水陸機動団2028
2028年2月――東シナ海、水深150メートルの静寂。
中国海軍の09IIIG型(晋型改)攻撃型原子力潜水艦から、冷たい海水を引き裂いて4発の「長剣-10(CJ-10)」巡航ミサイルが垂直に放たれた。海面を割ったミサイルは主翼を広げ、高度わずか15メートルの超低空で、沖縄本島西方の海上自衛隊第2護衛隊群へと殺到する。
同じ頃、東シナ海の防空最前線に位置する「まや型」イージス護衛艦2番艦『はぐろ(DDG-180)』のCIC(戦闘指揮所)は、緑色の電子光に照らされた緊迫した闇に包まれていた。
「電波妨害(ジャミング)激化! 敵、DF-17(極超音速滑空ミサイル)を捕捉! 速度マッハ10、本艦へ向かって変則軌道で降下中!」
あまりの超高速と、レーダーを狂わせるプラズマ。単艦のフェーズドアレイ・レーダー「SPY-1D(V)」だけでは、未来位置の予測が追いつかない。
「ネットワークリンク維持! 上空の米海軍E-2D早期警戒機からCEC(共同交戦能力)データを受信!」
「CEC同期……『はぐろ』、射撃データロック!」
米軍の眼と自衛隊の艦が完全にリンクした瞬間だった。
「SM-6、連射(サルボー)!」
『はぐろ』の甲板にあるVLS(垂直発射システム)から、最新鋭の迎撃ミサイルSM-6が咆哮とともに打ち上がった。大気圏内での複雑な機動に対応できるこの弾が、中国軍の放った極超音速ミサイルを至近距離で相殺し、洋上に巨大な火球を作った。
しかし、レーダー画面の光点は減るどころか、さらに数を増していく。中国本土の沿岸基地から放たれた、第二波・第三波の弾道ミサイルによる「飽和攻撃」だ。
「『はぐろ』の迎撃弾、残弾3割! 弾切れになります!」
「データリンクを『あたご(DDG-177)』へ回せ!」
『はぐろ』の後方に控えるのは、数年前にトマホーク発射用システムへの改修を終えたばかりの「あたご型」1番艦『あたご』だ。
『あたご』のVLSから、大気圏外迎撃用の「SM-3 Block IIA」が爆音を立てて放たれる。宇宙空間の入り口で、中国の弾道ミサイルを次々と撃墜していくが、日本のミサイル防衛網はすでに限界を迎えつつあった。防戦だけでは、いつか必ず突破される。
「防衛出動下令。……これより、反撃能力を行使する」
艦長が冷徹に言い放った。
『あたご』の改修されたセルの蓋が跳ね上がり、アメリカから調達した1,600kmの射程を誇る牙が目を覚ます。
「トマホーク、第一セルから第八セルまで開け。目標、中国沿岸部の地対艦ミサイル発射基地。……撃て(ファイア)!」
爆風が『あたご』の甲板を焼き、8発のトマホークが地を這うような低空飛行で中国本土へと逆侵攻を開始した。
同じ瞬間、はるか南方の沖縄県・石垣島。
マングローブの林に偽装された陸上自衛隊の特科部隊が、一斉に動いた。
「敵艦隊、与那国島沖40マイルを北上中! 撃てッ!」
展開していたのは、数年前に熊本・健軍駐屯地から南西諸島へ前進配備されていた最新鋭の国産長射程ミサイル、「25式地対艦誘導弾(旧称:12式地対艦誘導弾能力向上型)」の移動式発射機(12s車)だ。
ステルス形状を持つ長い主翼を広げた25式ミサイルが、ツインのターボファンエンジンを全開にして、次々と白煙の尾を引いて天へ昇る。射程1,000kmを超えるこの国産の矛は、衛星データリンクによって敵艦の細かな回避行動を追尾しながら、台湾海峡を埋め尽くす中国海軍の主力駆逐艦へと牙を剥いた。
空を埋め尽くす日中のミサイルが交差し、互いの防衛網をミリ秒単位で削り合う、凄まじい消耗戦。
自衛隊のイージス艦隊と陸自ミサイル部隊が、まさに身を挺して東シナ海の制空・制海権の崩壊を食い止めているからこそ、佐世保から『ナッチャンNEO』で出撃した水陸機動団の命脈は、辛うじて保たれていた