文字数の加減については近々アンケートを実施しますので、お待ちいただければと思います。
※感想欄への書き込みは遠慮(というかしないで)ください。
「なんなんだよっクソ!」
ついで、キーーーーンっという金切り音にも似た耳鳴り。煩わしいことこの上ない。
「うぐっ」
頭痛も耳鳴りも引くどころか一層激しさを増し襲ってくる。
よろよろと壁を伝いながら歩を進める。
一歩、また一歩。右、左、右。
「あぐぁ、ハァ、ハァ。」
ドクッ、ドクッと。心臓が脈打つ音が聞こえる。
頭痛はさらに酷くなり、キーンという耳鳴りも(普通はそんなことなど起こり得るはずがないのだが)次第に大きくなっていった。
視界が霞む────
そして─────
霧がかった世界が晴れたあと俺の
自分が
視界にあるのは何の変哲もない普通の道だ。
アスファルトで舗装され、白線のセンターラインがあるだけの普通の道路。
交差する点にあるカーブミラーにも人影らしいものも写ってない....はずだった。
「何だよ....これ──────っ!?」
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤
絵の具でもぶちまけたような赤。
日常を生きている者は見たことがないくらいのふざけた鮮紅がアスファルトの黒を、塀の白を、紅く染め上げていた。
『血の海』なんて言葉じゃ生ぬるい量の人間の血液。
───ここに一連の
眼前には男。
身長は一八〇センチ強はあろうかという長身で、粗野な印象の大男。荒めのオールバックの
いつか本で見た『アルビノ』という疾患の男。別名、先天性白皮症。
メラニンの欠乏や視力の低下を及ぼすハンデを持つ男は、かの吸血鬼のように血を啜り、人狼のように人肉を喰らっていた。
───私が手掛けたこの
彼らは普通を装った異常者か。
もしくは人の皮を被った異常者か。
彼がどちらに属しているか、最早言うまでもあるまい。
そして
逃げろ!
逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!ニゲロ!!ニゲロ!!ニゲロ!!
本能がそれを命じるが体は動かない。
見るな!
見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!ミルナ!!ミルナ!!ミルナ
見れば─────
視界に写ったものから目が離れない。
「うっ......げぇ....」
腸がよじれるような苦痛に膝を着く。そして、非日常への拒絶反応のままに──腹の中が空っぽになるまで吐き続けた。
無惨な死体。人間の原型すらとどめられぬレベルにまでグチャグチャに食い荒らされた遺体は男か女かももう判別がつかない。
カツ、カツと。
死神の足音が近づいてくる。
「よう、ショックで立てねぇとこ悪りぃんだがよぉ────
「ガハッ!?」
───今頭はついてるか?
俺は今ので死んだんじゃないか、そう思わせるほどの一撃が頭蓋めがけて繰り出された。
側頭部に喰らった蹴りの勢いで、軽々吹き飛ばされる。
その威力のままに俺の躯は塀に叩きつけられた。
肺の中の空気を全部吐き出してしまったような感覚に陥る。
「ん?待てよ、お前
「?」
そう言って男は俺の右手に握られている
「クハハハハハハ、ハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
高らかに笑い出した。
「そうかそうか、ククク。俺もドジ踏んだぜ、お前が『13番目』ってことかい。」
「13番目・・・・だと?」
「オイオイ、この期に及んでばっくれんなや。ま、───────」
そうして俺の吐瀉物を見て、
「ゲロッたってことは
「....知らない、誰だお前。」
「答えになってねぇなぁ、おい。俺は気が長ぇ方じゃねぇんだよ。さっさと答えてくれよぉ、お前の鍵はどこだ?」
鍵だって?俺ん家の鍵を探してるってやけじゃなさそうだが─────どちらにせよ、このイカれ野郎に渡すわけにはいかない。
「わからない....」
「あぁ!!もう面倒くせぇ、そこまでやって欲しいんなら─────」
「ぐっ...あがぁ...げぇ」
俺の腹に重たい一撃が叩き込まれ、優に4、5メーターは吹き飛ばされた。
でたらめだ。今ので内蔵がいくらかもってかれたはずだ。
衝撃は全身を駆け抜け、堪らず血反吐を吐いた。
「────直接体に聞いてやんよぉ。おい、死ぬ前に答えた方が身のためだぜ?」
「ぐぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
倒れた体に足をかける。ただ踏んでいるだけ。ただそれだけのはずなのに──────
「どうした?さっさと答えねぇと肩がイカれちまうぜ?」
「ふ....ざけろ.....知らねぇって言ってんだろ....さっさと放せよ白髪野郎!!」
こんな訳のわからないことで殺されてたまるか。
「探し物なら....交番にでも、行ってきやがれこの人殺し!」
「ほう、劣等が。デケェ口叩きやがるじゃねぇかよ。気に食わねぇ、殺されてぇのかよテメェ!!!」
「っ!?──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
奴の足が俺の肩を踏み砕いた。俺の腕であったものが、俺の命令を受け付けない。
「答えろよ、お前のっ、鍵はっ、どこだっ!!」
「ぐぁ...あぐっ....ごほっ」
ボロ雑巾のように腹を何度も踏みたくった挙げ句俺の胸ぐらをひっ掴み、片手でぶん投げた。
今度は30メーター程離れた街路樹に叩きつけられた。
俺が細身なのを差し引いても、人間をボールを投げる要領でぶん投げるなんてイカれてるとしか思えない。
開けるのも辛い瞼を意志の力でこじ開けて前にいるであろう敵を探した。どこだ、どこにいる。これ以上攻撃を喰らえば死ぬ。必死に目を凝らして白髪の男を探す。
居た!
動くなよ、白髪野郎。今立ち上がってお前を────
「!?」
眼前の狼然とした男は不吉な笑みを浮かべたあと忽然と消え失せた。
──消えた.....だと!?
喰らう。
そのために殺す。
原始的だが、もっとも純粋で分かりやすい殺意。
その殺意に本能が反応し、眼前の獣を認識した。
落ち着け。消えたんじゃない。視覚が認識するのにタイムラグが生じただけ。
すなわち、奴が弾丸のごとく走っただけだ。
「かはっ!?」
自分の状況が全くわからないまま遥か彼方へ吹き飛ばされる。
視界は地から空、空から地へとぐるぐると回転し、背中から大地へと叩きつけられた。
「あぐぅぁ....」
今まで感じたこともない激痛に思わず声を漏らす。
受け身を取る暇などなかった。アスファルトにもろに打ち付けられた体が動くことを拒絶する。
動け!動け動け動け動け動け動け動け!!
だが───
「ごふっ───」
もはやただの
蹴られた俺の躯は今度は壁へと叩きつけられた。外敵の侵入を、
白く塗られたコンクリートの壁が俺の血液の色に染まる。
───何かが
だがそれを何とは俺の回らない頭じゃわからなかった。
対峙している獣同然の男か。
いや、こいつなんかよりも明らかな異常。
今はそれだけしか言えない。
「──────っ!?」
───今はんなこと考えてんな!!
疾走する狼に意識を向ける。
だが、捉えきれていても躯が言うことを聞かない。
眼前の男は常人じゃない、そう認識させるには十分な連撃が叩き込まれる。
何発かは躱したが、空振りした腕は容易く街灯を破壊した。それも削ったというレベルでなく叩き折ったというレベルでの破壊だった。
遠くに飛ばされた柱は、どこかの屋根に突き刺さり、凄まじい轟音が響き渡る。
───あり得ない!こんなの人間じゃない!!
間違いなく対峙している男は人間じゃない。でなきゃ
「オイオイ、死んじまうぞオイ!!オラァ!!!」
左の拳が俺の胸を穿とうと放たれる。霞む程度でしか視認できない拳打は吸い込まれるように直撃した。
「ガハッ」
嫌な音がした。恐らく何本かは肋を持っていかれただろう。息を吸うのも吐くのも痛いから間違いないはずだ。
口の中に広がる鉄の味。競り上がってくる血液。内蔵もやられているかもしれない。
右、左と放たれた拳を躱したが、腹に打ち上げるような一撃を喰らって躯が浮き上がる。そのまま高く天へと打ち上げられ、奴との距離が離れる。
チャンスは今。意表を突けばまだ勝機はある。浮いた躯をどうにか着地させ反撃に────
「遅せぇ!!!」
瞬く間に何十発と打ち込まれる。普通の人間の骨格、筋力じゃできない芸当だ。
「ぐっ、あがぁ、がはっ」
倒れそうになる躯を踏ん張って耐える。
「ハァ...ハァ........ハァ...ハァ...」
「チッ。つまんねぇなお前。お前、俺が
「あ?」
「お前らの常識じゃ計れないことを俺はできんだよ。そうだなぁ、例えば───」
口元をこの上なく不気味に歪ませる。
「──
「────────────っ!?」
「お前のとこ、今は三人も
───こいつずっと俺のことを見張ってたってのか。だが、どうやって?
