それは、あり得るはずのない物語。都合のいい御伽噺。けれど、助けを求める声は”彼”に届いた。

 

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ドーモ。読者=サン。

初めましての方は、初めまして。いつもご愛顧いただいていらっしゃる方はありがとうございます。今作はアニメ版艦これ3話をみて、なんともいえない気分になっためんつゆがダッシュでかき上げた作品となります。ご都合主義満載、アラのある展開などございますが、読んで、少しでも楽しんでいただければ幸いに存じます。

では、お楽しみください。


陽の益す月と争うための機械のお話

 

 

 

 

 

 全身を激痛に苛まれ、ぼやけた視界で水面を見上げた少女は、伸ばした手の先から降り注ぐスポットライトのような陽の光を浴びて自らの運命を悟る。

 

 

「……のこと忘れないで……ね」

 

 

 絞り出すようなそのつぶやきが海を木霊する。沈みゆくその悲しい声は、泡に紛れて消えてゆく―――筈だった。

 

 

 

◆                 ◆

 

 “ここ”とは違うどこか荘厳な装飾に包まれた王座で、泡を食った兵士が自らの主に一報を伝える。

それをうけて普段は、冷静沈着なはずの王が驚きから大声を上げる。

 

「…………王ッ!宝物庫にて、キューブがっ!封じてあったはずの“キューブ”が謎の光を放っております!!」

「なんだとッ!!」

 

 

◆                 ◆

 

 

この途方もなく広い世界のどこかで神も悪魔も知らない、偶然という奇跡がなければ。

 

誰に届くことも無く消えてゆくはずの想いが。

 

助けを求める悲痛な叫びが、今“誰か”に届く。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴオオオオッ!!という爆音を立てながら次々と後ろに抜き去っていく雲を疲れた視線で眺めながら、男は陰鬱な気分を吹き飛ばすようにさらに期待の速度を上げる。

それに気が付いたAIが無機質な音声を告げた。

 

【中佐。この速度ですと予定時刻の1600時よりも一時間以上早く到着する見込みです。その際の、エネルギー消費は当初の約30%増加となります。“当機”としては緊急事態に備えて速度を落とすことを……】

 

 口うるさい、AIに思わずむっとなった男が愚痴を上げる。

 

「わかったわかった!速度を落とす―――まったく……なんで俺“のは”こうも融通が利かないんだ」

 

 思い返すのは親友の姿。彼の発明品の一つである“これ”の不満を漏らしつつ、AIに指摘された通りに速度を落として、AIに言葉を投げかける。

 

「それで、1600時以降の予定は?」

【1600時より開かれるグアム基地でのセレモニーに参加したのち、1730時より日本の首相官邸にて日米安全保障問題に関する実務関係者として参加。そのまま1900時より同国首相と会食。2100時に終了したあと横田基地に帰投し、そのまま新型空対空ミサイルのアグレッサ―として演習に参加。演習が終了し次第、本日の予定はすべて終了です】

「……はぁ」

 

 今日も、仕事が終わるのは日をまたいだ後か……といつもと変わらないハードワークに思わずため息をつく。

重要なこと、だとは理解してはいるが、もともと政治畑ではない自分がなんでわざわざ同盟国との保証問題やら、あまつさえその同盟国の首相と気まずいメシ何ぞ食わなければならないんだ、と反論を叩き付けてやりたい衝動にかられる。

 

「アイツは今頃、なにやってんだろうな」

 

想像するまでもないことだとは思ったが、また自分のガレージにこもって勝手気ままに趣味に興じているのだろう親友の姿をうらやまずにいられないのが悲しい宮仕えの身であった。

気分転換に、AIに衛星放送でも拾わせようかと思った矢先。

 

それは起こった。

 

 

【エマージェンシー。エマージェンシー。当機の前方150㎞より謎の高エネルギー反応】

 

 

水平線の彼方で空高く伸びる青白く光り輝く柱。

男には、それに見覚えがあった。

脳内のアドレナリンが昂ぶって全身の筋肉がいつでもやれると雄叫びを上げる。逸りそうな気持ちを落ち着けるように彼はAIに質問を投げかけた。

 

「あれは“NY”のと同じ物か?」

【はい、大佐。98.21%の確率で同種のもだと推測されます】

「面白くなってきたな」

 

 目の前に敵が迫っている。その異常事態に思わず獰猛な笑みを浮かべてしまう自分を骨の髄まで軍人だな、と自嘲しながら格納されているリパルサー・ランチャーを展開させる。

 

