GODDESS IN IRON 作:エニカスを解らせ隊
地上。
かつて人類が築き上げた文明は、今やラプチャーによって蹂躙され、その大部分が廃墟と化していた。崩れ落ちた高層ビル。錆びついた道路標識。風に吹かれて転がる金属片。
そんな荒廃した街並みの中を、二人の男――片方は奇妙な物体だが――が歩いていた。
「いやあ、今日はずいぶん静かだね」
荒涼とした周囲を見渡しながら、アダムは思わず呟いた。
「静かなのは良いことだ! ラプチャーに見つかっていないということだからね!」
隣でその駆体を駆動するラプチリオンが、いつもの調子で答える。
「それはそうだけど、何も見つからないのも困るんだよな」
「贅沢な悩みだな!」
「研究者というのは、だいたい欲張りなんだよ」
アダムは苦笑したタイミングで、耳元の通信機から声が響く。
『マスター』
「どうした、ALFRED?」
『前方約120メートル。微弱なエネルギー反応を検出しました』
「エネルギー反応、ラプチャーじゃぁないのか?」
『ニケの動力系統に類似した反応です。ただし、出力は極めて低く、不安定な状態です』
その報告にアダムの表情が変わった。
「ニケか……。場所は?」
『前方の建造物内部です』
「行ってみよう」
「おっ、何か見つけたのか?」
そのやり取り気が付いたラプチリオンが割り込みながら尋ねる。
「前方の建物内部に反応の弱いニケが居るらしい」
「それは素晴らしい! ぜひ確認しよう!」
ラプチリオンは嬉しそうに声を上げた。二人は崩れかけた建物へと足を踏み入れる。
内部は薄暗く、天井の一部が崩落していた。床には古い弾薬ケースや破損した装備品が散乱している。かつて何らかの軍事施設として使用されていたか一時的な拠点として使われていた場所なのだろう。
アダムはALFREDの案内に従い、建物の奥へと進んでいった。そして、瓦礫の陰にそれはあった。
「……これは」
アダムは思わず足を止めた、清潔とは言えないボロボロの寝台に横たわっている――女性型のヒューマノイド――ニケだ。しかし、その姿はあまりにも痛々しい。
装甲は至るところで剥がれ落ち、片腕は肩から先が失われている。脚部のフレームも大きく損傷し、内部機構が露出していた。
胸部装甲には深い裂傷。頭部の一部も破損している。周囲には破壊された武器や無数の弾痕が残されていた。
「ひどいな……」
「ここでは相当激しい戦闘があったようだね」
普段なら陽気な声を弾ませるラプチリオンも空気を読んで、静かに彼女を見つめた。アダムは膝をつき、慎重に状態を確認する。
『対象はニケです。量産型モデルと推定されます』
「コアは?」
『深刻な損傷を受けています。現在も微弱な反応が残っていますが、停止寸前です』
「記憶データは?」
『損傷の可能性があります。詳細な解析が必要です』
アダムは彼女の顔を覗き込んだ。閉じられた瞳。埃と汚れに覆われた頬。
それでも、完全に機能を停止しているわけではなかった。
「まだ生きているんだな」
『活動を維持できる可能性は残されています』
「助けられるか?」
『現段階では判断できません。ただし、速やかな回収を推奨します』
「分かった。連れて帰ろう」
アダムは彼女の身体を慎重に背負いあげる。その重みは普段からある程度鍛えているアダムの肉体で漸く支えれるほどだ。
「大丈夫だ。安全な場所まで連れていくからな」
もちろん、返事はない。それでも、その言葉を口にせずにはいられなかった。
『マスター』
「分かってる。危険なのは承知しているよ」
『まだ何も申し上げておりませんが』
「その声は何か言いたそうだった」
『……さすがでございます』
そのやり取りにラプチリオンが吹き出した。
「ははは! ALFREDには敵わないな!」
「まったくだ……どうした、ALFRED?」