獣は俺が抱いた問いに答えない。
そのままベラベラ喋り続ける。
「お前が
「....計算外だと?」
「あぁ、お前ももうわかってんだろ?この
「戦いの意味?」
「.....お前、まさか知らねぇのか?まぁいい、どうせお前がここで死ねば───」
黙れ。
「あの三人のどれかを────」
そのベラベラと五月蝿い口を閉じやがれ。
それ以上は言わせてはいけない。何の確証もないが、本能がそれを告げていた。
「死ぬまでいたぶって吐かせりゃいいんだからよ。」
「っ!!!!」
全身を一本の矢に変え、唸るような一撃を右足で繰り出す。
「隙作ってやってこの程度かよ。」
目の前のコイツは、不意を突いたはずの攻撃をなんなく受け止めていた。
「っ!?あがぁ!?」
豪快に片手の力だけで俺の躯をぶん回し、再びアスファルトへと叩きつけた。そして────
「いいからさっさと吐けよ!!!」
倒れた俺の顔面目掛けて無慈悲な拳が降り下ろされた。とっさに両腕を組んでガードしたが、その腕は両方とも折れてしまった。
「うぐっ.....あぁぁぁぁぁ!!」
「しぶとい野郎だなぁ。さっさと死ねよ、劣等。死ぬしか能がねぇ蛆虫どもがよ、何一丁前に喘いでやがんだよ。」
「....ふ...ざける...なよ」
「何だと?」
「死ぬしか能がねぇだと....俺たちは...お前らが虫けらみたいに殺すために生きてるんじゃねぇ!!」
ふざけてる。
馬鹿げている。
俺が....
「んな怒るなよ。まぁ、お説教はマリナだけでたくさんだからよぉ───早く死んでくれや。」
「・・・・てめぇ!!」
「いい目ぇすんじゃねぇかよぉ、オイ!!いいぜ虫けら、三分だけ待ってやるよ。その間に歌でもお祈りでも好きなだけやってお前の力を見せてみろよ!武器でも呪いでも鉄炮でもなんでもいいからよぉ。」
待ってろよ、イカれ野郎。
お前はすぐにぶっ飛ばす。唯を狙ったことを地獄で後悔させてやる。
ピクリとも動かない腕。恐らく脱臼した
こんな腕一生使えなくなったって構わねぇから今だけでも動け!!
そう叱咤しながら抜けた肩を無理矢理はめる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
意識がぶっ飛びそうな程の激痛が全身を駆け巡る。
耐えろ!
こんな痛み───
こんな痛みアイツが傷つくことを思えば痛かねぇだろうが!
ゴキュリと人間が立ててはならない音が聞こえた。
「ハァ....ハァ....ハァ....ハァ....ハァ」
はまった....。これで闘える────
「オォォ、オォォォ、オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
叫びは痛みからくるもんじゃない。敵に対する憎悪でもなんでもなく、ただ己に向けたもの。
俺の細胞の一つ一つを目覚めさせるが如く、己を鼓舞するが如く、眼前の敵に全力で吠える!!
「ハァァァァァァァ!!!!!」
気・拳・体ともに一致した全力の拳打。折れた拳で繰り出した後先全く考えない一撃は奴の顔面に直撃した。だが────
「ぁぁぁ、あぁぁぁぁぁあ!!」
砕けたのは俺の拳の方だった。まるでダイヤモンドでも殴り付けたのかのような衝撃が拳から無理矢理にはめ込んだ肩にまで伝わる。
こいつの躯は一体なんでできてやがる。さっきの筋力といいコイツ本当に──────
いや!こいつがどんな存在であれ人の形をしてるんだ、どこかに弱点があるはずだ。
そう自分を鼓舞し、ひたすらに人体の急所となり得る場所に折れて使い物にならない拳を痛みに耐えながら繰り出す。だが─────
「─────もう終わりか?」
「!?」
そう冷たくいい放った奴は俺の躯を優雅に宙に浮かべていた。
「あ...がぁ...」
無様に数十メートルも吹き飛び、血まみれのアスファルトが迫る。
「ぐ...おぉぉぉ!!」
無理矢理に腱を、筋を、筋肉を動かす。激痛に強ばる肉体はその無理難題にさらなる激痛で応えてくれた。
耐えろ!
