俺の恋人は永遠に子ども   作:灰恵

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第13夜 お見舞い③

 

 

 

 

「リナ。家まで送るさぁ」

「ありがとう。でも、その前にお見舞いに行ってもいいかしら」

「お見舞い? 誰か入院してるんさ?」

「ええ。 神田の大切なヒトがね」

「ユウちゃんの?」

 

ディックは目を丸くした。

 

「ええ。ずっと家に帰って来てないなら。きっと、アレン君の所にも行ってないと思って」

「・・・アレン・・・」

 

ディックは呟く。

ユウちゃんの大切なヒトの名前。

ディックは新たな情報を手に入れた。

 

「神田が昔っから、会いに行ってるヒトなの」

「どんなヒトなんさ?」

 

普段から他人と関わろうとしない、あのユウちゃんが通い詰める相手。

俺は“アレン”がどんな人なのか、好奇心(こうきしん)()いた。

 

「知らないわ」

「え?」

 

思ってもいない答えが返ってきて、ディックは驚く。

 

「で、でも、リナはその“アレン”って人に会ったこと、あるんだよな?」

「ええ。でも、直接会って、話したことはないの」

「ますます、解らなくなってきたさ」

 

一体、どんなヒトなんさ?

 

「アレン君は、ずっと眠っているの。だから、私はアレン君と会って“話した”ことはないわ」

 

なるほど。植物人間ってわけか。

 

「だから、会っているけど、その人がどんな人柄なのかはわからない、と」

「ええ。アレン君を知っているのは、神田だけ。兄さんも私も、時々アレン君の事を話す、神田の話を聞いただけ」

 

夕日が電車の窓から差し込む。

光に照らされるリナの顔が、とても寂しそうに見えたのは、きっと夕日のせいではないだろう。

 

 

 

***

 

 

 

電車を乗り継ぎ、病院へ。

 

「面会手続をお願いします」

「はい。では、こちらに必要事項をお書きの上、こちらへお持ちください」

 

用紙を受け取り、二人はそれぞれ書く。

 

「・・・あら?」

 

二人の用紙を受け取った受付嬢は、中身を確認すると、何かに気が付いたようだ。

 

「どうかしましたか?」

 

リナは、記入漏れがあったかしら? と考えを(めぐ)らせ、なかったことを思い出す。

 

「いいえ。 今日はやけに、ここの患者さんに、お会いされる方が多いなと思っただけよ」

 

はい、どうぞ。 と二人分のカードを受け取る。

 

「あの、それって・・・もしかして“神田”ってヒトですか?」

 

私たち以外にアレン君のところを訪れるのって、まさか・・・

 

「んー。・・・違う(かた)ね。 神田さんなら、ここしばらく来てないわ」

「そうですか」

 

リナは落胆(らくたん)した。

 

 

 

 

***

 

 

 

受付を済ませると、リナはこっちよ。と案内する。

アレンという人物が眠っているという病室のセキュリティにディックは目を見張る。

要人(ようじん)か芸能人が入院するときに使用する病室だからだ。

 

「(いや、ユウちゃんがブラックVIPパスを持ってる時点で予想できたことか)」

 

どんな人なんだろう? と高鳴(たかな)る胸を落ち着かせる。

リナはドアをノックしてから、カードで鍵を開け、中に入る。

外から直接ベッドが見られることがないように仕切られたカーテンを()け、視界に飛び込んできた(しろ)き人物にディックは固まった。

 

「(やばいさ。 すごく綺麗さ)」

 

ディックは、入る前に落ち着かせた胸の高鳴りを再び燃え上がらせた。

老人を思わせる(しろ)い髪は、光に反射してプラチナに輝き、左頬に走る傷も彼の顔の美しさを引き出すオプションでしかない。

 

「(やばい・・・ストライクゾーン、ど真ん中さ)」

 

バクバクとうるさい心臓をギュッと掴むように胸を押さえる。

 

「(この人、本当に男さ? ・・・もったいないさ)」

 

真新しい花束が生けられている。

リナはその隣に新しい花瓶を取り出し、途中で買って来た花束を生けた。

 

「あら?」

 

ディックはリナの声で、現実に引き戻された。

 

「ど、どうしたさ?」

 

まだ、高鳴りを押え切れておらず、声が震えた。

リナは腰を折り、床から何かを拾い上げた。

 

「誰かしら、落したままにしたのは」

 

それは人形のようだ。

汚れを落とすようにパンパンと叩く。

誰かによく似た、黒いぬいぐるみ人形。

 

「ひょっとして、それってユウちゃん?」

「ええ。そうよ」

「よに似てるさぁ」

「ありがとう。看護師さんからも、評判がいいのよ」

 

