本作ヒロイン。
身長156cm 体重48kg
誕生日は4/24
スリーサイズは上から87/58/85
文学部に所属。
濡れ羽根色の瑞々しい黒髪をもつ美少女。
好きな教科は国語、苦手な教科は物理。
好きな花は桜。
辛いもの、怖いものが苦手。
食器を拭く心地よい唯の鼻歌が響く居間。
今日の夕飯
『今日も作る』なんて言い出したときは、雛森と二人で引き止めたのだが、全く折れる気配のない唯に先にこちらが白旗を振ってしまったのだ。
もう店でも開けそうなほど、どれも絶品だったからよかったはよかったのだが。
「ったく、体調悪いときくらいは俺に任せればいいのに。」
「本当ですよね。あ、そうそう先輩、結局ケーキどうすんの?」
「あ、そういえば・・・・」
「はーい、私もデザートに何か食べたいでーす♪」
「はぁ?もう飯は済んだんだからさっさと帰れ。うちに居座られてちゃ迷惑だ。」
手をヒラヒラと追い払うような仕草で促す。
「ここ先輩のじゃなくて、私の家なんですけど!!」
「んなことどうでもいいんだよ!ケーキくらい自分で買ったらどうなんだよ、雛森。」
「苗字で呼ばないでよ!」
「うるせぇ、お前なんか雛森で十分だ。」
「お前なんかって何よ!ちゃんと名前で呼びなさいよ、昔みたいに『真由ちゃん』って。」
「嫌だね!てかとっとと買いに行け、そして帰れ。」
「うわぁそんなこと言います?昔はご飯も一緒に食べてたのに。」
「昔と言わず毎日食ってるじゃねぇか!大体いつになったら『たかり』やめるんだよ。」
「それ、唯にも同じこと言えるわけ?」
「い、今、唯は関係ないだろ!」
「うわぁそうやって逃げるんだ。」
「チッ!いいんだよ唯は。家族同然なんだし。」
「はぁ?私たち従兄妹だよね?血繋がってる親族にはそういうこと言うんだ。」
「はン!誰がお前みたいな
「あ、あのぉ・・・」
「「あん?」」
「お茶いれたから落ち着こうよぉ。」
「「うるさい!!」」
「真似すんな。」
「そっちこそ。」
紅家恒例、終わることのない不毛な争いが始まった。
「買え。」
「やだ。」
「行け。」
「やだ。」
「買え。」
「やだ。」
「行け。」
「やだ。」
「行って。」
「ダルい。」
「もう!こんなことしてる間にも閉店時間近づいてるのよ!」
「だったら尚更お前が行けよ、面倒くさい!」
「私だって面倒くさい!」
「あ、あのぉ、二人とも──私、別にケーキを食べるのが目的じゃないんだけど・・・」
この台詞は俺たちの反応を二分した。
「は?」
このあからさまな驚き顔とすっとんきょうな声をあげているのは俺。
で、
「ははーん、いやぁ唯、乙女だねぇ。わかるよ、わかる。うんうん。」
などと一人でしきりに頷いていた。
「いや、お前を除くほとんどの女子は乙女だと思うぞ。」
「私が女じゃないって言いたいんですか!」
「違うのかよ。」
見た目は確かに女の子だが、中身は変態で残念なオッサンだ。こんなのが女の子だとは俺は認めたくない。
こいつが天学五本の指に入る美少女なんて言うんだから、
「失礼ですね、そんなんだからいつまで経っても
「ど、泥人形!?」
突然訳のわかないことを言われた。
「そうですよ、唯の本心まで読めてないくせに。」
「本心だあ?」
言われて真面目に考える。
あ、もしかして唯の奴、本当は───
「あ、本当はケーキ嫌いとか。」
「違う!!!先輩、なんにもわかってない!!!」
「じゃあ何だっていうんだよ!」
「・・・・本当わからないの?じゃ、特別に───」
「わわわ、真由ちゃん言っちゃダメ!!」
と、なぜか必死そうな───てか必死な唯。
「どうせ言ったってわかんないって。」
手をヒラヒラさせながら言う雛森はその意味がわかってるらしい。
「け、ケーキ買うのに私のこと関係ないじゃん!」