俺の死の後ろにあるものを思い出せ!
神代唯を殺させていいのか、紅龍牙!!
言うことを聞かない肉体にさらに重ねて命令する。
俺の死の、さらに背後の死を避けるため、動かない肉体を軋ませつつ動かす。
「ぐ...おぉぉぉ!!」
うち上がる肉体を舞わせて、無理矢理に着地する。
その間隙に繰り出される獣の
見てから反応しても間に合わない。
だったら───
───己の本能が叫ぶままに躱せ!!
「っ!」
どうにかして初撃を躱す。
───だが
「あ...ぐ..ぐぁ」
拳圧までは躱しきれない。
常人ならざる一撃がもたらした副次攻撃で俺の躯は切り刻まれた。
暴風のような拳圧が俺の胸を抉る。
なおも止まらない狼が放つ暴風雨。
右腕、左腕、右、左、右。
左脚、右足、肘、拳打。
右、左。右、左。
右、左、右、左、右、左、右、左、右、左。
止まらないどころか、
そして、顔面目掛けて左手が繰り出される。ギチギチと頭を割るように、五指が閉められていく。
「あ....がぁ....ぁぁ....ぁ」
そして、万力のような力で完全に頭をひっ掴んだかと思うと何の抵抗もできないまま地面へと叩きつけられた。
「オラよっ!!」
───脳天に重たい衝撃を感じた。
頭蓋を砕いて、
「ケッ、死んじまったか。あぁつまんねぇ。」
「.....ない。」
そうだ。
「お?」
「......ない、まだ..... 」
息も絶え絶え、肋は砕け、内臓は何個かダメになっている。
ボロボロで立ってられるのが信じられないくらいの満身創痍。
誰がどう見たって勝てない。
勝ち目などない。
んなことはわかってる!!!
だけど────────
「死ねない!俺はまだ死ねない!!」
よろよろと立ち上がって、吠える。
コイツを行かせれば唯が危ない。
刺し違えてでもコイツは倒す。
痛みがどうした!
限界がどうした!
そんなもの────────
───そんなもの
震える脚を無理矢理立たせて、歯をくいしばる。
まだだ。
立てる。動ける。
息も絶え絶え、肋は砕け、内臓は何個かダメになっている。
ボロボロで立ってられるのが信じられないくらいの満身創痍。
だが、一撃だけなら与えられないこともないはずだ!!
「オオォ!!まだ立つか、立てんのかお前!!!いいぜぇぇぇぇ、面白れぇ、最高だぜ!クハハ、ハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
眼前の獣が疾走する。そして俺の腹目掛けて拳が繰り出される。
───ブン!と一閃、派手に
「何!?───ゴフッ」
俺の飛び蹴りが奴の顔面にめり込んだ。予想外であろうカウンターをもろに喰らいそのまま派手に吹き飛んだ。
奴の視線が俺を捉えるより先に頭上に跳んで躱した。空振るのを待ってから蹴りを叩き込んだ。それを一息にやっただけ。
「ハァ...ハァ....ハァ....ハァ...」
いつもなら息が乱れるような攻撃じゃない。ボロボロの躯に鞭打ったせいもあったのか、予想以上の力が出たせいなのか躯が、呼吸が全くついてこない。
だが、
「いい動きじゃねぇかよ、オイ!!」
──嘘だろ!?
効いてない。それどころか哄笑すら浮かべている。
奴の躯がブレる。そして───
再びあり得ない速度の連撃が俺を襲おうと繰り出された。
右、左、エルボー、掌打、拳打、拳打、拳打、掌打、拳打。視認するのがやっとの速度で次々と放たれる。全てが俺を殺すために繰り出された純粋な殺意の結晶。
───その全てをどうにか俺は躱しきった。
人間、死の直前に世界がスローモーションに見える時があると言う。上がり続けた
ともかく、加速した脳と思考、減速する世界で、刹那に何十発と打ち込まれる攻撃全てを俺は視認できたのだ。
見えればどんな攻撃だって躱せる。いや、躱せないはずがない。
止めと言わんばかりに豪快に放たれた左ストレートを躱された時点で奴はすでに
化け物じみているというか本物の化け物にとってその
「何だと!?」
動揺してはいるが、奴は次の攻撃を繰り出そうと筋肉を軋ませている。
さっきまでの俺ならその刹那の隙をついて
だが────
「ハアァァァァァ!!!」
──まだだ、これを逃す手はない。
ようやく作り出した75分の1秒に全力をかける!
