6.
翌日、私たちは新幹線に乗っていた。終点の東京目指してはるばると。
手に持っている荷物はそんなに多くない。あくまで必要な分のお金と。あとはスマホとか、ティッシュとか。生理用品。それこそお茶とか飴ちゃん。
あとはお汁粉の缶ぐらい。咲の手荷物も似たようなものだと思う。少なくとも待ち合わせ場所でお汁粉の缶をもてあそんでいるのは見たから。
ただ、数少ないほかの荷物というのが大きくて。結構かさばるから、特大荷物スペースがついているグリーン車を押さえた。というのは半分嘘。
グリーン車に乗る機会なんて滅多にないし。今後ももうないだろうから。せっかくだしということで奮発してグリーン車を押さえたって訳。
そしてそれは今のところ正解だったと思う。金曜日とはいえ、ただの平日だったから、もとより人は少ないし。ましてやグリーン席になんて人はいない。かなり重たい荷物だし、大きいし。なんかごてごてしているから。ただのスーツケースと言い張るには無理があるかなって。
いや、これは何ですかって聞かれたらスーツケースですって答えるつもりだし、スーツケースに見えるようにいろいろ工夫はしているけれど。ちょっと無理があったかもしれないなってうすうす気が付いているんだけど。だけど、まあ。昨日の今日だし仕方がないかなって。
まあ、ぶっちゃけ明らかに未成年の女性二人が持ち運ぶにはふさわしくない大荷物。そもそも、未成年の女性二人で新幹線に乗るというのも若干珍しい光景だし。そこに大荷物を抱えているとなったらなおさら。あんまり奇異の目で見られたくはなかったから。
まあ、未成年の女性二人がグリーン車に乗るのも珍しい風景かもしれないけれど。車内で会うのは、それこそ車内販売の人ぐらいだし。不特定多数に私たちの荷物を目撃されるのはちょっと困るかなって。なにしろ、この馬鹿でかい荷物が、みんなをぶち殺すための具体的手段なんだから。
実はこの馬鹿でかい荷物にも正式名称があって。まあ、色々秘匿呼称とか、コードネームとか、単純に「資材」とか「あれ」とかも呼ばれたりするんだけど。国によっては呼ばれ方も違うみたいだし。
ただ、一般的な名称として有名なのは、アメリカ軍の言うところの「特殊核爆破資材」。多分一番通りがいいのは、「スーツケース型核爆弾」。超小型核爆弾とも言われる奴。
別に冗談で言っているわけじゃない。性能もしっかり保証されている。何しろ製造元が天下のソビエト連邦。made in USSRって訳。
かつて、冷戦が最も華々しかったころ。万が一、冷戦が本当の戦争、熱い戦争になった際。西側諸国に置かれている在外ソビエト大使館やソビエト公使館にこっそり運び込んだこれで、まずは第一撃を与えるというのがソ連のスタンスだったみたいだから。
必要があれば中立国でも同じように起爆できるようにしていたみたいだけど。外交官の外交行李って、税関ですら中身を確認出来ないから、運びやすかったらしい。まあ、他にも色々ルートはあったみたいだけど。それはともかく。
何しろ、大使館や公使館って、どこの国でも首都とかかなり大規模な都市。それこそ首都機能が沈黙した時に代わって臨時の指揮をとれるぐらい栄えている街に置かれるものだから。
そこで起爆すれば、出力としては小さくても。何しろ核爆弾は核爆弾なので。ただの手投げ爆弾を投げつけるのとはわけが違う。少なくともかく乱には使えるかなってソ連は判断したって訳。
何しろ、ソ連の弾道ミサイルの保有数とか性能って、アメリカに比べるとだいぶ見劣りしていたから。もちろん対外的にはそんなこと言わないし、そう見えないように工夫もしていたけれど。
だからと言って、性能も、そもそもの保有数も正直相当厳しいことは当のソ連、ソ連首脳部こそが一番よく分かっていた。それでも、本当に熱い戦争になるリスクは常にある。むしろ、ソ連が一番熱い戦争になるリスクを認識していたし、かつ怯えていた。
