休憩時間は続いていた。
司会者は会場の中央へ戻ると、ふと思い出したように手を叩いた。
「さて、と。そういえば、もうちょっとゲストを呼んでおこうかな」
「まだ呼ぶのか?」
近くにいたルルーシュが、少し呆れたように尋ねる。
「うん。今回は特別ゲスト。しかも三人」
「三人も?」
C.C.が眉を上げる。
司会者はにやりと笑った。
「いやあ、リュークがさあ。人間って面白、人間って面白って、同じことばっかり言うもんだから。お前が同じことしか言わねーからお前と同じようなポジの人達連れてきた。お前はすみっこでリンゴでも食ってろ」
「クックックッ……そいつはひどいな」
「あっ、今回呼ぶのはそこの面白死神みたいなのじゃなく、ガチでやばい力持ってるんで、無論あらかじめ封じておくから安心して。皆の安全を守るのは主催者の義務です(キリッ)。というわけで、どうぞ!」
司会者が指を鳴らす。
三つの光が会場に現れ、そこから三人の人物が姿を現した。
一人目。
ピエロのような服装をまとい、独特の雰囲気を漂わせる男。
二人目。
人間とは明らかに異なる、灰色の肌と大きな頭を持つ異形の存在。人間の姿を模したものではない、まさに人ならざる者の姿だった。
三人目。
神々しい姿で、どこか人を食ったような雰囲気を持つ存在。
司会者は順番に紹介していく。
「まずは『封神演義』から申公豹!」
「次に同じく『封神演義』から女媧!」
「そして最後に『魔界塔士Sa・Ga』から、かみ!」
三人とも、ただそこに立っているだけで独特の存在感を放っていた。
もっとも、彼らが本来持っている力はすべて封じられている。どれほど強大な存在であろうと、この会場で他の参加者に危害を加えることはできない。
司会者はその点を、あらかじめきっちり対処していた。
「……ほう」
申公豹は会場を見渡し、興味深そうに目を細めた。
「これはまた、随分と奇妙な場所に呼ばれたものですね。私が観測するだけで済むのか、それとも何かに関わることになるのか……」
「観測者、というわけか」
シュナイゼルが反応する。
「ええ。もっとも、ただ眺めているだけというのも退屈なものですが」
申公豹は穏やかに微笑んだ。
「面白そうなことがあれば、私も多少は手を出したくなるものです」
「なるほど。観測者と言いつつ、随分と積極的なんだね」
「ふふ。観測することと、関わらないことは必ずしも同じではありませんから」
司会者は満足そうに頷いた。
「うんうん。そういうところも含めて、キミを呼んだんだよ」
続いて女媧へと視線を移す。
「そして女媧。こちらは説明するまでもないかな。世界を自分の思い通りにしようとする存在。人間を含めた世界を、自分の理想に近づけようとする」
女媧は司会者を見つめた。
その大きな頭部と灰色の異形の姿からは、人間とは異なる超越者としての威圧感が漂っている。
「ほう……。そなたもまた、世界を作り、そこに住む者たちを集めたのであろう?」
古風で重みのある声だった。
「まあね。でも俺は、世界を自分の理想通りにしたいわけじゃないよ」
「ならば、何のために?」
「人間が好きだから。いろんな人間がいて、いろんな考え方があって、そいつらがどう動くのか見てみたい。そういうこと」
「理解できぬな」
女媧は冷ややかに答えた。
「異なるものが存在するから争いが生まれる。ならば、すべてを同じにすればよい。違いをなくし、争いの原因を取り除く。それが我の望みぞ」
「うん。キミはそういうタイプだよね」
司会者はあっさり頷く。
「でも俺は逆。違うものが見たいんだよ。同じものばっかりじゃつまらないだろ?」
「違いがあるからこそ、苦しみも生まれる」
「それも含めて、だよ」
女媧の視線が少し鋭くなる。
「そなたは、苦しみさえも娯楽とするのか?」