「セーフティ解除、これより、以下の予定の一切を破棄。連絡を頼む。ペンタゴンおよび関係各所……それと“シールド”にもな」

【Yes, sir。大佐、各所にはなんとお伝えしましょう?】

「そうだな。状況説明と俺の次の言葉をそのまま伝えろ」

【ラージャ】

 

 AIが網膜に投影した3Dホログラム映像を睨みながら、男は枷を外された猟犬が獲物に飛び掛かるように、スラスターを全力で吹かせた。それにこたえるように男が身に纏う“機体”が風を切って、グンッと加速を始める。

 

 

 

「これより、“ウォーマシン”は該当地区―――“ウェーク島沖”に急行する!」

 

 

かくして、鋼の鎧を身に纏い全身にありとあらゆる最新兵器を満載した唯一の“軍人”

ジェームズ・“ローディ”・ローズアメリカ空軍大佐こと

 

“ウォーマシン”は太平洋を行く。

 

 

 

◆                 ◆

 

 覚悟は決まっているはずだった。だというのに。目の前に浮かぶ、自分の常識から完全に逸脱したその光景に圧倒されて、ローディの口から独りごとがこぼれる。

 

「……なんだ!?これは……」

 

 

機体が誇る全速力を以て、ウェーク島に駆け付けた彼の目の前にあったのは。空から延びる光の柱に包まれ、空中に漂う一人の少女の幻想的ともいえる姿だった。

光に包まれた少女の神々しい姿が、なぜか幼い頃に教会で見た聖母マリアの絵画を連想させて、つい見とれそうになる。そんな自分を叱責するようにAIの無機質な音声が分析結果を伝えた。

 

【大佐。原因は不明ですが、あの少女を取り巻くエネルギーフィールドはNYのものと同質のものだと推測できます】

「……あの少女は?」

【彼女は武装しています。しかも既存のデータには無い装備で、です。間違いなくNYの時のように違う世界から来た存在といっていいでしょう】

「それ以外の反応は?」

【ありません】

「解析を続け、以降の情報は表示しろ」

【ラージャ】

 

 

 

 海に浮かんでいるように地上200mをたゆたう少女から5mほど離れた位置でホバリングしたまま、油断なく周辺を警戒し“敵”の可能性が残る少女にランチャーの銃口を向けながらも、所詮は一介の軍人に過ぎないことを誰よりも自覚していた彼は、内心―――対処に困っていた。

 

“正当防衛”という大義名分があるならまだしも、目の前にいる少女はただ眠っているだけで、こちらを攻撃してくる様子はない。その上、持っている装備もこの機体の前では豆鉄砲に過ぎないようなちゃちなものであるとAIがマスク内に表示する解析結果が雄弁に告げていた。

そうして、解析が進めば進むほどローディの良心と胃がキリキリと締め付けられるような痛みに襲われる。

 

こうやってあどけない少女に戦車も一発で吹き飛ばすような超兵器の砲口を向けて、動向を見逃さないように監視している自分は、中東のテロリストや極東に生息しているらしいHENTAIという未知の生命体と何も変わらないのでないか?とか。

 

 この子、小さい割にやたらと発育良いな。とか、服が破れていてチラチラと下着が見えて落ち着かないとか……とにかく、任務には関係ない雑念ばかりが懇々と湧き出てきて鋼鉄のマスクの下でばつの悪い顔になったローディは、彼女の監視を打ち切って背を向ける。

 

 

「おい。繰り返し確認するが、本当に彼女以外に生体、動体反応はないんだな?」

【はい、大佐。アクティブレーダー、パッシブレーダー、赤外線、音響、衛星探査、当機の使用できるすべての機材で捜索しましたが、彼女以外の反応はありません。情報の収集を続けますか?】

「ああ。頼む」

【では、機載カメラも記録に使用したいのでまた光の柱に視点を合わせてください】

「却下する。よし、戦闘モード解除。ペンタゴンに………」

 

 ローディがAIの話の腰を折って、上司に報告をしようとした矢先、けたたましい警告音と共に瞳に新しい情報が投射される。その一文には。

 

force field lost

 

太平洋ウェーク島近海に発生していた謎のエネルギーフィールドが、蜃気楼のように急に消え失せた、という事実が端的に記されていた。

それだけで瞬時に状況を把握し、脊髄反射で振り返り、“目的”にむかって機体を飛翔させる。視線の先には重力に引かれてぐんぐんと海面

そんな彼にAIが警告を発する。

 