アメリカは、その気にさえなれば本気で戦争をする気だし、必要があればどれだけの犠牲を払ってでも勝ちに来る。それをよく知っていたから。
それこそ、アメリカの核攻撃の殆どを担う、当時の戦略空軍の基本戦略としては。
開戦と同時にアメリカ側が把握しているソ連側の航空基地、核発射能力を有していそうな地点千三十何か所に対して、最低でも水爆一発と通常核一発の先制攻撃を行う。
さらに同時に、ソ連の首都モスクワに対し。重要施設は全て厳重に防護されているだろうが、それを吹き飛ばさないとソ連最高司令部の人員を殺傷できないという理由で、水爆、通常核合わせて最低でも11発は直撃させる予定だったのだから。
おまけに主義主張は全然違うし、何ならソ連にとっての潜在的敵国と言っても過言ではない中国やユーゴスラヴィアに対しても、広い意味で共産主義国家なのでということで先制核攻撃を正規の予定表に盛り込む狂犬っぷり。
流石に、まだ開戦してない無関係な国まで共産主義国家だからと言って先制核攻撃をするなとか、モスクワに11発も核を撃ちこんだら、確かに首脳部を消し飛ばせるかもしれないが、だったらその後誰と交渉すればいいんだ。どうやって戦争を終わらせる気だ、考えろ。正気か、貴様?とものすごく批判されて。
結局第三国への先制核攻撃は、敵か味方か判断できてからでいいという形で譲歩されたけど。モスクワへの核攻撃は頑として譲らなかったから。
そして、そういう情報ってどうしても広がるし、ソ連も知りたいところだから。どうしても気づいてしまう訳。ああ、アメリカは本気なんだなって。
本気でソ連という国を消す気だと。そりゃあ当然、消されてたまるかってなるし、友好国の各地で同時に核爆弾がさく裂したら、流石のアメリカも困るでしょってことで。
ソ連の軍の情報機関であるGRUとか、別系統ではあるけれどKGBとかが色々頑張って世界各国にせっせっせっせと運び込んだ訳。ソ連の情報機関の優秀さ、特にこうした工作については人類史上群を抜いて優秀だから。その人たちが本気を出したら、どうしても西側諸国では防げない。
その時にこの国に運び込まれたうちの一発が、今私たちの手の中にあるわけで。まあ、ソ連崩壊の時のどさくさに紛れて買い取ったって訳。咲の実家が、だけど。
裏ルートを何重にも介して。元より裏にも詳しい家柄だから、とのこと。それでも結構苦労したという話は今でも伝わっているって聞いたりして。何で手に入れたかったのかは聞かなかったけど。教えてくれるかは分からないし、第一、興味もなかったから。
まあ、ソ連崩壊時のどさくさは相当ものすごかったって話は聞くから。出どころは、まあ。色々だけど。それこそ西側諸国に置かれていたKGBの工作専門の支部が、ソ連崩壊を見てそのまま西側の情報機関に身売りしたって話もあるぐらいだから。
一人や二人じゃなくて、支部全員。暗号表とか、工作のための道具とか。たくさんの機密情報や頑張って獲得した自分たちのスパイのリスト一式を携えて。結構いい値段で買ってもらえたみたいだけど。要は、売れるものなら何でも売りたい人たちだし、売りたい時期でもあったから。まあ、仕方がないのかなってところではあるのだけど。
まあ、そんなこんなで不思議な運命をたどって私たちの手元にある核爆弾。信管は生きているって聞いた。元よりこういうのって、時限爆弾としての機能も併せ持つのが通常だそうで。定期的に信管にアクセスしないと、そこの隠し場所は無力化されたと判断され。いわばすでに敵地に落ちたという訳。
そして隠し場所が大使館や公使館である以上、そこが無力化されたということは、すでに戦争状態にあると考えてよい。だったら起爆しても構わない。そんな感じ。信管へのアクセス方法はまあ、教えてもらったし。だから起爆時間も万が一に備えてすでにセットしてある。もちろん手動での起爆方法も教えてもらってある。出来たらお目当ての場所で起爆したいけれど。
