新世界の神と、世界を壊す魔王   作:never learns

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第五話「全肯定という名の檻」

 

「さて、議論を再開する前に、一つ忘れていたことがあります」

 

司会者は、参加者たちを見渡した。

 

「私自身の軽い自己紹介です。まあ、便宜上、全知全能の神に近い者とでも思ってください。この世界で私にできないことは、多分ありません。こんな状況を作れる時点で、皆さんも察していると思いますが」

 

「全知全能の神、か。随分と大きく出たものだね」

 

シュナイゼルが興味深そうに言った。

 

「便宜上ですよ。別に神様を名乗りたいわけじゃありません。それに、私は世界を支配したいわけでもありませんから」

 

「ほう?」

 

「まあ、その辺りは追々分かると思います。では、本題に戻りましょうか」

 

司会者は軽く手を叩いた。

 

「しかし、これ決着つくのか……終わりが見えないな」

 

深く椅子にもたれ、ぼやく。

 

「まさしく、ああ言えばこう言う。まあ、それが弁論大会ってやつですよね」

 

「弁論とはそういうものだろう」

 

ルルーシュが苦笑する。

 

「互いに譲れないものがあるからこそ、議論になる。簡単に決着がつくなら、そもそも弁論する必要もない」

 

「まったくだ。もっとも、君の場合は決着がついても納得しなさそうだが」

 

月が皮肉を返す。

 

「それはお互い様だろう、夜神月」

 

「ふふっ」

 

司会者は二人を眺め、ふと思い出したように口を開いた。

 

「そうそう。軽い補足です。怨み屋さん云々以前に、全肯定はいけませんよ。全肯定という言葉を全否定します(笑)」

 

「……全肯定を全否定、ですか」

 

怨み屋が小さく笑った。

 

「ええ。だってそれはもう、自分を絶対正義だと疑わないのと何ら変わりませんからね。全肯定しているものを否定する奴は問答無用で悪。そういう思考になるでしょう?」

 

「なるほど。信仰対象が正義から別の何かに変わっただけ、ということですね」

 

「そういうことです。過激派宗教の信者とかですね、怨み屋さん。彼らには苦労させられましたか?」

 

怨み屋は少しだけ目を細めた。

 

「ええ。何度か」

 

「やっぱりですか。ほんっとお察しします。私が敵側としてもっともつまらなく嫌いなのは狂信者達です。我々が正義! 悪魔め死ね! こればっかですもん。まさしくヒトの形した獣。人面獣心てやつです。本当の獣の方が最初から話が通じないとわかってるだけまだマシです。怨み屋の標的の殆どがこれ、人面獣心だと思ってます。それでもまだ対話を試みる怨み屋さんを私は本当に尊敬します。私ならうるせえしねで即殺処分です」

 

「随分と物騒なことを言いますね」

 

怨み屋は苦笑した。

 

「ですが、言いたいことは分かります。自分の信じるものを絶対視している人間は厄介ですよ。こちらが何を説明しても、聞く耳を持たない。自分たちの教義に反するものは悪。自分たちの行動は善。相手がどれだけ苦しもうと、それは正しいことを実行するために必要な犠牲だと考える」

 

「……それは、私が批判している人間そのものですね」

 

月が口を挟んだ。

 

「しかし、信念を持つこと自体は悪いことではない。自分が正しいと信じられなければ、何も成し遂げられない」

 

「信念を持つことと、信念を疑わないことは違います」

 

怨み屋は月を見た。

 

「自分が間違っているかもしれない。そう考える余地を残しているかどうかです」

 

「その余地を残した結果、判断が遅れ、被害が拡大することもある」

 

「ええ。だからといって、疑うことをやめていい理由にはなりません」

 

月は返答せず、怨み屋を見つめた。

 

司会者は、その様子を見て頷く。

 

「そういうことです。私は何も、信念を持つなと言っているわけじゃありません。全肯定するなと言っているんです。自分の考えも、他人の考えも、必要なら疑え。間違っているなら修正しろ。それだけの話ですよ」

 

「では、君自身の考えも例外ではないということだな」

 

ルルーシュが尋ねる。

 

「当然です。私の考えだって全肯定する気はありませんよ。だからこうして、キミたちに好き勝手に反論させているんでしょう?」

 

「それは結構なことだ」

 

シュナイゼルが穏やかに微笑む。

 