【大佐。“目標”を受け止めるためには、海面ギリギリで目標を捉えなければなりません。巡航機動で接近する必要があります。ですが、当機の最大速度で接近した場合、ソニックブームによる“目標”への甚大な被害が見込まれるため、巡航機動モードは…………】

 

 長々と鬱陶しいAIの説明に、苛立ちを抑えきれないローディは怒鳴り声で答える。

 

「わかったから黙れ!ランチャーは投棄。俺の合図で緊急用サブスラスター噴射用意」

【ラージャ】

 

 

 パンっというはじける音と共に、強制的にパージされたリパルサー・ランチャーが排除され、緊急用スラスターが使えるようになる。

“目標”である少女は空中で支えていた謎のエネルギーが失われてことにより真っ逆さまに海面に向かって落下を続け、ローディにはすぐ近くにいるはずなのに何百メートルも先にいるように感じられた。

AIが作成した最適なルートがホログラムで瞳に表示されているが、最後に頼れるのは自分の腕だけ、思わず冷や汗が背中を濡らす。

極限に研ぎ澄まされた意識が、ローディから音を奪い去り、通り抜ける一瞬の風景をコマ送りのように進んでいるように錯覚させた。

 

背後で、機密保持用の爆薬が搭載されたリパルサー・ランチャーが派手な音を立てて爆発する音。

 

その爆音でようやく目を覚ましたのか、寝ぼけ眼の少女が目を真ん丸に見開いて大きく口を開けた。

 

全力で加速するウォーマシンがじりじりともがく様に少女に近づく。逸る心がもっと、もっとと叫びをあげる。

 

細心の注意を払って、サブスラスター、両手のリパルサー、両足のジェットブーツのすべてを使って少女を傷つけないように、機体を制御し早く……しかし、早くなりすぎないように加速させる。

 

目に映る高度計が海面まであと50mもないことを告げている。

 

もうすぐそこまで近づけたもがく少女に向かって両手を伸ばした。

 

AIの発する警告文が視界のわきでチラチラと点灯する。ローディはその一切を無視して海面目指して一心不乱に前へと進んだ。……海面まで手を伸ばせば届きそうになるほど近づいた、その時。鉄の鎧に包まれたローディの右腕が少女の体を優しく抱き留めた。

 

 

「―――今だ!!」

 

 

 合図と同時に、体をわずかに丸め“すべての”スラスターを停止。ついで、合図を受けたAIが最大出力で緊急用サブスラスターを噴射した。無理な体勢で緊急用サブスラスターを使ったことでスーツが殺しきれなかったGがぎしぎしとローディの体に伸し掛かり、腰のあたりが鈍痛と共に悲鳴を上げる。

 

水面で激しい“水飛沫”が踊りたった。

 

 

だが、しかし。彼の作戦は成功した。真っ逆さまに落下するだけだった機体がわずかに水平方向に持ち直し、すぐに再起動させた左腕のリパルサーロケットが更に体を立て直した。

最期にジェットブーツが機体を安定飛行の速度まで加速させる。生身の人間程度ならたやすく傷つけられるほど高速で飛び散る水しぶきも、ウォーマシンの硬い背面装甲に守られて少女に届くことは無い。

 

「―――っ!……は……は、はぁ。すぅ~……はぁ。はぁ、はぁ」

 

ローディは、神業ともいえるマニューバをおこなった緊張感から解放されて、思い出したかのように呼吸をおこなった。心臓がバクバクと早鐘のように高鳴り、機体の損害状況とペンタゴンから通信が入ったことを報告するAIの無機質な声が鼓膜に聞こえ、音が戻ってくる。無理をさせた腰がずきずきと抗議を上げていて、彼は息も絶え絶えながらAIに通信を切らせると、ゆっくりと速度を落として機体をホバリング状態で静止させる。

 

 

……とにかく、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込みたい。

 

その欲求にかられた彼はマスクを開く。さんさんと輝く太陽の光と共に潮風のツンとした匂いが流れ込む。それが疲労のたまった体にひどく心地よく感じられて、基地に帰り着いたらパブに直行してキンキンに冷えたビールを体に流し込むことを想像し、ごくりと喉を鳴らす。

そんな時、すぐ近くから控えめな声が彼の耳に届いた。

 

 

「あ、あの…あなたは、どちら様でしょうか?」

 

