ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第130話 再び歩き出す

 

-ハピネス製薬 独身寮 ランスの部屋-

 

「ふぁぁ……」

 

 窓から朝日が射し込んできて、ランスが気怠そうに目を覚ます。昨日エンジェル組を壊滅させたランスはその足でハピネス製薬に戻り、ドハラス社長から金をたんまりふんだくった。早速その金でドンチャン騒ぎをし、そのまま独身寮で眠ったのだ。

 

「おはようございます、ランスさん」

「ん、キサラか……」

 

 ランスが隣を見ると、幸せそうに微笑むキサラの姿があった。昨晩、キサラはランスにその躰を差し出したのだ。バードの一件で多少の罪悪感があったランスはいつも以上に優しく抱いてやり、その結果キサラは完全にランスに惚れ直していた。バードに無理矢理犯されたときとは違う、胸の中に溢れる幸福感。これが本当の恋心なのかとキサラは感じ取っているのだった。まあ、無理矢理犯したのはバードではないのだが。

 

「ランスさん、私幸せです。こんなに愛して貰って……って、ごめんなさい。勝手に愛して貰っているだなんて思って……」

 

 幸せそうに話していたキサラだったが、慌てて取り繕う。これまでランスと一緒に行動をしていたのだから、キサラは当然気が付いている。目の前の男は、一人の女性にだけ愛を捧げるような男ではない。多くの女性を抱かなければ気が済まない男だ。そして、もしこの男がたった一人の女性に愛を捧げるような事があるとしても、それは自分ではない。

 

「ふん」

「あっ……」

 

 そんな思案に耽っていたキサラをランスがグイッと抱き寄せ、唇を合わせてくる。

 

「俺様は女を抱いているときは真剣そのものだ。だから、今だけは愛してやる」

「ランスさん……」

 

 ランスをうっとりとした表情で見つめるキサラ。対するランスも、可愛く、嫉妬深くもないキサラを自分の女の一人に加えてやろうと心に決めるのだった。その後、若干盛り上がってしまった二人は朝から一発決め込み、少し休んだ後にハピネス製薬を後にする事にした。

 

「ランスさん。本当にありがとうございました」

「またいつでも遊びに来て下さい」

「ああ。また必ず来てやるから、良い子にしているんだぞ、ローズ」

「あっ……はい」

「……えっ!? ロ、ローズさん……?」

 

 正門前にそれなりに関わりのあった社員たちが集う。旅立つランスたちを見送りに来たのだ。ドハラス社長が頭を下げ、ローズも名残惜しそうにランスの顔を見つめている。それに気が付いたランスがスッとローズを抱き寄せ甘い言葉を囁いてやる。その行為と頬を染めるローズを見て、ジョセフがギョッと目を見開く。

 

「ランスさん、ルー……じゃなかった。ブラック仮面さんとまた会う事があったら、よろしく言っておいて下さい。俺は、ハピネス製薬の青い壁になると!」

「なんで俺様がブラック仮面なぞにそんな事を言わなきゃならんのだ。というか、あいつには結局逃げられてしまったから、仮面の下の顔を見ることが出来なかったな。まあ、仮面で顔を隠しているという事は、とんでもなく不細工な奴なんだろう。うむ、きっとそうに違いない」

「うふふ……」

 

 初めて会ったときにはランスたち冒険者を毛嫌いしていたコナンだったが、ルークから受けた言葉の影響もあり、今ではすっかり丸くなっていた。ランスにスッと手を差し出してくるが、ランスはブラック仮面の事を思い出して苛立ち、その握手をシカトするのだった。ランスの言葉を受け、意味深に笑うエリーヌ。彼女の手にはどこから取り寄せたのか判らないが、以前にルークが掲載されていたあの新聞が握られていた。

 

「ランスさん。口は悪いけど、腕は確かなのね。少し見直したわ」

「お前は見送りにくるなぁぁぁ!」

「ぎゃぁっ!?」

 

 ヌッと顔を出してきたシルバレルに全力のドロップキックをかますランス。相変わらずシルバレルは苦手のようだ。無理もないが。

 

「あ、あてなさん! 実は僕、あてなさんの事が好きでした!」

「ごめんなさいなのれす。あてなにはご主人様がいるから応えられないのれす」

「がーん……」

「あてな、そろそろ行くぞ」

「はーい、なのれす!」

 

 コンタマ一世一代の告白をあっさりと振り、あてながランスへと駆け寄る。ブラック仮面、エムサ、言裏の三人は先に旅立っていってしまったため、ランス、あてな、キサラの三人が見送られる。

 

「それでは、またどこかで!」

「ばいばーい、なのれす!」

「俺様にはこれから一生無料で世色癌を渡せ」

「そんな無茶な……」

「がはははは!!」

 

 笑いながら旅立っていくランスたち。それを笑顔で見送るハピネス製薬の面々。その背中が見えなくなり、ローズがふうっと息を吐く。

 

「行ってしまいましたね」

「嵐のような男でしたな」

「ルークさんもちゃんと見送りたかったなぁ……」

 

 コナンが笑いながらランスを嵐と評し、コンタマは昨日の内に旅立ってしまったルークを思い出して残念そうに呟く。

 

「それじゃあ、皆さん仕事に戻りましょう」

「はい、社長」

「あっと、そうだ。一つ言っておかないといけない事がありました。ジョセフくん」

「っ……」

 

