――― コンコン ―――
机に向かっていたカムイは、ドアをたたく音で、顔を上げた。
時計を見れば、深夜2時を回っていた。
こんな時間に誰だろう?と首を傾げる。
リーバー班長かな? でも、彼ならノックしたあと、直ぐに入ってくるし。
「はい。どうぞ」
入室を許可した。
ここが自分の家で、家にいるヒトは決まりきっているのに、徹夜続きのカムイにはそこまで頭が回らなかった。
ドアが開けられ、入って来た人物に目を丸くした。
もう寝てしまったと思っていたリナだった。
「こんな夜遅くにごめんなさい。 兄さん、起きてるようだったから、夜食持ってきたの」
「いただくよ。ありがとう」
カムイは微笑んで、コップを貰う。
いつもはコーヒーを愛用しているが、中身はココアだった。コーヒーに入ったカフェインを気にしてのことだろう。
「落とさないようにね」と一言添えて、机に置かれた小皿には、数枚のビスケットがある。
置き終えても、リナはお盆を胸に抱いて、その場でそわそわしていた。
カムイは、一口、ココアを飲む。
「――― ズズッ ―――」
決して、お盆が
何かを言いたそうにしているのに、なかなか口に出さない。どう言葉にしていいのか迷っているときに、よくするリナのクセだった。
なので、こちらから話を振ってみる。
「どうしたんだい? リナ」
迷いに迷って、リナは口を開く。
「あのね、兄さん。 神田の事なんだけど」
「神田君?」
カムイは首を傾げて、ハッとした。
「ま、まさか。神田君に何かされたのかい!?」
信頼は置いているとしても、かわいいリナに手を出さないワケがない!
どこから、ともなく持ってきたヘルメットをかぶり、ドリルを持つ。
「ち、違うわよ! 兄さん!」
出撃モードのカムイを、リナは
カムイが落ち着いて話が出来るまで、数分を
***
「――― なるほど。最近、神田君が学校に来ていないんだね」
「そうなの」
ズズッとココアを飲む。
最終的に、リナは持っていたお盆で、頭を叩くことでカムイを落ち着かせた。頭に小さなタンコブが出来ていることも追記しておく。
「最初は無断欠席だったんだけど、1週間ぐらいで、風邪で欠席ってなったから、心配して神田の家に行ってみたの。でも、いなくて。マリさん――神田が住んでるマンションの管理人さん――の話だと、しばらく用事で家を空けるって言ってたみたい」
カムイはリナの話に耳を傾け、「フムフム」と
「それに、前にもこんなことがあったって。家にもいないし、電話にも出ないし・・・兄さん、何か知らない?」
カムイは黙り込んだ。
知っていると言えば、知っている。
ただ、リナには知られたくない
リナ自身、
それでも、ずっと守り続けていたヒトをこんな所で、失いたくはなかった。
「――― いや、知らないよ」
「本当に?」
リナはカムイを探る。
カムイの胸の奥に、ツキンと痛みが走る。
「うん」
「本当の本当のッ、本当の本当のッ、本当の本当にッ」
リナは顔を近づけ、真相を探ろうとする。
「知らないッ!!!」
カムイも負けじと返す。
リナは、むー。と
カムイは、もうこの話は、おしまい! とパンパンと手を叩くと、リナを部屋から追い出す。
「さ、もう遅いんだから、リナも寝なさい」
「ちょ、兄さん! 本当に知らないの!?」
リナはドアに張り付き、背中を押すカムイに対抗する。
「知らないよ!」
やっと、部屋の外へ出して、ドアを閉める直前に、
「夜食ありがとう。 おやすみ、リナ」
優しく声をかける。
「・・・」
リナはポカンと兄の顔に見とれてしまった。
パタンとドアが閉められる。
ハッと気が付き、話をはぐらかされてしまったことと、不覚にも優しい声と笑顔に見とれてしまったことに、口を
仕方がなくリナは大人しく部屋に戻り、ベッドの中に潜り込む。
段々と落ち着いてきて、兄の顔を思い出し、顔を真っ赤にする。
「もー。別の意味で眠れないじゃない」
布団を顔の半分まで上げ、目を閉じた。
***
パタンとドアを閉める。
やがて、足音が遠ざかるとカムイはドアを背に座り込んだ。
「・・・リナに嘘ついちゃった」
ぽつりと
机に広がるのは、とある事件の報告書だった。
それは、リナが知りたかった情報が細やかに書かれている。
もし、リナがそれに興味を持ち、少しでも書類をズラせば、バレていたかも知れない。
カムイは膝を抱えて、すすり泣く。
「―― あなたも、こんな気持ちだったのですか? コムイおじい様 ―――」
***