「おっはようさ~」
リナは声を掛けられ、ハッと気が付く。
「おはよう。ディック先輩」
「どうしたんさ? リナ? 顔赤いさ?」
「ううん。なんでもないの」
リナは慌てて、ぶんぶんと手と首を横に振る。
「そうさ? それと、二人の時は、呼び捨てで構わないって」
ディックは席に座る。
「わかってるわよ。 でも、さすがに学校で“会長様”を呼び捨てにできるほどバカじゃないわ」
ディックはニヤっと笑う。
そう。ここは生徒会室。
学校のアレコレや予算を決める大事な役所だ。ここの学校は生徒会員の推薦によりメンバーを選ぶことが出来る。ディックは一年の頃に声をかけられ、先日生徒会長になったのだ。そして、生徒会役員を生徒会長が選ぶことが出来る。
その一人がリナ・リーだった。
「俺もやっと、会長さぁ」
デレデレと顔を
「はいはい。 コレ、次の議会で通す予算案ね」
トントンと分厚い紙束を机で整え、ディックの頭をバシっと叩く。
「イテっ、イッタイさぁ」
神田の手刀よりは痛くはないものの、痛いものは痛い。
ディックは頭を
「相変わらず、多いさねぇ」
書類をパラパラとめくっていく。
「ディックは中学の時も、生徒会員だったのよね?」
「そうさぁ。でも、中身はこっちの方がぎっちりしてるさ」
最後まで目を通すと、会長印を押して、“済”にした。
リナは最初、そんなパラパラと見ただけでちゃんと中身を理解しているのかしら。と不思議に思っていたが、ディックの瞬間記憶能力に舌を巻いた。
計算も暗算でしてしまうから、他の子のミスにすぐ気が付いてしまうのだ。
『でも、俺、瞬発力には長けてても、持続力には欠けるから、家業は継げないんさ』
以前、「ディックの記憶力ってすごいわよね」って言ったら、寂しそうに答えた。
彼の家業は記憶力に優れているだけでなく、洞察力や判断力が的確でないと、継げないらしい。
「どんな家業なのよ」と聞けば、「俺も詳しいことは知らないんさ」とはぐらかされてしまった。
いや、この場合、本当に知らされていないのかもしれない。
「そいや、リナ」
「何?」
「はい。お土産」
「私に?」
鞄から取り出したディックは、リナの机にコトンと置いた。
綺麗にラッピングされているお土産は、固い音が聞こえた。
「どうしたの? コレ」
「親父のお土産。 香水だって」
昨日の今日に別れたばかりなのに、海外のお土産? と思ったら、家族からのお土産ね。
「悪いわよ。 あなたに買って来たんでしょ?」
「俺が使うより、リナに使ってもらった方が嬉しいさ。それに、あげていいって許可貰ってるから大丈夫さ」
「そう・・・開けていい?」
「どうぞどうぞ」
リナは袋を開けてみると、綺麗なビンに入った香水を見て、感激した。
「まぁ! ステキ!」
「でしょ?」
「香水とは思えないわ。まるで、魔法の小瓶みたい!」
「ここの香水って、数十種類の綺麗なビンから、オーダーメイドで選べるのが売りで、女性に人気なんさ」
「中身が無くなっても、こんな素敵なモノが残るのね」
「気に入ってもらえたさ?」
「もちろんよ! ありがとう!」
うんうん。とディックは頷いた。
「ディックのお父さんにありがとうって伝えてくれる?」
「もちろんさ! 親父もきっと喜ぶさぁ」
中に入っていた札を見れば、メイドイン・マレーシアと書かれていた。
「あら、マレーシア産なのね」
「ん? ああ、そうさね」
「ディックのお父さん大丈夫だった? 今、向こうはすごい被害受けてるでしょ?」
「ああ、大丈夫だったさ。ピンピンしてんもん」
手をひらひらさせて、大丈夫大丈夫と言った。
「まぁ、いつ帰って来るか分からねぇ親父が、何事もありませんでしたって顔で、朝食食ってたのは、さすがに驚いたさぁ」
あん時、マジでビビったんさ。と照れながら頭をかく。
「そう。お父さん、旅行から帰って来たのね」
幸せそうなディックの顔に、リナもつられて微笑んだ。
***
ピッ ピッ
心音を伝える機械の音が病室に満ちる。
ピクッ
白いベッドに眠る、そのヒトの指先がかすかに動く。
――― ココ・・・・ドコ・・・・? ―――