第一話 エテーネの朝
「兄さん、まだやってたの!?」
川べりの石に腰を下ろしたアインは、振り向きもしなかった。水に浸した布の端を両手でつまみ、引き上げては光に透かし、また沈める。暗い栗色の髪が片側だけ跳ねていて、額に上げた作業用のゴーグルが、その跳ねた髪を余計に押し上げていた。
「おはよう、レイ。いま十六回目」
「何が?」
「折ったり伸ばしたりした回数。昨日は十回で端に細かい割れが出たんだけど、今朝は木の脂を錬金でなじませ直したから――ほら、まだ水を弾く」
兄が布を持ち上げると、表についた水の粒がころころと転がって、川へ落ちていった。裏はたしかに乾いている。
レイは少しだけ見とれてから、首を振った。
「すごいけど。アバさまのところ、行く約束だったでしょ。お菓子、冷めちゃうよ」
腕に下げた籠を揺らしてみせる。今朝焼いた豆の焼き菓子が、布の下でまだほんのり温かい。
エテーネは、川に沿って家と畑が並ぶ小さな村だった。レイは十三歳で、アインは二つ上。二人きりで暮らす家の中は、兄の紙と器と、何に使うのか分からない金具でいつも半分埋まっている。朝起きたら兄がいない、というのも珍しくなかった。たいてい、どこかで何かを試している。
「あと四回で二十だから」
「その四回で、また別のこと始めるんでしょ」
アインの手が止まった。図星だったらしい。
レイはその隙に、川べりから手ごろな石を一つ拾い上げた。少し離れた平たい岩の上に置き、自分は兄の隣まで下がる。
「ねえ、兄さん。それより、見てほしいものがあるんだけど」
「ん?」
「メラ。昨日、ちゃんと当たったんだよ。途中で消えないで、石まで届いたの」
「へえ」
返事は気のないものだった。兄の目は、また布の折り目に戻っている。
「へえ、じゃなくて。見ててってば」
「見る見る。ちょっと待って、いまここ数えてるから。十七……」
「兄さん!」
「十八」
レイは頬をふくらませた。左手を前へ出しかけて、やめる。見ていない人の前で当てても仕方がない。三回目でやっと届いた昨日の火を、今日は一回目で、兄の目の前で当てたかった。
そのとき、兄の手が籠へ伸びてきた。
布をめくり、焼き菓子を一つつまもうとする指先が、青黒い。インクだった。爪の際まで染みて、ところどころ乾いてひび割れている。
レイはその手首をつかんだ。
「洗ってから!」
「……川、目の前なんだけど」
「だから洗えるでしょ。アバさまの分に、その指で触らないで」
アインは観念したように布を膝に置き、川へ手を浸した。指をこすり合わせても、インクはほとんど落ちない。爪の際の青は、ずっと前から染みついているものだった。
「落ちないな」
「昨日の夜も書いてたでしょ。明かり、ずっとついてたもん」
「布の配合を考えてたんだ」
兄はまだ水の滴る手を振ってから、改めて籠へ手を伸ばした。今度はレイも止めなかった。
焼き菓子をかじったアインの眉が、少し上がる。
「お、柔らかい」
「でしょ。今度は焼けるまでずっと見てたんだ。前みたいに、絵を描いてて焦がしたりしないで」
「らしいな。証拠がついてる」
アインの指が、レイの濃い茶色の髪から何かをつまみ上げた。焼き菓子のかけらだった。爪の際の青いインクのそばで、小さく崩れる。
「窯に顔、近づけすぎだ」
「……いつからついてたの」
「家を出たときから」
「言ってよ!」
アインは笑って、つまんだかけらを自分の口に放りこんだ。
「前のも好きだったけどな。端がかりっとしてて」
「あれは焦げてたの。兄さん、何でもおいしいって言うんだもん」
「でも、全部食べただろ」
「そういうとこが当てにならないの」