 ドハラスの言葉に全員が従い、社に戻ろうと踵を返す。だが、ドハラスがピタッと歩みを止め、ジョセフの顔を見ながら口を開いた。それを聞いたジョセフは息を呑む。間違いなく、今回の騒動の話だという自覚があったからだ。

 

「ジョセフくん。君を第一研究室室長から解任します」

「社長……」

「そうですか……いえ、当然ですね。むしろ、寛大すぎる処置です」

「えっ? えっ? どういう事ですか?」

 

 ローズとコナンが悲しそうな顔をしているが、ジョセフは覚悟していた事だと言葉を漏らす。むしろ、クビにされたり逮捕されたりしてもおかしくないのだ。室長解任で済ますのは寛大すぎる。事情を知らないコンタマ、シルバレル、エリーヌが困惑する中、ドハラスは一度だけ息を吐いて言葉を続けた。

 

「……ジョセフくん、君は第二研究室室長補佐に更迭です。素晴らしい室長から、室長の何たるかをしっかりと学んで下さい」

「なっ!?」

 

 その言葉に、俯いていたジョセフが顔を上げてドハラス社長を見る。驚いた表情のジョセフに、ドハラスは優しく言葉を掛ける。

 

「まだ若いんだ、焦る必要はありません。じっくりと経験を積んでいけばいい。いつか君がもう一度幼迷腫を作ってくれる事を、私とルークさんは信じて待っていますよ」

「社長……ありがとうございます……」

「ジョセフくん、一緒に頑張りましょう」

 

 ジョセフがボロボロと涙を溢し、その肩をそっと抱き寄せるローズ。ハピネス製薬は今後もきっと製薬会社のトップに君臨し続けるだろう。これだけ前途有望な者たちがいるのだから、それは疑いようもない。

 

「それで、第一研究室室長には一体誰が?」

「しばらくは私が兼任します」

「社長自ら!? でも、社長の業務は……んっ?」

 

 室長と社長の兼任など無謀だと口にするコナンだったが、チョンチョンと背中を指で突かれて振り返る。そこには、満面の笑みのエリーヌが立っていた。

 

「しばらくは私と副社長、それとエリーヌの三人で会社を回していきます」

「はぁっ!? お嬢さんはまだ10歳では?」

「そうなんだけど……これが困ったことに、私なんかよりもずっと経営の才能があってね……あはは……半信半疑だった副社長も目を丸くしていたし、しばらくは副社長の補佐の下、三人体制でやっていこうかなと……」

 

 前々から経営に口出しをしてきていたエリーヌだったが、何故か襲撃のあった後からこれまで以上にやる気を出し、昨晩は副社長も交えての話し合いにまで発展していたのだ。成長したら後を継いで貰おうと考えていたドハラスだったが、その日は思ったよりも早く来るのかも知れない。

 

「(大丈夫か、ハピネス製薬……)」

「(冒険者への転職を考えた方がいいかなぁ……)」

「あ、それと臨時ボーナスも出しますよ。色々社員には迷惑を掛けてしまいましたしね。門番と警備隊長で頑張ってくれた二人には、少し多めにしておきましたので」

「やったー!!」

「いやっほー! 青い鎧を買うぞ!!」

 

 流石にこんな子供に社長業務をさせようとするハピネス製薬の今後を訝しむコナンとコンタマだったが、ボーナスと聞いてその態度を一変させる。

 

「因みに、私の発案なの」

「エリーヌちゃん最高!」

「一生ついていきます!」

 

 手の平返しとは正にこの事。文字通り、現金なものである。

 

「(えへへ。もっともっと凄くなって、この人と釣り合うようにならないと)」

 

 エリーヌが持っていた新聞を見ながら心の中で呟く。写っているのは、士官学校を訪れたリーザス解放戦の英雄、ルーク・グラント。

 

「(製薬会社の社長なら、冒険者の王子様の役に立てるよね。待っていてね、私の王子様!)」

 

 自分の人生の目標を決めたエリーヌが内心燃え上がる。娘の思い人に全く気が付いていないドハラスは首を捻りながら、そういえばと口を開く。

 

「エリーヌ、今度出かけるんだっけ? 迷惑を掛けちゃ駄目だよ」

「はーい」

「それじゃあ、いい加減仕事に戻りますか」

 

 今度こそ社内に戻っていく一同。その最後尾にいるのはジョセフとローズ。ようやく泣き止んだジョセフが、ローズの顔を見ながら宣言する。

 

「ローズさん、僕は必ず幼迷腫を作ります。でも、一人じゃ無理だ。力を貸して欲しい」

「うん、一緒に頑張りましょう」

「そ、それで……もしそれが作れたら、僕と……」

「ローズさん。ランスさんと付き合っているって本当?」

 

 ジョセフが何かを告げようとした瞬間、少し前を歩いていたシルバレルが唐突に口を開いた。その衝撃的な発言にビシッと固まるジョセフ。そういえば、先程もどこか妖しい雰囲気を醸し出していた。そのシルバレルの問いに、ローズは幸せそうな微笑みを浮かべながら答える。

 

「ランスさんは、他にも沢山の女性がいるから。でも、その内の一人にしてくれるって言ってくれたの」

「あら? そんなんでいいの?」

「うん、それで幸せ。ランスさんの事、愛しているから」

 

 そのままシルバレルと歩いて行ってしまうローズ。残されたのは、石のように固まっているジョセフ。その肩を、ポンと叩いてくる男がいる。

 

「気持ちは判るよ」

「誰ですか貴方は!?」

 