と、こちらも尤もな反論。だが───
「まぁ、そこはあれ。そっちの方が面白いじゃん。」
雛森真由に理屈は通じない。面白いイタズラを思い付いた、みたいな顔でこうのたまった。
「理不尽!!」
唯の叫びは残念ながら届かない。
「でね、先輩唯の目的ってのはね──あれ、私たち何の話してたんだっけ?」
・・・・・3歩歩くと忘れるタイプ。頭まで残念なのかよコイツ。
「ケーキどっちが買うかの話だよ。」
「うーん、思ったんだけど、どうして『唯が買ってくる』って選択肢はないのかな?──じゃない、ないんですか?」
「体調悪いって言ってるだろ。」
「本人はそうは言ってないけど。」
「む、そこはほら・・・・・女の子出歩かせちゃ危ないだろ。」
「だーかーらー私、一応女子なんだけど!」
「お前なら襲われても平気だろ。」
「と、通り魔に遭ったらどうすんのよ!」
「いや、お前は百回殺しても死なないね。軽く一捻りして返り討ちにするんだろ、どうせ。」
「こ、怖いものは怖いの!」
「お前が怖がるようなタマかよ。いいから行ってこいよ。」
「嫌だ。」
ぎゃーぎゃー言い合いを続ける俺たち。全く終わる気配がない、どころか話があっち行ったりこっち行ったりで本題が進んでない。
と、扉を開く音がした。
この時間──午後八時近い時間──に来る人物は一人しかいない。
「邪魔するぞ。・・・今日は随分賑やかじゃねぇか、龍牙。」
神代悠。
唯の兄であり、俺の剣の
雰囲気いいお兄さんって言うか、顔もいいのでモテる部類には入るだろうルックス。
実際、かなりモテてたらしく小、中、高とファンクラブがあったとかまことしやかに語られている。
「あ、悠さ~ん、先輩ったら酷いんですよ、私が女の子じゃないとか言うんです。どう思います?」
援軍にするべく、悠兄の洗脳を始める雛森。
「・・・・・真由って女だったのか。」
「天誅!!」
キレのある右ストレート。とても女が放ったとは思えない一撃は悠兄の頬に
「なんか理不尽!!」
いや、どう見てもアンタが悪いだろ悠
「悠兄、今日は随分遅かったじゃないか。」
「あぁ、道場掃除してたらあっと言う間にこんな時間さ。てか、お前稽古サボったろ!」
「先約があったんだよ、いいだろ一日くらい。」
「先約?ははーん、これか。」
ニヤニヤしながら小指を立てて訊ねてくる。
「あのなぁ、俺にできると思ってんのかよ。
・・・ん?なんか一人ものすごくシュンとしてるんだが。
「わかってねぇなぁ。」
「唯、道は険しそうだね。」
気落ちする唯を慰める二人。てか待て、なんだって唯は落ち込んでるんだよ。
「あ、そうそう。龍牙、夕方俺に電話したろ。何かあったのか?」
「あぁ、それが─────」
俺は悠兄に今朝の約束のことと放課後のことを話した。
「何!大丈夫なのか唯!!」
「も、もう平気だよ兄さん。ち、近い・・・」
「本当か、本当にどうもないのか?」
「さっき俺らも何回も聞いたけど、平気なんだとさ。だーかーらー・・・」
ガシッと悠兄の肩を掴んで
「どさくさに紛れて視姦すんな、離れろ変態2号!」
無理矢理引き離す。胸のところで『女の子らしくなったな』など呟く変態。いい加減、唯が引きつつあるのに気づくべきだとも思う。
「は、離せ龍牙!てかなんだ、変態2号って!!」
「あ、そうか。年代的に言ったら悠兄が1号か。」
「ちょ、ちょっと先輩、2号って私じゃないよね?」
「もちろん────」
「よかった。」
「お前のことに決まってるだろ、2号!自覚なしとかどんだけだよ!」
「ヒドッ!」
胸揉んで、尻触ってて『変態』じゃない国を教えてほしいくらいのものである。
「ん?ちょっと待って龍牙。兄さんが変態って?」
怪訝そうな顔で訊ねてくる。
「あぁ、コイツ──」
