俺の恋人は永遠に子ども   作:灰恵

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第14夜 目覚め

 

 

 

 

聞こえない音が耳に届き、ピクリと動く。

 

「!!」

 

気配を感じとり、カッ!と目を開くと、見覚えのない場所。

 

「(いや・・・)」

 

周囲をよく見渡せば、ここが学園地下に存在する医療室だと、ようやく理解した。

 

 

 

ピッピッピッ

 

 

 

俺の意識が目覚めたことで、機械が認識し、自動的に医療用ポッドの水が抜ける。

顔が水から出ると、俺は酸素マスクを外した。

完全に中から水が抜け、ポッドのドアのロックが解除される。

ドアを押して、外へ出た。

 

「(今・・・いつだ?)」

 

ボーとする頭を振り払い、フラフラと歩く。

近くの籠の中に服が置いてあった。いつ目が覚めてもいいように準備しておいたのだろう。

タオルで体の水をふき取り、服を着る。

冬服の学生服だった。

 

「(前は衣替えしたばかりだったから、結構、経ってるな)」

 

服の下に貴重品が隠されていた。

金の懐中時計を見ると、時刻は0時0分1秒。

 

「(やっと、ここまで来た)」

 

俺は目を細めて、それをポケットにしまう。

懐中時計と一緒に置いてあった小さなメモ紙を見つけ、開く。

 

 

「なっ!!!」

 

 

メモ紙を握りしめ、走り出す。

 

 

 

 

―――― アレン君が目を覚ました。 By.カムイ

 

 

 

***

 

 

 

地下から地上に出ると、アレンがいる病院だった。

 

「きゃ! 大丈夫ですか?」

 

長い間、寝ていたのが原因だろう。体に力が入らずフラフラしている。

なんとか手すりを頼りに走るも、おぼつかないのも確かだ。

何度か患者やナースにぶつかった。

 

心配する声も視線も、今の俺には余裕がなかった。

 

 

――― 会いたい ―――

 

 

エレベーターに入りボタンを押す。

 

 

――― あいたい ―――

 

 

エレベーターがついて、扉が完全に開く前に、手をかけ、体を(すべ)り込ませながら外へ出る。

 

 

――― アイタイ ―――

 

 

いうことを聞かない体に舌打ちをする。

 

 

――― 会って・・・ ―――

 

 

やっとの思いで、病室の前にたどり着いて、

 

 

――― 会って・・・どうする? ―――

 

 

施錠(せじょう)されていることも忘れて、扉を引いた。

ガシャン と音を立てるだけで扉が開かない。

 

魔が差した思考に、俺は唖然とする。

 

 

――― 会って、どうしたい? ―――

 

 

俺は・・・

 

 

 

力が抜けて、とってから手を放す。

 

 

 

俺は ―――

 

 

 

答えが出る前に、扉が開いた。

 

 

「神田君」

 

 

カムイは扉の前に突っ立っている神田に、目を見開いた。

 

「やっと起きたんだね」

 

カムイは小さくつぶやくと、神田が目を覚ましたことにホッとした。

彼は今まで、地下にある特別治療を受けていたのだ。

 

「さ、中に入って神田くん。 ご対面だよ」

 

カムイは明るく答えて、神田を招き入れた。

 

 

 

「あ・・・」

 

 

 

ずっと会いたいと願っていたアレンは、ベッドからこちらを見ていた。

アレンの他に、リナやディックの姿もある。

さっきまで、楽しく話していたのだろう。

しん と静まり返った部屋は、俺に苦痛をもたらせた。

 

 

「えと・・・神田ユウさん・・・ですよね? この人形の・・・」

 

 

人形?

 

アレンが見えるように腕を持ち上げると、手の中にいる、俺によく似た人形が目に入った。

 

「あぁ・・・」

 

喉がカラカラで、やっと絞り出した。

 

 

一歩

 

 

二歩

 

 

アレンに近づく。

 

 

 

「その・・・僕、長い間眠っていたせいか、記憶がほとんどなくて・・・」

 

アレンは、おろおろと視線を彷徨(さまよ)わせ、言葉を選ぶ。

 

「あなたのことも、よく覚えていないんです。・・・ごめんなさい」

 

アレンは静かに目を閉じ、頭を下げる。

 

「・・・覚えてない?・・・」

 

アレンはビクッと体を震わせる。

 

 

なんだ、それは・・・

 

 

「神田! こればっかりは、仕方(しかた)がないじゃない! アレン君だって、ここ数日、思い出そうと一生懸命に頑張ってるんだから」

 

リナはアレンをかばうように前に出た。

 

「・・・ごめんなさい」

 

アレンは(さら)に、しゅんと肩を(ちぢ)ませた。

 

「ユウちゃん、気持ちもわかるけど、気長に待とうさ」

 

ディックも、アレンの肩を持つ。

 

「・・・アレン君」

 

カムイに呼ばれ、アレンはそちらを向く。

 

「直接、神田くんと会ってみて、どうだい?」

 

気まずい雰囲気を壊すように、カムイは助け舟を出した。

 

「んー・・・っと」

 

アレンはじっと神田を見つめる。

不思議そうに見つめるアレン。

 

「えっと、懐かしい感じがします」

 

アレンの言葉に、リナとディックは明るくなった。

 

「お! これは脈ありさね!」

「ええ! 本当に!」

 

何も言わない神田に、カムイは顔を覗き込んだ。

 

「神田くん?」

 

 

 

――― 喜ばしいことなんだ。

 

大っ嫌いなひとのことを忘れているから。

 

 

――― 嬉しいはずなんだ。

 

目が覚めたことに。

 

 

――― なのに・・・

 

この感情は・・・なんだ?

 

 

「・・・知らねェ」

「え?」

 

カムイは神田の漏れた言葉に驚く。

 

 

 

「俺はお前なんて、知らない」

 

 

 

神田の一言に、その場が凍りついた。

リナもディックも信じられないという顔で神田を見る。

カムイだけは、難しそうに眉をひそめる。

 

「かん・・・」

 

神田は、アレンに背を向けると立ち去った。

その背中は、拒絶されているようで、待って。と言葉が続かない。

 

「・・・」

 

伸ばした手も届かない。

アレンはゆっくりと、手を下ろす。

 

「な、なんなのよ! 神田は!」

 

早くも立ち直ったリナは、怒りを爆発させた。

 

「ま、待つさ! リナ!」

 

追いかけて(なぐ)()ばす(いきお)いのリナをディックは羽交(はが)()めにして、取り押さえる。

 

(はな)して! ディック!」

「落ち着くさ! リナ!」

「兄さん! 神田を連れ戻して来て! 一発(いっぱつ)(なぐ)ってやるんだから!」

「え、あ・・・」

 

カムイは、リナと神田が出てったドアを見比(みくら)べる。

 

「兄さん!」

「う、うん。分かった・・・」

 

迷う兄に、(かつ)を入れる。

カムイは巻きなおした人形のように動きだし、ドアを開ける。

 

「!」

 

ドアの前で固まっているカムイに、二人は顔を合わせた。

 

「ラビ・・・」

「俺が行くさ。カムイ」

 

そこには、ディックの父、 本田ラビがいた。

 

親父(おやじ)

 

ディックは思わぬ人物に驚きを隠せない。

やっと、冷静になったカムイは、ラビにお願いした。

 

「頼めるかい?」

「任せろさ!」

 

ラビはニヤッと笑うと、手を振って神田を追いかけに行った。

 

アレンはきゅっと唇を噛みしめ、不安に駆られたまま、ギュッと人形を抱きしめた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

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