 それは、まだ独身寮に残っていたバードであった。この後、ジョセフは失恋のショックからこれまで以上に研究に没頭する事になる。幼迷腫の完成は、案外早いかも知れない。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第一研究室-

 

「パーティちゃん。それ持ってきてー」

「はーい!」

「今度はこっちにレキポポお願い」

「はい、はーい!」

 

 研究室内を駆け回る一人の女性。エンジェル組うさぎさんチーム隊長のパーティだ。捕虜になっていたはずの彼女が、何故か額に汗して働いていた。

 

「なんか楽しくなってきちゃった」

「そりゃいい。山田の奴はぶっ飛ばしておいたから、安心して良いよ」

 

 捕虜として放置されていた彼女は、あの後山田というハピネス製薬職員に襲われそうになっていた。縛られていたため逃げ出す事も出来ず、犯されそうになっていた彼女だったが、第一研究室の職員数名が助けに来てくれたのだ。その後、なんやかんやあった彼女は、ハピネス製薬のお手伝いとなってしまっていた。

 

「それよりも、本当に戻らなくていいのかい?」

「いいの、いいの。アーチボルト様はハゲになっちゃったみたいだし、私ハゲ嫌いなの。さらば、初恋!」

 

 ランスから事の顛末を聞かされていた彼女に未練は何もなかった。清々しい顔で働くパーティ。これもまた幸せな結末な一つだろう。多分。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第一研究室 窓の外-

 

「一応助けに来てあげたんだけど……必要なさそうね」

 

 窓の外からパーティの様子を見ていた女性がフッと笑う。そのままかぎ爪付きロープで一気に下へと降り、警備員に見つからないよう素早く敷地内から出る。待っていたのは、巨漢の男。

 

「アーニィ様。パーティ様は?」

「楽しそうに働いていたから、放っておく事にしたわ」

 

 出迎えたアホビッグマンにそう告げたアーニィ。一応同僚であったパーティを助けに来る辺り、義理堅い性格である。

 

「それで、本当に一人で行くんですか?」

「ええ。一人で色々と考えたくて……ごめんなさいね、ついてきてくれるって言ってくれたのに断っちゃって」

「いえ。アーニィ様がそう仰るのなら、それに従います。でも、必要ならばいつでも連絡してきて下さい。どんな場所でもすぐに駆けつけます」

「ありがとう、イーグルも元気で。パランチョ王国に士官するんだったわよね」

「ええ、ブラック仮面の紹介で。どうもツテがあったみたいで」

 

 パランチョ王国は多種多様な人材が集まる王国。あそこならば人並み外れた体格のアホビッグマンも受け入れてくれるだろうとブラック仮面は考え、王国軍総大将のピッテンへの紹介状を書いてくれたのだ。アーニィとアホビッグマンが握手を交わし、アーニィはそのまま旅立っていく。その背中を見送るアホビッグマン。彼にとって、アーニィはいつまでも尊敬するべき存在なのだ。

 

「さて、出直しね!」

 

 太陽を見上げながらアーニィがそう口にする。夢へのリスタートを切った彼女。その顔は実に晴れやかであった。

 

 

 

-ラジールの町 酒場-

 

「はにゃりーん。もう、ダーリンが急にいなくなっちゃったから心配したよ」

「ごめんね、アリサちゃん。もう急にいなくなったりしないから」

 

 強制召喚された伊集院が町に帰り、ウェイトレスである彼女に謝罪する中、店のとあるテーブルでは二組の男女が向かい合って座っていた。

 

「という訳で、今は町の人たちにも受け入れられているんだ。誠心誠意向かっていけば、案外受け入れて貰えるものだよ。ねっ、ローラ」

「そうね、リス」

「さ、参考になります」

「…………」

 

 色々と自分たちの経験を語っていたのは、リスとローラのカップル。それを聞いているのは、ファルコンとリソラールのカップル。どちらも似たような境遇のカップルであり、ルークの紹介でファルコンとリソラールは話を聞きに来たのだ。白い鎧に身を纏ったファルコンは真剣に聞いているが、リソラールはどこか浮かない顔だ。それに気が付いたローラが声を掛ける。

 

「ねぇ、どうかしたの?」

「い、いえ、何でもありません」

「そう……ならいいけど」

「それにしても、ルークの紹介で君みたいな人と会えるとは思わなかったよ。嬉しいなぁ。それに、ランスとも知り合いだなんて」

「……!?」

 

 リスの口からランスという名前が飛び出した瞬間、リソラールが明らかに表情を落とす。それを見たローラは、なんとなく事情を察する。

 

「ねぇ……もしかして、彼女さんランスに酷い事された?」

「あっ、いや、その……」

「はい……」

 

 ファルコンが狼狽え、リソラールが静かにそう頷くのを見てローラはため息をつく。

 

「やっぱり……変わらないわね、あの男は。本当に結婚式に来てくれなくて良かったわ」

「もう、恩人なんだからそんな事言っちゃ駄目だよ、ローラ」

「恩人でもなんでも、悪人には違いないわ。リソラールさん、あんな奴の事は犬にでも噛まれたと思って忘れなさい」

「でも……」

「それじゃあ、経験者の話でも聞く?」

 

 その言葉を受け、リソラールが驚いたようにローラの目を見る。

 

「えっ!? ロ、ローラさんもランスさんに?」

「ううん、私は運良く被害ゼロ。経験者は、後ろの二人」

 

 ローラが後ろのテーブルで飲んだくれている二人組の女性を指差す。すると、その彼女たちが酒を持ちながら立ち上がり、名乗りを上げる。

 

