俺の恋人は永遠に子ども   作:灰恵

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第16夜 距離感

 

 

 

 

検査を終えた神田は、カムイから結果を聞いていた。

 

「傷の方もしっかりと塞がってて、臓器も機能してるから、肉体の方は問題ないよ。 いや~、ちゃんと治って良かった。よかった。 数か月前に君が運ばれたときなんて、“ひょっとしたら”なんて、思えるぐらいに体が崩壊してたからねぇ。僕が作ったメディカル・コムリンでも治るかどうか、心配だったんだよ~」

 

キリっと神田の状況を告げていたカムイは一通り話し終えると、安堵(あんど)して、いつもの調子で話した。

 

「それはもういい。 アレンの方はどうなんだ?」

 

検査結果を聞き終えたところで、まだ続くカムイの話を、イライラしながら聞き、早くアレンの事を話せ! とガンを飛ばす。

そんな神田の様子にカムイは笑う。

 

「大丈夫、大丈夫。 リハビリもうまくいってるから、来年の春には学校に行けるよ」

 

通院はしてもらうけど。

 

「そっちを聞いてんじゃねぇよ」

 

つか、学校に行かせんのかよ。

 

「言ったろう? リハビリもうまくいってるって。長い間、眠っていた人間とは思えないぐらいの回復力だよ」

 

そこまで言って、あ。と気が付く。

 

「ごめん、失言だったね」

「別に。事実だろ」

 

急にガンを飛ばすことを()めた神田に、カムイは謝る。

神田は黒の教団の負の遺産『第二使途計画』の被検体として生まれ、(いにしえ)契約(けいやく)により、アレンと同様にヒトの形をしたイノセンスとして、生まれ変わった。

二人ともヒトとして生きているのに、ヒトでないもの(バケモノ)と言われれば、傷つかないわけがない。

しかし、カムイを失語させるほど、今回の回復は目を見張る思いがあった。

 

「――― 記憶の方は?」

 

神田が恐れているのは、むしろ、そちらの方だった。

記憶を失う前のアレンを知っている神田にとって、記憶を失くした今のアレンとのギャップに戸惑い、未だに距離感が(つか)めずにいるのだ。

 

「私生活をする分には問題ないよ。 こちらの常識が時々解らないこともあるだろうけど、そこは、ちゃんと教えるとしっかりと覚えられるし、学力も悪くない」

 

平均か、ちょっと下回るぐらい。

 

「その辺は、ディックやリナが交互に見ているから、もっと伸びるよ」

 

生活面は問題なしか。

神田はホッとした。

いや、問題があるのは、むしろ・・・

 

「むしろ、問題があるのは、“何一つ、自分の事を覚えていない”ってことかな。アクマやノアの一族のことはもちろん、14番目のことも、自分の名前すら覚えていない状態で、目が覚めたらしくてね。それも、目が覚めたこと自体、気づくのが遅れてしまったんだ」

 

すまない。と言って、頭を下げる。

黙って話を聞いていた神田は、眉間を寄せた。

 

「・・・なんで、遅れた?」

 

神田の低い声に、カムイはビクッと体が跳ねる。

 

「え~とね。神田君が運ばれて来た時期と、アレン君が覚醒(かくせい)し始めた時期が重なってね。たぶん、これは推測(すいそく)なんだけど、神田君がアクマを倒した直後から、脳が覚醒する準備に入って、それが落ち着くまで、寝たり起きたりを繰り返してたんじゃないかな~って」

 

あくまで推測の領域です。ハイ。

 

「・・・」

 

神田は目を閉じ、考える。

 

「その推測は合ってると思うぞ」

 

目を(ひら)き、答える。

 

「やっぱり、そう思うかい?」

 

ああ。と神田は頷く。

 

「しっかし、それで良く気が付いたな」

 

神田の機嫌も段々良くなっていく。

 

「リナが毎日、お見舞いに来てくれたんだよ。初めは小さな違和感だったんだけど、それが日を追うごとに強くなってね。神田君の治療が(とうげ)()えた時に、(あらた)めて、検査したら・・・」

「発覚したってワケか」

「ハイ。ソウデス」

 

カムイは神田の言動が気になっていた。ギュッと目を閉じ、覚悟したが怒るわけでも怒鳴るわけでもないので、そっと、片目を開けた。

 

「怒らないのかい?」

「理由が理由だからな」

 

怒って欲しいのか?

