私はメアリースー。全能の神に成った私の素晴らしき創世記 作:やーなん
人間は猿から進化した生物と言われている。
私が見渡した数多の文明の数々から推論するに、人類の歴史は数万年程度でしかないと言う説が主流だ。
残念ながら、私は文明を司る女神なので、その説の真偽まで見通すことは出来ない。
私は人類が文明を起こした後のみを司っているのだから。
つまり、人類を創造するにあたって、私が創造した地平に海神に海水を引っ張って来てもらって、そこに生命の息吹を吹き込んで生命の進化を促して、結果的に人類を産み出す方法を試みるべきなのだろう。
私は思った。それって面倒だな、って。
だって何も無い地平に数十億年かけて生命の産み出す土台を作り出して、最終的に人類の進化をコントロールするなんて迂遠に過ぎる。
というか、それって私が人間以外の他の生物の面倒を見ないといけなくない?
それって管轄外じゃない、と思わなくない。
「どうしたの、面倒なの?」
「面倒というより、研究の為に地平から生命を養殖する方法も並行するべきだと思ってるんだけど」
「だけど?」
「私はもっと手っ取り早く、私の創った人類に崇められたいのよ」
「くッ」
リネンはたまらないと言った様子で噴き出した。
「何を笑っているの。当然の対価じゃない。
私が創って管理して、育ませてあげているのよ。私を自主的に崇めて、敬愛して、敬い奉るのが被創造物の務めじゃない」
「くくくッ、まあ我々は信仰の力が無ければ発揮できる力が減るからね。崇められるのにこしたことはないわね」
そう、神としての力は、信仰の力という数値化できないリソースによって決まるらしいのだ。
私は全能の神だけど、そのリソースは無限ではない。
そのリソースが尽きることで、所謂“代替わり”は発生しないらしい。存在するだけで意味がある神もまたいるのだろう。
だが、それが神として惨めな状態なのは理解できた。
とりあえず、私はオーソドックスに地表から生成する手段と、手っ取り早く人間を想像して配置する手段を実行し、比較検証することにした。
とは言え、地表を宇宙に浮かべても何の意味もない。
自分の権能を振るえると手ぐすね引いて待ち受けている自然神どもに、私はそれを投げ渡した。
彼らはそれに生命の息吹を吹き込んだ。
緑地を創り、海水を与え、天候や重力を付与し始めた。
これでその内、生命の爆発が起こることでしょう。
私はと言うと、私お手製の地表に三十人ほどの人間を配置した。
次は社会実験の時間だ。彼らがどのような社会を構築し、そして終わりを迎えるか検証しなければならない。
全てはより良き人類の為に。
……
…………
…………
「もういいわ」
第21次社会構築実験は終了した。
私は地平に向けて拳を振り下ろした。
三十人の人間が地表ごと砕け散った。
「なんで?」
私はこれまでの実験結果に疑問を抱いた。
「なんで争い合うの? 私は過不足なく衣食住を与えたわ。
何も奪うあう必要なんてないじゃない!! なんでなのよ!!」
彼らの末路はすべて、奪い合い、殺し合いに結実した。
殺した相手の子供を殺し、女は犯し、暴力で支配した。
最初は秩序を与えなかった、そんなものだと思った。
だが私が何度介入し、争いを収めても、彼らは欲望を抑えることはなかった。
「かわいそう」
癇癪を起していた私にそう言ったのは、小さな子供の姿をした女神だった。
細長い尻尾がある。夢魔との混血児の特徴だ。