川下から、ばしゃばしゃと水を蹴る音がした。近所の男の子が、草を編んだ小さな籠を紐でぶら下げて、浅瀬を歩いてくる。昨日、レイが魚を描いていたそばで水遊びをしていた子だ。
「レイお姉ちゃん! 見て、もう落ちないよ!」
男の子が紐を持ち上げると、籠が誇らしげに揺れた。昨日は、すくった魚と一緒に籠ごと流されかけたのだ。
「ほんとだ。ちゃんと結べたね」
「父ちゃんにやってもらった!」
正直に言ってから、男の子の鼻がひくりと動いた。目がレイの籠へ吸い寄せられる。
「……それ、お菓子?」
「お母さんと半分こね」
一つ渡すと、男の子は両手で受け取って、そのまま走り出しかけた。
「あ、そうだ。お姉ちゃん、昨日の葉っぱの絵、乾いた?」
「魚だよ!」
男の子はけらけら笑いながら、土手を駆け上がっていった。
隣で、兄が肩を震わせている。
「……兄さんにも、葉っぱに見えた?」
「窓に干してあったやつだろ。正直に言っていいのか?」
「もういい」
昨日、川で魚を描いていたら、紙ごと水に落としてしまったのだ。尾びれまで丁寧に描いた魚は、拾い上げたときには丸くにじんで、葉っぱにしか見えなくなっていた。
レイは兄の膝の上の布を見た。水を弾く布。
「兄さん、それ、ボクにも少しちょうだい」
「これ?」
「絵の紙を包むの。袋に縫えば、川に落としても濡れないでしょ」
アインは布を持ち上げて、しばらく考えるように光に透かした。それから、端を少しだけ残して、残りをレイの手に乗せた。
「何回も折ると、どこかで割れるかもしれない。使ってみて、変になったら教えてくれ」
「うん」
「切れ端は捨てないでくれよ。比べたいから」
「分かってる」
レイは布を丁寧に畳んで、籠の脇へ入れた。帰ったら、紙より一回り大きく切って縫おう。
「じゃあ、行こ。アバさま、待ってるよ」
「メラは?」
立ち上がりかけた兄が、平たい岩の上の石を顎で示した。
レイは一瞬、口を開けたまま止まった。覚えていたのだ。
「……いま見たい?」
「いま見ると、菓子が冷めるんだろ」
「じゃあ帰り! アバさまにお菓子渡したら、帰りにここで見て。約束だからね」
「分かった。帰りにな」
アインは額のゴーグルを下ろしかけて、自分で笑って上げ直した。インクの染みた指で、跳ねた髪を一度だけ撫でつける。直らなかった。
*
アバの家へ向かう途中、二人はカメさまのそばを通った。
大きく盛り上がった甲羅の下で、太い足が折り畳まれている。首は少しだけ前に伸び、深い皺に囲まれた目は閉じたまま。近づけば、兄妹二人ともその陰にすっぽり入ってしまうほど大きな亀だった。
村の守り神だと、幼いころから聞かされている。レイが物心ついたときにはもうここで眠っていて、村の大人たちも通りかかるたびに頭を下げていく。
「カメさま、おはよう」
返事はない。レイは甲羅のそばに落ちていた枯れ葉を拾い、道の端へよけた。
「また描くのか?」
「今度は顔のほうから。前は甲羅だけで紙がいっぱいになっちゃったんだもん」
「小さく描けばいいだろ」
「描き始めたときは、入ると思ったの」
結局、紙を継いで顔と足を描き足したのだった。レイは指で小さな枠を作り、その間からカメさまを眺めた。閉じたまぶたも、口元の皺も動かない。
「また来るね、カメさま」
*
アバの家の戸口では、シンイが鍋をかき混ぜていた。外の竈の火を弱めて、二人に気づくと顔を上げる。
「レイ、アイン。ちょうどよかったです。おばあさまが、さっきからお菓子はまだかと」
「シンイ、余計なことを言わんでいい」
奥から声が飛んできて、シンイが小さく肩をすくめた。