「自分の意見を否定する者を排除せず、議論の場に招き入れる。少なくとも、独裁者としては珍しい振る舞いだね」

 

「独裁者じゃありません。そもそも私は支配なんてこれっぽっちも興味ありません。世界征服したい人達て最終的に何を得たいんですかね。全人類絶対服従とかですかね。断言します。すぐ飽きます。永遠の命とか大金手に入れたとかも同じです。そのうち誰か俺を否定しろぉぉぉぉとか思っちゃいますよきっと。それも自分の意志ではなく言われたから否定するだけ。確実に発狂します」

 

「……世界を征服した後の話か」

 

月が興味深そうに反応した。

 

「そうです。何もかも思い通りになる世界なんて、すぐに退屈するでしょう。自分を否定する人間すらいない。反論する人間もいない。そんな環境で一体何を楽しめというんです?」

 

「人間は、自分の思い通りになることを望むものではないのか?」

 

「最初はそうでしょうね。でも、ずっとそれだけで満足できるとは思いません。少なくとも私は無理です」

 

「なるほど。君は他者を支配することそのものに価値を感じないわけだ」

 

シュナイゼルが言った。

 

「ええ。支配したい人の気持ちは分かりませんね。まあ、支配することに何らかの必要性があるなら話は別ですが」

 

「支配することに必要性がある場合、か」

 

ルルーシュが繰り返す。

 

「結局、君の判断基準はそこに戻るんだな」

 

「そうですね。正義か悪かなんて、私にとっては二の次です」

 

司会者は肩をすくめた。

 

「ただし、必要性を判断することと、自分を絶対正義だと思い込むことは違います。そこは何度でも言いますよ」

 

「君は、自分の判断が絶対に正しいとは思っていない。だが、自分の判断で世界を動かすことはできる。君はそういう立場にいるわけだ」

 

月が問いかけた。

 

「そうですね」

 

「ならば、僕と何が違う?」

 

司会者は月を見た。

 

「自分の判断で世界を動かすことと、自分こそ正義だと宣言することは違います。私はキミのやったことの一部を肯定していますが、キミの思想まで肯定する気はありません」

 

「……一部、か」

 

「犯罪抑止の実績は認めます。キラが世の中に与えた影響も認めます。ですが、それを根拠にキミが正義の神になったわけじゃない。そこを勘違いしないでください」

 

月は、わずかに目を細めた。

 

「君は僕の結果を利用しながら、僕の思想を否定する。ずいぶん都合のいい立場だな」

 

「都合がいい? そうかもしれませんね。でも、必要なものは必要。間違っているものは間違っている。それだけですよ」

 

「その二つをどうやって区別する?」

 

「それを今、議論しているんでしょう?」

 

司会者は笑った。

 

「いやあ、終わりが見えませんねえ」

 

C.C.が呆れたように肩をすくめた。

 

「そもそも、終わらせる気があるのか?」

 

「ありますよ。決着がつくかどうかは別ですけど」

 

「まったく、人間というのは面倒だねえ」

 

リュークがリンゴをかじる。

 

「正義だの必要だの、言葉を変えて同じことを延々と話している。まあ、見ている分には飽きないけどさ」

 

「さて……」

 

司会者は、ふと別のことを思い出したようにC.C.を見た。

 

「あっ、今ふと思いました。シャルル、ここってラグナレクの接続後の世界っぽくないですかね?」

 

「ラグナレクの接続……」

 

ルルーシュが眉をひそめる。

 

「全人類の意識を一つにする。過去も未来も、嘘も偽りもなくなり、誰もが互いの心を理解する世界。そういうことか」

 

「ええ。まあ、弁論ではないにせよ、これを問答無用で二十四時間、世界中で行うようなものですかね」

 

司会者はC.C.に視線を戻した。

 

「それとも、マオの暴走ギアスかな? 多分、ラグナレクを一番否定するのはマオでしょうね(笑)。死んでも逃げられない全人類強制参加型。C.C.もつくづく残酷なことをしたもんだ」

 

「……何が言いたい?」

 

C.C.が警戒するように尋ねる。

 

「私なら多分、マオの暴走ギアスをキミに体験させられると思いますよ。試してみますか?」

 

「なっ……」

 

C.C.の表情が固まった。

 

「コード保持者だからギアスなんて効かないもーん、なんて私には通じませんよ。そもそも、私がその気になれば、コードだろうが何だろうが関係ありませんからね」

 