俺に『やめろ』と視線で訴えてくるが、そんなの──聞いてやるわけないじゃないか。
「──お前のこと盗撮してたんだよ」
唯の顔から血の気が引き、悠兄から若干離れた。
「あぁ!!普通言うかお前!!!!違う、そのつい出来心というか、そ、そう!お前の写真を一枚でもほしくて。あ、アルバム作りたかっただけなんだよ。」
「嘘つけ!アルバム作るためだけで毎日、
「だぁ!!そこまでバラすか?お前鬼か、悪魔か!」
泣きそうな顔で胸ぐらをつかんでくる。
「うるせぇ、盗撮魔!自業自得じゃねぇか!」
「口止め料も払ったろ!」
「え?龍牙?」
唯の俺に向ける目が明らかに冷たくなっていく。
「ご、誤解だ唯。おいコラ、俺は受け取ってねぇだろうが!」
「ねぇ、ケーキは?」
「黙ってろ2号!」
「ちょっと2号って何よ!」
「りゅ、龍牙はどうしてその・・・兄さんが盗撮魔だって知ってるの?」
「・・・・それはだな・・・」
────できれば答えたくない。
唯は納得してくれるだろうが、猜疑心は拭えないだろう。
しぶる俺の顔を見、悠兄がとんでもなく悪い笑みを浮かべる。
「あぁ、コイツも共犯だからだよ。」
「てめぇ!!なに人に罪擦り付けてんだ!」
「え、龍・・・牙・・・」
「うわぁ先輩、へんた~い」
「変態龍牙」
コイツらぁ・・・。
「変態、龍牙!変態、龍牙!変態、龍牙!」
「へんたい、龍牙!へんたい、龍牙!へんたい、龍牙!」
「変態、龍牙・・・・ん?変態、龍牙・・・略してヘンガだ!ヘンガ!ヘンガ!ヘンガ!ヘンガく~ん」
「ヘンガくん、ヘンガくん、ケーキ買わないヘンガ!」
「人を絵本に出てくる豚みたいに呼ぶな!それと雛森、ケーキ買わないのは関係ないだろ!」
「絵本に出てくる豚・・・それってフン──」
「いや、それ言っちゃダメだから唯!」
さすがに
「したんだろぉ、白状しろよぉ。」
こちらは酔っ払いのごとく絡んでくる。
精神的ダメージは俺の予想よりも甚大だったらしい。
「俺はしてない!絶対してないからな!」
「犯人は決まってそう言うんだ。」
「どうなの、龍牙?」
「くっ!だ、大体、俺が唯を盗撮したとしてなんのメリットがあるんだよ!」
「ある。まぁ先輩だって男な訳だし、その・・・夜のオカズに──」
「するかボケ!!と、とにかくしてないからな!」
「ふん、そういうことにしといてやろう!」
「実行犯がなんで偉そうなんだよ!」
「ねぇ先輩ケーキは?」
そしてなんで蒸し返すんだよ
「はぁ、もう俺が買ってくるよ。その間に唯、風呂入っとけよ。」
一度終息に向かっていた頭の悪い会話は俺の発言で息を吹き返すことになる。
「え!?りゅ、龍牙!?わ、私たちまだそんな関係じゃっ!」
顔を異常なまでに真っ赤にして、あたふたとし始める。
「はぁ?風呂借りるのに関係とか意味あんのかよ。」
「うわぁ、ドン引きです先輩。年頃の男女が
ジト目を向ける雛森。
ここで俺もようやく先の失言の意味がわかった。
「ばっ、バカかお前!唯相手にそんなことできるか!」
「いやしますね。お風呂上がりの女の子の匂いにやられて先輩なんかコロッとケダモノに変わりますよ。特に唯なんかシャンプーとかそんなのの匂いが堪らなくいいんだから!そうじゃなくても普段からいい匂いさせまくってるのに。」
つまり唯は匂いだけで男を虜にさせられると言うことだろうか。
「い、いい匂いなのは認めるけどそんなんで理性失うか!」
全力で否定する。
いくら
確かに並んで歩くと濡れ羽色の髪からとてつもなくいい匂いがするのは事実だ。風が吹こうものなら街を歩く男共全員その香りのもとを探すくらいだ。
ってちょっと待て、俺は今
「男は皆そう言うんですよ、ムッツリ先輩。」
雛森が考え込もうとする俺を
・・・・ん?
