第一幕「また何か思いついた司会者」
議論が終わり、参加者たちがそれぞれ談笑していた頃。
司会者は、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
司会者「また俺はろくでもないことを思いついた」
ルルーシュ「……その前置きは必要なのか?」
シュナイゼル「どうやら、また何か始めるつもりらしいな」
尚文「嫌な予感しかしないんだが……」
太公望「おぬしの場合、その予感は大抵当たるぞ」
司会者「もう自分で言ったほうが早いと思ってさ。エレン、ちょっと聞いてみたい。お前は今の記憶経験のまま始まりに戻れたらどういう行動をとる?」
エレン「始まり……? どういうことだ……?」
司会者「そうだな……とりあえずお前のおかんが死んだ日だな。ミカサと薪を拾いに行ってただろ? あの辺りだ」
エレン「……母さんが死んだ日?」
エレンの表情がわずかに変わる。
エレン「つまり、あの日に戻って、そこからもう一度やり直せるということか?」
司会者「そうそう。記憶も経験も、今のお前のままね」
エレン「……」
しばらく考え込むエレン。
突然の質問に戸惑いはあるものの、司会者が何を意図しているのかはまだ分からない。
エレン「……まず、母さんを助ける」
エレン「カルラ母さんを救う。あの日、俺たちが帰ったときには、もう家は潰されていた。母さんは瓦礫の下敷きになっていた」
エレン「俺は何もできなかった。ハンネスさんに助けられて、ただ逃げることしかできなかった」
エレン「今の俺なら、巨人が壁を破ることも、超大型巨人が現れることも知っている。あの状況を変えられる可能性があるなら、何としてでも母さんを助ける」
エレン「それから、ミカサも守る。アルミンも……みんなもだ」
エレン「壁が壊される前に警告できるなら、できる限りのことをする。訓練兵団に入る前から準備もできる。巨人について知っていることを伝えて、少しでも被害を減らす」
エレン「……ただ、何をどこまで話せばいいのかは分からない。未来のことを話したところで、信じてもらえるとは限らないからな」
エレンは一度言葉を切った。
エレン「それでも、あのときと同じ結末にはしない」
エレン「母さんを失わない。仲間たちを失わない。壁の外にいる人間たちとも、別の道を探す」
エレン「……今度こそ、あんなことにはならないようにする」
会場は静かになった。
ルルーシュは腕を組み、エレンの言葉を聞いている。
月も神ライトも、すぐには口を挟まなかった。
尚文「……なるほどな。最初に戻れるなら、まずは一番後悔しているところを変えたいってことか」
エレン「ああ。俺にとっては、あの日が始まりだった」
司会者の質問は、まだ続きそうだった。
第二幕「もしも、始まりに戻れるなら」
エレンの答えを聞いた司会者は、特に驚いた様子もなく頷いた。
司会者「まあ妥当か。逆行のテンプレだな。どうやって信じてもらうか。信じてもらわないと取り返しのつかないことになるなら尚更な。さらにクソガキときた。何を言うかじゃなく誰が言うかさんの出番だな」
エレン「……逆行?」
ルルーシュ「聞き慣れない言葉だな。今の話と関係があるのか?」
エレン「俺も気になる。さっきから、何を言っているんだ?」
司会者「言葉と今言ったことで大体わかるだろ? 昔に戻るんだよ。大体記憶や経験を維持したままでな。俺の世界じゃ割とポピュラーなネタなんだ。ああ、フィクションの話な」
月「過去に戻り、未来の知識を利用する……という設定ですか」
司会者「そうそう。いわゆる人生やり直しものだね」
神ライト「なるほど。未来を知っていることが、大きなアドバンテージになるわけですね」
司会者「そうだな……月ならまずデスノートを拾う日だな。まあ十中八九拾うだろうし、今度はL勢の顔も名前も最初から知ってる。あっという間に新世界の神になっちゃうだろな」
月「……」
月は何も言わず、わずかに視線を逸らした。
司会者「おっと月くん反応しない」
L「ふむ。我々の顔と名前を知っている状態で始まるのなら、確かに捜査は難しくなるでしょうね」
