俺の恋人は永遠に子ども   作:灰恵

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第19夜 クロス、エントリー

 

 

 

 

 

「クロス様」

「アニタか」

 

美しい女性は、長い赤髪の男の(そば)へ寄った。

 

「本当に行かれるのですか?」

「ああ」

 

クロスは酒に舌堤(したつつみ)する。

アニタはクロスがこれから行こうとしている場所が、曰くつきの場所だと言うことを知っていた。

だから、彼の事を心配するのだ。

 

(わたくし)も連れてってはもらえませんか?」

 

クロスはアニタを見て、悲しい目を向けた。

ああ。連れてってはいただけないのね。

 

「本当に、母に似て来たな」

「クロス様」

 

連れて行って欲しい。なにより、大好きな方のお(そば)に少しでも長くいられるように・・・

だって、あそこは・・・

 

「ダメだ。 そうでなくとも、あそこは危険が(ともな)う場所だ。その道中なら、なおさらな・・・」

 

クロスは、くいっと(さかずき)に入った酒を飲み干す。

 

――― 分かっています。でも・・・

 

アニタはそっと、肩に寄り添う。

少しでも、この秘めた思いが届くように。

 

――― それでも、アニタは・・・

 

 

 

明朝、クロスを乗せた船は日本へ出発した。

アニタは船の影が無くなるまで見送った。

 

「・・・どうか。クロス様がご無事におかえりになられますように」

 

マホジャはそんな主を悲痛な思いで見守っていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

クロスは船内の客室で豪華(ごうか)なソファーにゆったりと座り、煙草をふかしていた。

 

「・・・これでいなかったら怨むぞ14番目(ネア)

 

クロス・マリアンは中央庁から“アクマの魔導式ボディ生成工場(プラント)の破壊”命令を受けたことを期に、これ幸いとして、黒の教団に定期報告すら挙げずに“14番目の宿体”を探していた。

 

 

 

 

 

目を閉じれば夜になり、あの記憶を呼び起こす。

 

十年前、とある街で見かけた親子。ピエロの隣で、怒って泣いて笑った栗色髪の子ども。

初めて(・・・)あった時はまだ“アレン”じゃなかった。

マナは過去を忘れないようにと犬に“アレン”と名付けた。その犬が死に、まだ名前がなかった子どもに送られた。

 

(こご)える唇を噛んで、二人が肩を寄せ合う。

 

最後にお前たちを見た日を記憶の底に隠した。

 

 

 

 

 

ドオォン!

 

 

 

 

 

爆発音が聞こえ、慌ただしく駆け回る足音にクロスはドアを見た。

 

『敵襲!! アクマです!!』

 

伝声管(でんせいかん)から聞こえてくる、予想を裏切らない奴らの襲撃にため息をつく。

 

「・・・ったく、穏便(おんびん)にはいかんか」

 

クロスは室内から出る。

 

 

 

 

――― 爆撃は止まない

 

 

 

 

ドオォン!   ドオォン!

 

 

 

 

船を囲み、撃ってくるアクマの群れ。

それらは全てレベル1かレベル2だ。

 

 

「チッ、舐められたもんだな」

 

 

クロスは煙草を捨て、ジャッジメントを構える。

 

 

「失せろ。雑魚が」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「・・・今、なんて・・・?」

「八日前、旅立たれたクロス様を乗せた船が、海上にて撃沈されたと申したのです」

「確証はおありか?」

「救援信号を受けた他の船が救助に向かいました。ですが、船も人もどこにも見当たらず。そこには、不気味な残骸と毒の海が広がっていたそうです」

「クロス元帥はどこへ向かったんですか? 沈んだ船の行き先は、どこだったんですか?」

 

リナリーは厳しい顔でアニタに聞いた。

 

「クロス元帥はそんなことで沈みません」

 

ハッキリと宣言するリナリーに、一同は注目した。

アニタは胸の奥に広がる温かさに、涙を流す。

この子たちは、信じているのだ。なら、私も答えなければ。

 

「マホジャ。私の船を出しておくれ」

 

傍で控えていたマホジャに声を掛ける。

アニタは立ち上がる。

 

(わたくし)は、母の代より教団の協力者(サポーター)として陰ながら、お力添(ちからぞ)えしてまいりました。クロス様を追われるなら、我らが、ご案内しましょう。行き先は日本 ――― 江戸でございます」

 

 

 

 

 

 

クロス様。

貴方を追うことをお許しください。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

――― 仮想19世紀末 ―――

 

 

 

東の果てに位置する島に、日本帝国と呼ばれる島国は存在する。

 

 

――― 日本は、もはや伯爵さまの国。江戸帝都は、その中枢。レベル3以上の高位アクマの巣だ。生きて出られる確率は低い ―――

 

 

進むか。

否か。

 

 

 

「進もう」

 

リナリーの言葉に、行き先は決まった。

 

「ここで戻るなんてできないよ」

 

夜が明け、船に光が差し込む。

 

「戻ったら、ここまで道をなってくれた人たちの命を、踏みつけることになる」

 

リナリーは立ち上がろうと、足に力を入れる。

 

「(足が・・・)」

 

ミランダのイノセンスでも回復してない。強制開放の影響なんだわ・・・

うまく動かせない・・・

 

先のレベル3との戦闘で負った傷は、思ったよりも深い。リナリーは動かない足にもどかしさを感じる。

ぐっと肩を掴まれ、リナリーは驚く。

 

「リナリーに賛成ぇー」

「である」

 

ラビとクロウリーにひょいっと持ち上げられて、立たされる。

ラビもクロウリーもミランダも、皆、笑顔だ。

 

「オレら、ボロボロだけどさ。でも、そこは曲げちゃイカンよな!」

 

船員たちも笑顔で頷く。

 

 

 

 

「行こう。江戸へ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

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