お目当ての場所っていうのは、もちろん皇居前。厳密には皇居の二重橋前。他にもいろいろ候補はあったんだけど、せっかくだから皇居の二重橋前にしようよって咲が言ったから。一番映えるよって。
最初はクリスマス前だよ、もっと人が集まる場所にしようよ。渋谷とかどうかな?ハチ公前とかって提案したんだけど。せっかくだからみんな殺そう?って。
私たちを見ない振りしたみんな。私たちの存在を見て見ぬ振りして見殺しにしたみんな。私たちが助けてって言っても助けてくれなかったみんな。私はお巡りさんとスクールカウンセラーに見殺しにされた。
悲鳴を上げて殴られていても地域の人は誰も通報すらしなかった。それこそみぞれの降る真夜中に、下着一枚で外に放り出されたとしても。
たとえそれが、私がシャワーを浴びている真っ最中で。全身びしょ濡れだったとしても。下着をとっさにつかまなきゃ、文字通り全裸で追い出されることになっていたとしても。
みんなは何にも言わなかった。私を見殺しにすることを選んだ。むしろ積極的に見殺しにしようとした。まあ、私を殺そうとしたんだから。私を助けない道を選んだんだから。その対価は払ってもらわないと。
お代は命だけで十分です。本当はあなたの家族にも苦しんでもらいたいけれど。あなたの命だけで勘弁してあげる。私の命を狙ったんだ。当然その対価は命に決まっている。
それを分かって見殺しにすることを選んだ。そうでしょう?知らなかったなんてありえない。知らなかったなんて許されない。見て見ぬ振りも許さない。知らないということは、知らずにいるということを選んだということだ。
私の大好きな伊藤計劃の虐殺器官でもこう言っていた。
「人は見たいものしか見ないようにできている」
まあ、それはそうだと思う。だから、近所で暴力が日常的に行われていても。悲鳴がたびたび聞こえてきても。裸同然の姿で、凍死しそうな状況下で放置しているのを見ても、何もしなかった。見殺しにしようと思った。
いや、そもそもそんな主体的な意思すらなくて。ただ見ないようにしただけ。目をつぶっていただけ。あるいは本当に見えていなかったのかもしれないね。なーんて。
だから、そういう人まで巻き添えにするのは心がひけるけど。なんてのは嘘。大嘘。むしろそういう人をたくさん巻き込めることを誇りに思っている。知らないなんて許せない。知らなかったなんて許せない。
あなたたちにとってはかけがえのない命なのかもしれないけれど、実は私たちにとってもかけがえのない命なんだ。私たち自身の命というのは。ご存じでした?いや、お返事は結構。聞かなくても分かってます。
「知らなかった」
でも、私は。私たちは思うんです。知らなかったで逃げるのって、ずるくないですか?知らなかったで許されるのなら、この世に罪も罰もありませんよ。知らなかったで済むのなら、警察なんていらない。そういう話なわけです。
だから、私は。私たちは。正当な権利を行使するだけ。知らなかった。それは結構。大変結構。別に知らないことを咎めはしない。知ろうともしなかった知的怠慢さを笑ったりもしない。ただ、行動には責任が伴うから。知らなかったという行動の責任は取ってもらう。知らなかったというツケは払ってもらう。
だから、たくさんの人を巻き込もうと思ったんだけど。でも咲は言った。
でも、どれだけ頑張ってもこの爆弾で殺せる人数には限りがあるよって。これはダーティ・ボムじゃない。広範囲にも影響を及ぼさないし、長期間その地域を汚染したりもしない。
殺せて、せいぜい百、千、万?万に届いてくれたら嬉しいけど。でもどうせそれにしたって、「みんな」には届かない。どれだけ頑張っても、私たちじゃ「みんな」は殺せないんだよって。
私はすごくショックだった。泣いちゃうぐらい。だったらどうしたらいいのって泣きじゃくった。この恨みは、この憎しみは、どこへ向ければいいのって。