「お前……」

 

「というか、押し付けたい気分になってきました。マオの苦しみの一部でも味わってみやがれってんだ。キミもコードを押し付けようとしてきたんだから、因果応報だよなあ……?」

 

「待て。私は……」

 

「ちなみに私なら、ラグナレクまでいかずとも暴走ギアスだけで三十分もたず発狂する自信があります。絶対的引きこもりになる自信がありますよ(笑)」

 

司会者は、そこで一度言葉を切った。

 

「……まあ、せっかくですから、C.C.以外にも一瞬だけ体験してもらうのも面白いかもしれませんね。くせ者達の思考が一気に流れ込んでくるんですよ。さぞかし賑やかでしょう」

 

「おい、ちょっと待て」

 

ロイドが珍しく慌てた声を出した。

 

「それはつまり、僕の頭の中まで覗かれるということかな?」

 

「ええ。本人の意思とは関係なくね」

 

「それは困るなあ。僕の思考は少々、整理整頓が必要なものでね」

 

「私は遠慮しておく」

 

シュナイゼルは穏やかな口調ながら、はっきりと拒否した。

 

「他人の思考を強制的に聞かされるというのは、あまり愉快な体験ではなさそうだ」

 

「おや、兄上もですか?」

 

ルルーシュが皮肉っぽく言う。

 

「君は体験したいのかい?」

 

「断る」

 

「即答だな」

 

「当然だ。自分の思考を他人に強制的に覗かれるなど、冗談ではない」

 

月も腕を組んだ。

 

「僕も賛成できないな。思考を読む能力は、使い方次第で有用だが、四六時中他人の思考を聞かされるのは別問題だ」

 

「おやおや。キラもルルーシュも、随分と嫌がりますねえ」

 

「当然だろう」

 

ルルーシュが答える。

 

「他人の思考を知ることと、自分の意思に関係なく他人の思考を聞かされ続けることは、まったく違う」

 

「ふむ。これは興味深いね」

 

シュナイゼルがC.C.を見た。

 

「C.C.。君はどうなのかな?」

 

C.C.は司会者を睨んでいた。

 

「……好きにしろ。どうせ断っても聞く気はないんだろう」

 

「おや、察しがいいですね」

 

「まったく、性格の悪い奴だ」

 

司会者が指を鳴らした。

 

次の瞬間。

 

C.C.の表情が変わった。

 

「――っ!」

 

音が聞こえたわけではない。

 

声が聞こえたわけでもない。

 

それなのに、頭の中へ他人の思考が流れ込んでくる。

 

ルルーシュの警戒心。シュナイゼルの冷静な分析。ロイドの好奇心。月の計算。怨み屋の観察。司会者の悪戯心。

 

それぞれが別々の方向を向き、互いに干渉し、絶え間なく押し寄せてくる。

 

一人の思考を追おうとすれば、別の人間の考えが割り込む。誰かの言葉を理解しようとすれば、その裏にある感情や別の考えまで流れ込んでくる。

 

整理する暇もない。

 

拒絶することもできない。

 

「やめ……っ!」

 

C.C.は頭を抱えた。

 

「これが……マオの……?」

 

ほんの一瞬だった。

 

司会者が能力を解除すると、C.C.は荒い息を吐きながら、しばらく動けずにいた。

 

「……はあっ……はあっ……」

 

「どうです?」

 

「……最悪だ」

 

C.C.は顔を上げた。

 

「こんなものを……私は……」

 

その視線が、観客室の一角へ向く。

 

そこにはマオがいた。

 

暴走ギアスはオフになっている。今は他人の思考を勝手に聞くこともなく、静かに二人の様子を見ていた。

 

C.C.は立ち上がり、マオの方へ歩いていく。

 

「マオ……」

 

「どうしたの、C.C.?」

 

「私は……こんなものをお前に与えておいて、そして捨てたのか……」

 

C.C.の声が震えた。

 

「報いを受けるのは当たり前だ。本当にすまなかった、マオ」

 

マオは少し驚いたように目を見開いた。

 

そして、いつものような笑顔を浮かべる。

 

「ううん、いいんだよ。C.C.……」

 

「マオ……」

 

「僕はC.C.が好きだからね」

 

その言葉に、C.C.は何も返せなかった。

 

ルルーシュも、黙って二人を見ていた。

 