「被害者一号、シャイラ・レス!」

「被害者二号、ネイ・ウーロン!」

「あー、酔っ払ってるわ」

 

 店内中に響くのではないかというくらいの大声を上げる二人を見て、ローラは頭を抱える。これはまともな話は期待できそうにない。すると、今の言葉を聞いていたシャイラが絡んでくる。

 

「酔いたくもなるっつーの。ううっ……あれだけの苦労を一緒に越えた仲だっていうのに、結婚式に呼んでくれないだなんてな……」

「連絡がつかなかったんだからしょうがないでしょ。ギルド経由でネイに連絡取ろうとして無理だったし。あんたらもランスやルークみたいに家を買いなさいよ」

「あんなもん、一部の金持ち冒険者だけがやるもんだ!」

「か、勘違いしないでよ! 普通の冒険者は家なんて持ってないんだからね!」

 

 知らない内にリスとローラが結婚式を挙げていた事を知ったシャイラとネイは、わざわざペンタゴンの活動を休んでまで絡み酒にやってきたのだ。因みに、結婚の事実はルークからセスナに送られた手紙の中に二人に伝えるよう書いてあったものである。

 

「お、お二人もランスさんに、その、無理矢理……?」

「あたしが二回、ネイが三回な」

「リスの洞窟では何故か私だけ被害にあったしね」

「えっと……その、なんでそんな普通に語れるんですか?」

 

 自分たちが犯されたという事をあっけらかんと語る二人を見てリソラールが困惑する。

 

「なんかもう、思い出の一つみたいなもんだよな」

「ああ、あんな事もあったなぁって感じ。殺そうとした事もあったけど、私は元気です、みたいな」

「お、教えて下さい、その秘訣!」

 

 机に身を乗り出すリソラール。何が何でもランスの一件は忘れたいようだ。その姿を見て、ネイの瞳がキラリと光る。

 

「秘訣一、新たな恋に生きる。渋い老人ならなお良し」

「ふむふむ……」

「それは参考にしちゃ駄目だぁぁぁ!!」

 

 慌てて割って入るファルコン。現恋人からしたら、そんな秘訣を実行される訳にはいかないのは当然の事だろう。そんな光景を見ながら、ローラが軽く息を吐く。

 

「ま、大丈夫そうね」

「そうだね。多分この二人は大丈夫だよ」

「それにしても、あの男もさっさと結婚しちゃえばいいのに……最終的な相手なんて、一人しかいないでしょうに……」

 

 ローラがランスの事を思い返しながらボソリと呟く。だが、その言葉は目の前で騒ぐシャイラとネイの声にかき消されるのだった。

 

「ね、ダーリン。そろそろ営業妨害だからつまみ出して来ようか?」

「ルークさんの知り合いだから、まだイエローカードだね。警告だけしてきてくれる?」

「あいあいさー!」

 

 ラジールの町は今日も平和である。

 

 

 

-天満橋 大陸側-

 

「天満橋を越えてやってきたー、でござるな」

「嫌だ! 絶対に寺なんか継がないぞ!!」

 

 言裏が台車を引きずりながら天満橋を渡っていく。その台車には、ハゲ頭になったアーチボルトこと砲裏が縄でぐるぐる巻きにされていた。

 

「観念するでござるよ」

「働きたくない、女の子モンスターとイチャイチャしてたーい!」

 

 駄目人間、ここに極まれり。

 

「ランス殿、ルーク殿、またどこかで会いましょうぞ。天満橋越えてやってきたー」

「私の髪を返せー!!」

 

 歌いながら橋を渡っていく言裏。彼もまた、あの二人とはいずれまた出会うことになるであろうという確信を持っていた。そのときはどうか敵でない事を、と願いながら、兄弟二人仲良くJAPANへの帰路につくのだった。そして、言裏の予感は的中する。これより二年後、彼はランスたちと再会を果たす事になる。JAPAN全土を巻き込む、ある巨大な戦の中で。

 

 

 

-天満橋 JAPAN側-

 

「さて、感慨深いものがあるな」

「なんだかんだで付き合いも長かったしな」

 

 天満橋を渡りきったところで立ち尽くす四人。摩利支天暗殺組だ。あの後暗殺者を廃業し、JAPANへとやってきた彼ら。互いに向かい合い、顔を見合う。

 

「如芙花は実家に戻るんだよな?」

「ええ、西条の家に戻るわ。早雲くんが国主か……ま、あの実力なら納得ね。蘭ちゃんとの仲は進んだかしら、うふふ……」

「けけけ、なんか甥っ子の恋を見守るおばちゃんみたいな発言だねぇ。自分は独身街道まっしぐらだっていうのに」

「精霊ぱーんち!」

「うおっ!?」

 

 不適切な発言をしたブラボーが如芙花にぶっ飛ばされている中、スパルタンは摩利支天に話し掛ける。

 

「リーダーは伊賀出身だったか? そこに戻るのか?」

「いや、あのお方がいない伊賀に未練は無い……適当に流れるつもりだ……」

「へぇ……」

 

 摩利支天が誰かを思い出しながらそう呟くのを見て、スパルタンはそれ以上の言及を止める。恐らく、その男はもうこの世にいないのだろう。

 