脳が焼ききれんばかりに、拳を、脚を閃かせる。
掌打、拳打、肘打ち。
右腕でやったことを再度左腕で放つ。
右膝、左足、顎を狙って右足。
「っ!」
折れた肋が肺やら内蔵やらに突き刺さった。そもそも肋が折れた状態であれだけ動こうというのが無茶だったのである。
痛みは全身に毒のように回り、折れた肋骨が、大量に肺へと突き刺さった。息を吸うだけで穴が空いたであろう肺に激痛が走る。
構うな!
止まるな!
この躯はいつ動かなくなったって構わない。だがあと一発、たった一発だけ打ち込む時間をくれ!
もう意志の力ではどうにかならないレベルの損傷をきたし、躯は動かす度に別の部位が壊れていく。
殴る度に砕けた骨が拳から突き出、内側から肉を裂く。
折れた両腕の骨は衝撃に耐えきれず砕けていくのがわかる。
無理矢理にはめた肩が歪な音を立て始め、激しい嘔吐感が俺を襲う。
「アアアァァァァァァ!!!!」
もう動かないはずの肉体を酷使し、倒せないはずの男に拳を振るい続ける。
そして────とどめ!!
鳩尾に右の拳を突きだし、渾身の一撃をもって吹き飛ばした。
倒せないかに思えた狼はようやく壁に打ち付けられ、ズルズルと力なく落ちた。
「ハァ....ハァ....ハァ....ハァ....ハァ」
───やったよな....
「何調子こいてんだよ、この劣等がぁぁぁぁ!!」
「マジかよ....」
あれだけ無茶苦茶に殴っても、眼前の化け物は立ち上がった。しかも、傷ひとつついてない。
砕けた拳からは骨が突き出ていたはずだ。殺したかもしれない────そんなレベルまで無茶苦茶に殴り続けたはずだ。
なのにどうして?
奴は倒れない?
傷ひとつ負ってない?
その疑問に敵が答えるはずもなく、奴は殺気だった目でこちらを睨んでいた。
「何劣等の猿の分際で
寒気がする。こんなの相手にしてたら本当に殺される。
「死ねよ、クソ餓鬼─────」
「っ!!」
ギリギリのところで左拳を躱す。
「ハァ....ハァ...ハァ...ハァ..」
「ちょこまかと....めんどいな...」
「なっ!?」
あれは俺が拾った腕輪と全く同じデザインだった。
色こそ違うものの、鍵穴が多いのも、趣味が悪そうなのも変わらない。
「どうして...」
あの激闘の中でも手放さなかった腕輪。
この悪趣味な腕輪はただのアクセサリーじゃないのか。
あの狼が持ってることを考えると、これは単なる腕輪じゃない。
────だとしたら、これは何だ?
その問いに答えるはずもなく、静かに奴は息を吐く。
「ハァァァァァ」
奴がゆっくりと息を吐くのに合わせて左手に何かが集まる。碧の燐光が腕部に集まり、何かを形取っていく。
それに伴って奴の雰囲気も変わっていく。
より獣らしく、禍々しく。
取り巻く空気をも変質させ、辛うじて人だと認識させていたオーラは何処かへと完全に消え去っていた。
──狼は叫ぶ。
其の名を。
存在し得ない爪牙の名を。
狼は微笑む。
腕に現れた自分の本来の『爪』を見て。
この展開はきっと────卿らを魅了しよう。────
「
『ドラクレイア!!』
刹那
ほんの僅かな時間。
時間にして1/75秒。
黄色い猿
イエローモンキー。黄色人種である日本人への差別用語。
ジャップ
日本人への差別用語。
上の語を含め、使うということは差別を助長するので日常会話において絶対に使わないように。
ドラクレイア
ラテン語で『竜の子、悪魔の子』を指す。
Upheaval
『激動』という意味。