司会者は、その様子を少しの間だけ見守っていた。

 

そして、C.C.に向き直る。

 

「で?」

 

C.C.が顔を上げる。

 

「これを世界規模でやろうとしているシャルルに対して、感想は?」

 

C.C.は、すぐには答えなかった。

 

一瞬だけとはいえ、暴走ギアスの苦しみを体験したばかりだ。しかも、自分がかつて与えた力によって、マオがどれほど苦しんでいたのかを思い知らされた。

 

そして今度は、その苦しみを全人類に押し付けようとしている男の計画について問われている。

 

C.C.はシャルルを見た。

 

「シャルル……」

 

その声には、呆れと怒り、そして何よりも強い危機感が込められていた。

 

「今更言っても詮無きことだが、本っ当にやめておけ……」

 

シャルルは黙ってC.C.を見返す。

 

「おそらく元凶のお前は、史上全人類からの罵詈雑言を聞くことになるぞ……」

 

「何だと?」

 

「そもそもだ……みんなわかってくれるはずだ、というのは本当にどこからくる自信なんだ……?」

 

C.C.は深く息を吐いた。

 

「他人の思考が聞こえるというのは、こういうことだ。自分に都合のいい声だけが聞こえるわけではない。好意も、嫌悪も、怒りも、軽蔑も、すべてだ。お前が望む望まないにかかわらずな」

 

「人々が互いを理解すれば、憎しみも争いもなくなる」

 

「理解すれば、必ず受け入れられるとでも思っているのか?」

 

C.C.は冷ややかに返した。

 

「相手の考えが分かることと、その考えに賛同することは違う。むしろ、相手が何を考えているか知った結果、余計に嫌いになることだってある」

 

「……」

 

「お前の計画を聞いた人間が、全員お前に感謝するとでも思っているのか? 全人類が、お前の考えを理解し、賛同し、喜んで一つになるとでも?」

 

C.C.は一歩も引かなかった。

 

「そんなわけがないだろう。お前を恨む者もいる。憎む者もいる。殺したいほど嫌う者だっている。そういう人間たちの思考が、すべてお前に流れ込んでくるんだぞ」

 

「人々の心を一つにするのだ。個々の憎しみなど……」

 

「その個々の心を一つにすること自体が、お前の計画なんだろうが!」

 

C.C.の声が鋭くなる。

 

「自分の望む世界を実現するために、全人類の意思を無視する。自分の考えを理解してもらうために、相手の考えを強制的に聞かせる。お前はそれを、本当に平和だと思っているのか?」

 

シャルルは答えない。

 

C.C.は目を伏せた。

 

「……マオのことを考えろ。あいつは、自分の意思で他人の思考を聞きたかったわけじゃない。お前がやろうとしていることは、その苦しみを世界中の人間に押し付けるようなものだ」

 

「人間は嘘をつく。互いに欺き、傷つけ合う。だからこそ、すべてを理解する必要がある」

 

「理解する必要がある、というのと、理解を強制していいというのは別だ」

 

ルルーシュが口を挟んだ。

 

「父上。あなたは人間が互いに理解し合えないことを恐れた。だから、理解し合う努力そのものを不要にしようとした」

 

「人間は争いを繰り返す」

 

「だからといって、変わる可能性を奪っていいわけではない」

 

シュナイゼルも静かに続けた。

 

「父上。今のC.C.の反応を見ても、まだ全人類にそれを強いる必要があると考えるのかな?」

 

「それでも、人類の争いを終わらせるためには必要なのだ」

 

「また必要、ですか」

 

司会者は呆れたように首を振った。

 

「あなたの言う必要性って、最初から答えが決まっているんですよね。人類の争いをなくすためなら、全人類の意思を奪っても構わない。そこに疑問を持たない」

 

「人々が争わなくなる。それ以上に重要なことがあるか?」

 

「ありますよ。人々が自分の意思で生きることです」

 

司会者は即答した。

 

「そもそも、全員の心を一つにしたら争いがなくなるという発想が理解できません。相手の考えが分かったところで、意見が一致するとは限らないでしょう?」

 

「それでも、嘘や欺瞞はなくなる」

 

「その代わり、秘密もなくなる。プライバシーもなくなる。自分だけの心を持つ自由もなくなる」

 

「人間は孤独だ」

 

「だから何です?」

 

司会者は間髪入れずに返した。

 

