GODDESS IN IRON 作:エニカスを解らせ隊
Chapter 1 ― 地上調査
人類が地下深くに築いた最後の居住地、アーク。
その地上には、かつて人類が築いた文明の残骸と、人類を地上から追いやった機械生命体──ラプチャーが徘徊していた。
そんな危険地帯に、一人の男が降り立とうとしていた。
「……さて。人類が何十年も近づけなかった場所か」
ダークブラウンの髪、スチールブルーの瞳、整えられた短い髭が特徴的な男のアダム・ロバートは、輸送機の窓から荒廃した地上を眺めていた。
彼は首元をキツく締めていたネクタイを忌々しげに緩め、高級な仕立てのダークグレーのスーツを着崩しながら。
「思っていたよりも景色がいいじゃないか。空気は最悪だが」
少しばかり、否。盛大に皮肉を込めて、瓦礫と廃墟が虚しい風に吹かれて音を立てる──閑散としているどころか草一本と生えていない荒野である。‘地上’を眺めてひとりごちる。
『マスター。地上の環境をアークの観光地のように評価するのはお控えください』
陰鬱と顔に書いている彼の、耳元の通信機から落ち着いた男性の声が響く。
「分かっている。冗談だよ、ALFRED」
『承知しております。マスターの冗談は、時折判断に困りますので』
まるでかつて栄えたという欧州が王国に在する様な老紳士の声音のそれはアダムが作り上げた独自設計のAIであり。彼にとって苦楽を共にしてきた相棒である、‘Advanced Logic Framework for Research, Engineering and Defense’ことALFREDである。
アダムは「研究・工学・防衛のための高度論理フレームワーク」としての名を彼に与えていた。
「それは褒め言葉として受け取っておこう」
『そのように解釈されるのであれば、訂正はいたしません』
「おい、そこは訂正しろALFRED」
容赦のない辛辣な評価を下す相棒にアダムは小さく笑った。彼はROBERTS INDUSTRIESの創設者にしてCEO。エネルギー工学から人工知能、ロボティクスに至るまで、数々の技術分野で成果を上げてきた天才技術者である。
今回の地上調査も、その好奇心と探究心から始まったものだった。地上の環境を知り、未来に備えるための布石の打ち方を学ばんと。
「ところでALFRED。周辺のラプチャー反応は?」
『現在のところ、輸送機周辺に大型個体は確認されていません。ただし、地上である以上、警戒を怠るべきではありません』
「分かっているさ。僕だって死にに来たわけじゃない」
『それは何よりです。会社の経営が滞りますので』
「僕の心配より会社の心配か?」
『両方です、マスター』
軽口の応報を流しながら、輸送機が着陸態勢に入る。やがて、機体は荒れ果てた地表へと降り立った。
耳に残る嫌なギチギチ音を鳴らしながら扉が開く。そしてアダムは一歩、地上へ踏み出した。
「……なるほど。これが地上か」
目の前には、崩壊した建造物と砂に埋もれた道路。遠くには、かつて人類が暮らしていた街の残骸が広がっていた。
「さて、始めようか。地下に篭ってる人類が忘れた世界の調査を」
『マスター。まずは周辺の安全確認を推奨します』
「分かっている。君は本当に心配性だな」
『マスターの行動を考慮すれば、当然の判断かと』
「……出発早々、手厳しいな」
こうして、アダム・ロバートの地上調査が始まった。
そして彼は、この地上で後に自身の人生を大きく変える人物と出会うことになる。なんてことも梅雨知らずに……