アダムも小さく笑うが、皮肉で即答するはずの彼が一瞬黙りこくる。そしてすぐにその答えが分かった。
『警告。複数の敵性反応を検出』
「……何?」
『ラプチャーです。ここに接近しています』
建物の外から、金属が地面を叩く音が聞こえてきた。一体。二体。さらに複数、どんどん増える。
「……どうやら、歓迎されていないらしいな」
「これはまずい、急いだ方がよさそうだ!」
ラプチリオンが周囲を見渡してアダムはそれに同意する。二人は出口へと向かった。
しかし、外に出た瞬間、彼らは状況の深刻さを理解することになる。
「……これは、ちょっと多すぎないか?」
周囲を取り囲むラプチャーの群れ。小型から中型まで、少なくとも十数体。さらに遠方には大型個体の姿も確認できた。
「むむっ! これは困った状況だな!」
「ラプチリオン、危険だ。いったん下がれ」
「分かっている! 私は戦闘には向いていないからな!」
当然だ。彼らは研究者であり、戦闘員ではない。アダムは大破したニケを抱えたまま、近くの崩れた壁の陰へ移動した。
『マスター。現在確認できる敵性反応は十八体。さらに後方から複数の反応が接近しています』
「十八体……だと?」
『現在の装備では突破は困難です。撤退を推奨します』
「分かってる。でも、この子を抱えてどうやって逃げる?」
ラプチリオンが瓦礫の隙間から外を覗いた。
「アダム! 右側の建物に通路があるぞ!」
「通路?」
「以前は地下駐車場への入口だったようだ! あそこを通れば正面の敵を避けられるかもしれない!」
「この暗い中でよく見つけたな」
「観察は私の得意分野だからな!」
二人はその方向へ移動しようとした。だが、その希望はすぐに打ち砕かれる。
大型ラプチャーが進路を塞ぐように移動してきたのだ。その巨体が瓦礫を踏み砕く。
「……まずいな」
ラプチリオンの声音から笑みが消えた。
「アダム。あれは危険だ」
「分かってる」
ラプチリオンは、アダムは背負ったニケを見た彼女を置いて逃げれば、自分たちは助かるかもしれない。
しかし、それは選択肢にならなかった。
「ALFRED。輸送機との通信は?」
『接続を試みていますが、周辺の通信環境が悪化しています』
「救援は呼べないか?」
『現時点では困難です』
「そうか……」
ラプチリオンがアダムの肩に駆体のマニュピレータを置いた。
「私に戦う力はない。だが、君とそのニケを置いて逃げるつもりもないぞ」
「ありがとう」
「礼は後でいい! 今は生き延びることを考えよう!」
大型ラプチャーが攻撃態勢に入り、甲高いチャージ音が聞こえてきた。ラプチャーは壁越しに隠れた彼らをもろ共吹き飛ばす気なのだろう。その意図を察したアダムは思わず身構えた。
チャージ音が途切れたその瞬間だった。
――銃声。
一発の銃弾が大型ラプチャーのコアを撃ち抜き、その雄々しい巨体が崩れ落ちる。
続けて二発目、三発目。遠方にいたラプチャーが次々と沈黙していく。
「……何だ?」
アダムが壁から周囲を覗くように確認すると、瓦礫の向こうから、一人の白い影が姿を現した。
白髪のニケ。重厚な装備に身を包み、巨大な銃器を携えている。
そこから彼女は無駄な動きを一切見せなかった。敵が接近すれば撃ち抜き、側面から迫れば即座に照準を切り替える。
大型ラプチャーが突進してくれば、真正面から迎え撃つ。
端的に言えば、圧倒的だった。それは戦闘というより、一方的な殲滅に近い。
数分後。
最後のラプチャーが地面に沈み、廃墟の街中に静寂が戻る。
「おお……! なんという戦闘能力だ!」
「すごいな……」
ラプチリオンが目を輝かせて、アダムは呆然と言葉を溢すしかできなかったが、命じられていないのにも関わらずALFREDはしっかりと仕事をこなしていた。
『対象の戦闘能力を解析中』
