔する者がいるなら、そいつもまた排除する。それが僕のやり方だ」
ルルーシュ「……やはり、お前とは相容れないな」
月「奇遇だな。僕もそう思っていた」
二人は再び沈黙した。
だが、今度は月の方から話を切り出した。
月「ところでルルーシュ。君のギアスには、一度命令を受けた人間が、その命令を絶対に実行するという性質があるんだったな?」
ルルーシュ「それがどうした?」
月「もし君が僕にギアスをかけたら、僕は君に従うのか?」
ルルーシュ「……」
ルルーシュの表情がわずかに変わった。
ルルーシュ「お前、まさか……」
月「いや、少し興味があっただけさ」
月は不敵に笑った。
月「正義についての議論はまだ終わっていない。次は、君のギアスが本当に正義のために使える力なのか、もう少し詳しく聞かせてもらおう」
ルルーシュは月の笑顔を見つめた。
この男は危険だ。
単なる思想の違いではない。
自分と同じように、目的のためなら手段を選ばない。そして、自分の正義を否定されることを決して許さない男なのだ。
ルルーシュは改めて認識した。
目の前にいるのは、かつて自分が敵として立ち向かったブリタニア皇帝にも匹敵する、危険な独裁者なのだと。
弁論大会て司会と一人でもいいからコメンテーターというかオブザーバー的なのが一人でもいないと収集つかなくなりますね
というわけで次回から投入します。とりあえず絶対的な第三者視点を持つ(と思われる)C.Cでも。残念ながらデスノート側で該当者は思いつかなかったので、あと司会は発起人のこの場を設けた俺くんこと私がやります
しかし……この二人程「似て非なる者」て言葉がしっくりくるのもそうはいないのでは。人類トップクラスの頭脳の