村の巫女であるアバは、窓のそばの椅子に座っていた。困りごとがあれば大人たちも相談に来る人だが、レイたちは幼いころからこの家に通い、孫のシンイと一緒に何度も食事をしている。
「お待たせしました。今日は焦がしてませんよ」
「前のも、そう悪くなかったじゃろう」
アバは籠を覗きこみ、端の焼き色が少し濃いものを指さした。
「それをおくれ。そこが香ばしいんじゃ」
「……兄さんも、そう言ってました」
「アインは分かっとるね」
隣で兄が、ほらな、という顔をした。レイは見なかったことにした。
シンイが茶を運んでくる。湯気の向こうで、アバが孫の顔を見上げた。
「シンイ。今朝の豆、まだ硬かったよ」
「食べて確かめましたよ。ちゃんと柔らかかったです」
「どこを食べたんじゃ」
「……鍋の、端のほうです」
「真ん中も食べてごらん」
シンイは何か言い返しかけて、口を閉じた。黙って立ち上がり、外の鍋のところへ行く。蓋を開け、真ん中から一粒すくって口に入れる音がした。
戻ってきたシンイは、何も言わずに竈へ薪を一本足した。
アバが、菓子をかじりながら目だけで笑った。
「まだ硬かったでしょ」
レイが小声で聞くと、シンイは茶をすすって、ようやく答えた。
「……煮直します」
アインが吹き出した。レイも笑った。シンイもつられて、困ったように口元を緩めた。
「そういえば、昨日の木の脂はどうなりましたか。外から持ち帰ってきた甲斐はありました?」
「あった。水をほとんど通さない。あと少し柔らかくできたら、外套にもできると思う」
「じゃあ、雨の日も歩けるの?」
レイが身を乗り出すと、兄は少し考えた。
「頭と靴は濡れるぞ」
「そこも作ってよ。せっかくなのに!」
シンイが笑い、アバも喉の奥で小さく笑った。
雨の日も濡れない外套を着て、知らない道を歩くところを、レイは想像した。村の外を旅するなら、何日も雨が続くこともあるだろう。本で見た大きな建物や、図鑑に載っていた鮮やかな鳥を、いつか自分の目で見てみたかった。そのために剣も呪文も練習している。今のところ、針を使うほうがずっと思いどおりになるけれど。
「アバさま、外の町って、どんなところなんですか? 雨の多いところもあるんですか?」
顔を向けたところで、レイは言葉を止めた。
アバの手が、菓子を持ったまま止まっていた。
視線はレイたちを通り越し、開いた戸口の外に向いている。けれど、そこにある竈も、鍋も、畑も見ていない目だった。唇がわずかに開き、浅い息が漏れる。
焼き菓子のかけらが、膝の上へ落ちた。
「アバさま?」
シンイが茶を置き、祖母のそばに膝をついた。
「おばあさま。聞こえますか」
腕に触れた途端、アバの手がその袖をつかんだ。細い指が深く食いこみ、シンイが息を呑んで身を寄せる。
レイも腰を浮かせた。水を持ってくればいいのか、誰かを呼ぶべきなのか、分からない。隣で兄も、椅子から半分立ち上がったまま動けずにいた。
やがて、アバの喉が一度動いた。
長く、長く息を吐く。それでも、袖をつかんだ指は離れなかった。
「……皆を、集めておくれ。畑に出た者も、家におる者もじゃ」
「おばあさま……」
「頼むよ、シンイ」
アバがまだ起きていないことを見る人だということは、レイも知っていた。その知らせを聞くために村の人が集まることもある。けれど今は、何を見たのか尋ねるのが怖かった。
シンイもそれ以上は聞かず、祖母の手に自分の手を重ねた。
「分かりました。すぐに呼んできます」
「俺も行く。レイ、アバさまのそばにいてくれ」
兄の声が、いつもより低かった。