「どうだ?」
『解析不能。現在の保有データでは評価が困難です』
「そんなにか……」
状況の沈黙を確認した白髪のニケが銃を下ろし、こちらへ歩いてくる。
「……お前たちは何者だ?」
声は冷静だった。しかし、その目には明確な警戒心があった。
相手の問いに対してアダムはゆっくりと答える。
「僕はアダム。こっちはラプチリオン……安心してくれ、これはラプチャーじゃない」
「……人間か」
「ああ」
「なぜ地上にいる?」
「仕事だよ」
彼女の眉がわずかに動いた。
「仕事?」
「説明すると長くなる。それより、助けてくれてありがとう。君が来てくれなかったら危なかった」
彼女はアダムの背負っているニケへ視線を移す。
「そのニケは?」
「廃墟で見つけた。かなり損傷しているけど、まだ助かる可能性がある」
「……なぜ助ける?」
アダムは少し考えたが、素直に言葉を選ばずに答えた。
「まだ生きているからだよ」
その返答に一瞬面食らいながら彼女は黙った。
そのとき、ラプチリオンが一歩前へ出る。
「君の戦闘能力は実に素晴らしい! あのラプチャーたちをあれほど短時間で殲滅するとは!」
「……何者だ、お前は」
「私はラプチリオン! ラプチャーの研究をしている!」
「ラプチャーの研究?」
「そうだ! 彼らには非常に興味深い生態があってだな!」
「待てラプチリオン。それ以上は話が進まなくなるから一旦黙ろうか」
アダムは苦笑しながらラプチリオンを諫めて落ち着きを取り戻させる。そのやり取りに毒気を抜かれたかのように、――あるいは警戒するのも馬鹿らしくなったか――白髪のニケは呟く。
「……変わった人間たちだな」
「まあ、彼はいつもこんな感じなんだ」
アダムに若干の人付き合いは考えろ的な視線をぶつけながら白髪のニケは銃を背負い直した。
「私はスノーホワイトだ」
「スノーホワイト……。ピルグリムか」
「よく知っているな」
「一応、社長をやってれば名前くらいは聞くよ」
彼女はそれ以上、自分のことを語ろうとはしなかったしアダムが自身を知っていることについて深く追求する気はないようだった。
同じく、アダムも深く追及しない。
ピルグリムという存在がアークと一定の距離を置いていることは知っていたし、彼女が人間を簡単に信用するような人物ではないことも察していた。
「輸送機はどこにある?」
彼らの帰りの足をスノーホワイトが尋ねる。
「ここから少し離れた場所だ。徒歩で戻れる距離だけど、彼女を運ばなきゃならない」
「ならば急げ。この辺りは安全ではない」
「そうだろうね」
アダムは少し迷った後、彼女に頼み込んだ。
「一つ頼みがある。輸送機まで護衛してもらえないだろうか?」
「私はお前たちの護衛ではない」
「分かっている」
「人間の都合で動くつもりもない」
「それも理解している。ただ、この子を置いていくわけにはいかないんだ」
スノーホワイトは大破したニケを見つめた。しばらく沈黙した後、短く答える。
「……分かった。輸送機までだ」
「ありがとう」
「勘違いするな。それ以上は知らん」
「十分だよ」
ラプチリオンが嬉しそうに笑う。
「これは心強い! よろしく頼むぞ、スノーホワイト!」
「……私はお前たちの仲間ではない」
「ははは! 分かっているとも!」
スノーホワイトは小さく息を吐いた。
「出発する。遅れるな」
三人は輸送機へ向けて歩き始めた。道中、スノーホワイトは常に周囲を警戒していた。
少しでも不審な音が聞こえれば足を止め、遠方の瓦礫や建物の陰を確認する。その動きには一切の無駄がない。アダムは彼女の後ろ姿を眺めていた。
「ずっと地上で活動しているのか?」
「そうだ」
「一人で?」
「必要ならな」
「大変だな」
「地上では当たり前のことだ」
会話はそこで途切れた。