「それよりも、二人はJAPANで本当に良かったの? 大陸とは食事も文化も微妙に違いがあるわよ」

「ま、てっとり早く強くなろうとするのには良い土地だからな、ここは」

「戦が続いているからな……」

「それで、二人はどこに行くか決めたの?」

「なんか知らねーけど、モヒカンがたくさんいる土地があるって言うじゃん。俺っちにピッタリの土地だぜ!」

「毛利か……」

「ま、ブラボーにピッタリかもね。割と好戦的だし」

 

 モヒカンであるブラボーは既に行く先を決めているらしい。対してスパルタンは、肩をすくめながらため息をつく。

 

「なんの当てもない。まあ、適当にぶらついて、気に入った国に仕えるさ」

「それで、二年後に全員強くなってまた再集結ね。ランスとブラック仮面にリベンジしないとね」

「それなんだけどよー、再集結するよりも、それぞれ仕えた先でJAPAN統一を目指すってのはどうだ?」

「おっ!」

「あら……」

「ほぅ……」

 

 当初の約束は、二年間個々人が鍛え直すというものであった。だが、今のブラボーの提案に全員が面白そうに声を漏らす。

 

「何年掛かるか判らないわよ」

「統一など目指していない国も多いぞ……」

「そのときゃ、そのときって事で。とりあえず、一番成り上がった者勝ちだ!」

「面白ぇ!」

「ふっ……お前らが今度は敵とはな……」

「確かに、おかしいわね」

 

 四人が笑い合う。これまで共に戦ってきた仲間が、今度はそれぞれの国に別れて戦い合うのだ。人生というのは判らない。だが、面白い。互いに背を向け、別れの言葉を口にする。

 

「じゃあな。楽しかったぜ」

「グッバイ。次に会うときは戦場だ」

「みんな、死なないでね」

「さらばだ……」

 

 それぞれの道を歩み出す摩利支天暗殺組。だが、それもつかの間。格好良く別れた数分後には、全員が同じ方向に歩いていた。

 

「って、なんでだよ!?」

「途中までは方向が同じなんだから仕方ないでしょ」

「島津とかいうのに仕えるのはちょっとなぁ……」

「ふふっ……最後まで締まらんな、我らは……」

「「「(自覚あったんだ……)」」」

 

 彼らもまた、二年後の戦に関わってくる事になる。

 

 

 

-ゼス 日曜の塔-

 

「以上です」

「……うむ、報告ご苦労」

 

 ここはナギが管理する日曜の塔の最上階。だが、今ここにナギはいない。薄暗い部屋の中に佇むのは、二人の男。一人はナギの父親、チェネザリ・ド・ラガール。そしてもう一人は、彼がゼスや他の国の様子を探るのに重宝している、側近の忍び。

 

「それと、ペンタゴンの動きが激しくなってきたようです。カオル・クインシー・神楽の調査で、十二月に大規模な革命があるとの事。ゼスはこれを迎え撃つ方針を決めました。近々、ラガール様とご息女にも参戦の要請が回ってくると思います」

「ふん、くだらんな。そんな仕事は他の奴に任せておけばいい。参加する気はない。当然、ナギもだ」

「では、機会を見計らって書類を書き換えておきます」

「うむ、頼んだ。貴様は本当に使える」

「いえ……」

 

 人目を忍んでいるラガールが側に置く数少ない人間、それがこの忍びだ。戦闘能力、諜報能力共に優秀であり、暗殺や書類改竄など汚い仕事を文句一つ無くこなす。裏切る気配もないため、ラガールはこの男を重宝していた。だが、若干男の表情が暗い事に気が付いたラガールは口を開く。

 

「どうした? 何かあったのか?」

「いえ……エンジェル組のアイス支部が壊滅したという報告が届いたので……その……すいません、私事を持ち込んでしまい……」

「そういえば貴様はエンジェル組の幹部であったな」

「はい……あの支部にはアーニィという素晴らしい女性がいたのですが、壊滅とあっては生きてはいないでしょう。残念です……」

 

 戦闘力、人望、そして目標に突き進む瞳の輝き。この男はアーニィに若干の思いを寄せており、アイス支部の壊滅よりもアーニィの安否の方に気を落としていた。

 

「あっ……長々と失礼しました。それでは、私はこれで」

「うむ。書類の改竄は頼んだぞ、コード」

「はい……」

 

 ラガールの忍び、コード・パッセンテーデ。この男は、後にルークの仲間の一人と大きく関わってくる事になる。ルークが信頼しているリーザスの忍び、見当かなみと。

 

 

 

-自由都市 とある田舎町-

 

「あら……? エムサ、エムサじゃないか!」

「ただいま、おばさま」

 

 農作業をしていた中年の女性がエムサの姿を見つけ、声を出す。その声を聞きつけた町の者たちが次々と駆け寄ってくる。今では冒険者として旅をしているが、かつてはその魔法で近隣のモンスターを次々と追い払ってくれた町の英雄、それがエムサだ。当然、町の人たちからの信頼は厚い。

 

「久しぶりに帰ってきたねぇ。しばらくゆっくりできるのかい?」

「いえ、明日には旅立ちます」

「おいおい、急だな」

「それと、ユーリも一緒に連れて行きます」

「えっ!? って事は、まさか遂に……!?」

 

 病気の弟を一緒に連れて行くと宣言したエムサに住人が目を丸くし、次いで一つの結論に至る。それは、エムサが探し求めていたものが見つかったという事。そんな住人たちに、エムサは満面の笑みを向けるのだった。

 

 

 

-アイスの町 キースギルド-

 

「なるほど。ハピネス製薬でそんな事があったとはな」

「まっ、色々あったが楽しめたさ。ランスが普段どういう風に仕事をしているかも見られたしな」

 