「誰がムッツリだ!」
いくら従兄妹と言えど、言っていいこと悪いことがある。
「先輩のことに決まってるでしょ!言っときますけど、唯たんは誰にも渡さないんだから!」
・・・ついに『たん』づけしやがったよ。
ここは無視だ、無視に限る。
「こほん、で、唯どうする。俺としては今日のお詫びのつもりなんだけど・・・くつろいでいってもらいたいっていうか」
「そ、そうだよね!あ、でも・・・」
急にモジモジしだす。
「あぁ着替えか・・・うーん、雛森、お前貸してやれ。向かいなんだからすぐ取りに行けるだろ?」
「せんぱ~い。巨乳なんだし私のじゃサイズ合わないと思いまーす。」
「は、巨乳?・・・・悪いが雛森──」
彼女の胸元を一瞬見て、なるだけ遠回しになるように言う。
「──お前はこうなんつっうか・・・普通だよな、うん。」
「へ?私のことじゃないよ。Cの65じゃ巨乳なんて言わないでしょ。」
なんか
「はぁ?じゃ、一体誰のこと言ってんだよ?言っとくけど俺たちは性別的にその体組織はできないからな。巨乳なんて呼びうるのは──」
そう言いつつ改めて居間を見渡す。
ここにいるのは、俺と悠兄、雛森、唯の四人。そのうち女子が二人でCカップ雛森と──
「唯?けどどっからどう見ても────」
モデルでもやってそうなほど抜群なプロポーションだが、全体的な肉付きは少ないように思える。
「こう、フラットっていうか、雛森より小さく見えるっていうか───あぁ!こんなこと言うべきじゃねぇってのに!」
これで俺も不本意ながら変態呼ばわりされても仕方なくなってしまった。
「ふ、フラット・・・よ、よしっ!」
「ゆ、唯がフラット!?アハ、アハハ、ハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ」
突然狂ったように笑い出す雛森。なんかこうラリってるみたいな笑い方で不気味なことこの上ない。
「ククク、よかったなぁ唯。愛しの龍牙は盛大に勘違いしてるぞ。」
「い、愛しくなんてないもん! 」
目まぐるしく表情を変える唯。・・・・・・今の何気に傷つくんだが。
「勘違いしてる先輩にビッグニュース!!唯のスリーサイズはですねぇ────」
「わわわわわ、真由ちゃん、い、今はダメ。に、兄さんも龍牙もいるし!」
「もう、ダメでちゅよ唯たん。そんなけしからんものを持ってるくせに隠すなんて・・・・おっほん、上から87、58、85なのでーす!!」
「・・・・・・。数字で言われてもよくわからないんだが・・・って87!?」
『聖天照学園変態同盟』なるものがうちの平均偏差78の学校には存在していて、非公式かつ目測で女子生徒のスリーサイズを計測し、『聖天照学園・美少女(裏)プロフィール帳』なるものを発行している。
入学式の一週間後の全校集会の後、男子生徒の鞄に何故か入ってるもはや都市伝説級の代物なのだが、どういうわけかデータの信用度は割りと高いらしい。
一説には保健室の金庫に入ってある女子生徒の計測結果とも合致しているらしい。
その『聖天照学園・美少女(裏)プロフィール帳』(変態同盟調べ)によれば唯のは76、57、82だったような・・・
「わ、わぁ!?ま、真由ちゃん何てことするのよ!」
「まだまだ驚くのはここからです!なんと!あ、なんとですねぇ!いやはや、これがまたスゴいんですよ!」
「えぇーい!!さっさと言うんだ、真由!!」
シスコンは大興奮している。・・・・どうして俺の周りはこう、残念なのだろう。
「なんと、Fの65なのでございますよぉ!!」
「!?」
こういう時こそ聞いてないフリ、知らないフリ。
心を殺せ。・・・・動揺を悟られるな。
顔が真っ赤?なに気のせいだ。
「さらにスゴいのが去年から実に15センチの成長ということ!!たった一年でたいしたもん───ふ、ふぐぅ!?」
雛森は止まらなかった。最早暴走機関車と化した2号は───
「ま、真由ちゃん!!どうしてそんなことするの!!」
───怒った唯によって口を塞がれるという
そして唯は・・・・生命活動すら止めそうな気迫で2号を黙らせた後、
「りゅ、龍牙。わ、私そんなにないからね、絶対ないんだから!」
