ピンポ~ン
「神田―? いないのー?」
「おーい、ユウちゃーん!」
ベルを鳴らしても、インターフォンに変化はない。
いないのかしら? と顔を合わせる。
ここ数日、学校に出てこない神田を心配して、リナとディックは、神田が住まうマンションの玄関ホールに来ていた。
「なんでユウちゃん、寮生活じゃないんさ?」
「神田が拒んだのよ。人づきあいはニガテだって言って」
学生一人で住まうには、高級すぎるマンション。
主に、教師や学園関係者が住まうところで、一般学生には、無縁の場所だ。
リナは兄のカムイが教師なので、アレンのいる病院の直ぐ側に位置する、マンションに住んでいる。
ディックは学校に近い学生寮だ。
「ますます、ユウちゃんって一体何者なんさ? 一人暮らしで、しかも、学生でここに住むのは、おかしいさ」
「そうねぇ」
実を言えば、リナもあまり神田の事を知っているわけではない。
「兄さんなら、詳しいこと知ってそうね。あとで、聞いてみるわ」
「お! お願いするさ!」
リナが知っていることと言えば、兄さんと同級生なのに、無理して高校に通ってもらっている。と言ったところだ。
それ以上の事は、良く知らないのだ。
***
「すみませーん!」
「はーい」
二人はマンションの管理人に会う事にした。
女性の管理人は、目にクマがあるが、美人な女性だった。
「ここにお住いの666号室の神田ユウさんにお会いしたいのですが、会えますか?」
ディックは部屋番号を聞いて、あれ?なんか、不吉な数字さね。と思った。
「えっと、お二人は?」
「失礼しましたさ! 俺ら、ユウちゃんと同じ学校の友人です」
出てきた女性の管理人の両手を持って、ディックは答えた。
リナはディックに白々しい目を向ける。
「え、えっと。 そ、そうだったの」
ディックの目の輝きに、女性管理人は引いている。
「やめなさい。ディック」
リナはディックの
ぐふ・・・と、うめき声をあげ、その場に座り込む。
「ここ数日、学校に来ていないので、どうしたのかな? と思いまして」
「あら、そうだったの。 私も、ここ数日、会ってなかったのよね。 彼、朝早くから、夜遅くまで、出かけてて、私も、滅多に会うこともなかったから」
管理人も顔に手をあてて、心配した。
「あの、中に入れてもらうことは、出来ますか? 彼、一人暮らしですし、中で倒れていたら、嫌なので」
「そ、そうね」
ちょっと待っててね。と言って、管理人は中に引っ込んだ。
「・・・もう、ディック」
座り込んだままのディックにリナは呆れた。
「ごめんさ。きれいな女性を見ると、つい・・・」
ディックは頭をかく。
「フンっ」
ディックは立ち上がり、そっぽを向いて
「お待たせして、ごめんなさい」
はい! と二人で返事をすると、先ほど出てきた女性の後ろに、
「(おお! デケェ)」
ディックも身長は大きい方だが、なにせ、やせ形のため、彼ほどの存在感はなかった。
「神田の友人だそうだね」
男性は二人に確認した。
「「 はい! そうです!」」
二人は
「彼なら、しばらく空けると言っていたから、部屋にはいないよ」
え、いないんさ? なんで、言ってくれなかったんさ。 水臭い。
「あの、どこに行ったのか、ご存知ですか?」
男性管理人は首を横に振る。
「いいや、そこまでは・・・」
「そうですか」
リナはしょんぼりと肩を落とす。
「いつごろ帰って来るとかも、ないんですか?」
ディックはリナの肩を支えると、男性管理人に聞いた。
「それも、なかったな。 また、フラリと帰って来るだろう」
男性管理人は行方不明の神田の事はあまり気にしていないようだ。
「また? またっていうと、前にもこんなことがあったんですか?」
「ん? ああ、そうだよ。 以前は心配したが、心配かけたなって言って、お土産をたくさん貰ったんだ」
「お土産を、
リナとディックは神田のその姿を思い浮かべようとした。
フッと笑い、二人は顔を合わす。
「ちょっと、想像つきにくいさ」
「そ、そうね」
似合わない。と思ってしまったのだ。
「もうしばらく、待ってみたらどうだ?」
心配なのは変わりないけど、彼の言葉で、もう少し待つことにした。
「はい。分かりました」
「ユウちゃんが戻ってきたら、ここに連絡ください」
ディックは懐から、名刺を取り出した。
リナは、そんなものを持ってたの? と目を丸くした。
あいにく、リナは名刺を持っていなかった。
女性管理人は、慌てて、事務机の中から、名刺を取り出し、交換した。
「はい。かしこまりました」
女性管理人――― ミランダ・ロットー ――― は、笑顔で引き受けた。
男性管理人――― マリ・ロットー ――― も、頷いた。
***
第9夜 神田、行方知らず・あとがき(第8夜 リナの頼み・あとがき 続き)
注意書き:「書き始めたけど、最後まで書けずに、あれ?これってどんな設定で書いたんだっけ?」という、中途半端なものを、落書きのように載せていきます。時間軸などバラバラですので、ご注意ください。
***
【12歳の鎮魂歌~レクイエム】
アレンたちは山小屋で今晩を泊まることにした。
山小屋はかなり小さいが今晩泊まるにはちょうどいい広さで、幸い食事も薪もあり、最近まで使われているようだった。
(ここも、アクマにやられたのか…?)