滅相(めっそう)もございません。

 

「むしろ、他のヤツに預けなくて感謝してる」

 

スッキリとした顔で言われ、カムイは(ほう)けてしまった。

 

「リーバー班長や婦長さんとかが、他のドクターの手から守ってくれていたからね」

 

とても自慢できる仲間だ。

神田はフッと笑った。

 

「そうか」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

――― 退院当日

 

「神田の家に入るのは、初めてなのよね」

「前に来たときは、中まで入れなかったんさ」

「そうなんですか?」

「ええ」

 

長い入院生活を終えたアレンは、身元引き取り先の神田ユウの所で、住むことと成った。

名字がなかったアレンは“神田アレン”になった。

 

「広っ!!」

 

ディックは部屋の広さに声をあげる。

 

「うわぁ・・・すてき」

 

リナはこんな家に住めるなんて。と(あこが)れた。

 

「相変わらず、殺風景な部屋さね」

 

ラビは“何もない”とも言える、必要最小限のものしか置いていない部屋を見て呆れた。

 

「うるせぇよ。 オラ、運べ」

 

病院と神田の家まで、送り迎えを買って出たのはかって出たのは、ディックのお父さんの本田ラビさん。

仕事が休暇だから手伝うさ。とご親切に手伝ってくれました。

 

「ここがアレンの部屋? 何もないさ」

「あら、本当」

 

ディックとリナはアレンの部屋だと(あて)がわれた部屋を覗いた。

ベッドと机とイスしかない部屋はシンプルすぎる。

 

「しかも、これって有印商品さ。味気がなさすぎないさ?」

「あら、そう? 私は有印のモノって好きよ」

「ユウはごちゃごちゃしたのが嫌いなんさよ」

「うわぁ! ステキな部屋ですね!」

 

ラビとアレンが部屋に入って来た。

アレンは目を輝かせて、ベッドに腰掛け、まだ手放せない松葉杖を足元に置く。

ベッドの布団を()で、手になじむ(やわ)らかさにうわぁと感激した声を()らす。

木材を使った家具は、温かみが感じられた。

 

「本人には好評みたいさよ? ユウ」

「そうか」

 

最後にひょっこりと神田が顔を出す。

 

「ありがとうございます。 神田」

 

立ち上がろうとしたアレンを、神田は手で止め、「いい、そのままで」と言った。「なら、お言葉に甘えて」と、アレンは座ったまま、頭を下げた。

 

「必要なモンがあったら言えよ。 (そろ)えるから」

「わかりました」

 

アレンは頷いた。

 

 

 

 

――― 台所

 

 

リナ「うわ! ちょっと神田! 牛乳の賞味期限が数ヶ月前じゃない!」

神田「ああ、忘れてた」

リナ「もう!」

 

 

 

 

――― リビング

 

 

「さすがに、床はルンバで掃除してっからないけど、(ほこり)っぽいさね」

 

ラビは数少ない家具の上に溜まった埃を指でなぞり、ふぅ と吹き飛ばす。

 

「ユウちゃん、学校にも来てなかったけど、家にも帰ってなかったんさ?」

 

ディックがキッチンにいる神田に呼びかけた。

 

 

「ああ」

 

 

「えぇー。 マジで?」

 

信じられないさ。とディックは(あき)れる。

 

「まあ、ユウにもいろいろあったんさよ」

 

ラビは笑って、ディックの頭を撫でた。

 

「! (ほこり)まみれの手で触るなさ!」

「残念。こっちの手でした~」

 

ラビのからかいに、ぷー。 とディックは(ふく)れた。

その様子に、ソファに腰かけていたアレンは笑った。

 

 

 

リナ「コーヒー、飲む人ー」

ラビ、ディック、アレン「「「はーい」」」

 

 

神田はアレンにコーヒーを渡すと、自分もソファーの(はし)に座った。

 

「ありがとうございます」

「ああ」

 

 

 

 

――― 今はまだ、この距離だけど・・・

 

――― いつかは・・・

 

 

 

 

 

***

 

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