咲ちゃんはにっこり笑って言った。聖母様みたいな綺麗な笑顔で。だから、皇居を狙うのって。みんながこの国の象徴だと思っているから。この世界の象徴だと思っているから。
平和の象徴。当たり前の世界の象徴。私たちを苦しめてきた世界の象徴。当たり前に親がいて、親は子供を愛するもので、子供も親を愛するものっていう。どこまでも歪んだこの世界の象徴。
子供がうるさいのも当たり前、子供が騒いで当たり前。そんな優しい言葉で小さなお子様たちがぎゃーだのわーだの許してきたこの世界。私たちにはそんな優しさを向けたことなんて、一度もありませんよねって教えてあげないと。
ぎゃーとか騒げる子供たちに自分たちがどれだけ恵まれていて、かつまわりにどれだけ迷惑を振りまいて不愉快にさせて生きているか教えてあげないと。自分の生存が周りに害しか与えていないって現実を、突きつけてあげないと。
もっと申し訳なさそうに、慎ましく生きるべきだったんだよ、君たちはって。そうやって優しく教えてあげないと。生きていてごめんなさいって思わないと。生まれてきていい命なんてないし、生まれてきてよかった命なんてないんだよって教えてあげないと。生きてていい訳ない、生まれてきていい訳ないって、教えてあげないと。
私たちみたいに。謙虚に素直に慎ましく生きていかなきゃ駄目だったんだよ。私たちのように。だから、これもツケだよねって咲ちゃんは微笑んで。
かつて、ハーモニーで。ミァハは「私はね、永遠だと人々が思っているものに不意打ちを与えたい。止まってしまった時間に一撃を喰らわせたい。」って語っていたけれど。
この世界では、親の子供に対する愛情も。子供の親に対する愛情も。世の中の子供に対する愛情も。きっと無条件なものだと、信じこまれているんだよね。永遠不滅の真理だと思われているんだよね。
きっと、子供が親を愛するのも。親が子を愛するのも。子供を大事にしなきゃいけないという価値観も。未来永劫変わらない。無限に続く未来。永遠に続く未来。どれだけ時代が変わっても、絶対に変わらない原理原則。
ある種、固定された価値観だと。みんながみんな、信じこんじゃっているんだよね。そういうのって、気に食わないから。「一撃を喰らわせたい」から。
だから、私は皇居を吹き飛ばす。皇居二重橋を中心として一帯を吹き飛ばす。ゼロに還す。始まりのゼロに。ソドムとゴモラの街は焼き払われなければならない。
私は神様ではないから、振り返った人を塩の柱には出来ないけれど。ソドムとゴモラぐらいなら焼き払えるから。為しうる人が為すべきを為す。
ねえ、澪ちゃん。何か私、間違ったこと言っているかな。そう、にっこり笑う咲ちゃん。でも、その瞳は僅かばかりに揺れていて。
だから私は抱きしめた。ううん。何も間違ってないよって。何にも間違ってない。そう、わずかに震える咲ちゃんを抱きしめた。
一瞬、とっさに押しのけようとばかりに強張った咲ちゃんの身体。私は何度も優しく撫でつける。敵じゃない、敵じゃない。その気持ちが伝わるように。少なくとも、私は敵じゃない。敵ばかりの人生だけど。敵しかいないこの世界だけど。少なくとも私だけは敵じゃないんだよって。そう、伝わるように。
まるでお母さんが我が子にそうするように。生憎、母親にそんな風に撫でられたことなんて一度もないから。あくまで想像だけど。
まあ、母親というか誰にも撫でられたことなんてないけど。強いてあげるのなら、かつて私を犯した男だけ。だけどそんなのはカウントしたくもないから。
最初はもう、明らかに体をかちんこちんに強張らせていた咲ちゃん。全身からお願い!やめて!触らないで!放して!怖い、怖い……!助けて、助けてぇ!誰か!いや、いやだあ、いやあ……って雰囲気を漂わせていたけれど。