「いや、そこは別に。苦しんでいる人間を見て楽しみたいわけじゃない。ただ、違う考え方を持つ人間同士が、どういう結論にたどり着くのか。それを見たいんだ」
「随分と都合のよい言い分よな」
「そうかな?」
司会者は笑った。
「まあ、気に入らなかったらソッコーハルマゲドンしてやり直し、なんてことも一度くらいやってみたい気はするけどね」
「……おい」
ルルーシュが即座に反応した。
「それは冗談だよな?」
「冗談半分、興味半分?」
「お前……」
「もちろん、実際にやるつもりはないよ。今のところはね」
「今のところ、という言葉が一番不安なんだが」
C.C.が呆れたように呟く。
女媧は司会者をじっと見ていた。
「そなたは、我とは違うと言いたいのだな」
「そうだね。キミは同じにしたい。俺は違ったものが見たい。真逆だよ」
「ならば、そなたもまた世界を己の望む形にしようとしているのではないか?」
「おっ、いいところを突くね」
司会者は少し楽しそうに笑った。
「そういう意味では、俺も完全に無関係とは言えないか。人間が好きだと言いながら、こうして舞台を用意して、集めて、話し合わせているんだからね」
シュナイゼルが口を挟む。
「自分は介入しないと言いながら、介入するための舞台を作っている。なかなか興味深い矛盾だ」
「おっと、また興味深いが出たぞ」
「ふふ。これは失礼」
「お前ら、俺のことを何だと思ってるんだ……」
リュークがリンゴをかじりながら呟いた。
司会者はそれを無視して、最後の一人へ向き直る。
「さて、かみ。キミについても少し説明しておこうか」
『魔界塔士Sa・Ga』特別ゲスト
「自分が楽しむために世界へいろいろ介入して、最後には自分自身がラスボスになる。これ、なかなか面白い発想だと思うんだよね」
「そうですか」
かみは穏やかに答えた。
「私にとって世界は、楽しむためのものです。人間たちがどう生き、どう足掻き、どのような結末を迎えるのか。それを眺めるのも悪くない」
「しかも、自分でいろいろ仕掛けておいて、最後には自分が立ちはだかるわけだ」
「ええ」
「これも一度やってみたいんだよなあ」
司会者は顎に手を当てた。
「自分がラスボスになって、勇者と魔王にタッグを組ませて挑ませる。いや、なかなか楽しそうじゃない?」
「……勇者と魔王が共闘するのか?」
ルルーシュが反応した。
「そうそう。普段は敵同士の二人が、共通の敵を前にして手を組む。いいじゃないか」
「それは確かに面白い展開かもしれないが……」
「危険思想かな?」
「危険思想というより、主催者が自分でラスボスをやりたがるというのが、そもそもおかしい」
「ははは!」
申公豹が小さく笑った。
「なるほど。あなたは世界を観測するだけでは飽き足らず、時には自ら舞台に上がり、役者にまでなろうというのですね」
「そういうこと。観客席から眺めるのもいいけど、舞台の上に立つのも楽しそうじゃない?」
「ふむ……」
申公豹は司会者を見つめる。
「あなたは、観測者でありながら、当事者にもなりたい。なかなか欲張りな方だ」
「そうかもね」
「ただし、世界を壊してやり直すことも、世界を自分の思い通りにすることも、結局は自分の望みを世界に押しつけることになる。その点は女媧殿と大差ないのではありませんか?」
「おお、鋭いねえ」
司会者は楽しそうに手を叩いた。
「やっぱりキミを呼んで正解だったよ。そういうツッコミが欲しかったんだ」
女媧は申公豹の言葉を受け、司会者を見た。
「そなたもまた、自分の望む世界を作ろうとしている。違うと言い切ることはできぬであろう」
「うん。そこは否定しないよ」
「……」
「ただ、俺は自分の望みを絶対視するつもりはない。気に入らない意見が出たからといって、そいつを消したり、世界ごと作り直したりする気はない。少なくとも、この場ではね」
「この場では、か」
シュナイゼルが小さく笑う。
「君は本当に、余計な一言を付け加えるのが好きだね」