そんな子供の女神は、多くの動物を引き連れていた。
「誰かを愛したこと無いんだ。自分しか愛してないんだ」
「あなたは……」
「わたし、ラヴィーナ。愛欲の女神だよ」
欲、欲望、私の想像する理想の人類の不純物だ。
「それで愛と欲望の中で、最も美しい“家族愛”を司ってるの。
この子たちもみんな、家族愛に目覚めた種族の化身だよ」
犬、猫、羊に牛、馬、象から栗鼠まで、彼らはその種族の愛そのものだった。
「他人を愛することが出来ないから、奪い合って殺し合うんだよ。そんなこともわからないの?」
「愛なんて不確定要素は、抑止力として機能しないわ」
「ぷぷぷッ、なんで純粋な人間じゃない私が人間の家族愛を司ってるのかずっと疑問だったけど、そういうことなんだ」
私は激怒した。
こんな小児性愛の異常性癖の弱者男性に好まれそうな外見のクソガキに、私は憐れまれたのだ。
「私の理想の人類が、動物以下だって言いたいの!?」
「そんな風に怒るってことは、認めちゃったんだ。知能の低い動物にも当たり前にある感情が自分には無いって」
私は右手にリボルバー銃を精製して、目の前のクソガキにぶっ放した。
「きゃはは、こわーい!!」
クソガキは動物神たちを引き連れて、去って行った。
「ぶっ殺してやる、この私を馬鹿にして!!」
「まあまあ、抑えなよリネン。子供相手にムキになってもしかたないでしょ」
「リネンッ、なに言ってるの!! 生前は一緒にムカつく奴全員ぶっ殺してきたでしょう!!」
どいつもこいつもそうだった。
師匠も、妹弟子も、馬鹿な人間どもも、あの御方さえも!!
私の優れた知性に嫉妬し、理解を示さなかった!!
私はッ、誰よりも優れていたのに!!
「それは生前の話でしょう?
今のあなたは何かしら? あなたの考える理想の人類に君臨するあなたは、理想の人類の神じゃないの?」
「……」
「あなたはメリス? それともメアリースー?」
「……そうね。リネンの言う通りだわ」
そうよ、私は人類そのもの。全能の女神なのよ。
無知蒙昧なクソガキに煽られた程度で激高したりしないのよ。
「リネン、ラヴィーナの言い方があれだが考え方を変えるべよ」
「どういう意味?」
「お前は人類の概念そのもの。お前の創造する人類は、お前なのよ」
「……なるほど!!」
「お前は人類の
「……そうね、私は彼らをただのモルモットにしか思っていなかったわ」
ちょろ、とどこかの神が言った。その方向に銃弾をぶっ放した。
「ふふふ、私こそが人類なら、私の考案したつよつよ高スペック人類を配置しなければならないわね……」
「……そうね」
私は次の地表を生成し、人類を配置した。
さあ、我が理想郷を謳歌しなさい!!
……三代で滅びたんだけど。
「うーん、何が悪かったのかしら」
「……メリスよ。今のが人類だったのか?」
「当たり前じゃない」
「マンモスを片腕で殴り殺し、軽く十メートルも跳躍し、寿命は500年以上で、一人の女王がイケメン軍団を侍らせていたアレがか?」
「どう? エルフの造形を参考にして獣人の身体能力とかその他諸々を組み込んだハイパーつよつよ人類よ」
「ただのキメラじゃないか」
リネンは呆れたように私にそう言った。
私は納得がいかなかった。
「ハッキリ言って痛々しかったわ。見てられない」
「何でよ!! 人類は他のどの種族より優れているべきじゃない!!
だって、この私が基準なんだから!!」
「では貴女は生前、そのハイパー人類のどの程度まで近しかったんだ?
