重厚なテーブルを挟み、二人の青年が向かい合っていた。
一人は、端正な顔立ちと冷静な眼差しを持つ青年。夜神月。
もう一人は、黒い衣服に身を包み、どこか人を見下ろすような雰囲気を漂わせる青年。ルルーシュ・ランペルージ。
先に口を開いたのは月だった。
月「君のことは知っている。ブリタニア帝国に反旗を翻し、ギアスという力で他人の意思を支配し、世界を変えようとした男。ゼロという仮面を被り、最後には世界中の憎悪を自分一人に集めた」
ルルーシュ「お前のことも知っている。デスノートを使って犯罪者を殺害し、キラとして世界を恐怖で支配した男。そして自分を新世界の神と称した独善者だ」
月「独善者か。随分な言い方だな」
ルルーシュ「事実だろう。お前は自分の価値観だけで他人の生死を決めた。裁判も弁護も必要ない。自分が悪だと判断した人間は殺す。そんなものは正義ではない。ただの独裁だ」
月「では聞こう。君のやったことは正義なのか?」
月は微笑んだ。
月「ギアス。それは他人の意思を強制的に書き換える力だ。命令された人間は自分の意思に反して行動する。場合によっては自分の命すら投げ出す。そんな力を使って革命を起こした君が、僕のことを独裁者と批判するのか?」
ルルーシュ「……」
月「僕は犯罪者を裁いた。社会に害をなす人間を排除し、犯罪を犯せば死ぬという恐怖を世界中に知らしめた。その結果、世界の犯罪率は激減した。多くの人間が平和に暮らせるようになったんだ」
月「それに対して君はどうだ? ギアスで人を操り、戦争を起こし、多くの人間を死に追いやった。自分の目的のために他人を利用した。僕と君、一体どちらがより多くの人間を救ったと思う?」
ルルーシュ「数字の問題ではない」
月「ほう?」
ルルーシュ「犯罪率が下がったから正しい? 人々が恐怖で犯罪を犯せなくなったから平和? それは平和ではない。単にお前に逆らえなくなっただけだ」
月「犯罪者がいなくなれば、被害者もいなくなる。何が問題なんだ?」
ルルーシュ「お前が犯罪者と判断した人間が、本当に犯罪者だったという保証はどこにある?」
月「警察や司法が正しく機能している限り、問題はない」
ルルーシュ「ならば司法が間違えた場合は? 冤罪だった場合は? あるいは、お前自身が間違えた場合は?」
月「……」
ルルーシュ「お前の世界には、お前を裁く者がいない。お前自身が法律であり、裁判官であり、処刑人だ。そんな世界で正義を語るな」
月の笑みがわずかに薄れた。
月「君は自分を棚に上げているな。ギアスで人間の意思を奪うことに、何の問題も感じていないのか?」
ルルーシュ「問題がないとは言っていない」
月「ならば認めるんだな。君もまた、他人の自由を奪っていると」
ルルーシュ「ああ。俺はギアスを使った。多くの人間を利用し、犠牲にした。その罪から逃げるつもりはない」
月「だったら僕と同じだ」
ルルーシュ「違う」
ルルーシュは即座に言い切った。
ルルーシュ「俺は自分の行いが正しいと信じて戦った。だが、それが全て正しかったなどとは思っていない。自分の過ちも、犠牲にした人々の命も背負う覚悟で進んだ」
月「それは自己満足だ。犠牲者にとっては、君の覚悟など何の意味もない」
ルルーシュ「そうだ。だから俺は、その責任を取った」
月「……」
ルルーシュ「だが、お前はどうだ? 自分の正義を疑ったことがあるのか? 自分が間違っている可能性を考えたことがあるのか?」
月「僕は間違っていない」
ルルーシュ「その言葉こそが、お前の最大の過ちだ」
室内に沈黙が流れた。
やがて月が口を開く。
月「一つ聞きたい。君はなぜ世界を変えようとした?」
ルルーシュ「……妹のためだ」
月「妹?」
ルルーシュ「ナナリーだ。あいつが安心して暮らせる世界を作りたかった。それが始まりだった」
月「たった一人の妹のために、世界中を巻き込んだのか?」
ルルーシュ「そうだ」
月「随分と身勝手な理由だな」
ルルーシュ「お前に言われたくはない。お前こそ、自分が神になりたいという欲望を正義で飾り立てていただけではないか」
月の表情から、笑みが消えた。
月「僕は本気で世界を良くしようとしたんだ」
ルルーシュ「ならば聞こう。お前は新世界に、自分以外の誰かが正義を決める余地を残していたのか?」
月「……」
ルルーシュ「自分が死んだ後、その世界はどうなる? キラの後継者が現れたら? そいつがお前とは違う価値観で人を裁き始めたら? お前の作った世界は、本当に正義を維持できるのか?」
月は答えなかった。
ルルーシュは静かに続けた。
ルルーシュ「俺は世界を変えようとした。だが、お前は世界を自分のものにしようとした。それが俺とお前の違いだ」
月「……面白いことを言う」
月は再び微笑んだ。
月「だが、君の言う世界が本当に平和になったという保証はあるのか? 君がいなくなった後、世界は再び争いを始めるかもしれない。君の死によって生まれた平和など、所詮は一時的なものではないのか?」
ルルーシュ「それは……」
月「君は自分を犠牲にしたことで満足しただけじゃないのか? 世界の未来を本当に保証できたわけではない。ならば、僕の新世界と何が違う?」
今度はルルーシュが黙った。
二人の視線が交差する。
どちらも相手の言葉を完全には否定できなかった。
そして月が、次の問いを投げかける。
月「ルルーシュ。最後に一つ聞こう。もしギアスがなかったとしても、君は世界を変えようとしたか?」
ルルーシュ「当然だ」
月「では、もしデスノートがなかったとしても、僕は犯罪のない世界を目指したと思うか?」
ルルーシュ「……さあな。だが、お前の本性は変わらないだろう」
月「それはお互い様だ」
二人の論戦は、まだ始まったばかりだった。
この続きでは、月がルルーシュのギアスによる洗脳・強制命令の問題をさらに追及し、ルルーシュが月の「犯罪者を殺せば世界は良くなる」という思想の危険性を突いていく展開が面白いと思います。