「性分なんでね」
そのとき、リュークがリンゴを食べ終えた。
「クックックッ……なるほど。確かに面白い連中だね」
司会者は即座に振り返った。
「お、早速いつもの台詞が出たぞ」
「お前が連れてきたんだろう?」
「そうだけどさ。せっかくだから、キミも少しは他の話をしたらどうだ?」
「私は私なりに楽しんでいるんだがね」
「はいはい。じゃあ今後はこの三人にも頑張ってもらおう」
司会者は三人を見回した。
「申公豹は観測者だけど、面白そうなら積極的に関わる。女媧は世界を自分の理想に統一したい。かみは自分が楽しむために世界へ介入し、最後には自分がラスボスになる。三者三様だねえ」
「そして、あなたはその全員を一度に呼び寄せたわけですか」
申公豹が尋ねる。
「そういうこと。俺のスタンスに近いところもあるかなと思ってね。もちろん、全く同じではないけど」
「……一つ聞いてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「あなたは、私たちを呼んで何をしたいのです?」
司会者は少し考えた。
「個人的にスタンスが似てると思ったのと、ヒトならざるモノの意見も取り入れてみよかなと思ったから。単純に話を聞きたいし、話をしてみたい。せっかくいろんな世界から人を集めたんだから、メインの二人だけで終わらせるのももったいないだろ?」
そして、月とルルーシュの方をちらりと見る。
「まあ、主役はあくまであの二人だけどね。キミたちはコメンテーター兼、特別ゲスト。好きに意見を言ってくれて構わないよ」
女媧が静かに口を開いた。
「ならば、我からも一つ尋ねよう」
「何かな?」
「そなたは、世界を変えようとする者をどう思う?」
司会者は即答しなかった。
少しだけ考え、それから笑う。
「別にいいんじゃない? 変えたいなら変えればいい。ただし、自分の望みを他人に押しつけるなら、それ相応のことは覚悟してもらわないとね」
「それ相応、とは?」
「さあ? それをこれから話し合うんじゃないの?」
司会者は月とルルーシュを見た。
「ちょうど次の議題も、それに関係する話だしね」
休憩時間の終わりが近づいていた。
新たに加わった三人の特別ゲスト。
観測者でありながら積極的に関わる申公豹。
世界を同じ形にしようとする女媧。
そして、自らの娯楽のために世界へ介入し、最後には自分自身が神として立ちはだかるかみ。
それぞれ異なる価値観を持つ彼らが、これからの議論にどのような影響を与えるのか。
司会者は満足そうに笑った。
「さてさて。そろそろ休憩も終わりかな」
その横では、リュークが再びリンゴを手に取っていた。
「クックックッ……人間ってやっぱり面白いね」
「だからお前はそれ以外のことを喋れって言ってんだろ! あと、この三人に至っては人間ですらねーよ。言ってみりゃお前側だ。ヒトならざるモノポジ!」
三人はそれぞれ、微妙な反応を見せた。
申公豹は扇を口元に寄せ、苦笑する。
「さすがに、彼と同じ括りにされるのは少々心外ですね」
女媧は冷ややかに言い放った。
「我をこの死神と同列に扱うとは……そなた、なかなか無礼なことを申す」
かみも、穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「私も、彼と同じ立場だとは思っていませんがね」
「おいおい、随分な言われようだな」
リュークは楽しそうに笑った。
「クックックッ……まあ、いいさ。私はリンゴでも食べているよ」
「そうしてろ。というかお前口調変じゃないか? まあそんな口調だった時もあったけど。シドウの時」
「おや、さすがによくご存知ですね。ええ、神々の神秘さに少しアテられたのかもしれません。まあ次回までには戻しますよ」
「メタネタは俺達の特権だぞ」
司会者は半眼で呟いた。