 声がした方向に顔を向けると、腕の中の少女がこわばった顔でこちらを見上げていた。彼女の口にした言葉は、祖国のものではないけれど聞きなじんだもので、ローディは機械に頼らず、最近になって身につけた特技を披露することにした。

 

「私はアメリカ空軍所属、ジェームズ・ローズ大佐だ。ローディと呼んでくれ。……そんなことより君、ケガはないかな?」

 

自分のような黒人から、発せられた流暢な日本語は彼の目論見通り少女の警戒心を和らげることに、成功したようで。彼女はまだすこしぎこちなくはあったが、微笑みを見せて自己紹介をしてくれる。

 

「失礼しました、大佐。私は睦月型駆逐艦二番艦“如月”です。以後お見知りおきを」

「むつきがたくちくかんにばんかん、きさらぎかぁ。その……随分と、長い、名前なんだね」

 

 自分の知っている日本の常識とはあまりにかけ離れたその名前に、顔面が硬直しそうになるのを必死にこらえて、笑顔を作ろうと四苦八苦しながそう言うと彼女は可笑しそうに笑って。

 

「うふふ。いえ、大佐。私の名前は如月だけですよ。頭についていたのは艦種です」

「艦種?何のことを言っているんだい?」

「あら、外国のほうでも“深海棲艦”の被害が多いと聞いたのだけれど……」

「君は……一体。それにその武装は何なんだい?」

「私は艦娘です」

「かん、むす?」

 

 ローディの不思議そうな顔に答えるように少女……如月は、“自分の知っている”国際情勢や情報をすらすらと滑らかに説明しだした。

 

 

◆                 ◆

 

 

 彼女の話によると、2013年初頭。突如全世界に出現を始めた“深海棲艦”と呼ばれる謎の敵により、人類は三大洋を初めてとするすべての海から―――駆逐された。

それも、たったの“一ケ月”で。

アメリカ軍をはじめとする各国国軍も指を銜えていたわけではなく、禁忌とされる“核兵器を使ってまで”必死の抵抗を試みた。だが、結果は燦々たるもので、最終的には世界初ともいえる世界連合軍を結成してまで、大規模反攻作戦を行ったものの……1日と経たずにすべての兵器が無力化された。

それから二カ月間、深海棲艦達は制海権を完全に掌握し、先進国は経済問題、エネルギー問題。発展途上国はそれに加えて、人心不安による暴動が多発しひどい有様となった。

 

彼女達、“艦娘”と呼ばれる新種の生命体が、深海棲艦に対抗するように現れるまでは。

 

敵と同じく突如現れた彼女達は核兵器をはじめとする通常兵器が一切通用しない深海棲艦に、唯一打撃を与えることのできる存在だということが判明し、丸二年かけて各国間シーレーンの構築、孤島に取り残されていた民間人の救助などを行いようやく最近になって反攻作戦に移れるほど情勢が安定してきたとのことだ。

 

その反攻作戦に際し、彼女は日本の呉に設置された鎮守府と呼ばれ基地に所属し敵深海棲艦の撃滅に向けて日々訓練と任務にあたっていたらしい。その話を聞きながら、まるで映画かコミック見ているようだな、とローディが考えていると、それまではなんてこともなかった如月の様子が、豹変した。

 

「それでですね。私は………わ、わた、私は……」

 

突如、さらさらと滑らかだった口は口どもり。呼吸が乱れみるみる顔が青くなってガタガタと細かく震えだす。軍人である彼には、その症状に見覚えがあった。

アフガンの戦地でいやというほど見てきた、PTSD。そのフラッシュバックだ。

 

「わたしは、W島で……う、う、うとうで……」

「大丈夫だ、此処はW島じゃない。落ち着け。大丈夫だから。俺がついてる」

 

 取り乱した彼女をギュッと抱きしめて、焦点の合わない目をまっすぐと見つめ、何度も言い聞かせるように言葉を繰り返す。そうしながら、彼の心のうちは怒りの炎で燃えていた。

 

どんな理由があろうと、子供や戦う意思のない者に銃を持たせて戦場に駆り立てる―――そんなのは軍人としても、人間としても最低の、屑のやることだと。

 

「大丈夫、大丈夫だ。ここは君を傷つける者は誰もいない。さあ、ゆっくりと深呼吸してご覧」

 

 こくこくとうなずいた彼女が、深呼吸を繰り返す。そうしてようやく落ちつたらしい彼女は、取り繕うように笑顔を浮かべると、ローディに向かって謝った。

 