と泣き目で弁明。
「ぷはっ、し、死ぬかと思った。あれぇ先輩、気にならないんですかぁ?」
「は、はン、き、気になんかなるもんか。ほ、本人も違うって言ってるんだから、お前の勘違いだよ。」
「顔真っ赤なのにぃ?」
くっ!こいつ本当に性格悪い。
──────と、
「あ、いいこと思いついた!」
「へ?真由ちゃ・・・きゃーー!!」
何を思ったか唯に跨がり、カーディガンやら、シャツの上のスクールベストやらを脱がしにかかった。
「ばっ────────!?」
・・・・思わず目を逸らす。
「や、やめて!!」
「もう、少しはおとなしくしてよ。脱がしにくいじゃん!」
・・・・いや、脱がす必要性を全く感じない。
「先輩、先輩!こっち見て!!唯も立って!!」
「見るか!!下着姿にでもしてるんだろ!」
「してないですって!とにかくこっち見て!!」
で、仕方なく唯と雛森の方を見る。
そこには電光石火の早業でブラウス姿に変えられた唯が立っていた。後ろには雛森がこの上なく下衆い笑みと荒い鼻息をしながら立っている。
そして────
「とりゃ!!」
「ひゃっ!?」
突然唯の腹辺り───正確には胸の膨らみがある少し下辺り───緩めのラインのブラウスの余った部分を引き締めた。
「先輩は信用してないけど・・・・ほら、こーんなに大きいんですよぉ。」
今まで重ね着やらしてて分かりにくかった膨らみが顕となった。
「冬だからって油断したわね唯。夏は着痩せ効果つきのブラまでつけて誤魔化してた癖に!・・・って先輩?」
雛森の手を唯から剥がし、唯を庇うように前に出る。
「・・・・もういいだろ。唯もそれ着て。」
「う、うん。」
「着替えのことは理恵さんに任せとくから安心して入ってくれ。・・・・その、悪かったな。」
「りゅ、龍牙は悪くないよ。」
「いや、そもそも『風呂入れ』なんて言わなきゃこんなことにはならなかったんだし。覗きそうな変態1号と2号は理恵さんに監視させとくから。」
「雛森、お前もこれ以上は怒るからな。」
「ご、ごめんなさい。」
「わかったんならいいさ、じゃ行ってくる。」
変な空気になったが、俺がケーキを買ってくればそれもなかったことになるだろう。一刻も早く戻らねば。
外に出てスーっと息を吸い込む。
冬空の澄んだ空気は冷えきっていて先程の熱も冷ましてくれるようだった。
ー☆ー☆ー☆ー
「ごめんね、唯。」
おかしなテンションで暴走した彼女は、今度は誠意を持って謝った。
「う、ううん。もう気にしてないよ。」
そう返すのが精一杯だった。
───彼の顔・・・
『悪かったな。』そう私に謝る龍牙の顔が頭から離れない。
原因になったのは彼の厚意からの発言だったが、それを受けて暴走したのは真由ちゃんだし、兄さんだ。なのに何故・・・彼はあんなにも自分を責めているような顔をしていたのだろうか。
「そう言えば先輩、悠さんが盗撮した写真の内容知ってたんだろ?」
「え?」
確かに変だ。あの時は兄さんが盗撮してたことが問題となってうやむやになっていたが、今考えると龍牙がその写真を知っているのは不可思議だった。
答えは二つ───────
つまり、『本当は龍牙も盗撮に協力していた』か『その写真を意図して見たか』
「──────────っ」
「あぁ唯、怖がってるとこ悪いが答えはそのどっちでもないよ。」
「へ?」
まるで私が考えていることがわかっているかのように兄さんはキッパリと否定した。
「えぇー!悠さん、考えられるのは共犯かオカズにしてたかのどっちかでしょ?」
真由ちゃんも同じことを思ったらしい。
「と思うだろ?実はさ────」
兄さんはことの顛末を話してくれた。
「・・・・。」
・・・言葉がでない。
真由ちゃんも私も唖然として兄さんの話を聞いていた。
兄さんによると、偶然、私の写真────しかも着替えしてるとことかお風呂のときとかの写真───をプリントアウトしていたところに私室に訪ねてきた龍牙に写真を見られてしまった。兄さんは私に黙っとくように頼み込んだのだが、龍牙は問答無用で写真をひったくり、パソコンを破壊し、カメラを壊した。それに加えて写真を全て出すように脅して、できたばかりの写真含めて一瞥もすることなく兄さんの目の前で燃やした。