 アイスの町に戻ってきたルークは、一応事の顛末をキースに報告に来ていた。自分が受けていた依頼ではないが、シィルが参加していない事を考えると、ランスがわざわざ報告に来るとは考え難いからだ。

 

「しかし、ランスを陰ながら援護していたピンク仮面の正体だけは最後まで判らなかった。謎が一つ残っちまったな」

「くっ……くくっ……そうだな、一体誰なんだろうな……ぶふっ……」

「ルークさん、それは、その、本気で……?」

「?」

 

 ハイニの問いかけに首を捻るルーク。質問の意味が判っていないようだ。キースが必死に笑いを堪えている中、ルークは思い出したかのように口を開く。

 

「そうだ。悪いが数日ほど出かけるから、依頼は受けられん」

「おいおい、ハピネス製薬の用事が終わったら手が空くんじゃなかったのか?」

「スマンな。その用事が終わったら、依頼はまとめて片付けるさ」

「この依頼は時期が限られている奴だから、出来ればすぐに頼みたかったんだけどなぁ」

 

 キースが机の上に置いた依頼書をルークは手に取り、軽く目を通す。

 

「定められた月夜、砂漠に突如現れる伝説の塔、ギャルズタワーか……聞いた事あるな。女の子モンスターが根城にしているとか何とか……」

「そいつを探索したいっていう冒険野郎が、腕利きをパートナーにしたいって依頼をしてきたんだ。まっ、十二月にももう一度機会があるみたいだし、そのときにでも受けてくれ」

「了解。タワー攻略となると、前衛後衛をちゃんと作って行った方がいいか。ランスにでも話を持ちかけてみるかな」

「あいつは受けないと思うぞ。今回の一件で大金を手に入れたから、絶対にしばらく働かない」

「ふっ……それもそうか。なら、別口で探すしかないな。俺含めて前衛二人、後衛二人の四人くらいで行くとするかな」

 

 ルークが依頼書を机の上に置き、十二月にこの依頼を受けることを内心決めた後、そのまま扉の方に歩いて行く。

 

「それじゃあ、そろそろ行く」

「用事ってのは、どこに行くつもりなんだ?」

「カスタムの町に寄った後、とある洞窟に。その後はポルトガルにあるプルーペット商会の本部に行くつもりだ」

「へぇ……お前がプルーペット商会に行くとはな。何か欲しいもんでもあるのか?」

「……まあ、ただの野暮用だ」

 

 キースの問いに軽く返事をし、扉に手をかけたルークだったが、その手がピタリと止まる。そのままくるりとキースに向き直り、真剣な表情で口を開いた。

 

「キース。あの仮面、他に赤、青、緑の三色を用意できるか?」

「はぁ?」

 

 

 

-悪魔界-

 

「胃が……」

「ねぇ、この間から本当に大丈夫?」

 

 突如襲ってきた胃痛に顔を歪めるフェリス。それを見た同僚のセルジィが心配そうに声を掛けていた。その胃痛の理由に何となく見当がついているフェリスは、ただただ苦笑いで返すしか出来なかった。そのとき、嫌味な声が後ろから響き渡る。

 

「あら? いつもどおり仲が良いですね、お二人さん」

「……梨夢」

「何の用?」

 

 現れたのは、梨夢・ナーサリーという悪魔。フェリスと同じ元カラーであり、更には第六階級という点でも同じであったため、フェリスを一方的に目の仇にしている女だ。フェリスがランスのせいで降格して以降、こうして事あるごとに馬鹿にしに来るのだ。同じく第六階級であり、フェリスの友人であるセルジィはそれを好ましく思っていないため、不快さを隠すことなく梨夢に問いかけるが、指をちっちっと動かして梨夢が口を開く。

 

「あっ、これからは梨夢さんって呼んで貰えます? この間、ついに第五階級悪魔に昇格しちゃったので!」

「ちっ……あんたみたいな腹黒が第五階級ねぇ……」

「悪魔として黒いのは当然の事ですよ」

 

 悪魔の間で階級差は絶対の掟である。きゃぴきゃぴの声を出しながら、されど二人を見下してくる梨夢。この女のこういう態度がセルジィは大嫌いであった。

 

「あれあれー? フェリスさんはまだ第八階級なんですかー? なっさけなーい」

「…………」

「いえ、第七階級よ」

「えっ……? フィ、フィオリ様!?」

 

 フェリスへの挑発を続けていた梨夢だったが、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきたので振り返り、目を見開く。そこには、フェリスと梨夢の直属の上司である第三階級悪魔、フィオリ・ミルフィオリが立っていたのだ。自分は部下ではないとはいえ、大物の悪魔の登場にセルジィが即座に跪く。だが、それを窘めるフィオリ。

 

「畏まらなくていいわ。すぐに帰るつもりだから」

「はっ……」

 

 セルジィにそう命じ、目の前のフェリスに視線を移す。この中で最も小柄であり、年端もいかぬ少女とも取れる体型のフィオリ。だが、その力は絶大であり、あの魔人たちよりも上位の力を持っているのだ。彼女を殺そうとするのならば、何人かの魔人が束で掛かり、多大な犠牲の下にようやく勝利を掴める、それ程の存在。

 

「フェリス、おめでとう。あなたの功績が認められて第七階級に昇格になったわ。これで元の第六階級まであと少しね」

「ありがとうございます、フィオリ様」

「第九階級まで降格させられて、わずか一年ほどで第七階級まで上げてくるなんてね。流石に驚いたわ」

「……魂を回収しやすい環境に身を置いておりましたので」

「そう。まあ、別に魂回収の方法は各自に任せるわ。私は私が面白ければそれでいいのだから」

 