でも、次第に落ち着いてきたのか、おずおずと背中に手をまわしてきて。ぎゅっと、強く強く抱きしめてくれて。まるで、本当に私がここにいるのかを確認するかのように。今自分が抱きしめているのが、本当に私なのかを確かめるように。
私の体温を記録するように。二度と離さないと言わんばかりに。生き別れてしまった姉妹に、何十年かぶりに再会したように。きつく、きつく抱きしめてくれて。すりすりするように、頭を押し付けてきたりして。
私も、そっと少しだけ撫でてあげて。頭を押し付けてきた箇所が、少しだけ。そう、少しだけ湿っていることには気づかないふりをして。何度も何度も撫でてあげた。人の頭を撫でるのなんて、初めての経験だったから。すごくぎこちなかったと思うけど。
そうして、お互い抱き合って。お互いの体温を分け合うように。これが私の体温だよと教えるように。これが私の体温だよと教えてもらうように。
鼻先をくっつけて、二人で見つめあって。キスはしたくなかったから。キスだけはされたくなさそうだったから。
だからせめて、鼻先をぴったりくっつけて。お互いの目を見て。瞳の奥を覗き込んで。変わらぬ光が、炎が揺らめいているのをお互い確認して。にっこり笑いあって。再びハグをした。それがついさっきの話。新幹線に乗る直前の話。
グリーン車に乗って、ひとしきりはしゃぐと咲ちゃんは眠ってしまったけれど。まあ、疲れていたのかもしれないなって。何しろ、この荷物を持ち出すのとか、使い方を教えてもらうのにはずいぶん苦労したから。まあ、仕方がないよ。そう、独り言ちる。
それにしても。その時に飛び散ったお相手さんの血液がやけに綺麗に見えたなって。まるでガーネットというか、ルビーみたいにキラキラ輝いていて。
何人かの血とかが入り混じって飛び散って。他のパーツも入り混じって。キラキラ、キラキラ。ステンドグラスのよう。
昔どこかの古い教会にお邪魔した時に見たステンドグラスにそっくり。私から流れ出す血液とは大違い。私の血液は暗く濁っているから。
自分の身体を傷つけて流れる血液も。勝手に流れ出す血液も。全然違って。やっぱり、身体の表面の血液と、奥深いところを流れる血液って、見た目からして違うのかなって。いや、知識としては知っているけれど。知識として知っているのと見るのは大違いというか。まあ、別にどうだっていいんだけど。
ふと。こちらに頭を預けて、すやすや眠る咲ちゃんの頭を撫でてあげようか、とも思ったけれど。
やっぱり思い直して、咲ちゃんの手を握りしめる。そっと持ち上げ。手の甲に軽くキスをする。接吻を落とすだけにしておく。私だけの王子様。白馬に乗った王子様。私の為の救世主。私だけの、カリスマ。
「大好きだよ」
そんな言葉は飲みこんで。ありがとね。聞こえるか聞こえないかの声で囁いておく。
そういや、アイス奢ってもらう約束、まだ果たしてもらってないな、とふと思い出した。
でも、まあ。いいか。そう思って苦笑する。ここは私が奢ってあげよう。お姉さんの奢りだぞ、なんて。そんなことを考えて。
ちょうどやってきた車内販売の人に、ハーゲンダッツのバニラアイスを二つ、注文する。一つは自分のテーブルに置き、もう一つは咲ちゃんのテーブルへ。
駄目もとで、お汁粉の缶を取り扱ってないか聞いてみた。まあ、無いだろうとは思っていたけれど、最近取り扱いを始めたらしい。ツイてるななんて思いながら、二人分を買う。幸福の証。私たちの幸福の証。
いつぞやのように、頬に押し付けてあげようかと思ったけれど。やっぱりやめた。咲ちゃんが、あまりに気持ちよさそうに寝てるから。
だからそっと起こさないようにテーブルの上にお汁粉の缶を置いて。バニラアイスと並べる。私と咲ちゃんのように。
顔にかかっている髪をそっと払ってあげて。何気なく窓の外を見る。
「まもなく、東京。東京」
そんなアナウンスが聞こえてくる。ああ、楽しみだなあ、なんて。窓に反射する私も、にっこりと満面の笑顔で笑っていた。