そう言われてみると、つい最近ものすごい物音が二階からしていたし、『焼き芋作ってる』なんて言って急に外で火を焚き始めてたし変と言えば変なことがあった。
「先輩チラッとも見なかったの?」
「言ったろ、『一瞥もくれなかった』って。ストイックだよな、本当に。・・・・って唯?」
「────────────」
やっぱり龍牙は龍牙だった。
『焼き芋作ってる』って言うのも答えるのを渋っていたのも、気恥ずかしさがそうさせたのなら納得だ。本当に龍牙らしい。
「はっはーん、唯の中でまた先輩の株が上がったんだ。」
「そ、そんなんじゃ!」
「くっ、くそ!俺は負けないぞ!どこぞの馬の骨なんかに唯を渡すか!」
「う、馬の骨じゃないもん!あ───」
「わ、渡される気なのか!唯っーーーーー」
盗撮魔──じゃない兄さんが詰め寄ってくる。なんと言うか怖い。
「ねぇ唯、ケーキ結局買いに行っちゃったけど良かったの?だってせっかく───」
───龍牙から誘ってくれたのに、か。
確かにそうだ。龍牙はわかってないと思うけど、あれはデートのお誘いだった。
だけど───
「ううん、いいの。私はまだ『切り札』があるから。」
「切り札?なんなの、それ?」
「内緒♪」
「えぇーケチィ、教えてよ。」
「やだよ、真由ちゃんすぐ喋っちゃうじゃん。」
「喋んないよ、喋んないから教えてぇ~」
「い~や♪」
切り札───不器用な彼が私に我儘を言わせてくれるためにくれた賞品。彼の思いも嬉しかったけれど、あの不器用さが可笑しくて彼らしくて・・・・
彼はきっと私の好きなイチゴのショートを買ってくるんだろう。そして
『何が好きなのかよくわからなかった』
なんて言うんだろう。
自分にはガトーショコラを買ってくるだろうから、コーヒー入れとかなきゃ。
去年の四月、彼から誕生日にもらったリチア輝石のペンダントを握りしめる。ペール・ピンクに近い、薄い紫みの赤い石。
『唯に似合いそうだから。・・・・その、たまたま見つけただけで下調べなんかしてないから。』
そう言ってプレゼントしてくれたのだが、きっと私の誕生石であるクンツァイトを探してくれたんだと思う。
そんなところも本当に───
・・・・私、神代唯は───
一つだけ年上で、背が高くて、目も髪も惚れ惚れするくらい真っ黒で、パッと見細いのに凄く逞しくて───
珈琲が好きで、黒いものが好きで、意外とロックなんか聞いてたりして、剣道と弓がものすごく上手で、甘いものが苦手で、英語が大の苦手で、虫とゾンビ映画が嫌いで───
口が悪くて、不器用で、頑張り屋さんで、そのくせ努力家ってバレるのをこの上なく嫌ってて───
そして打算抜きに優しくて・・・・
そんな幼馴染み、紅龍牙に
唯の鼻歌
某有名アーティストの某曲を歌っている。
内容は女の子の片想いについて歌われたガーリーかつポップな歌。
盗撮
犯罪。ダメ、絶対。
絵本に出てくる豚
『フンガくん』のことである。
聖天照学園・美少女(裏)プロフィール帳
概要については本文参照のこと。
これのトップページは唯が飾っている。
ちなみにこれのデータには唯のカップサイズはAかBとされている。
痩せ効果つきのブラ
某企業の某商品が元ネタ。
ちなみにブラとは女性の下着のことである。
一瞥
チラッと見ること。
『焼き芋作ってる』
龍牙の迷言。
写真を燃やしているところに現れた唯にした苦しい言い訳。
本文では触れていないが、その後悠に芋を買ってこさせ本当に焼き芋を作ったというエピソードがある....のだが、作者の独断により「そんなのオマケでもやらんでいいだろう。」ということで割愛。
リチア輝石
『クンツァイト』の和名。
石言葉『愛の予感』。見返りを求めない愛、無限の愛の象徴。燃えるような恋と言うより聖人が施す無償の愛に近い愛情を表す。
ペール・ピンク、ヴァイオレットピンク、ライラット・ピンクなど表現される多彩色の石。
4/24の誕生石である。
Skeleton in the closet
『身内しか知らない恥』という意味。