 上位悪魔の方針にもそれぞれ特色がある。ガチガチに規則で縛る者、上位悪魔自ら下位悪魔に仕事を振り分けてバランスを取る者など様々だ。フィオリの方針は、基本的には放置。自由にやればいいというものである。

 

「それじゃあ、そろそろ帰るわ」

「あっ、途中まで送ります!」

「そう」

 

 梨夢がここぞとばかりにフィオリにアピールする。上位悪魔に取り入ることが出世の近道だと自覚しているからだ。だが、フィオリはチラリとフェリスに視線を向け、静かに口を開く。

 

「フェリス、貴女には期待しているの。早く第四階級まで昇ってきなさい。君主である第三階級昇格試験への便宜を図ってあげる。貴女はそこで留まっている器ではないわ」

「っ!?」

「フィオリ様!?」

 

 その場にいた三人が目を見開く。雲の上の存在でもあるはずのフィオリが、フェリスに期待していると明言したのだ。だが、冷静に考えれば納得のいく話である。第九階級に降格させられたフェリスが、何故か第六階級のときと同じ力を与えられているのだ。それは特例であり、フィオリの期待の表れとも取れる。

 

「でもね、私は大きなミスを二度するクズは大嫌いなの。貴女は一度、名前を人間に知られるというミスをしたわ。もし次に何かしたら……」

「…………」

「恐れながらフィオリ様。フェリスならば、これ以上大きなミスをするとは思えません。彼女は優秀な悪魔です」

「そう。それなら良いわ。でも、今の言葉だけはしっかりと覚えておいてね」

「あ、待って下さい、フィオリ様ー」

 

 セルジィの言葉に軽く頷き、そのまま身を翻してフィオリが去っていく。慌ててその後を追う梨夢。最後に一度だけフェリスを強く睨み付け、この場を立ち去っていく。二人の背中が見えなくなり、セルジィが大きなため息を吐いた。

 

「はぁ……息が詰まったわ。それにしても、ますます梨夢に目を付けられそうね」

「そうね。ありがとう、セルジィ。フォローしてくれて」

「別にいいわよ。それよりも、何も無いように気をつけなさいよ」

「ええ……」

 

 特に何か問題を起こすつもりはない。名前を知られるようなミスも、二度と起こす気はない。だが、言いしれぬ不安がフェリスの胸に宿るのだった。

 

 

 

-アイスの町 ランス宅-

 

「今帰ったぞ!」

「お帰りなさい、ランス様!!」

「楽しかったのれす」

 

 ランスが笑いながら我が家に帰還する。それを満面の笑みで迎え入れるのは、留守を任されていたシィルだ。

 

「シィル、言われた通りに留守番をしていただろうな?」

「はい。ずっと家にいました」

「うむ、ならいい。がはは!」

 

 シィルの言葉に抱いていた疑念を吹っ飛ばし、ソファーにドカッと座るランス。それに続いてソファーに座ったあてなが、持っていた袋をシィルに渡す。

 

「お土産なのれす、ハピネス饅頭」

「あ、美味しいですよね、これ」

「ん? 新発売とか言ってハピネス製薬で試食をやっていて、食ったら美味かったから買ってきたのだが、もう既に食ったことがあったのか?」

「はい、私も昨日試食で……って、違います。私の勘違いです、食べた事ありません!」

「なんだ勘違いか。なら食え、俺様が許す」

「ほっ……ありがとうございます、ランス様」

「むぐむぐ……隠す気ゼロなのれす……」

 

 何故か慌てているシィルと特に気にしていないランスを見ながら、あてなが呆れた様子でモグモグと饅頭を口にする。

 

「それで、お仕事の方はどうでしたか?」

「がはは、楽勝だ。足手まといのお前がいないから実にスムーズだったぞ」

「あぅ……」

 

 ランスのその言葉に少しだけ落ち込むシィルだったが、何とかすぐに立ち直って恐る恐るランスに手を差し出す。

 

「ランス様……あの……お金を預からせていただけますか? 色々、その、借金の返済とかがありますので……」

「金? あぁ……使った」

「えっ?」

 

 ランスの言葉にシィルが目を丸くする。その反応を見ながら、ランスはソファーにふんぞり返って耳をほじくりながら言葉を続ける。

 

「だから、もう使った」

「つ、使ったって、全額ですか!?」

「そうなのれす」

 

 少なくともドハラス社長から30万GOLDはふんだくっていたはずなのに、それを全額使ったというランスとあてな。まさかの事態にシィルが口をあんぐりと開ける。

 

「そんなぁ……今日が返済の日なので、もうすぐ借金取りの人が来てしまいます……」

「借金取り? それはもしかして、サングラスをした黒ずくめの三人の男か?」

「はい。どうしてランス様がその事を?」

「なるほど。ならもう心配いらん。そいつらならさっき俺様にぶつかってきたから、殺しておいた」

「えっ……?」

「ギタギタのバッコンバッコンにして道路脇に捨ててきたのれす」

「がはははは! これで借金の問題は解決だ!!」

「良いのでしょうか……」

 

 とんでもない方法で借金を踏み倒したランス。あてなと共に二人で大笑いをするのを見て、シィルが冷や汗を流す。だが、これがいつも通りの風景でもある。

 