リナは笑って、人形をサイドテーブルに置いた。

ディックは首を傾げた。

どうしてリナは自分の事のように喜んだのだろう? リナが、選んでかったものなのか、それとも・・・

 

「リナが作ったものなんさ?」

 

リナがパッとこちらを見た。

その様子から、予想が当たったことを確信した。

 

「よく分かったわね」

 

ニコッと笑って、人形の頭を撫でた。

 

「売り物だったら、タグがついてるさ。でも、それには付いてないし、それに・・・これだけ似てるんさ。手作りじゃなかったら、ここまでできないさ」

 

リナは、パチパチと(まばた)きをすると、それもそうね。と笑った。

 

「神田は高校に入る前から仕事をしていて、その関係で、中々お見舞いに来れない時があるのよ。その間、きっとアレン君、寂しがるだろうなぁっておもったの」

 

神田似の人形を見て微笑んでいる。きっと、当時の事を思い出しているのだろう。

 

「コレを作り終えてから、片方だけだとなんだか寂しくなっちゃうかな?って思ったから、もう一つ作ったわ」

「ユウちゃん似の?」

 

リナは首を横に振る。

 

「ううん。アレン君似の」

 

その時の神田の顔を思い出し、くすっと笑う。

 

「神田があんなに喜んでくれたのが、初めてで・・・本当に作って良かったって思えたわ」

「そうなんさ」

 

チクチクと別な痛みが胸を襲う。ディックはそれを振り払う様に首を振った。

 

 

 

 

***

 

 

 

「ただいまさぁ」

 

ディックは自宅に帰宅した。

 

「おぅ。おかえりディック」

 

ディックは鞄をおろし、父の元へ。

 

「ちゃんと、渡せたんさ?」

 

息子のディックの特徴的な口調は、父親のラビから来ていることは御分(おわ)かりだろう。

普段は寮生活をしているディックは、2日続けて自宅に帰宅した。

わざわざ、学園外の自宅に帰ってきたのは、ラビがいるからだった。

正確にはラビが持ってくるお土産や土産話が目的だったりする。

 

「なあなあ、今日から休みだし、いっぱい旅先であったことを聞かせてほしいさ」

「しょうがないヤツだなぁ」

 

ディックは目を輝かせた。小さなころからラビの冒険譚を聞くのが好きだった。

知らなかったことを知る。

それは何より、ブックマン一族の(さが)と言えよう。

ラビの話を聞き、自分も話をする。

ディックは学校のことでは、リナや神田の事を話した。

 

「へえ。 アレンに会ったんさ」

「うん。 すっげー美人だったさ」

 

ほわほわと、アレンの顔を思い浮かべるディック。

鼻の下が伸びてるさ。とラビは笑った。

 

「男なのがもったいないさ」

「まぁ、見た目はアレでも、性格がキツイらしいからなぁ」

 

ん? とディックは首を傾げた。

神田と仲が良い(少なくともディックはそう思っている)俺が知らない情報をラビが持っていることに疑問を持つ。

 

「どんな性格なんさ?」

 

パチリと目が合う。

 

「お前、神田と仲がいいんだろ?」

「そうさぁ」

 

それとこれとどう繋がるんさ。 と一瞬思った。

でも、待てよ。こういう会話を前にどこかで・・・とまで考えてから、思い出した。

リナが言ってたさ。アレンの事はユウちゃんしか知らないって。

 

「そうか。ユウちゃんはアレンの事、知ってるさね」

「そういう事さ」

 

ラビは満足げに頷いた。

 

「でもズルいさ! ちょっとぐらい教えてくれたっていいさ!」

 

ディックはラビにねだる。

首を揺すられ、ラビは「首が、首が・・・」と声を上げる。

 

「自分で調べろさ!」

 

ラビはディックの頭を殴り、止めさせた。

 

「えーー」

 

ディックは頬を膨らます。

 

「膨れてもダメさ」

「ケチ」

「“Jr.”として、これ以上は言えないんさ」

「・・・」

 

ラビの悲痛な思いに、ディックは押し黙った。

 

 

 

―――“Jr.”―――

 

 

 

それは、裏歴史を記録するブックマンの後継者であり、ラビには()れて、ディックにはなれなかったモノ。

 

「・・・分かった。自分で調べる」

 

ディックは立ち上がり、リビングから出て行く。

傷つけると解っていても、規則だからどうしようもなく。

ディックが出る直前に声を掛けた。

 

「無茶はするなさ!」

 

静かに閉じられる扉は、拒絶されているようで・・・ラビは顔を歪ませた。

 

 

 

 

 

 

「じじぃ・・・キツイさ・・・」

 

 

 

呟きは誰にも聞こえることなく、部屋に溶けて消えた。

 

 

 

 

***

 

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