理想を追求するのは良いが、痛々しい思春期の学生の妄想みたいなものをお出しされて見せられるこちらの身にもなってほしいわ」
ぷッ、とどこかの神が笑った。私はガトリング砲を生成してその方向にぶっ放した。
「……今のは実験よ。どれくらい人類の平均値から性能を向上させて、それが人類と扱われるかのね」
「そういうことにしてほしいわ。浮かれるのも分かるけど真面目にやって。あなたは責任のある創造神なのよ」
「……次は全ての能力値を上限値を私に設定しましょう」
私は大人になって妥協することにした。
私は人類を超越した存在を創れるわけではないようだし。
試行錯誤の末に、ようやく30人の人間たちは地表で営みを始めた。
極めて原始的な集落、火を扱い始めた程度の人類だ。
私は火を与える程度しか介入をしていない。火とは知恵の象徴であり、文明の萌芽でもある。
私は観察を続けた。
集落は順調に人口を伸ばし、50人程度まで増えた。
更に人口が増え、集落は二つに割れた。
彼らは愛を理解し、それ故に袂を分かったのだ。
争いの理由は、女の取り合いだった。
男たちは女を取り合い、女は争いの最中命を落とした。
決定的に決裂した両者は、戦いの準備を始めた。
殺し合いの果てに、決着がついた。
両者にはより深い溝が出来、負けた方がより遠い場所に集落をつくって終わった。
観察の途中だったが、私は顔を上げた。
いや、私だけではない。私達、神々が一つの方を見ていた。
男と女が居た。新しく神域に踏み入れた存在だった。
「ようこそ」
「歓迎するよ、新入り」
「これから更に賑やかになるだろうな」
神々が口々にそう言った。
女は娼婦だった。生きるために身体を売り、それが争いになった。
男は兵士だった。戦いの為に荒事を生業とし、それで生きるようになった者だ。
娼婦も兵士も、人類最古の職業と言われている。
そう、職業神の誕生の瞬間だった。
これまで、この神域には専門職と呼ばれるようなものを司る神は居なかった。
私が、私の産み出した文明が彼らを生んだのだ。私は神すらも創り出せる存在なのだ。
私は神を超える存在なのよ、あはは!!
「メアリースよ」
酒神の一人、酒造の神が私に話しかけて来た。
彼は酒造の職人ではなく、酒が出来る、という概念そのものだ。
「なにかしら」
「お前さん、どうにかして酒造りの神を誕生させてはくれんか?」
「……ねえ」
私は彼を目を細めて見て言った。
「それ、ドワーフ族出身のあなたが言う?
そこは鍛冶職人が先じゃないの?」
「あっはっは!! メアリースに正論を言われるとはな!!」
この酔っ払いのクソジジイめ、私は正論しか言わないんだけど!!
私の怒鳴り声に、酒神どもは露骨にガッカリした様子だった。
私は鼻を鳴らして地表の観察に戻った。
「アルコールなんて人体に害しかないドラッグじゃない。
私の人類にそんなモノ与えるわけないじゃない」
「じゃがのう、酒の歴史の無い人類は、人類たりえるのか?」
私は“酒造”を一瞥し、思考で検討を始めた。
「猿が木のうろに果物を隠し、偶然酒ができることもある。
人類はお前がどうしようとも、酒を見つけるぞ」
「……そうね、あそこにもう酒乱の神はいるわけだし」
人類とは、歩み続ける旅人。
私が何もしなくても、いずれ治金技術を見つけ、酒を見つけ、大麻を得る。
ならば、こちらで管理する方向にした方が合理的かもしれないわ。
私の言葉に、酒神どもは歓喜した。けッ、酔っぱらい共が。
私は、酒で得られるまやかしの幸福などではなく、人類全てが等しく幸福を得られる文明を創って見せる。
そして、堕落することなく、永遠に変わらないこの私がその頂点に理想の神として座する。
……それだけが、人類の求める永劫の理想郷なのよ。
人物紹介:女神メアリース(当人はメアリースーと名乗ってるが、そう呼ばれることが多い)
人間の文明を司る、人類の概念そのもの。作者が書くメアリース・シリーズに登場する世界は、全て彼女の創造物。
その性格は作中だけでなく、読者からも不愉快だとか、このシリーズを書いてて何が面白いの、とか言われるくらい性格が終わってる女神。
それもそのはず、作者は彼女を人類に対する皮肉や風刺でキャラ造形をしているので、マイナス方面で感情を揺さぶれたのなら作者の勝ちってことで(震え声
こんな主人公視点でよければ、続くかもしれません。
もしよければ高評価や感想を頂ければ幸いです。