「孤独だからといって、全員を無理やり一つにする必要がありますか? 人と分かり合えないことがあるからこそ、話し合う意味があるんじゃないですか?」

 

ルルーシュが頷く。

 

「人間は他者と違うからこそ、話し合う必要がある。父上の計画は、その前提を壊してしまう」

 

「話し合いは争いを生む」

 

「話し合わなければ、争いを解決することもできない」

 

C.C.はもう一度シャルルを見た。

 

「……本当にやめておけ。お前の望む世界になどならない。お前が思っている以上に、人間はお前のことを嫌うだろうよ」

 

その言葉に、シャルルは何も答えなかった。

 

司会者は、C.C.に向かって軽く頷いた。

 

「ありがとうございます。やっぱり、実際に一瞬でも体験した人の言葉は説得力がありますね」

 

「礼を言われるようなことではない。……だが、マオの苦しみを少しでも理解できたのは事実だ」

 

C.C.はマオの方を見た。

 

「私は、本当に愚かなことをした」

 

「C.C.……」

 

マオは静かに微笑んでいた。

 

その様子を見ていた怨み屋が、ぽつりと言う。

 

「自分が何をしたのか、後になって初めて理解することもあるんですね」

 

「ええ。だからこそ、他人の言葉に耳を傾ける必要があるんでしょう」

 

司会者は答えた。

 

「自分が正しいと信じているときほど、ね」

 

「……だが」

 

月が口を開く。

 

「今の話は、僕のキラによる統治にも当てはまるのではないか?」

 

「どういう意味だ?」

 

ルルーシュが尋ねる。

 

「キラもまた、人々の行動を監視し、犯罪を犯せば裁く存在として認識されていた。人々はキラの意思を知ることができず、いつ裁かれるか分からない恐怖の中で生活していた。君たちはそれを犯罪抑止として評価するが、キラの考えを理解できない人間も大勢いたはずだ」

 

「それはそうでしょうね」

 

司会者はあっさり認めた。

 

「キラを支持しない人間もいたでしょう。恐怖を感じた人間もいたでしょう。それでも犯罪が減ったという結果はあります」

 

「結果があれば、他人の恐怖は無視していいのか?」

 

「無視していいとは言っていません。考慮したうえで、それでも必要だと判断することがあると言っているんです」

 

「その判断を誰がする?」

 

「だから、そこを議論しているんでしょう?」

 

司会者は月を見た。

 

「キミもルルーシュもシュナイゼルも、そしてシャルルも、何らかの形で他人の人生を左右する決断をしてきた。自分の判断が正しいと思ったからこそ、実行したんでしょう?」

 

「そうだ」

 

月は迷わず答えた。

 

「僕は自分の行動が正しいと信じていた」

 

「そこが問題なんですよ」

 

「君は本当に僕の思想を否定することに余念がないな」

 

「ええ。キミの行動の一部を肯定することと、キミの思想を否定することは両立しますから」

 

ルルーシュは二人のやり取りを見て、口を開いた。

 

「ならば、次の議題はそこだ。判断を誤ったとき、力を持つ者はどこまで責任を負うべきなのか」

 

「いいですね」

 

司会者は頷いた。

 

「ようやく、弁論らしいところに戻ってきましたね」

 

「戻ってきたというより、ようやく本題に近づいたのではないか?」

 

シュナイゼルが微笑む。

 

「必要性を判断する者が、判断を誤ったとき。その結果を誰が引き受けるのか。これはキラにも、私にも、君にも、そして父上にも関係する問題だ」

 

シャルルは何も答えなかった。

 

月は腕を組み、ルルーシュを見据える。

 

「いいだろう。僕は自分の行動に責任を持つつもりだ」

 

「その責任とは、具体的に何だ?」

 

ルルーシュが問い返す。

 

「罪を認めることか。裁きを受けることか。それとも、結果を受け入れることか」

 

「君はどうなんだ、ルルーシュ」

 

今度は月が問い返した。

 

「君もまた、世界を変えるために多くの犠牲を出した人間だ。自分の計画が正しかったと、最後まで言い切れるのか?」

 

ルルーシュは答えず、月を見返した。

 

議論は、ようやく二人自身の過去へと踏み込もうとしていた。

 

司会者は満足そうに頷いた。

 

「いいですねえ。やっと面白くなってきました」

 

リュークが、またリンゴをかじる。

 

「人間ってやっぱり面白いね」

 

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