ニア「ただし、未来を知っていることと、未来を完全に再現できることは別です。少しでも行動を変えれば、状況も変化する可能性があります」
メロ「それでも、最初からこっちの情報を握ってるなら厄介だろ」
司会者「ルルーシュなら……まあキミはひねくれてるが根はいい子だからな。多分またC.C.を助けるんだろうし、ギアスも契約するんだろうよ……はっきり言ってテンプレだな」
ルルーシュ「ひねくれている、は余計だ」
シュナイゼル「否定はしないんだな、ルルーシュ」
ルルーシュ「兄上まで……」
C.C.「まあ、私を助けるという部分は否定しないでおこう。あいつなら同じ選択をする可能性は高そうだ」
司会者「ここはひとつ、リヴァルを逆行させてルルーシュをトラック救出に行かせないとか面白そうだ」
ルルーシュ「待て。なぜリヴァルなんだ?」
司会者「完全パンピーなあいつが知識だけでどこまでできるのか……うーん……何もできずに終わりそう」
リヴァル「おい! 本人がいないところで勝手に実験台にするなよ!」
客席からリヴァルの抗議が飛んだ。
ミレイ「ふふっ。確かに、リヴァルが未来の知識を持っていても、最初は誰にも信じてもらえないでしょうね」
リヴァル「ミレイ会長まで!?」
C.C.「そもそも、ルルーシュを助けに行かせないというのは、何のためだ?」
司会者「いや、普通の人間が未来の知識だけでどこまで歴史を変えられるのか、ちょっと見てみたいだけだよ」
太公望「ふむ。未来を知っておるというだけで、必ずしも未来を変えられるとは限らぬということじゃな」
申公豹「情報を持つことと、それを実行できる能力を持つことは別ですからね」
司会者「知識だけあっても、周囲が信じてくれなきゃ始まらない。しかも子供ならなおさらだ」
エレン「……俺のことを言っているのか?」
司会者「もちろん。お前は過去に戻ったら、まず母親を助けるって言っただろ?」
エレン「ああ」
司会者「でも、あの日に戻ったとして、お前の言葉を誰が信じる? 母親を連れて逃げようとしても、周りはどうする? 巨人が壁を破るなんて言い出した子供を、まともに相手にすると思うか?」
エレン「……簡単じゃないだろうな」
司会者「そう。未来を知ってるだけじゃダメなんだ。誰に、何を、どの順番で伝えるか。そこが重要になる」
尚文「それに、未来を知っていることを利用しようとする人間も出てくるかもしれない。下手に話せば、逆に身動きが取れなくなる可能性もある」
アバン「信じてもらうためには、相手との信頼関係も必要でしょうね。子供の姿に戻ってしまうのなら、なおさらです」
エレン「……確かに。俺がいくら説明しても、子供の俺が未来のことを知っているなんて、誰も信じないかもしれない」
司会者「そういうことだね」
司会者はエレンの方へ向き直った。
司会者「じゃ、エレン聞くぞ? 戻りたいか?」
エレン「……!」
司会者「但しそのままお前を放置しないし、ここでの記憶は消す。で、物語が終わったらまたここに呼び戻す。それでも行きたいか?」
エレン「記憶を消す……?」
司会者「ああ。今回の会話も、この場所での出来事も全部忘れる。お前が過去に戻った後、ここの記憶が邪魔になることもないようにする」
司会者「それと、ああ、その世界からエレンが消えるわけじゃない。元々いたエレンが適当に整合性つけてそのままやってくだろうよ」
エレン「……つまり、俺が過去に戻っている間も、元の世界はそのまま続くということか?」
司会者「お前がいなくなって世界が止まったり、誰かが困ったりするわけじゃない。元の世界には元のエレンがいる。こっちはこっちで、お前に別の人生をやり直してもらう」
ルルーシュ「随分と都合のいい仕組みだな」
シュナイゼル「しかし、元の世界を維持したまま別の可能性を試せるというのなら、興味深い実験ではある」
ニア「ただ、エレンさん本人にとっては、どちらの人生が自分なのかという問題もありますね」
月「元の世界の自分と、過去に戻った自分。記憶を共有していても、異なる経験を積めば別の存在になっていくのでしょう」
エレン「……」
エレンはすぐには答えなかった。