「よし、ヤるぞシィル!」

「あっ……はい、ランス様」

「あてなも混ぜて欲しいのれす」

 

 ランスに強引に押し倒されながらも、幸せな気持ちで包まれるシィル。だが、一つだけ疑問が残る。いくらランスでも、一晩で30万GOLDも使い切るのは初めてだ。一体どのような使い方をすればこんな事になるのかと思案するシィルだったが、すぐさまランスに服を脱がされてその疑念はどこかへと消えてしまうのだった。

 

 

 

-自由都市 とある街道-

 

 街道に一人の女性の姿がある。キサラだ。その手には、一つの小袋。それをギュッと胸に抱きしめながら、数時間前の会話を思い返す。

 

『ふん、昨日の宴会で金を使いすぎたな。もう小銭しか残っていない』

『えっ……? 30万GOLDを使い切ったんですか!?』

『ああ、この小袋にはもう小銭しか入っていない。俺様はこんな小銭を持ち歩く趣味はない。だからポイだ』

 

 男が持っていた小袋を捨てる。だが、その小袋からドサリという重量感ある音が響く。驚いたキサラがそれを拾い上げると、とても小銭とは思えない重さ。見れば、札とコインを合わせ、軽く10万GOLDは残っていそうな大金が入っている。

 

『こ、これ……』

『ま、あんな小銭でも借金を抱えているような奴にとっては使い道があるのかもしれんな。例えば、妹を借金のカタにされているような冒険者とかな』

『あっ……』

『行くぞ、あてな。キサラ、困ったことがあればいつでも尋ねてこい。がはははは!』

 

 笑いながら立ち去っていく男の背中を、キサラは涙を流しながら見送った。胸に宿るのは、圧倒的な感謝と、心からの親愛。

 

「ランスさん、私、貴方のことを愛しています。心から……本気で……お金はいつか必ず返します。そのとき、また私を貴方の側に置いてくれたら……私はそれだけで幸せです……」

 

 こうして、キサラは再び歩み出す。両親の借金を返すため、妹を取り返すため、そして、綺麗な体になってもう一度ランスと出会うため。その日がいつか来ることを信じ、ひたすら前へと進んでいくのだった。

 

 

 

【おまけ】

-時空の狭間 とある場所-

 

「くっ……くくっ……」

 

 それは、この世界であってこの世界でない場所。かつてルークが一度訪れ、神の力によって脱出を果たした時空の狭間。そこに今も一人取り残されているある女が、何かを感じ取ったかのように妖しげな笑みを浮かべた。

 

「くくく……ははははは!!」

 

 その笑い声は、彼女以外の生物が存在しない時空の狭間に確かに響き渡っていた。

 

「ははは……あはははは! あははははははは!! ひぃ、ひぃ、ぶはっ……」

 

 否、妖しげな笑みではない。これは、俗に言う大爆笑。

 

「あはははははは!! なんだあの仮面は!? 馬鹿か、馬鹿なのかあいつは!? 駄目だ、腹が痛い……あはははははは、ごほっ、ごほっ……」

 

 意味深な笑みとか、伏線っぽい展開とか、蓋を開けてみれば実にくだらないオチだったりする事もある。そんな話。

 

 




[人物]
山田
 ハピネス製薬社員。ローズの部下だったが、パーティに乱暴しようとしているのがばれて首に。

アリサ・エロリス (ゲスト)
 ラジールの町のウェイトレス。青い髪と軽めの口調が特徴的な美少女で、伊集院の恋人。名前はアリスソフト作品の「闘神都市Ⅲ」より。

リス (4.X)
 元モンスターの青年。ランスの助言の下、気合いと根性で人間になった。ローラとはいつまでもラブラブ。

ローラ・インダス (4.X)
 リスの妻。その後、ラジールの町に引っ越してきたファルコン&リソラールと良好なご近所付き合いを送ることに。

シャイラ・レス (4.X)
LV 18/35
技能 剣戦闘LV1 シーフLV1
 ペンタゴン戦闘員。なんだかんだでローラとも仲が良い。ランスへの恨みは最早皆無。

ネイ・ウーロン (4.X)
LV 19/37
技能 シーフLV1
 ペンタゴン戦闘員。アンデルミィルの才能限界アップの恩恵もあり、二人とも凄く強く感じるのは気のせいではないはず。多分。

ユーリ・ラインド (半オリ)
 エムサの弟。年齢は12歳で、結構離れている。弱体病という病に冒されており、彼の病気を治すためにエムサは冒険者家業を続けている。名前はアリスソフト作品の「王子様LV1」より。

コード・パッセンテーデ
LV 19/23
技能 忍者LV1
 ラガールの部下である忍者。経験が豊富で、レベル以上の働きを見せる優秀な男。ゼス国エンジェル組くまさんチームの隊長でもあり、アイス支部の壊滅に心を痛めている。

フィオリ・ミルフィオリ (4.X)
LV -/-
技能 悪魔LV2
 フェリスと梨夢の上司である第三階級悪魔。フェリスに大きな期待を寄せているが、同時にその期待が裏切られることを酷く嫌う。

梨夢・ナーサリー
LV -/-
技能 悪魔LV2
 フェリスをライバル視している第五階級悪魔。元カラー。野心家で、いずれはフィオリをも上回る第二階級の悪魔を目指している。第一階級を目指していないのには理由があるのだが、それはまたいずれ。

おまけの魔王様
LV -/-
技能 魔王LV2
 笑い上戸。カリスマとは一体なんだったのか。

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