ここに来る途中でもたくさんのアクマに出会い、心身共に二人は疲れ果てていた。
アレンをベッドに寝かせ、暖炉の傍へ行き荷物の中から本を取り出した。それは、マナが幼きころから書いている日記帳だった。
(…さて、何から書こうかな…?)
考え、書こうとしたとき、マナ?と呼ぶアレンの声が聞こえた。振り返るとアレンがベッドの中からこちらを向いていた。
「また…、日記…?」
「ああ、不満かい?」
小さな声で聞いたアレンに困った顔で答える。
「ううん。だって、それのおかげで今のボクがいるんだもん」
表情を変えぬまま、アレンは首を横にふる。これだけなら普通のこどもとほぼ変わりないだろう。だが、アレンは暗黒の3日間を見た唯一の人間で、そして在ってはならないもの。
「……アレン、ひとつ聞いていいか?」
マナの申し出にアレンは何も疑いもせずに答える。
「うん。いいよ。なに?」
マナは少しためらった。うかつに聞いて良いものなのか?
「アレンは、……そんなに仲間のことが嫌かい?それともわたしのために、仲間のもとに行かないのかい?」
「両方」
アレンは静かに答えた。その答えにすこしためらう。
(仲間が嫌い…?やはり、わたしのため?)
マナはそう思った。
「仲間は大好きだよ。少なからず、今もずっと。でもね、マナのためでもあるし仲間のためでもあるんだ」
アレンは微笑んだ。さびしそうな目をマナに向けて、
「仲間のため?」
マナはポカンとしている。
「うん。教団はエクソシストかもしれないボクを探してる。現にボクはエクソシストだけど、本来、この世界にはいないはずの存在」
(自分で自覚しているのか…)
複雑な顔でアレンの話を耳に傾ける。
「それに、ボクは伯爵を倒すだけの戦力を持っていない。せいぜい、アクマやノアの数人を引き受けられるぐらいしか、ボクは強くない」
爆弾発言をマナは突っ込む。
「アレン、そのぐらいなら十分強いよ?」
「でも、伯爵はそのぐらいでは倒せない。それに、教団に行って、マナを完全に守れる気がしない」
マナもなんて言えば良いのか分からず、沈黙が流れる。
「だから、ボクは賭けをしているんだ」
楽しそうに、
「賭け…?」
「うん。教団がこのままあきらめずにボクを探しだし見つけるか、倒せるだけの戦力を集め終わったボクが自ら名乗り挙げるか、賭けをしてるんだ。だから、見つかるか見つからないかの微妙なところをボクは隠れているんだ」
嬉しそうに答えるアレン。
「期待、をしているんだね。それとも希望かな?」
「ん?両方!!」
ニヤッと笑うアレン。
無邪気に笑うその顔は、とても愛しくて守ってあげたい。そんな笑顔。
汚(けが)してはならない。汚(よご)してはならない。
守られながら、守りながら。
私たちは生きてゆく、立ち止まらず歩き続ける。
To be continued.