「ごめんなさい、大佐。取り乱してしまいまして……」

「謝るようなことじゃない。それよりも、大丈夫か?」

「大丈夫です。私は」

 

 ローディは、気の利いたことの一つも言えない自分の不器用さを呪った。大丈夫なわけがない。大丈夫なら……彼女の浮かべる笑顔はこんなに見ているのがつらくなるほど、痛々しいものではないはずだ。そんな時、彼の脳裏に一人の男の姿が閃く。

 

 

「なら、君の仲間の艦娘の事についてもっと詳しく教えてもらえるかな?個人的には君みたいなかわいらしい子のことを知りたいんだが」

「えっ?」

「いいかな?君たちは戦わないときどんなことをしているんだい?」

「は、はい」

 

“彼”にならって、まだハイスクールも卒業していないような見た目の少女に流し目を送り、歯の浮くようなセリフを吐く。自分のガラじゃないことはわかりきっていた。けれど、こうして道化を演じることで目の前の少女が少しでも“戦いの事を忘れられるなら”それでいい。

 

「えっと……ですね」

「なんだっていいさ。時間はたっぷりとある」

「そ、それじゃあ」

 

 それからしばらく、ローディは聞き役に徹し、如月からいろんな話を聞いた。基地にある間宮という店で食べるあんみつの事。戦術や、装備、それと色々な知識を勉強する授業の事。自分と同じ部隊に所属している仲間たちの事。しっかり者で、頑張り屋なリーダーである夕張。おちゃらけている風に見えて、実は一番頼りになる球磨。ぼーっとしているように見えてアドバイスが的確な多摩。無口だけどそれを気にしていて、なんとかしようとがんばっている妹の弥生。無気力でだらしないけれど、本当はさびしがり屋がかわいらしい妹の望月。

 

 とりとめのないことを話している彼女の顔は見ているこっちもポカポカした気分になるほど、幸せそうな顔で笑う。それを見て、少しはフラッシュバックの影響も薄れてきたように感じられた。

 

「それでですね、大佐。睦月ちゃんはですね。いっつも一生懸命で真面目で、それでいてにこにこ笑っていてあんみつが大好きな……大佐ぁ?聞いてますぅ?」

「ああ。聞いているよ、如月。君は睦月の事が大好きなんだな」

「はい!だって……」

 

 その時、不意にAIがけたたましい電子音と共に警告を告げた。

未確認機(アンノウン)が接近して来たのだ。反応は海中から、それもかなりの数で“密集した”アンノウンが突如レーダーに出現し、彼が身構える暇もなく水柱を上げて浮上した。

 

ドォオオオン!!

 

 

 ローディは、とっさに機体を急上昇させて出合い頭の一撃を避けた。先ほどまでウォーマシンが留まっていたところで、爆音と共にいくつもの砲弾が飛び込む。

 

「―――ッ!何者だ!?」

 

 とっさの回避行動の後、望遠カメラで詳細に映った“敵”の姿は、今まで見たことのないほど歪で、おぞましいものだった。黒々とした機械の装甲に生々しささえ感じられる謎の器官、そして……女性の、女体が“生えて”いた。

冒涜的とも感じるその光景に思わず彼は息をのむ。

 

 

「これは……」

「そうです、大佐。これが……深海棲艦です」

「こんな、こんな敵と君たちが戦っているのか!?」

「はい」

「捕まってろ!!」

 

 それ以上、おしゃべりをしている暇はなかった。誤差を修正した敵の群れから雨あられのように多量の銃火が上がり、ローディはスラスターを勢いよく吹かせて回避機動に移る。その射撃は、正確無比でかつ弾速が異様に早い、とても単発の砲撃とは思えないほど避けずらいものだった。

気を抜いたらやられる。直感でそう感じた彼は、生身の如月をかばうように速度に気をつけながら、こまめに機体を揺らして雨のような砲弾をひらりひらりと木の葉のようにかわしてゆく。そんな時、海面にさらなる水柱と共に“また”新しい深海棲艦が浮上してきた。

カメラがとらえた姿は、クラゲのような髑髏のような薄気味悪いシルエットで大きく開いた口から、次から次へと何かを射出してくる。

元々、飛行機乗りだったローディにはそれがなんだか、すぐにわかって、悲鳴交じりにつぶやく。

 

「艦載機!?ってことは、あれは空母か?」

 

 