レイが頷くと、二人の足音が戸口から遠ざかっていった。部屋の中が急に静かになる。
卓の上で、四人分の茶がまだ湯気を立てていた。
*
人が集まるにつれて、アバの家の前は狭くなった。
畑仕事の途中で来たのか、土のついた鍬を担いだままの人もいる。さっきの男の子は母親の腰にくっついて、紐の先の小さな籠を地面に引きずっていた。母親は、眠そうな顔の赤ん坊をもう一人、胸に抱いている。
レイは戸口から戻ってきた兄を見つけて、その隣に立った。
シンイに支えられてアバが腰掛けに座ると、ざわめきが少しずつ収まっていった。
「皆、よく聞いておくれ」
アバは集まった顔を、一つずつ見た。
「さっき、恐ろしいものを見た。このままでは、エテーネの村は滅びる。ここに住む者も……一人として、生き残れん」
誰も声を出さなかった。
レイは兄の腕に触れた。聞き間違えたのだと思いたかった。けれど、兄は口を引き結んだまま前を見ていて、シンイも祖母の傍らで動かなかった。
今朝、菓子を焼いた家がある。布を水に浸していた川べりがある。男の子が籠を揺らしながら駆け上がっていった土手も、ここから歩いてすぐだ。その全部がなくなるところを思い浮かべようとしても、目の前にはいつもと同じ家並みしか見えなかった。
「いつ……いつ、そんなことになるんですか」
鍬を担いだ男の声が、途中で裏返った。
「日にちまでは分からん。じゃが、遠い先の話ではない」
ざわめきが戻ってきた。誰かが家族の名前を呼び、誰かが荷車の話を始める。逃げるならどこへ、と言う声に、どこへ逃げても同じなのか、という声が重なった。
アバが片手を上げると、また静かになった。
「逃げる支度は、進めておくれ。持ち出す食べ物や薬もじゃ。それから――テンスの花を、取ってきてもらいたい」
「テンスの花……?」
「清き水の洞くつの奥に咲いておる。青白い、ユリに似た花じゃ。あの花があれば、この先を変えられるかもしれん」
男の子の母親が、赤ん坊を抱き直して顔を上げた。
「助かるんですね。その花を持ってくれば、この子たちは……」
アバは少しの間、その母親の顔を見ていた。それから、腰にしがみついている男の子と、胸の赤ん坊を見た。
けれど、尋ねられたようには頷かなかった。
「……すまないね。必ずとは、言ってやれん」
母親の唇が震えた。男の子が、母親の服を握る手に力をこめた。
「じゃが、わしが見たのは滅びだけではなかった。あの花を手にする道が、まだ残っておる。その道は、確かに見えたんじゃ」
テンスの花。
レイは唇だけで、その名前を繰り返した。見たことがあるかどうかも分からない花だった。それでも、何もできないままここに立っていなくていいのだと思うと、さっきより少しだけ息が吸いやすくなった。
「私が行きます」
シンイが顔を上げていた。
「道は分かります。奥まで探してきますから、皆さんは村の支度をお願いします」
「お前が、行くのかい」
「はい。おばあさまは、ここで待っていてください」
アバが何か言いかけたとき、レイの隣で兄が一歩前に出た。
「俺も行く。シンイ、少し待っててくれ。家で道具を取ってくる」
「アイン……。ありがとうございます」
シンイの肩から、ほんの少し力が抜けたのが分かった。
「一人じゃ心細かったんだろ。だったら先に声かけろよ。すぐそこにいたのに」
「先に口が動いてしまったんですよ」
周りでは、もう男たちが荷車をどこに集めるか話し始めていた。一人が家へ走り、別の一人が畑へ戻ろうとする老人を呼び止める。村が、動き出していた。
レイは兄の前に回りこんだ。
「兄さん。ボクも行く」