その横でラプチリオンが周囲を観察している。
「ふむ……この辺りはラプチャーの活動痕跡が多いな」
スノーホワイトが振り返る。
「気づいていたのか?」
「もちろんだ! 地面の損傷や残骸の配置を見れば、ある程度の行動パターンが推測できる!」
「よく観察しているな」
「研究者だからな!」
「だが、観察に夢中になって命を落とすなよ」
「それは気をつけよう!」
アダムは思わず笑った突き放すような言葉選びの中に彼女なりの不器用な優しさが目に見えれば無理もないだろう。
しばらく歩いたところで、休憩を取ることになった。
アダムは携行品を確認する。
「水は残り少しか……。食料はまだあるな」
その言葉に、スノーホワイトの視線がわずかに動いた。
「……食料?」
「ん?」
「今、食料と言ったか?」
アダムは自炊ついでにいつも作る保存食を取り出した。合成肉を燻製にしてコメと呼ばれる穀物を伸ばした物を燻製に巻いて焼き、乾燥させた後に塩味を強めに着けたものであった。
「ああ、自家製だが」
「それは何だ?」
「携帯用の保存食だよ。肉と穀物を加工したもの」
「そうか」
スノーホワイトは前を向いた。
「私は任務中だ。必要ない」
「そうか。じゃあ僕が食べるよ」
「……待て」
アダムが包装を開け、香ばしい匂いが周囲に広がった瞬間。スノーホワイトがアダムに制止をかける。
「ん、どうした?」
「その食料だ」
「これがどうした?」
「一つだけなら、確認してやってもいい」
アダムは目の前のニケを見て保存食を見るそしてもう一度彼女の顔を見た。そして笑いをこらえるように口元を押さえる。たらり、と彼女の口の端から唾液が垂れているのが目に入ったのである。
何より、スノーホワイトの眼がキラキラと。その保存食に釘付けになっていれば笑ってしまうのも無理はないだろう。
「分かった。どうぞ」
スノーホワイトは無言で受け取った。包装を開き、一口食べる。しばらく咀嚼した後、ぽつりと呟いた。
「おいs……んんっ、悪くない」
「それはよかった」
「もう一つあるか?」
矢継ぎ早の催促にアダムはこらえきれず笑った。
「あるよ」
彼女は二つ目を受け取る。その様子を見て、ラプティリオンが声を上げた。
「ははは! どうやら食料は気に入ってもらえたようだな!」
「黙れ」
「いやいや、何も悪いことは言っていないぞ!」
「……任務中だ」
そう言いながら、彼女は二つ目の保存食を口に運んでいた。
『マスター』
ALFREDの声が響く。
「どうした?」
『対象の行動パターンに興味深い変化を確認しました』
「へえ?」
『食料の提供が、対象との交渉に有効である可能性があります』
「……ALFRED。それは本人の前で言わない方がいい」
『承知しました』
「おい、聞こえているぞ」
スノーホワイトの低い声が響いたがその耳が微かに朱に染まっているのは見間違いではないだろう。アダムは苦笑して、ラプティリオンはとうとう大声で笑い始める。
「いやあ、実に興味深い!」
「お前も黙っていろ」
そんなやり取りをしながら、一行は再び歩き始めた。やがて、遠くに輸送機の姿が見えてくる。
「あれだ。僕たちの輸送機だよ」
スノーホワイトは機体を眺めた。
「人間が地上でこれを運用しているのか」
「まあ、いろいろ事情があってね」
「そうか」
彼女はそれ以上、踏み込んで尋ねようとはしなかった。
「いやあ、本当に助かった! ありがとう、スノーホワイト!」
「礼は必要ないと言った」
「そうだったな! だが、それでも礼を言わせてくれ!」
ラプチリオンの陽気な声にスノーホワイトは小さく息を吐いた。
「好きにしろ」
アダムは彼女の前に立った。
「君が来てくれて本当に助かった。あの状況ではどうにもならなかった」
「お前たちの装備では、あの数を相手にするのは無謀だ」