 ウォーマシンを空から叩き落とすために、一心不乱に殺到してくる艦載機の群れ。いまだに途切れることなく続いている対空砲火の嵐。このままでは包囲される。そんな時、如月がぼそりとつぶやいた。

 

「大佐、ありがとうございました」

 

猟犬のようにしつこく追いすがってくる艦載機の銃撃から逃れながら、ローディは答える。

 

「なにが、だ!?」

 

何とか敵の包囲から抜けだそうと密度の薄いと場所を狙って突破を試みる。しかし、それに気が付いた敵の艦が進路を妨害するように、砲撃を行う。

 

「私みたいな、“兵器”の事を気にかけてくださってです。貴方に抱きとめられて、大丈夫なんて言われて……私、とてもうれしかったんですよ」

 

深海棲艦の意表を突くように急降下。水飛沫がたたない程度の空間を開けながら、水面ギリギリを飛行し、敵艦に向かって突き進む。

 

「でも。大佐ってば、嘘が苦手なんですね。無理しているのがバレバレでしたよ?」

 

ローディの思惑は成功し。同士討ちを誘発させるようなルートに“艦載機”が攻撃をためらって、進路を妨害しようとウォーマシンの背中を追いすがる。

 

「貴方にみんなの事をお話できて、私はとても幸せな気分に浸れました。そんなことを考えている暇さえなかったはずだったのに」

 

敵艦隊の鼻先をかすめて抜けようとした瞬間。爆音と共にAIが警告を上げた。警告が発せられた瞬間、空いている左手のリパルサーを最大出力で噴射させ、進行方向を九十度変えるとともにバレルロール。そのまま急上昇をかける。直後に、敵深海棲艦から発射された砲撃ですぐ真後ろまで迫っていた艦載機の群れがずたぼろにされて紅蓮の花と消えた。

 

「でも、もういいんです。もう……だって、私は」

 

所々に空いていた穴が埋まってしまった。AIの解析によると一番小型で、魚を武装させてそのまま巨大化させたタイプAが30。バケモノの口の中から女性の女体といくつもの砲台が生えているタイプBが10、クラゲのような空母のタイプCが8。それに加えて空を覆い尽くすほどひしめき合っている敵艦載機群。ウォーマシンは、敵に完全包囲されてしまった。

 

「W島で私は、如月は敵艦載機の爆撃によって轟沈しているはずなんですっ!だから……」

「だから、君を見捨てて逃げろと?」

「―――ッ……その、とおりです」

 

 敵の攻撃がやみ、包囲の中心で次の手を考えてアドレナリンで滾り切った脳に活を入れる。この状況で、敵は次の一手でけりをつける気だろう。AIは既にペンタゴンにSOSを送ったようだが、間に合うような距離に友軍のマーカーは存在しない。

完全包囲、援軍なし、その上こっちには要救助者を抱えていて戦闘は無理。

控えめに言っても、絶望的な状況だ。

 

軍人としては、敵が降伏勧告なんて、気の利いたものを打ち出してくれるなら。心が揺れてしまうほどに。

 

「そんなに震えているのに、か?」

「はい。だって、私たちは戦うための兵器ですから」

 

 

 マスクを開いて見つめた彼女は。笑っていた。ぶるぶると震えながら、浮かべたその笑顔は……磨かれた宝石のように綺麗で。

 

「なあ。如月……こんな話を知っているか?」

「あら、なにかしら?面白い話なら、教えていただけない、大佐?」

「“軍人”は、降伏してもいい。けど“警察官”は、犯罪者に決して降伏してはならない、っていう話さ」

「うふふ。いいお話ね。でも貴方は“軍人”で。敵は“深海棲艦”。そのお話は当てはまらないわ。兵器を囮にして逃げたって問題はないはずじゃないかしら?」

「ああ。その通りだ。でも。一つ違う点がある」

 

 すでにローディの心は決まっていた。マスクを下ろす、鋼鉄の音が鳴り渡る。

 

 

「俺は、“HERO”もやっているんでな!!」

 

 自由に使える腕のコイルマシンガンを起動。周回する艦載機に向けてばら撒く。アイツ謹製の最新型戦車の装甲さえぶち抜く特殊弾体が、お行儀よく列になって飛んでいた艦載機の幾つかに突き刺さり、爆発させる。

 

「……えっ?」

 