アインは、すぐには答えなかった。レイの顔を見て、それから洞くつへ続く道のほうへ目をやる。
「……洞くつの奥までだぞ。魔物も出る」
「分かってる。それに、メラ、当たるようになったんだよ。昨日――」
「動かない石にな」
レイの口が止まった。
兄の声は、責める調子ではなかった。ただ本当のことを言っただけだった。三回目でやっと届いた火。届いたのは、置いておいた石。逃げも、向かってきもしない石。
さっきまで、帰りに見せるつもりだったのに。
レイは手を握った。言い返す言葉が見つからなかった。兄の言うとおりだった。
それでも。
兄とシンイが洞くつへ行って、自分はここに残る。二人がどこまで進んで、何に出会っているのか分からないまま、帰ってくる道ばかり見て待つ。アバさまの隣で、何もしないで。
そのほうが、ずっと怖かった。
「……強くは、ないよ。分かってる」
声が少し震えた。レイはそれを飲みこんで、兄を見上げた。
「でも、花を探す目なら、一人ぶん増えるでしょ。兄さんたちから離れたりしないから。危なかったら、ちゃんと戻るから。だから――ボクにも、手伝わせて」
アインの目が、少しだけ揺れた。
兄はレイの肩に手を置いた。何か言おうとしたところへ、シンイが近づいてくる。
「アイン。レイにも、一緒に探してもらいましょう。奥で無理はしません。危ないようなら、三人で戻りましょう」
アインはシンイを見て、もう一度レイを見た。肩に置かれた手に、少しだけ力がこもった。
「……俺のそばから離れるなよ。戻るって言ったら、一緒に戻る。いいな」
「うん」
返事をしてから、レイは兄の手の甲に、インクの染みた指があるのを見た。
アインは小さく息を吐いて、レイの頭に一度だけ手を乗せた。それから、シンイに向き直る。
「じゃあ、家で支度してくる。シンイ、すぐ戻る」
「私も用意しておきます」
シンイが腰に下げた杖の位置を直した。いつも見慣れているその杖が、今日はやけに目に留まった。
レイはアバの前へ行き、少しかがんだ。今朝、焼き菓子を選んでいた人が、さっきよりずっと小さく見えた。
「アバさま。ボクも、テンスの花を探してきます」
「ああ。頼んだよ、レイ」
差し出された手を取ると、指先が冷えていた。レイはもう片方の手も添えて、包むように握り返した。
アバは、レイの手の中でしばらくそのままにしていた。それから、ゆっくりと手を緩めた。
*
家に戻ると、兄はすぐに奥の部屋で鞄をひっくり返し始めた。金具のぶつかる音と、何かを探す独り言が聞こえてくる。
レイは自分の剣を壁から下ろした。練習のとき以外に腰へ下げるのは、初めてだった。鞘の重さが、いつもより手に残る。
水袋に水を詰め、包んでおいたパンを鞄に入れる。それから、籠の脇から畳んだ布を取り出した。
兄からもらった、水を弾く布。
まだ、袋にはなっていない。
レイは少し考えて、布を針と糸と一緒に鞄の底へ入れた。洞くつの泉がどんなところか、レイは知らない。でも、紙と鉛筆も持っていけば、テンスの花を描けるかもしれない。描けたら、この布で包んで持って帰ろう。今度は、ちゃんと絵のままで。
「レイ、準備できたか」
奥から兄が顔を出した。額のゴーグルは外していて、跳ねた髪はそのままだった。
「うん。兄さん」
「ん?」
「メラ。帰ったら、ちゃんと見てね」
アインは一瞬だけ黙って、それから笑った。
「ああ。今度は、動く的にしようか」
「意地悪」
「冗談だよ。行こう」
兄が戸を開けると、朝の光が差しこんできた。川のほうから、さっきの男の子の声がかすかに聞こえた気がした。
レイは鞄の紐を握り直して、兄の背中について家を出た。