俺の恋人は永遠に子ども   作:灰恵

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第11夜 守りたいモノ

 

 

 

 

――― コンコン ―――

 

 

机に向かっていたカムイは、ドアをたたく音で、顔を上げた。

時計を見れば、深夜2時を回っていた。

こんな時間に誰だろう?と首を傾げる。

 

リーバー班長かな? でも、彼ならノックしたあと、直ぐに入ってくるし。

 

「はい。どうぞ」

 

入室を許可した。

ここが自分の家で、家にいるヒトは決まりきっているのに、徹夜続きのカムイにはそこまで頭が回らなかった。

ドアが開けられ、入って来た人物に目を丸くした。

もう寝てしまったと思っていたリナだった。

 

「こんな夜遅くにごめんなさい。 兄さん、起きてるようだったから、夜食持ってきたの」

「いただくよ。ありがとう」

 

カムイは微笑んで、コップを貰う。

いつもはコーヒーを愛用しているが、中身はココアだった。コーヒーに入ったカフェインを気にしてのことだろう。

「落とさないようにね」と一言添えて、机に置かれた小皿には、数枚のビスケットがある。

置き終えても、リナはお盆を胸に抱いて、その場でそわそわしていた。

カムイは、一口、ココアを飲む。

 

「――― ズズッ ―――」

 

決して、お盆が(うらや)ましいとは思っていない。いないったら、いない。

何かを言いたそうにしているのに、なかなか口に出さない。どう言葉にしていいのか迷っているときに、よくするリナのクセだった。

なので、こちらから話を振ってみる。

 

「どうしたんだい? リナ」

 

迷いに迷って、リナは口を開く。

 

「あのね、兄さん。 神田の事なんだけど」

「神田君?」

 

カムイは首を傾げて、ハッとした。

 

「ま、まさか。神田君に何かされたのかい!?」

 

信頼は置いているとしても、かわいいリナに手を出さないワケがない!

 

どこから、ともなく持ってきたヘルメットをかぶり、ドリルを持つ。

 

「ち、違うわよ! 兄さん!」

 

出撃モードのカムイを、リナは(あわ)てて(なだ)める。

カムイが落ち着いて話が出来るまで、数分を(よう)した。

 

 

 

***

 

 

 

「――― なるほど。最近、神田君が学校に来ていないんだね」

「そうなの」

 

ズズッとココアを飲む。

最終的に、リナは持っていたお盆で、頭を叩くことでカムイを落ち着かせた。頭に小さなタンコブが出来ていることも追記しておく。

 

「最初は無断欠席だったんだけど、1週間ぐらいで、風邪で欠席ってなったから、心配して神田の家に行ってみたの。でも、いなくて。マリさん――神田が住んでるマンションの管理人さん――の話だと、しばらく用事で家を空けるって言ってたみたい」

 

カムイはリナの話に耳を傾け、「フムフム」と相槌(あいづち)()つ。

 

「それに、前にもこんなことがあったって。家にもいないし、電話にも出ないし・・・兄さん、何か知らない?」

 

カムイは黙り込んだ。

知っていると言えば、知っている。

ただ、リナには知られたくない事情(じじょう)だった。

リナ自身、蚊帳(かや)の外にいることが嫌なのだろう。

それでも、ずっと守り続けていたヒトをこんな所で、失いたくはなかった。

 

「――― いや、知らないよ」

「本当に?」

 

リナはカムイを探る。

カムイの胸の奥に、ツキンと痛みが走る。

 

「うん」

「本当の本当のッ、本当の本当のッ、本当の本当にッ」

 

リナは顔を近づけ、真相を探ろうとする。

 

「知らないッ!!!」

 

カムイも負けじと返す。

リナは、むー。と(ほほ)(ふく)らます。

カムイは、もうこの話は、おしまい! とパンパンと手を叩くと、リナを部屋から追い出す。

 

「さ、もう遅いんだから、リナも寝なさい」

「ちょ、兄さん! 本当に知らないの!?」

 

リナはドアに張り付き、背中を押すカムイに対抗する。

 

「知らないよ!」

 

やっと、部屋の外へ出して、ドアを閉める直前に、

 

 

「夜食ありがとう。 おやすみ、リナ」

 

 

優しく声をかける。

 

「・・・」

 

リナはポカンと兄の顔に見とれてしまった。

パタンとドアが閉められる。

ハッと気が付き、話をはぐらかされてしまったことと、不覚にも優しい声と笑顔に見とれてしまったことに、口を(とが)らせて地団駄(じだんだ)をふむ。

 

仕方がなくリナは大人しく部屋に戻り、ベッドの中に潜り込む。

段々と落ち着いてきて、兄の顔を思い出し、顔を真っ赤にする。

 

「もー。別の意味で眠れないじゃない」

 

布団を顔の半分まで上げ、目を閉じた。

 

 

 

***

 

 

 

パタンとドアを閉める。

やがて、足音が遠ざかるとカムイはドアを背に座り込んだ。

 

 

「・・・リナに嘘ついちゃった」

 

 

ぽつりと(つぶや)く。

 

机に広がるのは、とある事件の報告書だった。

それは、リナが知りたかった情報が細やかに書かれている。

 

もし、リナがそれに興味を持ち、少しでも書類をズラせば、バレていたかも知れない。

 

満身創痍(まんしんそうい)の神田が瓦礫(がれき)の中で倒れている写真を。

 

カムイは膝を抱えて、すすり泣く。

 

 

「―― あなたも、こんな気持ちだったのですか? コムイおじい様 ―――」

 

 

 

 

***

 

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