 信じたとおりの結果にやりと笑い。そのまま次の標的に向けてトリガーをひく。爆散する敵の断末魔がまたいくつも轟いた。痺れを切らせて近寄ってくる間抜けを次から次へと穴あきチーズにしながら、彼女に聞こえるように怒鳴る。

 

「軍人の仕事は戦うこと!警察の仕事は守ること!だったら―――HEROの仕事はその二つよりも“更に先に行かなきゃならない”(Plus Ultra)!その二つを兼ね備えて、かつ……誰かの想いを、願いを助けること、それがHREOの仕事だ!!」

「大佐……」

「だから。言ってくれ、君の願いを。助けを求める声を」

「………………恐い」

 

 ぐっと、言葉に詰まった如月は、絞り出すようにぽつりとつぶやく。

 

「恐い。恐いよぉ……もう海の底にはいやぁ。痛いのもいや。………みんなにあいたい、睦月ちゃんに会いたい。もっと、もっと……“いきたい”!“ここにいたい”よ」

 

 堰を切ったように、思い込められた涙声があふれ出す。やっと、年相応の素の感情を見せた如月にローディは、マスク越しで軽く微笑んで呟いた。

 

 

「―――まかせろ」

 

 

 慌てて、砲弾をばら撒いてきた敵艦からの砲弾を躱しながら、左手のマシンガンで艦載機を叩き落とす。そのまま網膜ロックオン。大腿部マイクロリパルサーミサイル、一斉発射。指先程度の小型ミサイルが直下で艦載機の放出を続けるタイプCに向かって高速で突き進み、装甲を貫徹、内部ではじけ飛ぶ。

 

【タイプC、殲滅しました。これで艦載機が増加することはありません。ですが、両大腿部リパルサーミサイルは使い切りました】

「残る武装は!」

【左腕部マシンガン、左肩部マルチランチャー。左肩部対空ミサイルランチャー。大腿部マイクロシードボムポッド……】

「十分だ。シードボムのラグを3秒にセット」

【ラージャ】

 

 

 会話を打ち切ると同時に、マシンガンによる迎撃を止め。急上昇。それを好機と睨んだ深海棲艦の艦載機が、一斉に飛び掛かってくる。ローディの考えたとおりだった。こいつらは、多数対一の経験がない。数の有利を有機的に使わず、ただ物量差で押しつぶすだけの単純な戦法。だから―――

 

 

「こんな単純な手に引っかかる」

 

 パージされた大腿部のシードボムポッドが、破裂して豆粒ほどの大きさの子弾より広い範囲に飛び散る。そのきっかり三秒後。“一発で厚さ5mの特殊対弾対爆防壁を粉々に吹き飛ばす”マイクロシードボムが、敵の艦載機群のほぼ中央で、炸裂した。

 

ッ――ドォオオオォォォオオオン!!」

 

 木端微塵になった仲間の破片と、真っ黒な黒煙を切り裂いて迫る生き残りに向けてローディは、無慈悲にマシンガンのトリガーを押し込む。

 

「訓練学校からやり直してこい」

 

 アークリアクターの莫大な電力で加速された特殊弾体が、生き残りをたいらげる。後は、砲撃をばら撒く、タイプAとタイプBのみ。海面に向き合ったウォーマシンは右腕でしっかりと抱きしめていた少女に断りをいれる。

 

「如月、俺の首に腕を回せ」

「え゛……あ゛い゛」

「よし。目はとじておけよ」

 

 片手で支えていた彼女を横抱きに抱きかえて、標的をまとめてロックオン。如月が抱き着いているために使えなかった100発近い対空リパルサーミサイルが我先にと飛びだし、ただ対空砲火をばら撒くしか能のないタイプAとBに向かって猛然と襲い掛かった。

 

 

「これで終わりだ」

 

 

 そのローディの独り言と共に、敵は襲い掛かる小型ミサイルの雨に打たれて炎を上げて海の底深くへと沈んで行った。全ての敵を撃破したのを確認して、AIに何度も敵の増援がないことを調べさせてから、ローディはマスクを開けて。一息ついた。

 

 

 

「ふぅ……な。深海棲艦だろうが、ウォーマシン(HERO)は負けなかっただろう?」

「ひっく……ひっく……」

 

 如月は、まだ泣き止む気配を見せない。けれど、ローディはそれがもう悲しみのために流すだけのものではないことに気が付いていた。だから、優しく笑いながら。

 

「泣け、泣け。君は兵器でもなんでもない、一人の女の子なんだ。だから、我慢なんてする必要ないんだ」

 

 