「耳が痛いな」
「地上では判断を誤れば死ぬ」
「覚えておくよ」
スノーホワイトは少しだけ目を細めた。
「人間。お前は奇妙な奴だ」
「よく言われるよ」
「地上に出てきてまで、壊れかけたニケを救おうとする人間は珍しい」
「彼女はまだ助かる可能性がある。それなら助けたいと思うのは当然だろう?」
スノーホワイトは答えなかった。
ただ、アダムの背負っているニケを一度だけ見た。
「……そのニケを救ってやれ」
「ああ。必ず」
「ならばいい」
彼女は踵を返した。
「待ってくれ」
アダムが呼び止める。
スノーホワイトが振り返った。
「また会うことはあるかな?」
「分からん。地上は広い」
「そうかだな。でも、また会えたら嬉しいよ」
スノーホワイトは少しだけ考えた。
「……食料があるならな」
アダムは思わず笑った。
「それなら用意しておくよ」
「期待はしない」
そう言い残し、彼女は歩き始めた。白い装備が廃墟の向こうへと遠ざかっていく。
やがて、その姿は瓦礫の陰に消えた。それを見送ったラプチリオンが感慨深そうに呟く。
「いやあ、素晴らしい出会いだったな!」
「そうだな」
「彼女の戦闘能力もそうだが、あの判断力と経験……実に興味深い!」
「君は本当に研究者だな」
「もちろんだ!」
アダムは遠ざかる彼女の姿が消えた方向を、もう一度だけ見つめた。
「また会えるといいな」
そして二人は輸送機へと乗り込んだ。
輸送機の内部でアダムは大破したニケを医療用の固定台に寝かせた。
ALFREDが診断装置を起動する。
『対象の状態を確認します』
「頼む」
モニターに次々と診断情報が表示される。
『動力炉の損傷は深刻です。神経接続系統にも広範囲の断絶が見られます』
「記憶データは?」
『一部の領域で破損を確認。ただし、完全に消失しているとは限りません』
「修復の可能性は?」
『あります。ただし、現在の設備では不足する部品が多数あります』
アダムはモニターを見つめた。
「どれくらい必要なんだ?」
『詳細な損傷解析を完了する必要があります。少なくとも、動力系統と神経接続系統の再構築が必要になるでしょう』
「分かった。修復計画を立てよう」
『マスター。相当な時間と資材が必要になる可能性があります』
「構わない」
アダムは彼女の顔を見つめた。
「ここまで生き延びたんだ。今さら見捨てるわけにはいかない」
ラプチリオンがニケを見つめて。
「彼女は助かりそうか?」
「まだ分からない。でも、可能性はある」
「そうか!」
ラプティリオンは嬉しそうに笑った。
「それなら頑張らなくてはな!」
「君にも協力してもらうことになるかもしれない」
「もちろんだ! 私にできることなら何でも手伝おう!」
その応答にアダムは頷いた。
そして、再び固定台に横たわるニケへ視線を戻す。
彼女がどこで戦い、何を経験してきたのか。なぜ、あれほどの損傷を受けることになったのか。彼女がどのような名前を持ち、どんな仲間と過ごしてきたのか。
今のアダムには、何も分からなかった。ただ一つ確かなことがある。
彼女はまだ、完全には失われていない。何より、このニケが生きる事を諦めていないのは良く分かっていた。
アダムはそっと彼女の手に触れた。
「大丈夫だ。必ず助けてみせる」
意識のない彼女から返事はない。それでも、彼は微笑んだ。
輸送機のエンジンが始動して窓の外では、荒廃した地上の景色がゆっくりと遠ざかっていく。
その遠く。
どこかの廃墟を歩く白い影があった。スノーホワイトは立ち止まり、先ほど受け取った保存食の包みを眺めた。
「……アレが今の時代の人間、か」
小さく呟く。
そして、残っていた最後の一口を口に運んだ。
「これも悪くなかったな」
彼女は再び歩き始める。
そして、アダムたちの新しい物語もまた、始まったばかりだった。