鼻づまりと目のかゆみで、目が覚めた。
窓ガラスに木の葉の当たる音がして、木の揺れる音迄する。
「ちくしょー。花粉飛んでるのかー」
リビングに下りて行くと女房がTVを見て笑っていた。
「風、強いよ」
「そうね・・・」
目のかゆみは段々ひどくなる。あ~、目のまわりまでチクチクしてきた。
う・・・鼻水まで出てきた。
「あー、かゆい!2月にもなっていないのに、ちくしょー!今年は早くないかっっ!?」
俺の怒りの声にも、女房はTVから目を離さない。思いっきり鼻をかんでも、女房は俺を見ようともしない。
ダメだ!限界だ!無視する女房にも、目のかゆみにも‼
「目ぇ、洗うぞ‼」
ソファにダラ~っと横になってTVを見ていた女房が飛び起きた。
「うそ~っ‼今!?」
「当然!ガマンできねぇ」
嫌な顔をしながら、女房はシリコン製のボールに水を入れて持ってきた。
ボールを覗き込むように顔を近づけて、目玉を取り出す。かゆみのひどい左目から。
痛みが走る。それでも、歯を食いしばって耐える。
やっと出てきた。後は目玉につながっている神経を一本一本ていねいに、慎重に引っこ抜いて・・・。
ポチャン・・・
音を立てて、目玉がボールに落ちた。
女房がボールを持ってキッチンに向かう。食器洗いの洗剤が一番きれいになった。
「間違えて流すなよ!ていねいに扱ってくれ!生ゴミの中になんか落とすなよ」
以前洗面所で洗った時、排水口にはまって大騒ぎになった。
「分かってるって。初めてじゃないんだから、うるさいって。気が散るでしょ‼」
ザーザーと水道の音がして、ティッシュにのせた目玉とボールを持って女房が戻って来た。市販されているティッシュペーパーで一番柔らかいティッシュ。当然高価。女房は‘ティッシュペーパー代が家計を圧迫してる‘って文句を言うけど、目玉大切。
女房が顔を近づけて、目玉に一本一本神経をつないでいく。針が差し込まれるような痛みに耐える。
「いてっ‼もっと優しくやれよ」
「動かないで!うるさいって!」
息子が階段を下りてくる音がする。
「え~‼目玉洗ってんの~!?」
「佑一、声掛けないで‼気が散る‼」
息子は冷蔵庫を開けて‘朝メシは~?‘と声をあげた。
「ある物で食べて~。ママ手が離せないの~」
女房が話す度、女房の唇が俺の鼻や唇に触れる。それに吐息も・・・。
「ママ、朝ごはん、何食べた?」
「ガーリックトースト」
「喋るなよ・・・、ニンニク臭い」
「目玉洗うと思わなかったから、ごめんね。あ~、終わったわよ~」
女房の顔が離れる。チクッチクッと針を差し込まれる様な痛みとニンニクの匂い。すきっ腹を直撃してめまいがする。
「少し、休憩・・・」
ソファに身を身を投げ出して女房に声をかけた。
「え~っっ‼」
女房と息子がハモった。
「右も洗うのー!?」
またハモった。混声二重唱。
「俺、二階で食べる」
息子はパンの袋とジャムの瓶を持って立ち上がった。
「部屋で食べるのはやめてよ。散らけるでしょ」
「やだって。おやじのソレ、超グロいんだから見たら食えなくなるって、俺」
「ママはそのグロいのに付き合ってるんだからね。部屋迄散らかすのヤ・メ・テ」
女房がバターを取り上げる。
「やだって‼そのシリコンボール見ただけで俺、吐きそうになるんだから!」
お前達なぁ・・・。涙流して鼻水垂らして花粉症と戦っている父親を可哀想だと思わないか?
「佑一の目玉はママ、洗ってあげないからね。
女房がシリコンボールを持ってきた。
「げ~っっ、俺、逃げる!」
息子がパンの袋とジャムとバターを抱えた。
「やめなさいって!怒るわよ!」
「俺、花粉症じゃないし、グロいの、ヤだし!」
息子が二階に駆け上がって行った様だ。
「こら!佑一!」
女房の声が耳に響く。
「それに、宇宙一グロいキスシーンも見たくないよ‼」
二人のバトルを、俺は目玉を取り出す時の圧迫痛に耐えながら聞いていた。