 如月がぼろぼろと涙を流しながら、うなずく。それから五分後、ようやく泣きやんだ少女はからりと晴れ晴れとした満面の笑顔を浮かべて、笑う。

 

「ありがとうございます。大佐。惚れちゃいそうですわ」

 

感謝の言葉を伝える彼女に、ローディはあっけからんとした顔で答えた。

 

「その言葉はまだ、取っておくといい」

「え?」

「まかせろ、といっただろう?必ず君を向こうに送り返して、睦月ちゃんに再会させて見せる……それまでは、俺の仕事はまだ、終わっていないんだ」

 

 当たり前のように言い放った彼は、とりあえずの進路を定め一路、日本に向けて進みだした。問題は山積み。けれど、彼は“何とかなる”と無責任な直感を感じていた。

彼は唯の人間で、軍人だ。でも、こうして少女を一人救えた。うぬぼれるつもりはないけれど、HEROをすることができた。だったら……何とかできるかもしれない。ひとまずは、“アイツ”を巻き込むとするか。

そんなことを考えつつ、AIに親友の番号をコールさせる。

 

だから、彼には聞こえなかった。わずかばかりに頬を赤らめた少女が。

 

「まったく……大佐ったら……フリじゃなくって、本気になっちゃうじゃない」

 

 

そう、小さく呟いたことを。

 

 

 

 

 

 

A hero can be anyone.(人は誰だってヒーローになれる)

 

Even a man who doing something as simple and reassuring (簡単なことでもいい)

 

as putting a coat around a young girl's shoulders, (幼い少女の肩にコートをかけ)

 

 

 

to let him know the world hadn't ended.(世界の終わりじゃない、と励ますだけで)

 

 

 

 少女と、軍人がどうなったか。という点はここで語るまでもないだろう。もしかしたら、発明好きの親友が軍人のことを、げらげらと笑いのネタにしながらあっけなく戻れる方法を見つけ出したかもしれないし。向こう側に戻った少女が、約束を果たせたのかもしれない。軍人にほれこんだ少女が、あちらとこちらを行ったり来たりしながら軍人にべったり付きまとって、基地内で不名誉な噂となっているかもしれない。戦うこと以外に疎かった少女が、“この世の神秘たるどこかの雷神”やら、“英雄の中の英雄”、“くたびれた科学者”と対面して、世界の広さを知ったのかもしれない。

 

でも、言えることはただひとつ。

 

 

 

 

その物語にはからりと晴れあがった二月の空のような、きれいな笑顔で一杯だったことは確かなことである。

 

 

 

 

 





 ドーモ、読者=サン。めんつゆデス。初めましての方は初めまして。いつもご愛顧いただいている方は、どうもありがとうございます。

 いかがだったでしょうか?めんつゆ流の少女とHEROのお話は?楽しんでいただければ幸いです。個人的に描いてみた後の感想としましては、何とか1万字以内に収めるつもりだったのですが、二千文字近くオーバー。そのくせ、展開が速すぎる感がしてならないと。まだまだ自分の至らなさを実感するばかりです。

 ちなみに陽の益す月というのは如月の語源とよばれているものの一つで、明るい話にしたかったので、いただきました。

 本当だったら、戦闘シーンとして、タイプA(駆逐イ級)とタイプB(軽巡ホ級)をミサイルで殲滅した後、満を持して戦艦ル級が登場!ミサイル弾切れ、ランチャー喪失、リパルサーじゃル級の謎バリアを抜けてもダメージを与えるには砲身が持たない、と八方ふさがりの状況でもあきらめないであがき続けるローディの姿に、如月が闘志を取もどして如月の艤装に一発だけ残されていた61cm三連装魚雷をル級に叩き込む。でも、それは不発弾で。ってとこを砲身が壊れるのも無視した最大出力のリパルサーで起爆して撃退。

っていう展開だったんですけど、さらに長くなるのでバッサリカット。せっかくのフラグが無駄になったぜ(泣き)所何処とに仕込んだネタに気が付く人はいるんだろうか?とか考えながら勢いで書き切った作品ですので。ゆる~く楽しんでいただければ幸いです。

 さて、一班のお話はここまでで。何時もご愛顧いただいている皆様。まずはごめんなさい。この短編書いてて、肝心の連載がほとんど進んでません!!頑張って執筆を続けますが、次の更新はもしかしたら二月中番頃になるかもです。ほんっと遅筆ですみません。

では、このあたりで失礼します。では~

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