母親を助けられるかもしれない。
ミカサやアルミンを守れるかもしれない。
あのときとは違う選択をして、別の未来を作れるかもしれない。
だが、それは単純に過去へ戻ってやり直すという話ではない。
自分が知っている未来を、今度はどう変えていくのか。
そして、もう一度子供として始まる自分は、何を選ぶのか。
エレン「……少し、考えさせてくれ」
司会者「もちろん。急いで答える必要はないよ」
エレン「ただ、一つ聞きたい」
司会者「ん?」
エレン「もし俺が戻ったら、母さんを助けられる可能性はあるんだよな?」
司会者「可能性はある。結果を保証するとは言わないけどね」
エレン「……分かった」
エレンは再び黙り込んだ。
その表情には、先ほどまでとは違う迷いが浮かんでいた。
第三幕「もう一度、あの日へ」
エレンはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
エレン「……行く」
司会者「おっ」
エレン「母さんを助けたい。ミカサも、アルミンも……今度こそ、みんなを守りたい」
エレン「それに、もし本当にやり直せるなら、今度は違う道を探したい」
司会者「うん。そう言ってくれると思ってたよ」
エレン「ただし、何もかも上手くいくとは思っていない。未来を知っていても、俺が何をできるかは分からないからな」
ルルーシュ「それでも挑戦する価値はある、ということか」
エレン「ああ。少なくとも、何もしないまま後悔するよりはいい」
尚文「……まあ、気持ちは分かる。やり直せる機会があるなら、俺だって考えるだろうな」
アバン「ただ、過去に戻ったとしても、未来が同じように進むとは限りません。予想外の出来事にも対応する必要があるでしょう」
エレン「分かってる。今度は自分で考えて行動する」
司会者「よし。じゃ行くぞ。因みにその間暇だからここは時間止めとく。次はすぐにやり直してきたエレンと再会だ。その時のエレンの記憶もサクッと共有するから口頭や映像で説明する必要はない」
月「……随分と簡単に言いますね」
神ライト「時間を止めて、別の世界で人生をやり直させる……。改めて聞くと、とんでもないことをしていますね」
シュナイゼル「相変わらず無茶苦茶な仕組みだな。しかも、こちらの時間まで止めるとは」
ルルーシュ「本人が望んだとはいえ、ずいぶん強引な進め方だ」
太公望「まあ、司会者らしいと言えば司会者らしいのう」
申公豹「時間を止めて待つ、ですか。随分と贅沢な暇つぶしですね」
かみ「ふふ。神である私でも、そこまで気軽に時間を止めようとは思わぬぞ」
司会者「え、そう? 便利じゃん」
女媧「便利という理由で時間を止めるのか……」
怨み屋「本当に、この人は何でもありなのね」
尚文「もう驚く気も起きないな……」
エレン「……頼む」
司会者「任せとけ」
司会者がエレンの前に立つ。
司会者「じゃあ、行ってこい。次に会うときは、どんな人生になったか聞かせてもらおう」
エレン「ああ」
司会者が指を鳴らした。
次の瞬間、エレンの姿が消える。
そして――。
司会者「はい、時間停止っと」
会場の空気が静止した。
話していた者も、動いていた者も、まるで時間そのものから切り離されたかのように動かなくなる。
司会者だけが、いつも通りに動いていた。
司会者「さて……どんな結果になるかな」
司会者は椅子に腰掛け、気楽に待つことにした。
エレン・イェーガーの物語――再び、始まりへ
――845年。
シガンシナ区。
少年エレン・イェーガーは、ミカサ・アッカーマンと薪を拾いに出かけていた。
見慣れた景色。聞き慣れた声。
そして、遠くから響く地鳴り。
エレンは顔を上げる。
そこに見えたのは、かつて自分の人生を大きく変えた、あの日と同じ光景だった。
エレン「……母さん!」
エレンは走り出す。
今度こそ、間に合わせるために。
そして、もう一度始まる物語は、かつてとは異なる道を歩み始める。
――次幕、エレン逆行編へ続く。
次話では、逆行後のエレンが何を変えたのか、母親の救出、ミカサやアルミンへの対応、壁の外の人々との関係などをダイジェスト形式でまとめます。